17.夢とは
「すごいすごい!」
「ほら、シオン!」
「冷た……!」
最初は渋っていたはずだったのに、一度気を許したら、止められなかった。
いつの間にか、私は水辺ではしゃぎまわってる。
アルと2人でそれはまるで子供のようだった。
いや、子供なんだけどね。
◇
静かすぎる木々を抜ける。
その先には大きな水溜り。
私には最初、そうとしか映らなかった。
「姫! ほら湖ですよ!」
「いや、2回目でわかってるけど……」
「さっきは異物がいたので、遊べませんでしたよね!」
「おい、誰が異物だ」
リンに押されて、渋々近くにきた。
何かを感じないこともない。
初めて見る景色なのは間違いない。
でも、何かが高揚する感覚が気持ち悪い。
慣れてないのかな。
「冷たい……」
気持ちよかった。
気分が高揚するのを止められない。
自分の中に残る何かが動く。
素足に広がる初めてに知らない感情。
「はは!」
そしたら、私はもう止まらなかった。
ここ最近は張り詰めていたから、一気に楽になる。
気持ち悪いと思っていたものが、爽快感に変わる。
知らないことをまた一つ、一つと知っていける。
私はまだ変わっていける。
「……アルちゃん」
「わかってる」
何やらリンとアルが話してる。
随分と仲良くなったな。
リンは結構、面倒見がいい。
このじゃじゃ馬もリンにはちゃんと従う。
「シオン〜、妾も遊ぶぞ!」
「え〜、リンかユズがよかった」
「なんでよ!」
アルは私達の間にうまく入り込んでる。
最初はどうかと思ったけど、流されれば案外悪くない。
この子が誰なのか、さっきのは何なのか。
わかんないことを考えてもしょうがない。
この先に何が待ってても、結果的にどうなっても、選んだ責任は私にあるんだから。
「シオン!」
「わかったよ……」
今、私が選んだのは遊ぶ。
それが私にとってはベストな選択だ。
そう思うことにした。
◇
「ほらいたでしょ」
「ほんとだな……」
今日のご飯を獲りにきた。
草に隠れて覗きみる。
大体、こういう穏やかで水がある場所には動物が寄ってくる。
「あのツノも食えるのか?」
「……それはさすがに無理じゃない?」
でも、確かあの形の動物は美味しかったはず。
「シオンは何でも知ってるな!」
「そりゃそうよ!」
まぁ、この旅の中で知ったんだけどね。
ご飯を食べている時は幸せだったから。
それにしても大きい。
「おい! 逃げたぞ」
「まぁ、大丈夫でしょ」
大きな声に驚いて、逃げたらしい。
めちゃくちゃ遅いけどね。
テンション上がってきたから、アルにもっと凄いところを見せたい。
私は目を瞑る。
いつも通り、感覚が研ぎ澄まされて気持ちいい。
久しぶりな気がする。
「よし……!」
思いっきり踏み切る。
「え……」
アルの惚けた声が一瞬で遠ざかる。
距離を一気に詰める。
「ごめんね」
命を奪うってことはきっと重い。
人が死ぬところを見てきたからわかってる。
ただ、ここで生きてるだけだったのに、私達を満たすために、それを奪うのだから。
だから、ちゃんと謝る。
自己満足だなんて、言われなくたって知ってる。
赦されるとは思ってないけれど、気持ちの問題だと思うから。
「ほらね!」
「はは……」
アルはちゃんと驚いてる。
「やっぱりお前は……」
「なに?」
「いや、なんでもない」
まぁ、そういうお年頃なんだろう。
そうやって思い込むことにする。
いちいち考えていたらキリがない。
どこまで、その言葉に意味があるかまだ測り兼ねてる。
それを考えても、答えなんて出ない。
なら今は、仲良くなりたい。
「それよりも、これ食べ切れるのか?」
「普通に無理でしょ」
流石に大きすぎる。
どれぐらい食べられる部分があるかもよくわからない。
前は、どうしてたんだっけな。
あぁ、あいつがいたのか。
あの身体のどこに入るのかわからないけど。
後ろをくっついていたはずだったのに、またいない。
本当に自由な奴だ。
この子たちの事、あまり好きじゃないのかな。
1人でいると寄ってくるし。
でも今は、
「私達にはリンがいるから」
「あぁ」
これをしまえるのか、よくわからない。
でも今は、リンとユズがいるから問題ないだろう。
無理だったらその時に考えればいい。
遠くに、手を振る2人が見える。
よかった、2人で仲良く座ってる。
「……」
「シオン、どうした?」
それを見てると、幸せな情景が浮かぶ。
こうやってみんなで旅をして、もっと仲良くなる。
そして、いつかみんなで楽しく思い出を話す。
そんな幸せな未来を妄想する。
「……なんかいいな。こういうの」
こんな世界があるなんて知らなかった。
こんな道があるなんて知らなかった。
そしてあそこにいたら、この道を知っていだとしても、選んで許されるなんて、きっと思わなかった。
あの2人とも、もしかしたらこんな風になれるのかな。
私の大切はこれを選んでくれるだろうか。
「シオンは幸せを望んでいるのか?」
「不幸せになりたい人なんていないんじゃない?」
きっとそうなんだと思う。
私はそう感じているはず。
「これは本当にシオンの幸せか?」
「……」
今が続けば、それが幸せなのかと問われれば、わからない。
でも、この時間はそうなるために進む、選択肢の一つなんだろうなと思う。
「この選択はシオンにとって幸せか?」
「……どうだろう」
引っかかりはある。
私は過去の大切なものを捨てきれてない。
こだわり続けてる。
必要ない、要らないと言われても、その人達のためになりたいって思ってる。
それは意地なのかもしれない。
それでも、2人が大切だってことはわかってる。
その気持ちにはこだわりたい。
「妾は今を選んでもいいと思う」
「……手伝ってほしいっていうのは?」
「今のシオンをみて、強いたくないと思った」
「……」
「危険なことに巻き込まないなんていったけど、そんな保証はない」
「……そうなの?」
その弱気な態度に私は笑ってしまう。
あれだけ偉そうにいってたのにね。
危険はやっぱりあるんだな。
何となく、わかっていたことだけどね。
「笑うな! 妾には見えてないから、全てを知らされてない。だから正確に言うなら、今はわからないんだ」
「まぁ、いいよ。私はアルもほしいって思ってるし」
この中に、この子もいてほしい。
きっと、アルも何かを抱えているから。
助けてあげたいと、そう決めた。
私達はきっと同じように笑える。
それだけわかってれば、今は十分だ。
「だから、救ってあげる」
「それは……、随分と傲慢で欲が深い答えだな」
「そうだよ? 妾ちゃんも、これは知らなかったかな?」
「……バカにするな」
この機会を、時間をもらえてよかった。
まだ3人のことはわからない。
特にアルは何もわからない。
わかる方がおかしいんだと思う。
出会ってからの時間は、とても短い。
「私はきっと、綺麗な思い出を貰って、みんなと歩んできた未来の先で、たくさんの人達と笑っていたいんだ」
「素敵な夢だな」
「ありがとう!」
きっと、積み重ねていけばいいんだと思う。
その選択の先に幸せがあることを信じて。
ひとつひとつ、選んでいこう。
わからなければ手を取り合って、悩めば背中を押して。
一緒に歩いていこう。
歩んできた道は消えないと思うから。
この時間が過去になった時に、みんなで笑えるように。
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