3.居場所
私達は今、リンの故郷にいる。
人がいて、いっぱい歩いてる。
それだけでワクワクしている。
でも、
「リン、ちょっといい?」
「なんですか? 姫」
身長はリンの方が高いのに、腕に引っ付いてる。
それに顔が近い。
「人がみてる、それに歩きにくいでしょ」
「いいじゃないですか〜」
より腕を強く抱きしめてくる。
クロはいつも通りに頭の上にのってる。
まぁ、こういう時期も必要かと思って諦めよう。
周りには、みたこともない建物ばかり。
本当に違う場所に来てしまったんだと実感する。
でも、歩けば歩くほどに綺麗な建物が減っていく。
「ここです!」
「……え?」
それは私が知ってる家ではなかった。
少なくとも人が住んでいるとは思えない。
「……ここ?」
「はい!」
これはさすがに貧乏を超えてる。
リンの服はそれなりだし、病的に痩せてもない。
普通の女の子に見えるのに、それがここに住んでる?
「どうぞ!」
「あっ、はい。お邪魔します」
中に入れてもらった。
でも、クロには外で待っててもらおう。
そう思った時にはもういなかった。
どうなってるんだアイツは。
「驚きますよね……」
「う、うん」
「魔物を殺して稼いだお金で身なりを整えたら、ここが限界だったんです。私も一応、女の子なので……」
「そうなんだ……」
「はい……。役割は荷物持ちと支援なので。その中では特別だったんですけどね!」
これはちょっとびっくりした。
相当、苦労してきたんだと思う。
彼女の隠しているものを暴きたいわけじゃない。
だからどうってわけでもない。
これから幸せになればいいんだから。
「それに、ここにはもう戻らないので大丈夫です!」
「それでいいの?」
「はい! いい思い出なんてないから……」
「わかった。今はそれでいいよ。もし頼りたくなったら言ってね!」
「……はい」
言いたくないこともあると思う。
それに、ついさっき出会ったばかりだ。
言いたくなって、辛くなったら相談してくれればいい。
同世代の女の子がこんな生活をしてきた。
こんな世界の方が間違ってる。
それだけ知ってればいい。
今はそれでいいじゃないか。
「わかった! じゃあ荷物をまとめてはやくいこうか!」
「……はい!」
とにかく早く出よう。
多分、リンはここにいること望んでない。
私だって同じ立場ならそんな気持ちかもしれない。
「これは?」
「はい! 持ってきます!」
「これは?」
「それもです!」
「……これは?」
「お願いします!」
とりあえず、リンの荷物をまとめた。
でもね。
「さすがに多すぎでしょ……」
「そうですか?」
「いや、どうやって持っていくのさ」
大量に積まれた荷物の山。
背負える量ではない。
馬車でも使うのだろうか。
すぐに魔物との戦闘で壊れると思うけど。
「そういえば、私の恩恵の話はしてませんでしたね!」
「……え?」
目の前から荷物が消えていく。
「えっ……え!?」
「収納です!」
「はい?」
「私の恩恵は収納です!」
全部、消えてなくなった。
ほんの僅かな時間だったのに。
「武器とかは無理ですけど、生活する為の道具や食糧ならだいたいは収納できて自由に取りだし可能です!」
ポンポンと荷物が出ては消える。
「容量に制限はあるので、念の為にここに置いてましたけど、全部入れてみたら全然余裕でした!」
「……すご」
「支援魔法も使えます! 姫、私は便利ですよ!」
「そうだね」
それしか言葉が出てこない。
私の今まではなんだったんだろう。
「今まではあんまり役に立たないなんて思ってましたけど、旅をするなら最高に役立ちますよね!」
「そうだね」
「そのことに今まで気づかなかったのは、きっと姫に出会うためです!」
「…………」
リンは目をキラキラさせて言ってくる。
それと顔が近い。
そういえば、この理不尽な才能のことを忘れてた。
「つまりこれって運命ですよね!!!」
「……そう、だね」
顔を引き攣らせながら、そういうしかなかった。
◇
「誰かに挨拶とかは必要ない?」
「……はい。そんなことする相手は誰もいないので」
とりあえず、ここから出たい。
それがリンのお願いだった。
それを叶えてあげるのは私の役目だと思う。
リンの居場所はきっとここじゃない。
「逃げるみたいでカッコ悪いですよね」
本人は言ってたけど、別にそんなことないと思う。
辛ければ逃げてもいい。
ちょっとだけ見上げれば、選択肢はたくさんある。
特にリンはすごい武器を持ってるんだから。
自分を知っていれば、全然違う過去があったはず。
もっと上手くやれるだろって他人が見たら思うはず。
多分、辛くて苦しんでる人はそれが見えない。
そんな余裕がないから。
だから、抱え込んでしまう。
ここしかないんだって思い込む。
環境や出会いで変わることを知らない。
自分はこんなもんだって勘違いをする。
私だってそうだったから、偉そうなこと言えないけど。
「そんなことないよ」
私は本心からそう思ってる。
私なんて真っ先に逃げ出してきたわけだし。
人が思っている以上に世界は広い。
私だって知っていたつもりで、理解してなかった。
いらないって言われるなら、必要だと言ってくれる人のところに向かえばいい。
その場所が見つかるまで探したらいい。
でも、それが簡単なことじゃないのもわかってる。
私達はただ運がいいだけだ。
私は苦しい時とか、戦う前に瞼をゆっくり閉じる。
そうすると力が湧いてきてスッキリする。
私は誰にも負けないって、そんな気持ちになる。
この儀式に何度も救われてきた。
あの捨てられた時だって。
いつか、私の過去をリンにも話してあげたいと思う。
私は完璧なんかじゃない。
弱い人間の1人なんだって知ってほしい。
でも、今は自分のことだけでいっぱいだと思うから。
時間ができたら、ね。
「これからどこ行きたい?」
「姫と一緒ならどこへでも!」
「え〜、私ここらを辺全く知らないし……」
「なら、近いところから全部に行きましょう!」
「……わかった」
「あと、そのリュックもしまいますよ!」
「ありがとう!」
そうしよう。
そうしてみよう。
気ままに旅をしよう。
時間はたくさんあるんだから。
知らないことを、また一つ知れた今日。
知っていたことを、また一つ理解した今日。
それを私の記憶に残す。
「にゃあ」
この感情はきっと忘れないと思う。
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