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18.リン


 リンと名付けられた私は臆病だった。

 過去を振り返っても、そんな私しか出てこない。


「そう思うよね?」

「……うん」


 私は自分で何も決められない人間だった。

 怖くて、自分を主張することができなかった。

 ただその場に流されるだけ。

 

「リンは私達の宝物!」

「あぁ、だから僕達は頑張れる!」

「いつも、1人にしてごめんね……」

「そんなことないよ! お父さん、お母さん! ありがとう!」

 

 両親は可愛がってくれた。

 私のために懸命になってくれた。

 子供の私には何もわからなかったけれど、なんとか生活ができるように必死になってくれた。

 私を1番に考えてくれていたんだと思ってる。

 でも、

 

「あの子の両親って……」

「うん、そう……」

「可哀想ね……」


 街に出れば、そう言われた。

 私は可哀想な子供らしい。

 自分ではそう思ってないのに、そう言われた。

 私自身が何もわからないのに、そう決めつけられた。

 

 それを理由に同年代には笑われてた。

 大切な両親が、周りの大人にされるのと同じように。


「おい! リン!」

「やめて……、やめてよ……」

「うるさい!」


 何を言われても、下を向いた。

 殴られても我慢した。

 言い返すことなんて、とっくに諦めていた。

 やり返す術を知らなかった。

 

 こうなる理由なんて知らなかったから、何もできない。

 私は割り切ったフリをしていた。

 馬鹿にされるのは、私にとっては当たり前。

 両親と同じだから、きっと嬉しいことなんだ。

 辛くても、自分に言い聞かせた。


 私は臆病だったから。

 

 でも、それはいつからなんだろう。

 そんな私になったのはいつからだっただろう。


 ――あなたは特別よ。だから、あなたにとって特別な人が現れるまでは、その力を明かしてはいけないよ


 この約束を守ることすら、私は自分で選んでいない。

 ただ尊敬する両親に言われたから、それだけだった。

 それだけで私はよかったのにな。


「お父さん、お母さん。まだかな……」


 そんな日々が続く中で、私は両親を失ったらしい。

 私はその場面を見てないから、わからない。

 それでも失ったことだけは確かで、劇的なことなんて何もなかった。

 

 いつまでも帰ってこなかったから、街の人に勇気を出して聞いた。

 

「あぁ、確か死んだよ」


 聞いたのは、その一言だけ。

 何をしていたのか、何で死んだのか。

 それすらわからない。

 誰も教えてくれなかった。

 私は両親のことを何も知らなかった。

 涙すら出なかった。

 そして、その時に私は気づいた。

 

 私はただ生きていただけだった。

 私が望んで、選んだことなんてこの世に何もなかった。


 そう気づいた時にはめちゃくちゃだった。

 私を置いていった両親を恨みさえした。


 どうして、なんでって答えの出ない問いに悩み続けて、私の小さな器は崩壊寸前だった。

 

 両親が全て悪い。

 気づけばそんな考えすら頭をよぎる。

 そう思った自分に対して吐き気がした。

 

 それを誤魔化すために、思い出を1つ1つ削っていく。

 間違っていたと思い込んで、それが復讐だと信じて。

 それだけが正しいと信じて、思い込んだ。

 

 やられっぱなしだったのに、やり返すようになった。

 言われたことに強く言い返して、虚勢を張った。

 それだけで、私は私を捨てた気になっていた。

 

 魔物狩りなんて似合わない仕事をするようにもなった。

 その才能もあって、大きな貢献をしてると思ってた。

 アイツらの血飛沫を見ると、少しだけスッキリした。

 全部、全部、壊してやりたかった。

 

 そして、

 

「私には恩恵がある」

「……何?」

 

 両親との大切な約束を破ってしまった。

 これでもっと私になれる。

 そのはずだったけど、大切な思い出が私を責める。

 やってしまった後、1人になった時に何で破ったんだと後悔をした。

 

 もう、どうしていいかわからなかった。

 私は子供じゃないんだと、言いたかったのかもしれない。

 私は特別なんだと、誰かにわかってほしかった。


 そうして私は、臆病で孤独な人間になっていた。


 両親が願ってくれた、想ってくれた私にはなれない。

 その悲しい現実だけが私の人生の全てになる。

 この選択は私をそう導くはずだった。

 でも結果として、その選択は最高のものとなる。

 人生が終わると思ったその瞬間。


 ――もう大丈夫! 助けにきたよ!

 

 姫が私の前に現れてくれたから。

 奇跡だった、救いだった。

 特別な人に明かしたわけじゃない。

 それでも大切な約束は、特別に導いてくれた。

 私がした選択は間違っていなかった。

 あそこであの選択をしなかったら、私はまだ孤独だったと思う。


 正しいと思ったことが全てじゃない。

 そう思ったから、その場で復讐をしようと決意した。

 この人を利用したい、この人がいれば復讐できる。

 だって、間違えたことが正しさに繋がったから。

 それがこれからの道になる。

 

 それすら思えたのは一瞬で、全部が彼女に染まった。


 ――今、抱えている辛い思い出でこの先を縛られるなんて、面白くないよ!


 全部、全部、塗り替えられた。

 私の人生の根っこが、価値観が、丸ごと全部。

 

 私の人生を救ってくれた。

 私の人生を変えてくれた。

 私の人生を導いてくれた。

 恩恵なんか霞んでしまうような、眩い輝く光。


 私の本当のこれからはあそこで選択した。


 ついていくと自分で選択した。

 私のために怒る彼女をみて、達成されるはずだった一つ目の復讐を自分で止めた。


 私は私を選べるようになった。

 

 でもきっと、まだ私はまだ夢をみてる。

 あの人に夢を見せてもらってるだけのただの子供。

 

 私は強くなりたい。

 全部、強くなりたい。

 見えるもの、見えないもの。

 その両方で私は強く変わりたい。


 本当の意味であの人と旅ができる仲間になりたい。


 あの人を、姫を救いたい。

 

 ――リン、ごめん。それってなんだっけ?

 

 私はあの人の苦しみをみてしまったから。

 勝手に知ってしまった。

 それを知られたくなかったのか、姫は多分、誤魔化した。

 

 あんな苦しいこと、苦しみに溢れた文章を忘れるなんて無理だと思う。


 誤魔化してほしくない。

 でも、全てを話せるほど、長い時間を過ごしたわけじゃない。

 

「わかってる」


 なら、私が今からそうなればいい。

 私はここに書いてある奴らとは違う。

 こんな奴らに姫は相応しくない。

 そう心から思っていると信じてもらいたい。


「私は姫に救われたから」

 

 そして機会があるのなら、姫を救うのは私でありたい。

 でも、私だけである必要はないとも思うから。

 私だけが考える必要なんてない。

 それを選ぶことは弱さだと思う。

 それはもう、私の唯一に教えてもらった。


「ユズキさんには少し話したけど、アルちゃんも交えて、話さなきゃならないことがある」


 姫が寝て起きないことを確認して、2人に切り出す。

 いつかのために、今すべきことをする。

 そのために、今日は散々はしゃいでもらった。


 まだ何もわからない。

 何も進んでない。

 この短い時間の中で、全てなんてわからない。

 それにきっと、わかったら面白くない。

 私自身のことでさえ、何もわかってないんだから。

 

 でも、私の人生はこの短い時間で全て変わった。


 それだけが事実でいい。

 私のことは何も解決してない。

 でも、変わったという実感は確かにある。


 これからは変わった私を積み重ねていく。

 

 本当に思ってる人を救うために、私は、あの時の私を超えていく。

 超えることを私は望んでいる。

 人に頼って、孤独でも臆病でもない私になる。

 そうなりたいと願ってる。


「……姫のことで話がある」

 

 これは臆病で孤独な私が進む、誓いの一歩だから。

 

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