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9.ここにいる


「ほら! もっと考えて!」

「うん……!」

「感情に流されたらダメ!」


 どうも、戦力外の2人です。

 昼間に特訓したいってヒナのお母さんに相談したら、

 

「本当? ほら言っておいで!」

「……はい」


 嬉しそうに追い出されました。

 流石にひどくない?

 リンには、

 

「いいですか? 力の使い方を教えるだけですよ?」


 怖い顔で念押しされた。

 正直言って後が怖かったからご機嫌をとるために、「可愛い顔が台無しだよ」って言ったら黙っていっちゃった。

 

 だから今は2人、壁の外で特訓してる。

 あの激混み状態ですら、いらない子扱い。

 そのかわりに、ユズキと親睦を深められる。

 だから、よしとすることにした。


「は!」


 それにしてもすごい。

 とてもすごい才能だと思う。

 本当にまともに戦ったことがないの?

 これなら私がいた場所でも、余裕でやっていける。

 私よりも強くなれるかもしれない。

 だからこそ、心当たりを聞いておく。


「ユズキ」

「なに?」

「恩恵って知ってる?」

「……なにそれ」


 ここでは知らないことが当たり前。

 戦うことのできる才能なんて、本当に必要ないんだろう。

 

 でも、ユズキは恩恵を持ってる。

 戦うための才能を持ってる。

 私にはなかった特別な才能がある。

 私には恩恵がなんなのか知ることはできない。

 それでもなんとなく、わかってしまう。

 私にはないから、わかるんだ。


「なんでもないんだ! 聞いただけ……」

「そう……」


 そうやって誤魔化すことしかできない。

 才能はいうことなし、筋もいいし、度胸もある。

 あとは経験と制御すること、それだけなんだと思う。

 力には大きな責任もあると思うから。

 それはちゃんと教えてあげたい。

 ユズキは感情的になると力が高まるから余計にね。


 ユズキには才能がある。


 でも、ふと思う。

 これは幸せなことなんだろうか。

 ユズキにとって、幸せなことなんだろうか。

 平和で戦いの少ないここでは、知らないことの方が幸せなんじゃないのかな。

 最低限のことだけ覚えたら、それでいいんじゃないか。

 そんなお節介なことを考えてしまう。

 

「ちょっと休もうか」

「わかった」


 木を背にして座り込む。

 ユズキは隣に座った。

 

 私は欲しかった。

 恩恵という才能に憧れていた。

 私のあれは偽物だから。

 多くの人にそう言われてしまった。

 怖くて誰にも、リンにすら伝えられていない。

 

 だから、彼女達のことを羨ましいと思ってしまう。

 このままならすぐに越えられてしまうかもしれない。

 私が必要とされなくなる日が来るかもしれない。

 そしたら、またあの時みたいになるのかな。

 

 あの時みたいに失うのかな。


 ――お前はもういらない


 心の中から聞こえてくる誰かの声。


 ――お前は選ばれた人間じゃなかった


 心の中に響く誰かの声。


 ――大嫌い、だったよ。お姉ちゃん


 世界で一番大切な人ではっきりと再生される。

 私の消えることのない大きな傷跡。


 これはもう、末期だね。

 少しでもうまくいかないことがあるとこれか。

 あの程度の失敗が続いたでこうなってしまう。

 

 リンにはあんな偉そうなこと言ってて、私も本当はどうしようもない子供だったらしい。


 過去を忘れられない。

 過去から抜け出せていない。

 昔の大切に今でもこだわっている。


 私はそんな人間じゃなかったはずなのに。

 だから、こんな性格でやって来れていたのかな。


 人は平等じゃない。

 知っているはずだった。

 思い知ったはずだったのに、会ったばかりの人達にこんな感情を抱いている。

 

 長い沈黙と静けさ。

 程よく私達を照らす太陽と気持ちのよい風。

 本当にここは静かだ。


「シオン、ありがとう」

「……え?」


 ユズキに突然、お礼を言われた。


「ボクに教えてくれてありがとう」

「……なにを?」


 わからない。

 私はまだ、なにもしてない。

 なにも教えていない。


「才能を教えてくれたことだよ」

「……でも、それは気づいていたでしょ?」


 ユズキが人よりも強い。

 そんなことはとっくに気づいてるはず。

 教えてもらうまでもない。

 その才能があるから、あの場所にいられたはずだ。

 それに私は自分勝手で、それを隠そうとした。


「うん。でも、ボクは怖かったんだ」

「なにが?」

「この力が怖かった」

「……」

「人とは違うのが怖かったんだ」


 そうなのかもしれない。

 この平和な場所で、ユズキは異物なのかもしれない。

 だから、私はユズキに惹かれたんだと思う。

 私もそうだったからさ。

 この人と仲良くなりたいってそう思ったんだ。


「だから、これが必要だと教えてくれてありがとう」

「……うん」

「こんなボクを知ろうとしてくれて、ありがとう」


 感謝をしてくれている。

 それなのに私は、勝手に重ねて押し付けようとした。

 だから、そんなこと言ってもらえる資格なんてない。


「うん」


 わかってしまった、気づいてしまったんだと思う。

 自分自身との付き合い方に、ユズキは気づいた。

 

 きっと彼女はここでうまくやっていくんだろう。

 才能と向き合って、必要としてくれている人達を助けて、これからの自分を見つけていくんだろう。

 その力は使い方を間違えなければ、きっと人生を豊かにするはずだ。

 自分と向き合えない、私のとは違ってね。

 

 心の片隅で思っている、小さくて大きな願いはきっと果たされない。

 それがわかってるからこそ、ちゃんとしよう。

 ちゃんと教えて、ここから出ていこう。


 私はそう決めたじゃないか。

 

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