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おっさんといっしょ!!  作者: 晴本吉陽
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第1話 おっさんに取り憑かれた

 私、沙織。17歳の女子高生。

 今日もバレー部の練習を済ませて、お風呂入って、晩ごはん食べて、部屋でのんびりくつろごうと思って、入口のふすまを開けたのよ。

 そしたらね、いたの。

 変な鬼の仮面つけた、和服姿のおっさんが、私の部屋で横になって、ケツをポリポリって掻いてたの。


「うぎゃあああああ!!!?」

 

 私、ビビっちゃって。変な声あげながら階段飛び降りて、リビングにいるパパとママのところに駆け込んだわけ。

「ママ!ママ!変なのが部屋にいる!」

「えぇ?変なの?」

「早く来て!追っ払ってぇ!」

 晩ごはんを食べてたママの腕を掴んで引っ張って、もう一回2階の私の部屋まで登ったの。


 ママを盾にしながら、部屋を覗き込んだら、やっぱりおっさんが横になってるわけ。今度はその太ったお腹をポンポン叩いてる。

「ねぇママぁ、そいつなんとかしてぇ!」

「そいつってどいつよ、なんにもいないじゃない?」

「はぁ!?」

 ママの顔見たら、大マジのマジだった。ママにはホントにあのおっさんが見えてない。でも、絶対に私の部屋にいる。

「沙織、あんたも高校生にもなってイタズラなんてやめな」

「ちょっと待ってよ!ホントにいるって!見えないの!?」

「見えない見えない、明日も早いんだからさっさと寝な!」

 私が必死に引っ張っても、ママはその手を振り解いて下の階に行っちゃった。

 しょうがないから、また部屋を壁に隠れながら覗き込んだら、やっぱりおっさんは横になってくつろいでるの。しかも大の字になってイビキまでかいてる。

 やだなぁ、って思いながら、私は恐る恐る部屋に入って入口のふすまを閉めて、おっさんの様子を見てみた。

 鬼の仮面は目元だけで、口元は素肌っぽい。少しヒゲが生えてて、なんとなく40代くらいに見える。着てる和服は薄い水色で、なんか寝間着っぽい。すっごい気持ちよさそうに寝てるけど、6畳のこの部屋のど真ん中で寝られたら、私が身動き取れない。


 だから、私はしょうがなく、そのおっさんのお腹をつついてみた。


「あのー…」


 そう言いながら、人差し指でおっさんのお腹をつついたはずだったの。

 でもね、おっさんのお腹に触ったはずなのに、私の指がおっさんのお腹を透けたの。

「え?」

 もう一回やってみても同じだった。おっさんのお腹に触ってるはずなのに、私の指は何も触ってる感触がなくて、しかも私の指が見えなくなる。

「ええええ?」

 私ももうわけがわかんなくなって変な声出しながら後退あとずさった。

 その時だったの。


「ふぁあああっ」


 おっさんが急に上体を起こしてあくびと伸びをし出したの。


「ひぇっ…!」


 私、怖くなっておっさんから逃げるように机の下に隠れたんだけど、弾みで頭をぶつけちゃって、つい声を上げちゃったんだよね。

 そしたら、おっさんこっちの方を向いたの。


 目が合っちゃった。


 とりあえず私は会釈しといた。


「どうもー…」

「はぁ、どうも」


 向こうも気まずそうに会釈し返してきた。

 でも大事なのはそこじゃない。

「あのー、ここ、私の部屋なんですケドー。どちら様でー?」

 私はとりあえず礼儀正しくおっさんに聞いてみる。この状況で変なことしたら友達に見せられたエロ同人みたいなことになりかねない。

 おっさんは辺りを見回して、それからアゴに手を当てて何か考えてる風に答えた。

「…誰なんだろ、俺」

 はぁ!?

 私は思わずそうキレそうになりながらも、オトナな対応を続けた。

「とりあえず、私の部屋から出て行ってもらえますー?」

 おっさんは私にそう言われると、もう一回辺りを見回してから立ち上がった。結構背が高い。

「そうだな、お邪魔したよ」

 意外と物分かりの良いおっさんは、あっさりとそう言って部屋の入り口のふすまの方に歩いて行く。

 おっさんはふすまを開けて出て行くかと思ったら、ふすまの取っ手には一切手を触れずに、ふすまを貫通して消えてった。

 なんかよくわからないけど、とりあえずおっさんは私の部屋から消えた。

「ふーっ!やったね私、変なの追っ払った!」

 私はそう言ってひと息つきながら、入口のふすまを開けてみたの。迷惑かけたママにも謝ろうと思ってね。

「ママー!」

 そう言いながらふすまを開けたの。


 そしたら、そこにさっきのおっさんがアグラをかいてたわけ。


「ぶっぽるぎゃるぴるぎゃっぽっぱぁああ!!??」


 本日何度目かもわからない奇声をあげながら私は腰を抜かして部屋の中にひっくり返る。すると、おっさんも部屋の中に転がり込むようにして倒れ込んできた。

 私は壁の方に下がっておっさんと距離をとるけど、おっさんも変な体勢のまま不自然に一定の距離を保っていた。

「もうなんなの!?早く消えてよ!」

 私はつい感情的になって声を上げる。

 口調がキツくなっちゃったから、もしかしたらおっさんを怒らせたかもしれない。私は何かされるのかと思っておっさんの方を見た。

 おっさんはうつ伏せになっていた体を起こすと、その場にあぐらをかいて私の方を見た。絶対怒ってる。

「あ、いや、その、今のはつい…」

 おっさんが立ち上がって私の方に歩いてくる。壁に追い込まれた私は身を守るようにして腕で頭を守った。

「やめてー!殺さないでー!」

「やるわけないだろ」

 おっさんは短くそう言うと、足を止めて私から少し離れたところにあぐらをかく。私はおっさんのそんな姿を見ながら、とりあえず正座しておっさんと向き合った。

 私が落ち着いたのを見ると、おっさんは話し始めた。

「俺としてもお前にあんまり迷惑をかけたくない。だからさっさと消えてやりたいんだが…俺も今の状況がよくわかってない」

「そんなぁ」

 おっさんはどこか申し訳なさそうだった。そんなに悪い人じゃないのかもしれない。おっさんはそんな私の考えをよそに話し始めた。

「とりあえず、今わかってることは3つある」

「そうなの?」

「まず、俺はお前からあまり離れられないらしい」

「えぇ?」

「実践してみよう」

 おっさんはそう言うと、急に立ち上がって部屋の入口のふすまに歩き出す。そのままさっきみたいにふすまを貫通するのかと思ったら、逆にふすまの一歩手前で、足を止めた。

「今、一生懸命前に歩こうとしてるんだが…全然前に進めないんだ」

 おっさんは私に向けて言う。声はかなり苦しそうだった。

「へぇー」

「さっきはふすまをすり抜けられたろう?でも今はできない。つまり、おそらくお前から俺は離れられないようになってる。せいぜい5メートルくらいが限界だろうな。試しに少しこっちに近づいてみてくれ」

 おっさんに言われるままに、私は少しおっさんの方に歩く。すると、おっさんは歩いてふすまを貫通した。

「あ、ホントだ」

「だろう?」

 おっさんがふすまの向こうから戻ってくる。そのままおっさんはふすまの前に立っているので私は少し気になったことを試してみた。

 壁側に急に歩いてみた。おっさんから少し離れる形になる。

「あ、ちょ」

 おっさんは私に引っ張られるような形でふすまから私側に倒れ込んだ。

「ホントに私から離れられないんだ!」

 私はそう言いながらサイドステップをする。おっさんは私に引っ張られるようにズリズリと床を転がっていた。

「やめろ、イタズラするな!」

「あはは、ごめんごめん」

 私は叱られたのでサイドステップをやめて部屋の真ん中に座る。おっさんはどこか不機嫌そうに私の正面にアグラをかいて座った。

「悪かったよー。それで、ふたつめは?」

「あぁ、ふたつ目はな」

 おっさんはそう言うと、真っ直ぐ私の胸に手を伸ばしてきた。

「ちょちょ、さすがにそれは…」

 私は身の危険を感じ、両腕で私の胸を守る。けど、おっさんの腕はそのまま私の腕をすり抜け、私の胸を揉む、はずが、私には触られている感覚はなかった。

「あれ?」

「俺はお前たちの世界に干渉できないらしい」

「カンチョー?」

「俺はお前たちには触れないってことだ」

 おっさんがわかりやすく言い換えてくれたから、私にもよく理解できた。でもひとつ思った。

「わざわざ私の胸触ろうとしなくてもよくない?」

「3つ目はだな」

「あ、ちょろまかした」

 私の言葉に対して少し焦るようにおっさんは話し続ける。

「3つ目は、俺は自分に関する記憶を全部失っているらしいってことだ」

 おっさんはどこか深刻そうな雰囲気で言う。私もついそっちが気になってセクハラされかけたことは流した。

「じゃあ、自分の名前もわかんないワケ?」

「そうだな…自分が何者で、どうしてここにいるのかもわからない」

 おっさんの表情はどこか寂しそうだった。なんか私まで悲しくなってきちゃったから、空気を切り替えた。

「あなたは私の背後霊なんじゃない?」

「背後霊?」

「そう。きっと何か因縁があって私の側に立ってる幽霊なんでしょ、たぶん」

「幽霊…俺が幽霊か。なくはないかもしれない」

 おっさんは私の推理にうなずく。でも、同時に私はひとつの事実に気づいた。

「待って、これからずっとあなたは私の側にいるってこと?学校行く時も、お風呂の時も、着替えるときも、もしかしてトイレの時も!?」

「…そうなるだろうな」

「ちょっと待ってよ!そんな恥ずかしいことになったら私お嫁に行けないじゃん!」

 私はついおっさんの胸ぐらを掴もうとするが、おっさんの体に私の指が透ける。私はすぐに触れないことを思い出した。

「いや、お前が嫌なことはしない。着替えも、トイレも別に見たりしない」

「でもさっき私のナイスバディを触ろうとしたじゃん!」

「あれは触れないことを証明するためにだな…!」

 おっさんは頭を抱える。そのままおっさんは話した。

「とにかく、どんなに文句を言われても、俺はお前から離れられないんだ。時期が来たら必ず俺は消えるから、それまで我慢してほしい」

「時期っていつまで?」

「それは…」

「一生あなたに付きまとわれるのはヤダよ?」

「それはないと思う」

「なんで言い切れるのよ?」

「俺は…よく覚えてないけど、何か目的があってここに来たはずなんだ。自分の正体を掴み、その目的を達成したら、きっと消える。だから、それまで迷惑をかけると思うけど、どうか我慢してほしい」

 おっさんは急に真面目になって私に頼む。ついには私の前で土下座までし始めた。

「頼む。どうか、俺が存在することを許してほしい」

 そういう言われ方をすると、なんか断るのも可哀想な気がしてくる。

 ここまでしてくる人間が悪い人にも思えない。実際に私に触ることもできない以上、一緒にいて実害があるとも思えない。

 だから、私はうなずいていた。

「いいよ」

 私がそう言うと、おっさんは顔をあげる。仮面で隠してない口元が優しく微笑んだのが見えた。

「ありがとう、えっと…」

「私は沙織さおり。あなたは…」

 このおっさんには名前がない。だとしたら、なんて呼べばいいのか。

「好きに呼んでくれ」

「そう?じゃあ、私のスタンドだから…『キラークイー』」

「それはいけない」

「じゃあ、『スタープラt』」

「もっといけない」

「もう、めんどくさいおっさんだなあ」

 私はいちいちネーミングに文句をつけてくるおっさんについ、口走っていた。

 おっさんの表情が変わったように見えた。

「おっさん?」

「あ、いや、別に悪口じゃ…」

 私がなんとかフォローしようとすると、おっさんは逆に微笑んだ。

「いいじゃん、おっさん」

「え?」

「おっさんって呼んでくれよ」

「いいの?」

「おう」

 なんか気に入ったみたい。心なしか嬉しそうに見える。

「じゃあ…『おっさん』で」

「おう、沙織。これからよろしくな」

「わかった、おっさん」



 私、沙織。17歳の女子高生。

 知らないおっさんの背後霊と過ごすことになりました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました

次回もお楽しみいただけると幸いです

今後もこのシリーズをよろしくお願いします

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