12.――
潜る。
力強くドアが開く音。
そして耳に響く、大切な音。
「シオン!! 大丈夫なのか?!」
「あ、お父様! 私は大丈夫! どこも痛くないよ! ……どうしたの? そんな顔して」
「い、や……」
「あはは〜、ごめんね! そんなに心配かけた? でも、本当に大丈夫! 本当に何もなかったから!」
また一つ、潜る。
今度もまた、ドアが開く。
そして心に響く、心地よい音。
「お姉ちゃん!」
「あ、エリ!」
「……え?」
「私は大丈夫! 心配かけてごめんね〜」
「いや、えっと……」
「この通り! ほら! なにもないよ!!!」
「で、でも!」
「大丈夫! 私はエリのお姉ちゃんだもん!」
あなたって、あなたですか?
申し訳ありません。
突然すぎましたね。
きちんと、わかりやすく伝えないといけません。
私の悪い癖です。
ではもう一度、聞き直します。
あなたはあなたであることを証明できますか?
そもそも、自分とはなんでしょう。
あなたとは誰でしょう。
自分とは、なんでしょうか。
顔が同じであれば、それはあなたですか?
性格が同じであれば、それはあなたですか?
経験が同じであれば、それはあなたですか?
才能が同じであれば、それはあなたですか?
想いが同じであれば、それはあなたですか?
本当に、それはあなたの証明になりますか?
あなたは自分の顔を、自分の目で見れますか?
あなたは自分の性格を、どう思っていますか?
あなたは自分の経験を、言語化できますか?
あなたは自分の才能を、全て知っていますか?
あなたは自分の想いを、理解できていますか?
あなたはあなたを、どう証明しますか?
もし、別の何かが得られたら、それはあなたではなくなるのでしょうか。
もし、それが別のものに変化したら、それはあなたではなくなるのでしょうか。
もし、それを失ったら、それはあなたではなくなるのでしょうか。
ではもし、その全てが同じである人が、この世にもう1人存在したとしたら、それもあなたなのでしょうか。
……そうですね。
ただの言葉遊びです。
考えるだけ、無駄ですよね。
多くの人はそんなこと、考えたこともないと思います。
考える意味も、きっとないんだと思います。
なぜなら、自分は1人しか存在しないからです。
それは証明なんてするまでもなく、自分自身が1番よく知っているはずですよね。
この世に全てが同じ人間なんて存在しません。
わかっているから、1人しかいないあなたに聞きました。
そのことについて、私は興味があったんです。
大丈夫です。
きっと、あなたはあなたですよ。
私が保証します。
何の根拠もないですけどね。
「大丈夫。あなたはあなたよ」
そう、私は私です。
「あなたは、あの娘とは違うもの」
そう、私は誰とも同じなんかじゃない。
今、ここにいる私は私ですから。
「あなたはそれを知っているわよね」
そう、私は知っています。
私だけが知っています。
私だけがわかっています。
「だから、あなたは大丈夫」
「……はい。ありがとうございます」
あの方の言う通り、私は私です。
あなたの言う通り、あなたはあなたです。
誰かに認めて貰えなくても、誰かから拒絶されたとしても、誰からも理解されなくても、私は私自身であると言い続けます。
それは私が私である、何よりの証明だと思っているからです。
真っ白な世界にいても、澄み渡った青空の下にいても、澱んだ暗い空の下にいても、遠く離れた場所にいても、きっと私は私だと思います。
私であることをやめられないと思います。
私であることを捨てられないと思います。
私であることに囚われていると思います。
私であることを望んでいると思います。
私であることにこだわっていると思います。
何かを得ても、何かが変化しても、何かを失っても、それは変わりません。
だって、私は私なんですから。
ねぇ、そうでしょう?
あなたにもわかるでしょう?
あなたもわかってくれますよね?
あなたはあなたなんですから。
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