13.綺麗
「姫! 湖ですよ! 湖!!」
「そうだね……綺麗だね」
「妾もそう思う」
まぁ、綺麗だと思うよ。
太陽も反射してるし。
「ユ、ユズキはどう思いますか?」
「とても綺麗だと思うよ」
「そうですよね!」
「妾もそう思うぞ」
こんな大きな水溜りは、初めてみたからね。
何事も初めての経験はいいことだ。
「これから何します?」
「何しようね」
「姫がゆっくり決めたらいいよ」
「妾に提案がある」
とりあえず、何もすることもない。
本当に平和な世界だ。
今まで、知ることはなかった世界。
「まぁ、とりあえずはのんびりしますか」
「そうだね」
「そうしましょう!」
「……妾に提案がある」
これからは何も決まってない。
ユズもやりたいことを探していいって言ってくれた。
だから、急がず決めればいいよね。
「……ねぇ! 無視しないで!」
うーうーと唸ってる。
随分と偉そうな態度だったのに、そういうところは歳相応なんだな。
「あの〜、姫?」
「……なに?」
「その子はいったい誰なんだい?」
「知らないよ」
本当に知らない。
いつの間にかそこにいた。
橙色の髪に赤い瞳。
年齢は私達よりも、幼くは見える女の子。
あの壁を出た後につけられてたのかな。
だいぶ歩いてきたと思うけど。
あのバカ猫はどっかいっちゃうし、散々な気分だ。
「で、君は誰?」
「え!!!」
表情が明るくなって、目が輝く。
そんなに話したかったんだ。
「ふふ、妾か? 簡単には教えられ――」
「じゃあいいや」
「あっ、いかないで〜」
めんどくさい。
行こうとしたら、抱きつかれて足を引きずってる。
こういうタイプの子は、雑に扱うといい感じになる。
本当は言いたいんだろうからね。
――行かないでよ……! お姉ちゃん。
ちょっと思い出して、少しだけ胸が痛んだ。
「妾の名は、アル、だ!」
「……そう」
「もっと興味持ってよ!」
ちょっと面白くなってきた。
まさに音の鳴るおもちゃ。
「私はシオン」
「リンです!」
「ボクはユズキ」
とりあえず、名を名乗る。
「知っている!」
知ってたらしい。
「それで、なんの用なの?」
「そうですよ。こんなところにいたら危ないです」
「まだ子供でしょ? まぁ、ボクらもそうだとは思うけど」
私が話しかけたからか、リンもユズも話しかける。
別に気を使う必要なんてないのに。
「妾は大丈夫……。 何せ、特別だからな!」
「あっそ」
「シオン、冷たい!」
そんなこと言われても、どう対応したらいいかわからない。
思い出して、態度が悪くなってしまったかもしれない。
でも、それでいいと思ったからそうする。
「それで本当のところ、私達に何の用があるの?」
「お前達には、妾を手伝う権利をやる!」
「いらない」
「なんでよ!」
そんなもの、普通に考えていらないでしょ。
誰が好き好んで、厄介に巻き込まれたいと思うんだ。
最近はそういうことが続いている。
正直、今はのんびりとしたい。
そんな急ぎにもみえないし。
「う〜……」
また唸ってる。
まぁ可愛いとは思うけど、その手は食わない。
「手伝ってよ〜。シオン達の力が必要なの!」
そうじゃなきゃついてこないよな。
「アルちゃんはどこからきたの?」
「それは秘密だ! それと子供扱いするな!」
そこは結構、大事なところだと思う。
こんな世界で、よくわからない人にいきなり協力しろなんて言われて、簡単に信用できるかって話。
「まぁいいや、面倒だから話してみてよ」
とりあえず聞いた方がはやい。
信用するか、それから決めればいい。
何もかも怪しいんだから、今更だ。
やるかやらないかも、結局は内容次第だし。
助けられるなら、助けてあげたいと思ってる。
「妾は、ここらに現れる魔物が住む場所を知っている」
「……は?」
一体、何を言い出すんだ。
「不思議だとは思わないか? 奴らがどこからくるのか」
「それは……」
「だが妾の目的はそこじゃない。その先にいきたい」
「……どうして?」
「今は教えられない」
「その話を信用しろって? 会ったばかりのアルを?」
予想外の発言に体が強張る。
2人の顔をみると、真剣な顔つきに変わってる。
アルの顔も子供にはみえないほどの迫力。
「でも、お前達はそれを聞いて放って置けないはずだ」
「もしそうだとして、それをどうしろって? 私達だけでどうにかなるとでも?」
「心配することは何もない。もう、何もかもが大したことはなくなっている。長い長い繰り返される歴史の中で狩り続けられてきたからな」
無茶苦茶なことを言ってる自覚はあるんだろうか。
でも、その顔は真剣そのものだ。
「大したことないと言われても……」
「ボクにはどうしたらいいかわからない」
「できるなら、どうにかしたいけど……」
リンもユズも困惑してる。
「大丈夫だ。ここら辺を見てみろ。とても平和だ」
「それは、そうだけど」
「それに時間が迫っているわけでもない。何か制限があるわけでもない」
2人は魔物と呼ばれてる化物とほとんど対峙したことがない。
不安しかないんだ。
「危険なことには巻き込まない。約束しよう」
巻き込まない、ね。
とりあえずそこは置いといて、これが1番大切なこと。
「それで、何で私達なの?」
「妾にはわかるからだ」
「何を……ですか?」
「シオンは知らなくてはならない。それを思い出したと言ってもいい」
「……私?」
何を言ってるのか、いまいち分からない。
「もちろん、ユズキとリンもそうだ」
「私達も……ですか?」
「そうだ。妾はやっと見つけた」
要領を得ない。
何を伝えたいのか、わからない。
アルが右腕を掲げる。
その右腕が服越しにもわかるほど輝いている。
「特別である妾には、それがわかる。なぜなら……」
アルが袖を捲る。
そこには輝きが刻まれていた。
「妾には本物が刻まれているからだ」
見せつけられる。
すごく綺麗で目を奪われる。
「それは……」
「妾の特別である証」
そして、それをアルはしまう。
「この続きは、歩きながらしよ! 時間は沢山ある!」
その顔は、さっきと同じアルとは思えなかった。
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