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19.歩み


 私達は平穏な毎日を過ごしている。


「楽しい〜!!!」

「姫、危ないって」

「大丈夫だよ! ユズ! ……うわっ」

「ほらね……」


 これは楽しいんだと思う。

 この日々はきっと幸せなんだと思う。


 あの日からどれくらい経ったか、それを数えるのもやめて、今を楽しんでいる。


 幸せという形のないものを、私は選べている。

 今の私には、そんな実感がちゃんとある。

 孤独ではなくて、楽しくて、自由があって。

 今という時間はかけがえのないものなんだって思う。


 魔物なんて呼ばれてるアレは、たまにしか現れない。

 ユズと私がいれば万が一もない。


「そうそう! リン! いいよ!」

「ありがとうございます!」

「妾は? ねぇ、シオン? 妾はどう?」


 リンもアルも魔物とちゃんと戦える。

 2人とも才能がある。

 殺し続けてきた、私にはわかる。

 

 でも、あそこでも戦えるかはわからない。

 だけど、私達には関係ない。

 いや、私にはもう関係のないことだから。


「……いたい」


 それでも心が痛い。

 大切を残してきたという後悔が心を傷つける。

 私にとって、あの2人はなんなんだろう。


 この平和で楽しい日々で、ふと考えるのはあの人達。

 楽しい、そして仲良くなった3人をみながら、ちょっとだけ過去を思い出す。


 心の中で響くのは、大切な2人の声。

 

「お前は何もするな。迷惑だ」

「お姉ちゃん! 私がやる! そこにいられると邪魔!」

 

 多分、好かれてなかった。

 勘違いでないなら、嫌われていたと思う。

 あの日々の辛さは、今でも私に影を落とす。

 

「お前には才能がない」

 

 恩恵のせいで父には見放された。

 いや、ある日から突然だったような気がする。

 多分、英雄には才能を見抜かれていたんだと思う。

 恩恵がわかればきっと変わる。

 縋りついていた私は現実を知ることになった。

 お父様は正しかった。

 憧れだった英雄に、尊敬するお父様に見放された。


「お姉ちゃんには才能ないよ。もう、やめちゃえば?」


 才能があったエリは、醜く足掻く私を許さない。

 私よりもはやく才能を手に入れて、それは私なんか比較することすら失礼なレベルの特別だった。

 

 でも、私とエリ。

 姉妹の小さい頃は、どうだったっけな。

 それすら上手く思い出せなくなるほど、この日々は辛くて、私を変えた。

 

 私は2人に見捨てられたという事実は、性格が明るいだけになった私から、それすらも奪おうとした。

 私は暗闇に囚われた。


 わからない、気持ち悪い。

 もう、捨ててしまいたい。

 今を捨てて、楽になりたい。

 だけど、それを心が許してくれない。


 どうしてって?


 そんなことは私が聞きたい。

 いっぱい傷ついた。

 たくさん泣いた。

 笑えなくなった。

 全部、失ってしまうところだった。

 部屋に閉じこもって、泣いて喚いて、明るいだけが取り柄なんて言っても、誰も信じてくれないと思う。


 そんな私に、絶望という名前の光が差した。

 なんでもない、いつも通りの日にそれは告げられた。

 使用人に部屋から引っ張り出されて、お父様の部屋に連れて行かれる。

 そして、


「お前は勘当だ。この家からはもちろん、壁の中からも出ていけ。二度と顔を見せなくていい」


 本当に見捨てられてしまった。

 これできっと、本当に失う。

 

 ――やっと解放される


「他人になったシオンさん。はやくここから出ていって。大嫌い、だったよ。お姉ちゃん」


 出ていく直前にエリに言われた。

 本当に嫌われていた。

 これが、真実になってしまう。


 ――やっと終わる


 あの私の終着点はここだった。

 そして、今の私の出発点はここになった。


 私は何も知らない外に逃げた。

 厳重に守られた壁の外。

 今まで、必死に守ってきた場所から逃げ出てきた。

 壁の中では、もう笑えないと思った。

 

 そんな私を出迎えてくれるものがいた。

 大量に向かってくる魔物の群れ。

 

 ――証明したい


 いつものように目を閉じる。

 私はゆっくりと目を開けた。

 襲ってくる魔物はとてもスローに感じたのを覚えてる。

 そいつらを片っ端から燃やして、切り刻んだ。

 絶望を抱えていた心は、少しだけ軽くなった。


 何も怖いものはなくなった。

 私はここでも生きていける。

 そう確信した。

 

 目の前に見えるのはただひたすらに赤と、先の見えない広い景色。

 そこら一体を血に染めて、私は歩きはじめた。


 私をここからはじめればいい。


「…………クロ、行こう!」

「にゃあ!」


 私は忘れられない。

 今でも、鮮明に覚えている。

 ちょっと昔の思い出。


「姫!」

「おわっ……!」

 

 突然、手を引かれて視界が揺れた。

 

「なにしてるんですか? らしくないですよ!」

「一人でいないで、こっちにきなよ」

「妾と一緒に、今日のご飯を獲りにいこう!」


 この日々があるのも、あの日々があったからだ。

 なら今はそれでいい。


「ごめん、ごめん!」


 理由は後から思い出せばいい。

 後で納得すればいい。

 きっと、考えたって答えは出ない。

 

 でも、確かなことはある。

 伝えたいことがある。

 教えてあげたいことがある。

 今は大切な2人に会って、こう言いたい。


 私はあなた達がいなくても幸せを見つけた。

 私の大切はちゃんと増えたよって。

 これからも私なりの道を歩んでいきます。

 大丈夫だよって、そう言いたい。


 お父様、エリ。

 私は幸せを歩みはじめました。



 4章 -終-

 

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私ごとで申し訳ないのですが、大切な人を亡くしてしまい、精神的に難しい状況が続いています。

どれぐらいの方が読んでくださっているのかは正直わからないので、必要かどうかはわからないのですけど、以前のように毎日更新するということが少し難しいという報告だけ、ここでさせていただきます。

こんな私の拙い文章を読んでくださってありがとうございます。

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