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10.理解してない


 私達はまだここにいる。

 もう何日も経ってしまった。

 それでも同じことを繰り返している。

 起きて、ユズキといて、夜は少し手伝って、寝る。


 あの日に誓ったはずなのに、諦めきれないでいる。

 もう、なにも教えることはないはず。

 それでも私は、ここに居続ける理由を探していた。

 

 リンにはちゃんと謝って、抱えてる思いを話した。

 大変な思いをさせていること、そして約束を破ろうとしてることを謝った。

 そして、私が納得できるまでは付き合ってほしいと頭を下げた。


「姫は本当にしかたないですね!」


 そう笑ってくれた。

 

 やれることはないはずなのに、離れられないでいる。

 私はユズキの過去を聞いたから。

 約束通り、彼女のことを教えてもらった。

 ユズキは全部を話してくれた。

 

「ボクは両親を知らないんだ」


 私はその寂しさを、きっとわかってあげられる。


「生きていくためには、働かなきゃならなかった」


 私といたら、もっと楽しく生きていけるように頑張る。


「今の仕事は辛かったよ」


 辛いことはきっとあると思うけど、それ以上に楽しいはず。


「人とは違うってことが怖かったんだ」


 それでも、私はユズキをわかってあげられるから。


「自分が必要とされているか、わからなかった」


 それに、私にはあなたがきっと必要。


「この世界に居場所なんてないって、そう思ってた」


 だから、私の側を居場所にしない?


 思っていることの全てを言ってしまいたかった。

 でも、踏みとどまる。

 ちゃんと思いとどまった。

 選択肢を知ってるなら、私を選んでくれるわけがない。

 その次の言葉を確かに聞いたから。


「でも、わかったんだ!」

「……なにを?」

「居場所はボクが決めていいって、それがわかった」

「……」

「それを望んでも、許されるだけの力があるって知ったからね!」

「……そう、だね」


 ユズキは私をみて笑いながらいう。


「今は、それを作るために努力してるところ」

「……うん」

「だからシオン。教えてくれてありがとう」

「うん」


 きっと、もう大丈夫だと思う。

 あなたはちゃんと必要とされる。

 あの場所でも、別の場所でも、どこでも。

 選べるってことを、もう知ってる。

 選ぶのは自分なんだってわかってる。


「……今のところ、ボクは賭けに勝ってるみたいだね」

「え?」

「勘違いじゃなくてよかったよ」

「ユズキ?」

「あのままなら、ボクが望むものは手に入らなそうだったから」

 

 私の顔を覗き込んできたから、急いで目を逸らす。

 

「ボクはね、すごく欲深いみたいなんだ」

「いや、えっと……」

「それを知れたのも、シオンのおかげ」


 でも、目だけはユズキの顔を追ってしまう。

 やっぱり、ユズキの笑った顔はとてもいい。

 私に、お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな。

 エリは……。


「なんでも知ってるって思ってたけど、シオンは自分のことをよく知らないよね」

「それは……」

 

 そうなのかもしれない。

 多分、そうなんだと思う。

 

「あの子には悪いけど、順番なんて関係ないし、大したことじゃないよね?」

「……?」

「シオンは教えることはあっても、人に教えられることは少なかったみたいだからさ」

「……それは」


 確かにそうなのかもしれない。

 誰かに教えられたことって、ないのかもしれない。

 そう考えると、私も大概、寂しい人生だなって思う。


「ボクが教えてあげる」


 その言葉は確かに何かを感じた。

 私の心が動く、音がした。

 でも今の私には、その意味はよくわからなかった。


 ◇


 また、いつも通り。

 そのはずだった。

 でもその日常は、全く違うものに変わっていた。


「いくよシオン!」

「わかったから、引っ張らないで〜」


 私達は、もう堂々とサボってる。

 特訓とは一体なんだったのか。

 今では街の中を歩いて回ってる。

 もちろん、使ってるお金はお店から貰ってる給金。

 これは本当にヤバい気がする。


「みられたらどうするの?」


 そうユズキに聞いた。


「大丈夫でしょ。忙しすぎてバレないよ」


 平気な顔をしてそんなことを言っていた。

 私はユズキを悪い方向に変えたのかもしれない。


「ユズキ、――」

「ユズ」

「え?」

「そう呼んでって伝えたよね?」

「……はい。ユズ」


 笑ってるはずなのに怖い。

 いつの間にか、あだ名で呼ぶことも強制された。


 この時間は楽しかったし、満たされた。

 でも、このままは絶対にダメだ。

 この後のユズキ……、ユズの立場が危うくなる。

 必要とされる場所、望んでいる場所から追い出されるかもしれない。

 それに私も。


 もう潮時だね。


 日常が変わりだしてから数日、考えない日はなかった。

 私の脳裏によぎる、別れの時間。

 何かそれっぽいこと起きないかな。

 そう思った時に、それが起きる。

 運がいいのか、悪いのか、わからないけどね。

 小さいけど、確かに誰かが叫んでいる声が聞こえる。


「シオン」

「いこう」


 叫び声の近くにきてもなにもない。


「くるな! くるな!」


 壁の外で叫び声がする。

 この向こう側なんだ。

 出入り口はないし、壁はとても高い。

 でも、やるしかない。


「シオン」

「なにって、うわ!」


 突然、ユズに抱えられた。

 声を聞いて集まってきた人達にみられてる。

 恥ずかしすぎて、おかしくなりそう。

 こんな経験は初めてだ。


「ユズ! ちょっ、ちょい待って!」

「いや、またないよっと」

「ちょ――」


 ユズは軽々と飛び上がって、壁を蹴る。

 ユズに強く抱きついてしまう。

 自分でやるなら大丈夫だったと思う。

 でも、胸の高鳴りが止まらない。

 

 怖いのかな?

 それとも、別の感情?

 1番上まで、軽々と辿り着く。


「ユズ、いつの間にかすごくなってるね」

「これもシオンのおかげだよ」

「……」


 これで終わりなんだ。

 最後の思い出になる。

 なら、今を楽しもう。

 

「降りるよ」

「うん!」


 ふわっとした感覚。

 全然怖くない。

 安心する。

 でも、胸の高鳴りは止まらない。

 どうしてなんだろう。


 でも、わかったこともある。

 きっと私は私のこと、なにもわからないんだ。


 降り立った先には、よくみる犬っぽい魔物に襲われてる人がいた。

 数は一匹、盾でなんとか応戦してる。

 あのままほっといたら、一生なにも起こらなそうな戦闘。

 

「助けてくれ!!」

 

 ここにも、あいつぐらいなら出るんだ。

 やっぱり、ここは平和なんだね。

 だから、これがちょうどいい。


「ユズ、これが最後。これで卒業だよ」

「こんなのでいいの?」

「うん。いい」

「わかった」


 これぐらいで、ちょうどいいんだ。

 行こうとしてたユズは、振り返った。

 

「終わったら、願い事を1つだけ聞いてくれるかな?」

「私にできることなら、なんでもいいよ」


 これが最後だから。


「なんでも、か。言ったからね」

「うん」

「これ、借りるから」


 これで別れがくる。


「やっぱり、ボクは運がいいみたいだ」

「……?」

「半信半疑だったけど、ちゃんと確信が持てた」

「なに……を?」


 私の問いかけには、答えてくれない。


「だからボクの一歩目は、ここから始めるよ」


 ユズはそれ以上はなにも言わなかった。


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