15.自分
私。
それって何だろう。
今、ここに存在していること。
それだけではダメなんだろうか。
この容姿でなくても、この力を無くしても、恩恵なんかなくても、私は私だと、そう思ってきた。
きっと、それでは私ではなくて周りがダメなんだ。
少なくとも、リンは悲しそうだった。
ユズは黙ってしまった。
きっと、アルは何かを知っている。
もしかしたら、経験しているのかもしれない。
あの子風な言い方だとわかってる、かな?
なら、私は何を求めればいいんだろう。
何を失ってはいけないんだろう。
私はどうしたらいいんだろう。
私は大切を失ってここにきた。
大切に捨てられたから、ここにいる。
なら、あの大切は失ってもよかったの?
それに何か意味があるの?
意味があるとしたら、捨てられたことは幸せだったの?
なら人生の全てだと、そう思っていたものにすら捨てられても、それは私ってことなんだろうか。
あの時、捨てられていなければリンを救えなかった。
あそこで学んでなかったら、リンを救えなかった。
あの時、失っていなければ、ユズを救えなかった。
あそこでの経験がなかったら、ユズを救えなかった。
それは確かだと思う。
私が今までに得てきたもので誰かを救った。
失ってきたもので、何かを得た。
なら自分は?
私のことは誰が救ってくれるんだろう。
神様は私を救ってくれなかった。
与えられた恩恵は私を苦しめただけだった。
もちろん、リンとユズには救われてる。
1人は辛かったことを知ってるから。
大切に捨てられて、学んだから。
でも、それは本当に救われているのだろうか。
アルは何か知ってるの?
アルは私に何を教えてくれるの?
アルは私に与えてくれるの?
あなたは何かをわかってるの?
ちょっとだけ期待してる。
だから、付き合ってみようっていうのもある。
あの子は自分のことを特別だと言ったから。
あの光は、特別な感じがした。
あの腕の光は、救いである気がした。
何かを教えてくれる予感がした。
私は私のことをよく知らない。
それを教えてくれる気がした。
私は本当の意味で、それを理解してないと思うから。
それが大切なことだと、理解ができていない。
それだけは確かなんだと思う。
まだ、私がここにいることに、何か特別な意味があるとは思えない。
なぜなら、私は選ばれた人間ではないから。
大切な人にそう言われてしまったから。
私がここにいる意味なんて、私はわからない。
もしそれが間違いだったなら、私は何のためにこんな思いをしたの?
何のために、選んだの?
何のために、諦めたの?
何のために、あそこを捨てたの?
何のために、大切を失ったの?
その意味とやらは、大切を失うほどの価値があるものなの?
きっと、私は私でしかない。
何が変化しても、どうあっても変わらないと言い切れる。
これまでそうだったはずだから。
記憶の中の私は常に明るくて、前だけみてる。
辛いことも、嫌なことも、私の力で乗り越えてきた。
この旅で少し知ったけど、それも乗り越えてるはず。
だから、私がここにいる理由なんてわからない。
だからきっと、私がここにいる明確な理由なんてない。
あるとしたら、新しい大切のためだと信じてる。
例え死んだとしたって、私は私なんだと言いたい。
思ってくれる人がいること。
悲しんでくれる人がいること。
ここに残したものが私と信じてる。
私の中に、残ったものが自分なんだとわかってる。
それがここにいる理由だと思いたい。
仮に今死んだって、私の過去が私になる。
最後の瞬間には思い出して、笑って泣きたい。
でも一つだけ、気づいてしまったことがある。
私についてわかってしまったことがある。
私は理由があって欲しくないって、そう思ってるんだ。
ここにいる理由も、何があれば私なのかも、理由を決めるのは自分でありたい。
私の今までは私の中にあるはずだから。
今もそれを作ってる。
過去と未来に私はいる。
なにを得ても、なにを失くしても、きっと私は私だ。
3章 -終-
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