4.知る
私達はまだこの場所にいる。
ここにくるのは最後だから色々買いたいらしい。
次はないから、残していたお金を全部使う。
そう言っていた。
もちろん、私はお金なんてない。
まさに役立たずですよ。
「これは姫のです!」
「あっ、いや……ありがとう」
しかも、気づけばリンは、私に貢いでくれている。
私もいい感じに姫になってきたな。
もっとちゃんとしよう、そう心に決めた。
リンは、何かを買ったら、その度に仕舞い込む。
その光景を見ていて考える。
こんなところで使って、大丈夫なのかと。
それに周りの雰囲気がおかしい。
何か嫌な感じがする。
「リン」
「どうしたんですか?」
「いつもそんな感じで買い物するの?」
「違いますよ! 姫にいいところを見せたいからです! それにどうせ返ってこないし、もういいかなって」
「……そう」
リンの恩恵は、とても便利なものだなって思う。
いや、そんな言葉じゃ済まされない程、大きな才能。
そして同時に、こうも思う。
この才能があるのにどうしてって、そう思う。
壁の中で、満足に生きていける世界だから?
何かを運ぶ必要が、ここではほとんどないから?
この才能に気づいている人は、私以外いないから?
そんなわけがない。
私が知っていることを、大人が知らないわけがない。
それに旅なんてしなくても、いくらでも道がある。
魔物狩りなんて、きっと本来はする必要がない。
けれど、選択肢を知らなかっただけかもしれないし、知っていて、選んだのかもしれない。
その確認のために聞いておく。
「リン? あれがなにか知ってる?」
「あれは……なんなんでしょうね?」
そこには馬車があって、武装した集団が守ってる。
そっか、知らないんだね。
「リンってさ、魔物狩りの仕事?をやって何年経つ?」
「あの、実は1ヶ月くらいしかやってません……」
「もしかして、ずっと前からあそこには住んでた?」
「……はい。姫に嘘をついてごめんなさい」
「あっ、ごめんごめん……。攻めてないよ」
「…………」
本当に攻めていない。
ただ知りたいだけだから。
「元の仲間達は、リンの恩恵を知ってた?」
「はい。少し前に話しました。お父さんとお母さんには、本当に信頼できる人にしか、話しちゃダメって言われてたんですけど……」
お金のために明かしたって感じか。
私と歳は同じくらいの女の子。
しょうがないよね。
まぁ、そういうことか。
「……リン、ここを離れるよ」
「え?」
「これ着て、はやく」
「えっと……え?」
私の着ていたフード付きの服を着せる。
「わぁ、姫の匂い……」
とりあえず、今は無視。
それどころじゃない。
本当に迂闊だった。
私は目の前のことに興奮してて、何も考えてなかった。
考えずに、行動していた。
やっぱり、私も同じ子供なんだな。
それを痛感させられる。
知っていたはず。
わかっていたはず。
自分のためなら、人は簡単に人を裏切れる。
それは多分、どこにいっても変わらない。
でも、私達の出会いは本当に運命だった。
それだけは確かなものになった。
全てを失ったあの日には、ちゃんと意味があった。
壁を出て、私はリンの手を引いて走る。
クロは多分いる。
気配がちゃんとある。
ほっといてもいいだろう。
「あの、姫……」
「いいから、あとでちゃんと話す」
教えなきゃならないことがある。
あなたは本当に特別なんだってこと。
「おい、どこにいくんだ?」
「心配したんだよ〜」
気づくのが遅かった?
誘い出された?
でも、ちょうどいい。
それにどっちだって構わない。
全部、この場で片付けてしまえばいい。
「生きていてよかったわね」
「急いでるなら、送ってやるよ。仲間だろ?」
誰かも知らない奴らから、話しかけられる。
その声を聞いたリンが震えている。
いかにも悪そうな男。
気づけば、同じような男と女に囲まれている。
「あなた達は?」
「そいつの仲間だよ」
「……ちが」
「そうだよなぁ、リン」
リンを声で威圧する。
震えが強くなった。
私はとりあえず静観する。
これはリンにとって、必要なことだから。
「本当に生きていてよかったよ」
「……」
「あの時はすまなかったな〜。でも、生きてたんだ。それでいいだろ?」
「……いや」
「ほら、はやくこっちにこい」
ちょうどいい。
向こうからやってきてくれたんだ。
最大限に利用させてもらう。
私は瞼を閉じる。
もう大丈夫だ。
「ほら、はやくしろ」
「……はい」
リンはその手をとろうとした。
本当に優しい娘だなって思う。
その選択を止める権利は、私にはない。
でも、だからこそ私は、その汚れた手を強く弾く。
もう、我慢の限界だった。
「いてーな。んだよお前。痛い目にあいたいか?」
「そんな汚い手で、ゴミがリンに触れんなよ」
「……あ?」
ゴミの分際で、リンに触れることが不快だ。
私より、このゴミが選ばれることが不快だ。
それが例え、恐怖が理由なんだとしても。
それだけは、怒りが抑えられそうにない。
「お前、死にたいのか?」
懲りずに、再度近づいてきた。
「あがっ――」
それを蹴り飛ばす。
やっぱり、この程度か。
そのゴミは木に当たって跳ね返る。
囲んでいた奴らも後ずさっていく。
少し時間ができた。
リンに選択肢を与える。
今のはその手助けだ。
「リン! 選んで!」
優しい顔にできるだけ戻して、リンをみる。
「……え」
「私を選んで!」
「あの……、その……」
「大丈夫! 私と交わした約束を思い出して?」
「……」
「怖がることなんてない! 大丈夫! 今がその時だよ!」
こういうのは早ければ早いほうがいい。
その機会からノコノコとやってきた。
だから、この瞬間に全て解決しよう。
リンは私と、面白おかしく旅をするんだから。
辛い過去なんて必要ないんだ。
「どうかな……?」
リンの目を覗き込むと、覚悟は決まっていた。
復讐に燃えていたあの時とは違う。
素直に綺麗だなって思った。
大丈夫、あなたは選べるよ。
リンは私の前に立つ。
「私はもう選んだんです……」
「んだと……」
起き上がってたんだ。
意外とタフだな。
「私はあなた達とはいきません!」
そうだよ。
一歩一歩、確かに歩いて進めばいい。
そして苦手なところは、誰かに頼ってもいいんだ。
「後悔するぞ……」
「しません!」
後悔も何も、こいつらを選んだらリンに先はない。
でも、自分で選ぶこと。
それが大切なんだ。
恐怖を乗り越えたのは、彼女自身だ。
でもそれは、他人からみたら小さい一歩なのかも。
「私は姫と一緒にいる!!!」
でも、それでいいじゃん。
その大きさを決めるのも、結局は自分なんだから。
だから私は、覚悟を無駄にしないために力を貸す。
ただそれだけの話。
「だから姫! 私を助けて!!!」
「いいよ」
目的とか大元とかも、この際だから吐いてもらおう。
不安の芽は、この機会に全て摘み取ってしまおう。
これはリンに必要ない。
こんな小物が、リンの人生に影響を与えることはない。
ここはすごく平和だ。
いつも魔物で溢れているあそことは、まるで違う。
だからこそ、大きな力を持っている人間は怖いよね。
自分達の領域を侵されるのは、きっと恐ろしいよね。
わかるよ、その気持ち。
私も知ってるから。
「……覚悟はいいかな?」
だから、こんなことしたんでしょ?
あなた達は、恩恵とは何かを理解してしまったもんね。
だから、それをさらに刻み込んであげる。
あなた達のようなゴミが触れていいものじゃない。
他人が干渉していいものじゃない。
恩恵はその人に与えられた特別なものなんだ。
「さぁ、」
それに手を出そうとしたらどうなるのか、あなたたちはそれを知りたいからここにきたんでしょ?
大丈夫、望み通りにちゃんと教えてあげる。
リンから奪おうとしたらどうなるのか。
私から奪おうとしたらどうなるのか。
「やろうか?」
今日は本当に運命的な日、だね。
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