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巻き込まれ体質な男


 とりあえず、眠れはしなかったが少しはマシになったと思いたい。

 何がどう転んでも、後は追いカフェインで、終電までノンステップで走り続けるしかないのだから。

 

 まあ、もう一旦は、定時に近い時間で外も暗くなってきている。

 時間も時間でかなり中途半端だし、ちょっとまた給湯室でも行って気持ちをリセットしてこようかと思う。タバコを吸わない俺にとってのセーフティーゾーン。それが給湯室。


 ただ、何だ。


 さっき、こっちに帰ってきたばかりではあるが、何か騒がしい気がするのは気のせいだろうか...。


 部署内が心なしか、慌ただしい気がする。


 「くそ、会議さえ、明日にあの会議しか入ってなければ俺が」


 特にハゲ(課長)が、ない髪の毛を搔きむしりながらブツブツとさっきからうるさくて仕方がない。


 ハゲがこういう感じの時は決まって面倒くさいことが怒っている時、嫌な予感しかしない。とにかく静かにこの場からフェードアウトすることが、今俺のできる最適解の行動だろう。


 とりあえず、静かに足を出口に動かしながら、何かいつもと違う点がないか周りを見渡してみる。


 あれ? 山田さんがいない...? もしかして何かトラブったか? てか、今田さんもいないな...。


 「おい! 成宮!!!」


 あぁ...見つかった。終わった。

 こういう時に結局、標的にされるのはいつも俺。理由は何を言っても反抗しないと舐められているから。


 「はい...」


 もう本当に、いっぱい、いっぱいだぞ。俺...


 「お前、明日。今田ちゃんと横浜まで出張に行ってこい!」

 「え?」


 出張? え? いや、それは今田さんと山田さんが確か...


 「熱っぽくてしんどいって山田ちゃんが言うから、昼一で早退させて病院行かせたんだよ。そしたら今さっき連絡があってインフルエンザなんだってよ」

 「インフル?」

 「だから、お前が代わりに行ってこい。本来なら長として俺が付いていくべきなのだろうが、どうしても明日は外せない会議があるから俺は無理なんだよ!だから消去法でお前が行ってこいって言ってんの!」

 「消去法?」


 いや、消去法って本当になんだよ...。


 「あ? そうだろうが。お前なら今田ちゃんを襲うような度胸も、意気地もないだろうからお前なんだよ!他の奴だと危ないだろうが!」


 何だよ。その理由...。度胸? 意気地? ちょっと今の俺の心にはそういうのが一番刺さるんだけど...。まだ普通の暴言の方がマシ...。


 あと、むしろ。そういうのに長として付いていくのはおかしいだろ。特にお前みたいな脂ぎったパワハラスケベ狸が。普通にコンプラ的にアウトだろ。一番危ない。


 「と言うか、その今田さんはどこに...」


 やっぱり、もう一度見渡してみるもいない。


 「あ? さすがに今田ちゃんまでダウンされたら困るから明日のために今日はもう早めに帰らせたんだよ。ほい、これその分の今田ちゃんが出来なかった仕事。それでこっちが出張のための資料。頼んだぞ!」


 「.....」


 いや、これ。最早終電どころではない。泊まり...。


 いや、出張行きたいとは確かに思ってはいたけど、こういうことでは決して...。


 と言うか、今田さんが嫌だろ。これ。せっかくの女性2人の楽しい出張旅行が急に俺みたいなのと一緒になったら。


 「いや、課長。そもそも俺が行くってこと今田さんは知っ「ちょうどさっき、今田ちゃんにもメール送っておいたから。お前にそんな度胸がないのはわかっているが、絶対に変な気だけは起こすんじゃねぇぞ。彼女に何かあったらクビどころじゃ絶対に済まさねぇからな!」

 

 いや、誰が出すか。お前と一緒にするな...。


 とりあえず、俺からも今田さんにline入れておくか。ごめん。不可抗力だからとな。


 って、早っ。そんなことを考えている間にもう、彼女。今田さんから俺宛てにlineが来ている。


 えーっと。何て書いてある。


 『課長から明日、成宮さんが一緒に行ってくれることになったって聞きました! 成宮さんが泊まる部屋も予約できましたし、新幹線のチケットも今さっき山田さんから預かりましたので、成宮さんは明日、朝の7時30分に駅に来てくれるだけで大丈夫です!本当に何もしなくて大丈夫ですので、よろしくお願いします!』


 おぉ...仕事が早い。さすがだ。さすがすぎる。


 『ごめん。本当にありがとう。申し訳ないけど、そういうことだから宜しくです』


 本当にな。文句はあのハゲに言ってくれ。


 『いえいえ、そんな。こちらが申し訳ないです。成宮さんにもいい部屋とっておきましたので! 楽しみにしておいてください。あと、お昼はもう予約していたお店がありますので美味しい中華、一緒に食べましょうね!』


 あぁ...そして、何ていい子だ。


 今も目の前でブツブツと自分が行けないことに悪態をついているハゲとは大違いすぎる。最早、涙が出てくるレベルだ。


 それに、今田さんのことだ。部屋の予約が実は手違いで取れていませんでしたみたいなミスをする様な子でもないし、俺の分のチケットも既に段取り済み。本当に俺は彼女の言うととおりに、明日の朝にただ駅に行くだけでいいのだろう。安心感が半端ない。


 もう感謝しかない。


 まあ、思っていた形の出張とは決して言えないが、明日ここで機嫌の悪くなったハゲに標的にされるよりは断然、横浜に行く方がいい。

 

 とりあえず、そうと決まれば給湯室は一旦キャンセルだ。


 そして、今からコンビニに行って、今晩の分のエナジードリングの確保だな...。


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