14.歩きだす
「で、アルは私達をどうしたいわけ?」
とりあえずついていく。
私達は相当なお人好しだ。
今はこの子に振り回されてあげる。
そうするべきだと思う。
「それを決めるのは妾ではない。シオンだ」
「またわけのわかんないことを……」
「まぁまぁ、姫。聞いてあげましょうよ」
「姫に関係することなんだろ? ボクも気になる」
リンとユズに宥められる。
本当に意味がわからない。
私に何の関係があるんだ。
そもそも、頼んできたのはそっちだ。
「シオン」
「……なに?」
「お前は何のためにここにいる?」
「何の、ため?」
「シオンはどうしてここにいる?」
「どうしてっていっても……」
家族にいらないと言われて、飛び出してきただけ。
成り行きでこうなっただけだ。
それ以外の理由なんてない。
「みえてないな」
「……なにを言ってるの?」
声が低くなる。
見下されてるようで腹がたつ。
「妾は、ほんの一部だけを知っている」
「だから、それはなに」
苛立ちが抑えられない。
どうしてだろう。
この子の前だとこうなってしまう。
私より子供のくせに偉そうな態度。
見透かされているようで、苛立つ。
「なぜ今、この時に妾達がここにいるのかを、だ」
くだらないと切り捨てても良かったはずだ。
こんな子供が何を知ってるんだって。
お前に私の何がわかるんだって。
そう言うのは簡単だったと思う。
でも、あの輝きが忘れられない。
目に焼きついて離れない。
「思い出した、そういってもいい」
「……思い出した?」
「シオン。お前はお前のことを正しく知っているか?」
「そりゃ、知ってるよ」
「それは本当か?」
「本当も何も、私は私だし」
私は知っている。
私の全部は私が知ってる。
そう思って生きてきた。
その経験を少しだけ分けて、2人を導けたと思ってる。
こんな考えは傲慢なのかもしれないけれど。
「少なくとも、リンはそう思っていないみたいだけどな」
私は振り返る。
リンが俯いていた。
「……リン、どうしたの?」
「あ、姫……。すいません。なんでもないです」
何、何なの。
「これから起きること、この先のこと。妾は何も知らない。今は案内してるだけにすぎないからだ」
「……もっとわかるように話してよ」
抽象的すぎて何も伝わってこない。
伝える気がないようにすら感じる。
わかりにくいんじゃなくて、わからない。
「それはできない。知らないからだ」
「……話にならない」
「そう思っても構わない。でもシオン達には来てもらう。そして、知ってもらう」
「アルに付き合う義理なんかない」
これ以上は話の無駄だ。
さっさとどこかに送り届けて、終わりにしよう。
どうせ、構って欲しい子供が適当を言ってるだけだ。
魔物の事は、本当なら後で3人で考えればいい。
今ははやくこの会話を終わらせたい。
もう、疲れた。
「いいのか? シオン」
「何が?」
「お前の恩恵について、何かを知れるかもしれないのに?」
「……それ以上は何も言わないで」
その言葉に心が揺れ動く。
聞かれたくない。
言われたくない。
私はそれに助けられたことなんてない。
だから、興味ない。
どうでもいい話だ。
「姫……」
リンはわかってるのかな。
わかっていて、話せないのかな。
「そうか、それがひとつか」
「……」
「まぁいい。時間はあると言った」
この子は本当に何なんだ。
顔つきがさっきとは全く違う。
その姿が歳相応の子供になった。
「まずは、妾を信用してもらわなきゃならない!」
「……不信感しかないけど」
「それでいい。そのために話した。目的のためにもな」
同じ人には全くみえない。
急変する全てについていけない。
「そのために妾を知ってほしい。これについても」
アルは右腕を触る。
全部がわからないことだらけだ。
「だから、今はみんなで遊ぼう!」
「……は?」
「それからでいい……」
コイツは本当に何を言い出すんだ。
「妾は歳相応を残しているからな」
「歳相応……?」
「話しすぎて疲れた。シオン、おんぶして!」
「……は?」
頭がついてこない。
さっきのアルと今のアル。
一体、何が本当なのかわからない。
そして、私についても。
「姉は妹の面倒をみるものだ。そうだろう?」
「はぁ………………」
「シオンは楽しい旅を求めてるはずだ! 妾はそれに付き合ってやる!」
私はアルに何を求められているんだろう。
そして、リンは私の何を知ってるんだろう。
私は私の何を知らないんだろう。
でも、きっと無視はできなくなった。
それだけが今、わかったことだ。
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