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雨、再び


 駄目だ...。


 何故かはわからないが、lineは既読がつかず、電話をかけても繋がらない...。


 ゆえに俺は今、資料を回収するためには他になすすべもなく大雨の中、また彼女のいる、さっきまでいたホテルに...。


 とりあえず、再び濡れた...。


 そして彼女の部屋の番号を覚えていたこと、そしてフロントの人が俺のことを覚えていたこともあり、客室電話で取り次いでもらって今ここに。


 そして、俺は彼女がいるであろう部屋を今静かにノックしているところ...。


 身体が雨で湿っているからだろうか、その手が重い。と言うか身体中が重い。そして、冬にこれは寒すぎる。


 すると静かに開く、目の前の客室のドア。


 「すみません。成宮さん。さっきまでお風呂に入っちゃっていまして...」

 「いや、こっちこそ悪い。昼に渡した資料を回収に...」


 いや、別に問題はない。普通のことだ。


 狼狽える必要なんて何一つない。


 「......」


 そう。普通のことだが、今、目の前にいる彼女、今田さんの姿はお風呂上がりということもあってだろう。バスローブ姿で、その何と言うか...


 目のやり場的なものが...


 「わかりました! ちょっと取ってきます」

 「ごめんごめん、ありがとう」

 「ただ、ちょっとさすがにそれでは風邪をひいちゃいます。一旦、中にどうぞ。拭くものも用意しますので」

 「いや、でも」

 「駄目です。風邪ひいちゃったら明日に響きます。成宮さんまで動けなくなったら元も子もないですよ!」


 目の前にいる彼女の表情は珍しく少しきつめの困り顔。それに、さすがにそれを言われてしまったら...


 「じゃあ、ちょっとだけごめん...」

 「はい!」


 そして、俺は素直にそう言ってもう彼女の泊まる部屋の中に...。

 

 それにしても、やっぱりネットで見ていたとおりの豪華な部屋だ。それに、これは元々こういうものなのだろうか、それとも彼女がいるからなのだろうか、アロマ的ないい香りが俺を包み込むように漂ってくる...。


 そして、暖かいこともあったり、さっきまでとの落差もあってだろうが、身体に感じるその快適さが半端ではない。

 

 「ふふっ、結局、戻ってきちゃいましたね」

 「え? ああ、まあ...」


 今度はそう言って、いつものように彼女は俺に愛想よく微笑んでくる。

 

 それにしてもだ。何と言うか、ずっといたくなるような空間とはまさにこういう空間のことを言うのだろう...。

 さすがは高めのホテルの客室だと思わざるを得ない。あらためて出張で泊まるようなところではないような気が...。


 「とりあえず、はい。ここに座ってもらって、これでも飲んで温まってください」


 そう言って、俺が座らされたテーブルの前には彼女から差し出されたココアのいれられたコップ。


 「いや、でも。これって」

 「大丈夫ですよ。ただの置いてあったアメニティの粉末ココアですから。また私の分は作ります!」

 「えーっと、じゃあ。お言葉に甘えて。ありがと」


 美味しい。そして、身体の芯から温まる...。


 「.....」


 あと、さっきから色々と視界に入ってくるが、やっぱりツインルームなだけあって広い。ベッドもいかにも暖かそうな大きいものが二つ。そしてこの間接照明でいい意味で薄暗い感じ。


 あらためて、リラックス空間すぎる。


 が、正直、そこまでリラックスできてない自分がいる。


 理由は明白だ。


 やっぱりそれはバスローブ姿の彼女、今田さんの存在が大きすぎる。それも風呂上がりということもあってだろうが、肌がほてっているような艶のある感じで妙にどうしても色っぽく感じてしまうというか...。

 さすがに下に何も着ていないということはないとは思うが、ちょっと無防備すぎないか...


 いくら相手が俺だからとはいえ、ちょっと...。本当に目のやり場に困る。


 「あれ? もうちょっと待ってくださいね。ついさっきまで私も読んでいたので。ないわけがないんですけど、おそらく別の書類に紛れていて」

 「え、あ、全然、ゆっくりでいいよ」


 今も、その体勢だと見ない、見ないが、かなり胸元とかが際どい感じが...


 と言うか、さっき、すっぴんだから恥ずかしいとかも言っていたっけ...。


 マジか。それでスッピン...。


 美人と言うか、可愛すぎるだろ...。


 あくまで良い意味でだが、異常すぎる...。


 「あれ、本当にちょっと待ってください。すみません...って」


 お、見つかったか?


 「そうだ。せっかくだし、私が書類を探している間にお風呂に入っていてくださいよ。すっごく良い感じなんですよ。こじんまりとしているんですけど露天風呂なんです!」


 「え?」


 へ?


 「えーっと、いや、さすがにそれは。ほら、それに雨だし、それに俺はここに泊まっているわけではないし、それにー、ほら、着替えもない。だから無理だよ。気持ちだけいただいておく、ありがとう」

 

 そう、おかしい。ここに泊まっているわけではない俺が入るのはおかしいし、そうでなくても色々とおかしい。


 「いえいえ、元々、料金は二人分払っていますし、着替えも二人分あります。ほら、ちょうど成宮さんが入っている間にほら、服も乾かしておきますから」


 い、いや...


 「ほら、それにお風呂には屋根もありますから、逆に雨が降っているのが趣深いと言いますか、超良い感じでしたよ!」


 いや、さすがにそれは...。


 「さすがに、それはな。やっぱりまずいと言うかな」


 そう言って、俺は資料はまだだが、席を立ってゆっくりとまたドアの方に...って


 「駄目です。このまま、また濡れて帰る方がまずいです。さすがにこのままだと絶対に成宮さん風邪ひいちゃいますよ。それで熱が出たりして明日動けないなんてことになったら、私、後輩とは言え、本当に成宮さんに怒っちゃいますよ!」


 すると遮るように俺の手を前から掴み、らしくもなく少し声を大きくする彼女...。


 「あ、ほら。見てください。このスマホの雨雲レーダー。あともう一時間もすれば雨止むみたいですよ。22時ぐらいには止んでます!ちょうどいいじゃないですか。よかったですね。成宮さん!」


 い、いや、ちょっと、そんなに前かがみで俺に迫るように来られると本当に目のやり場と言うか、何と言うか...。


 「.....」


 そして、いや...。


 何で。


 俺は何で本当に、彼女の部屋のお風呂に入っているんだ...。


 おかしいだろ。おかしすぎる。

 

 本当におかしすぎるだろ...。


一旦、旅に出ます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 再開をお待ちしております(^-^ゞ
[一言] いろんな人がいるので、良い発言ばかりではないと思いますが、私は応援していますし、楽しみにしています。 挫けず完結までお願いします。
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