出張当日 チェックイン
「いやー、すき焼き美味しかったな」
「ほんと美味しかったですね」
本当に。俺は地味に、すき焼き専門店なるものに入ったのは初めて。
そして、夜ご飯こそは中華なのかと思っていたら実際高級感が溢れるすき焼きの店。
美味しすぎた。
ただ、それにしてもだ。ギリギリだった。今朝に天気予報で言っていた様に外は突然の大雨。
今田さんが予約してくれていたその店を後にして、本日泊まる予定のホテルに到着した途端に、この大雨だ。
珍しく運がよかった。気持ちがいいぐらいにここに着いたと同時に雨が降り出したから。
そして、俺がここに連れてこられたということは、部屋は違えど、俺も彼女と同じホテルで泊まれるということだ。つまり、今日はものすごくいい場所で眠れるということ。
色んな意味で俺はテンションが上がっている。
お酒が入っているのも大きな理由かもしれない。
隣にいる彼女も、頬を赤く染めていつも以上にニコニコとしているところから見ても、それなりに酔っているのだろう。
だからだろうが、いつも以上に距離が...近いというか何と言うか。
「よさそうな場所ですね。出張、最高です。ふふっ、成宮さんと一緒ですし」
「相当、酔ってるな...」
「もう、酔ってないですよ。本心です」
確実に酔っているな...。そう。酔っていないとおかしすぎるから...。
とりあえずでも、本当によさそうな場所だ。特に彼女の泊まるツインルームにはまさかの露天風呂付の客室。と言うことは、俺の泊まる部屋にも、もしかすると露店...とまではさすがに期待はしていないが、ちょっとはな。
でも、あのハゲ、出張に普通露天風呂付のホテルを許可するなんておかしいだろ。今田さんにいくらなんでも本当に甘すぎやしないか? いや...今田さんがすごいのか。
まあ、逆に考えるとその彼女のおかげで俺もこんないい場所に泊まれるのだ。本当に感謝しかない。
「ちょっと、俺お手洗いに行ってきてもいい?」
「はい! じゃあ私は先にフロントでチェックインして部屋のキー借りておきますね」
「ああ、悪い。じゃあ俺は俺で勝手にするから、先に行っておいてくれていいよ。今田さんの名前、フロントで言えば、俺の分の部屋もそのまま入れるかな?」
「はい!問題ないと思います」
「オッケー、予約してくれてありがとう。じゃあ、また明日」
そして、突然の尿意に襲われた俺はトイレに一直線。
それにしても、別に深い意味は全くないが、本当に今日は楽しかったな。
あくまで仕事はしっかりとした上で、出張の醍醐味というものを十二分に味わった気がする。
しかも、別に勘違いをしているわけでは全くない前提で言うが、疑似デートをしている感覚に恥ずかしながら襲われることが今日は何度もあった...。
とにもかくにも、今日の1日で彼女が万人からモテる理由をあらためて実感させられた。
彼氏でも何でもない俺でこれだ。本当に彼女の彼氏になった男にはどれだけの可愛い姿を彼女は見せるのだろうか...何て、俺には全く関係ないことだ。一体なにを考えていたのだろうか。
と言うか、やっぱり俺、完全に酔っているな...。さっきから明らかにおかしくなっている。
楽しかったとか、疑似デートとか、俺は一体なにを...。酔いすぎだ。
にしても、さっきから雨がすごいな。
冬にこんなに激しい雨が降るなんて珍しい。
まあ、泊まるところもあるし、どうでもいいことではあるのだがな。
とりあえず、用も済ませたし、フロントに戻るか。
あー、楽しみだ。
まだ、具体的にどんな部屋に泊まれるのかがわかっていない分、さらにワクワクと楽しみが増す。
何もかもが秘密ですと言われてはぐらかされていたのだから仕方がない。
って...あれ?
フロントにまだ彼女がいる?
何かあったのか?