仮眠を試みる男
あー、外出先でこんなことをしている暇なんてないことは、頭ではわかっているつもりなのだが、もうこればかりはどうしようもない。
きっかりと1時間だけだ。
仮眠をとらないと本当に頭がおかしくなると、俺は社用車の座席を倒して静かに目を閉じる。
普段、基本的にはサビ残に付き合ってやっているんだ。これぐらい許してもらってもいいはずだ。まあ、許してもらわなくても寝るのだが...。
「......」
ただ、こんな時に限ってブラックの珈琲を普段から大量に飲んでいることによる弊害が発動してしまっている。これでもかと眠たいのにも関わらず、眠りに落ちることができない。
まあ、目を瞑って横になっているだけでもかなり違うから、とりあえずは瞼は閉じたままにして身体だけ体力回復を図る俺。
問題ない。
これは仕事で一人で外に出る者の特権だ。うちが車にGPSなどが付いている会社とかではなく本当に良かったと思う。
でも、外出といえば、そうだ。今田さん、確か明日から出張だったか。それも、俺の記憶の限りでは同じ部署のもう一人の子と女2人で。
しかも、泊まりで横浜だろ?
最高かよ...。
もう、旅行だろうが。それは。
中華街、温泉、他にも色々と行きたいところがある。
それも、あのハゲは今田さんには甘いからな。かなりよさげなビジネスホテルに泊まることを許可しやがった。
さっき、ネットでググっても見たが、女性二人のツイン部屋で、あの広さは必要か? 快適すぎるだろ。
あぁ、切実に変わってほしい。
と言うか、その二人に抜けられたら明日から二日間は、俺の係にはおっさんしかいなくなるのか...。
不幸にも戸田さんも、何か体調不良で今日休んでいるみたいだし、明日もお休みになる可能性は高い。
それはちょっとと言うか、かなり環境的にダルくなるな...。
別に係内が男だけになるのはかまわないのだが、よくよく考えれば、今田さんというストッパーがいないことにより、あのハゲの機嫌がおそらく...。
ん? 何か鳴ってる? って、やべ。
噂をすればタイムリーにそのハゲからの着信。俺はすぐさま通話ボタンを押す。
『おい、成宮。ちょっといいか!』
『はい。お疲れ様です』
ば、ばれたか...?
『戸田ちゃん、さっき病院行ったらインフルだってよ。もし彼女に手伝ってもらう急ぎの仕事があったなら、ちゃんとリスケしとけよ。おそらく数日は休みになるだろうから』
『え、あ、はい』
良かった。バレてはいない。
まあ、バレようがないからな。
それにしても、そうか。戸田さん。インフルだったのか。確かに最近、流行っているみたいだしな。他の部署でもかかっている人が出ているという話はチラホラ聞く。
大丈夫かな。一応、朝も休みをもらうという連絡を律儀にも俺にもくれたし、俺からもあらためてLINEをしておくか。
戸田さんは真面目だから普通に無理しそうでこわい。しっかり休んで問題ないことだけ伝えておこう。
もし俺なら、ここぞとばかりにしっかりと休む。
でも、あぁ、横浜に泊まりで出張か...。
いいな...。