出張当日の昼下がり
「成宮さんのおかげで上手く話がまとまりました。本当にありがとうございます」
「いやいや、俺なにもしてないから。本当に」
只今の時刻は昼の2時。色々あって商談が長引きはしたが、無事にまとまってこの時間だ。かなり遅めの昼ご飯。
「でも、せっかく予約していたところ。閉まっちゃいました。残念すぎます」
「まあ、まあ。とりあえず、どうする?」
「成宮さんはどこかいいところ知っていますか?確か、中華街、来られたことあるんですよね」
「まぁ...でも、かなり昔だしな。何か食べたいものある? それか中途半端な時間だし、夜まで待つ? 今は小籠包とか肉まんとか軽い系のものを食べ歩きするだけにして」
そんなことを言いながら、俺と今田さんはぶらぶらと二人で中華街の通りを歩いているところ。
それにしても、さっきからずっと感じていたが、平日だと言うのに相変わらずカップルなどが多いな。
男女がイチャイチャと楽しそうに一緒に歩いているのが視線に入ってくると、ここでの過去のことをつい勝手に思い出してしまったりもする自分もいる...。
と言うか、まあ、そんなことはおいておいて、今、俺はさりげなく夜も一緒に彼女と食べるていで話をしてしまったが、全くそんな話にもなっていなかったし、あくまで夜はプライベートだ。普通に失言した。
「あ、いや、夜は別々に食べた方がいいか。ごめんごめん。なしで」
彼女のことだから、訂正しておかないと気を使って行きたくなくても無理をしてきそうだから。
「えー、なんで無しなんですか? 行きましょうよ。 私もう、夜のお店も予約しちゃっていますし」
「あー、そうか。元々は山田さんと一緒に食べる予定だったもんな。そうか、そうか」
「そうです!」
まあ、彼女がいいなら別にいいか。問題ない。
「あ、ねぇねぇ、ここの小籠包カラフルで美味しそうです。食べませんか?」
「あぁ、いいな。じゃあ2パック分、買おうか」
「いや、6つ入ってますし、1パックでよくないですか? 一緒に食べましょうよ。夜までお腹は空かしておきたいですし」
「まぁ、そうか。なら1パックで」
「はい!」
そういうことで、俺は専門店で小籠包を購入。
「熱いっけど、美味しいです。さすが中華街の小籠包です」
「確かに美味しい」
「おいひいです!ありがとうございます」
美味しい。隣の彼女の美味しいという微笑みもこれは本当の笑顔だろう。
でも、一つの器に入った小籠包を二人で分けながら食べる。
何か、懐かしいと言うか何と言うか...まあ、別に勘違いとかそういうことは決してしてはいないが、久しぶりの感覚だ。
「成宮さん、あっちの北京ダックの包んだやつも美味しそうですよ」
「あぁ、あれは美味いよ。普通に美味い」
「じゃあ食べましょう!今度は私が出します」
「いやいや、大丈夫。俺が出す。さすがに」
でも、本当に凄いな。
ただ、そう。別に彼女は誰とでもこうだ。誰にでも明るく愛想がいい完璧な女性。
別に俺だからこうだというわけでは決してない。そこをはき違えるようなバカでは俺はない。
それも、彼女はわかっていてこうなのかもしれないな。良い意味でも悪い意味でも安心されているというか。
そう。やっぱり俺が男としては見られていないからゆえのあれだ...。
まあ、何でもいいのだがな。
「そういえば、その夜に予約しているお店ってどこ?」
「ふふっ、それは夜になってのお楽しみです」
お楽しみ...。
まあ、いいか。彼女のことだ。変なところではないことは確か。
でも、何だろう。気が付いたら、今朝の天気予報のとおり、確かに空が曇ってきたな...。
やっぱり降るのか。雨...。
「あ、成宮さん、これもシェアしましょうね!」