16.――
沈む。
「はやく逃げろ! 頼むから逃げてくれ!」
「嫌ですよ。ここで逃げるなら、死んだ方がマシです」
「待て! お願いだ! 待ってくれ!!!」
「ありがとうございます。お父様」
「私は、お前まで……」
「心配しないでください。私は選びました。きっと救いますから」
また深く、沈んでいく。
激しい雨の音がする。
「お姉ちゃん……」
「大丈夫ですよ。何も怖くなんてないです」
「いかないで……」
「姉である私の最後のお願いです。エリ、あなたを救うことを許してほしい。そして、――」
「いやだ! いっちゃいやだ! お姉ちゃん!!!」
あなたは選択をしたことはありますか?
……はい、その通りです。
また、言葉遊びですよ。
いいじゃないですか、付き合ってくださいよ。
私は寂しいんです。
よろしくお願いします。
では改めて、あなたは選択をしたことがありますか?
そもそも、選択をするとは何でしょうか。
あれ? わかりにくいですか?
では、言い換えます。
あなたは本当に何かを選んでいるのでしょうか。
まだ、わかりにくいですかね。
まぁまぁ、少し聞いてください。
まず、選ぶとは何でしょう。
選択するとは何でしょう。
人生の中でこうしていれば、ああしていればよかった。
そういった後悔は誰しもがすると思います。
それを間違えたのなら、とても辛いですよね。
やり直したいと思うはずですよね。
あの時に、この道を進んでいれば、本当はこうだった。
あの時に、あの道を選んでいたら、こんなことにはならなかったはずだ。
そうやって、人は過去に縋ります。
そうやって、人は過去に救いを求めます。
そんなこと思っても、何にもならないって知ってるのに。
その選択をした未来はあるのでしょうか。
そんなものは存在したのでしょうか。
あなたはどう思いますか?
私はきっと、そんなものはないと思っています。
なぜなら、あなたは選んでなんていないからです。
そして、違う選択肢を選んだ自分なんてものは存在していないのです。
全ては妄想でしかないからです。
その道を選んでいないあなたは、どこにもいない。
その道を選べたあなたは、どこにもいない。
目の前にある選択肢で何を選ぶか。
それは自分が選んだのではなく、生まれた時から決まっているのだと思います。
元々、選択肢なんて存在していなかった。
私はそう考えています。
だって、そうでなきゃおかしいじゃないですか。
そうでないなら、救われないじゃないですか。
そうでないなら、全て私のせいになってしまう。
それはとても残酷な話です。
それはとても救いのない話です。
全部、誰かのせいにしてしまえばいい。
きっと誰かが悪いんだ。
その何かが間違っているんだ。
人生で自分が決めたことなんて何もない。
そう思いさえすれば、きっと幸せになれる。
私は少なくとも幸せを感じています。
それにきっと、神様だって間違えます。
「そうよ。私は間違えた」
そんな神様もきっといます。
「初めから何もかも、誤ってしまった」
だから、あなたは大丈夫です。
「得て、失って、貰って、溢して。最後に取り戻したと思ったら、また奪われた。私はそれの繰り返し」
あの時に間違えたのはきっと、あなたのせいじゃない。
「そして、私は知ったの」
「……なにをですか?」
「これは私のせいじゃないって、それを知った」
あの時に間違えたのは、私のせいじゃない。
「だから、私は縋っているの、囚われているの、呪われているの、想っているの」
その証明が目の前にいます。
その証拠が目の前にあります。
「今でも、あの日々が忘れられない。色褪せてくれないの」
人は誰しも、選んでなんかいない。
「でも、その思いすら何もかもを失って、残っていない」
人は誰しも、決めてなんかいない。
「だから、あなたは大丈夫よ」
人は誰しも、そんな権利は与えられてない。
「あなたはきっと幸せなんだから」
人は誰しも、そんなものは必要ない。
「……はい」
私達はただの玩具。
あなただって、そうですよ。
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