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ランドセルの彩度

作者: 小林

 雲が遠ざかっていく。雨によって死期を早めた白い桜の花びらたちは、舗装したての黒々としたアスファルトに張り付いて草間彌生っている。


 保険のために持たせた傘は結局使われることなく、保険料として歩く速度を時速一キロメートル遅めた。


 まだ習っていない「月」と「極」にくっついた雨粒は、傘の先でつつかれてようやく重力を思い出した。


 柵がない用水路の深さにヒヤリとして距離を取り、マインクラフトの土ブロックで溝を塞いだ。雨を集めて増水した流れが、脳内で立方体にせき止められ道路にあふれていく。


 欲しいものリストを自力で埋める蟻の列が、虹にはしゃいでスキップする左足に力強く踏まれた。残った蟻は七秒で葬式を済ませたのち、巣と餌の間に再び黒い一本線を引いた。


 「見て!」と声を上げながら振り返ったあなたは、私がそばにいないことを思い出し、虹のことはすぐに忘れて心に霧をかけた。


 学校よりも桜よりも駐車場の看板よりもマイクラよりも虹よりも好きな私に会いたくなったあなたは、傘を放って走り出した。


 ドアの前でそわそわしながら待っていた私は、遠くに見つけたあなたが泣いている理由をまだ知らない。


 ランドセルは少しずつ鮮やかさを失いながら、クソったれた世界からあなたの背中を守り続ける。その役割を終えるまで、この帰り道をあと千百九十九回。

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