デジャブ?
あぁ、ようやくお昼か。今日は色々とありすぎて1日が長い。
さっきもトラブル処理から帰ってきてハゲに報告に行ったら労いの一言もなく、大量の仕事をフラれて明日までだからな。
やってられない。
そんなことを考えながら、自席で菓子パンを俺は独り静かに貪りながらパソコンのキーボードを無心で連打する。
今日も残業は確定だ。はあ、マジでカフェインをとらないとやっていられない。
自分でも毎朝、珈琲は買うが金銭的な面で結局のところ給湯室にあるよくわからない銘柄の珈琲にも毎日手を出すことになる。
まあ、時間的にももう空いているだろう。昼休みが始まってすぐは電子レンジやら何やらで人がごった返すから俺はほぼほぼ使わないが、今ぐらいの時間ならおそらく人も少ししかいないだろう。
ちょうどいいと俺は席を離れて廊下の外の給湯室へ。
って、あいつ。何してんだ。あんなところで。
とりあえず、給湯室へと向かう途中の俺の目には廊下の奥の方の自動販売機の裏でひそひそとスマホで誰かと話している美女の姿が映り込む。
まあ、関係はないし、聞き耳を立てるつもりもないけれども、予想以上に音が反響しているのかその話声がひそかに俺の耳へと聞こえてきてしまう。
「いや、お見合い? 今時そんなのありえないって。 孫? いやいや、お兄ちゃんの子がもういるじゃん。え? 私、それはまぁ...いるよ。いるから本当にそういうのはいいって、は? 今月末に家に来る!? なら紹介しなさいって、ちょ、ママ? そんな勝手な。え? パパも一緒に!?...って切れた。え、どうしよ。え?」
デジャブだろうか...? 場所は違えどこれはおそらく、いや絶対にその声の主とは顔を合わせてはいけない場面。
そう。その声の主は新木 優香。その人だ。
もし、目が合おうものなら、朝の惨劇が再び俺の身には降りかかることは間違いないだろう。
さすがにもうそうなってしまえば俺の身体が持たないと俺は今回ばかりは即座にその場から離れ、予定通りに給湯室へ。
「......」
でも、そうか。
今日の朝の鼻歌にもこれで合点がいった。一部、聞き取りづらいところもあるにはあったが、彼女から聞こえてきた会話的に、やはり今の新木には彼氏がいる。
ま、それはそうだよな。美人か美人ではないかと言われれば、ものすごい美人だし、俺と同い年のアラサーとはいえ、全然それを差し置いてもまだまだ周りからは二度見をされたりするレベルの美女。気は確かに強いかもしれないけど、性格も決して悪くない。
まぁ、その彼氏に対してはその気の強さを隠しているのかもしれないし、そうでないかもしれないけれども、どちらにせよ。しっかりとした彼女だ。相手との相性さえよければ普通にいい感じになると思う。
親が家に来る...ってことは。もう結婚とかだろうか。だからあんなにらしくもなく朝からはしゃいでいたのだろうな。
とりあえず、俺みたいにならないことを一応は同期として祈っておいてやる。
でも、あいつ、兄ちゃんがいるってことは妹なんだな。てっきりあの性格から兄弟がいるとしても絶対にあいつが姉だと思っていた。そうか、あいつ妹か。
しかも、あいつ、普段あんな感じで親のこと...ママ、パパって呼ぶんだな。ちょっといつもの感じからは想像できなさすぎたことで笑ってしまった。
って、ことはもしかしたら彼氏のこともあだ名呼びして甘えたりするタイプだったりする線もやっぱりあったりもするのか...?
まあ、そのギャップは正直...大いにありだな。
ただ、別に俺には全くもって関係ないことだし、実際は違うだろうけれども。
でも、そうか。月末か。俺も月末は楽しみだ。
なんせ、俺は俺でマッチングアプリの【ゆうさん】と会う約束があるからな。
とは言え、顔も知らない相手。いくら話が合うと言っても、気が変わってドタキャンされるなんて可能性がないわけでもないし、あくまで期待半分ではいておこうと思う。そうなった時の心の保険としてな。
って、珈琲...空かよ。
仕方がないからお茶のティーパックにしておくか。
はぁ...でも、そうか。
新木も...結婚か。
それはそうだよな...。
あと、何だかんだでやっぱり緊張してきたな。月末...。