彼女と別れた男の休日
休日、だからと言って今の俺に何かをすることがあるのかと言われれば別に何もない。
正直、彼女と付き合っていた頃は基本的に彼女が好きそうな場所を探しては一緒に出かけたり、彼女の都合に合わせて日程を調整したりとそれなりに充実していた気もするが、それがなくなった今は本当にすることがない。
ただただ、昨日、そういう意味のものではない、会社の人にもらったチョコレートに対して勝手にハイになって痛い妄想を繰り返していたことを、恥ずかしくなってその反動でひとり惨めになっているだけ。
まあ、こういうところが退屈な男として浮気をされてしまった原因でもあるのかもしれないな、と俺は静かに部屋に掃除機をかける。
今思い返しても、確かにそもそもの俺はインドアかアウトドアかと言われると、超インドアだ。大学時代に彼女と付き合うまでは、休日はネットサーフィンやドラマを見たりと、バイト以外は家にほ、ほぼほぼ引きこもっていた記憶しかない。
最早、休日に外に出るのはもったいないという価値観を当たり前の様に持っていた気がする。
それが、人間は環境によって変わるとはよく言ったもので、今や家にずっといることにちょっと違和感を感じてしまう自分がいるレベルだ。
でも、確かに彼女とは本当に色んな場所に行った。おかげであまり得意ではなかった車の運転も気が付けばほとんどのところは臆することなく行けるようになったと言っても過言ではないはずだ。少しおおげさかもしれがないが全国の有名なデートスポットにはほとんど行ったのではないだろうか。
ご飯の美味しいお店にも詳しくなったし、彼女と一緒にて恥ずかしくない男になるために地味に筋トレとランニングとかで見た目にも一応は気をつかっていたから彼女と付き合う前の一番太っていた頃の時期に比べると15キロぐらいは痩せた気がする。ファッションも勉強してこれも一応、自分に合った服装を選んで着ることを心掛けてはいるからダサくはなっていない...と信じたい。
そして、あとはこれもまた、習慣とはすごいもので、昔は運動なんて糞くらえだと思っていた俺が今や、毎日筋トレもランニングもしなければ気持ち悪いレベルで日常の一部になってしまっている。
まあ、その日課も今日の朝の6時には始めて8時には終わったから今まさに暇になっているところなのだがな。
そんなことを考えながら鏡を見てお腹の服をめくると、一応、ボディービルダーとかそういうマッチョには到底及ばないが、軽く胸板が厚くなって腹筋等が割れてはいる自分の姿が映る。
そもそも、これも、彼女が腹筋が割れている男が好きって言われて筋トレを初めてからできたものだし、今思えば...この髪型も彼女の好みだったか。
そうか。正直、彼女の理想を叶えられる男になるために色々と自分を変えたりしてきたけれども、そういうのが退屈だと思われたのかもしれないな...。
でも、本当に今日はこれから何をしようか。周りの仲が良かった奴らも今や結婚や子供ができたりで気軽に遊べる身分ではなくなったし、久しぶりに一人で映画でも行くのもありか。
って、また来てる。
『やっぱりこれは返さないと駄目だよ。会ってちゃんと返したい。ほんとにちょっとでいいから時間つくれないかな』
lineにはまた以前に彼女だった女性からメッセージがそう届いている光景。
プロポーズリングのことだ。
彼女と別れて約1か月半、先週にそうメッセージが来た時にはもういらないから処分してもらえるように伝えはしたのだが、また来た。
結局、こっちの回答は変わらない。売るなり何なり自由にしてほしい。
正直、向こうはもう何も思うことはないのだろうが、俺の方はまた彼女の顔を見たら色々と思い出して悲しくなってしまうのだろうから。
とりあえず、またしんみりとしてしまったこともあるし、気分転換も含め一旦外に出て買い物でも行くか。
でも、ほんと男としての魅力ってどうすれば身につけられるんだろうな...。
まあ、もう必要もないけど。
そうか。退屈な男か...。