0.
あなたにはありますか?
「妹の方が使えるから、お前はもういらない。言いたいことはそれだけ。はやく出てけよ」
「…………え?」
仲間だと思ってた人達に、裏切られたことはありますか?
あなたにはありますか?
「お前は勘当だ。この家からはもちろん、壁の中からも出ていけ。二度と顔を見せなくていい」
「…………わかった」
家族だと思ってた人に、捨てられたことはありますか?
あなたにはありますか?
「他人になったシオンさん。はやくここから出ていって。大嫌い、だったよ。お姉ちゃん」
「…………さよなら、エリ。私は大好きだったよ」
最も大切だと思ってた人に、嫌いだと言われたことはありますか?
あなたにはありますか?
「せっかく魔法も使えて、剣の腕もすごいのに、あんな使えない恩恵じゃね〜」
「…………」
命をかけて護ってきたはずの人達に、嘲笑されたことはありますか?
あなたにはありますか?
「「「お前は選ばれた人間なんかじゃなかった」」」
どうしても忘れたい、辛くて耐え難い記憶はありますか?
人生という、長い長い道のまだまだ途中。
あなたは何かを失ったことを知っていますか?
「みんな、さようなら!」
私にはありません。
私は知りません。
それは何故かわかりますか?
簡単な話です。
あそこで立っている私には、欠片しかないから。
そして、ただ明るいことだけが取り柄だから。
今日、本当にそうなってしまいました。
「――はすごいな。私なんてすぐに超えられる」
「はい!」
そんな思い出はありません。
「――、私とずっと一緒にいてくれる?」
「――、大丈夫ですよ。ずっと一緒にいます」
そんな約束はありません。
「――、――。はやく行きなさい。私達の宝物。本当に愛しているわ」
「――――」
そんな記憶はありません。
今日も、明日も、これからも、そんなものはありません。
これまでずっと、なかったんです。
だから私は、失ったことはありません。
そして、これからも失いません。
それだけの話です。
閉じられた、大きな門を見上げる。
つい昨日までの居場所。
こんな私についてきてくれた、優しい猫を抱き上げる。
「…………クロ、行こう!」
「にゃあ!」
危険しかない壁の外で、1人と1匹。
そこらを彷徨いている、魔物の群れ。
あのゴミは掃除しないと、無限に湧いてきます。
でも、大丈夫です。
今日までの私は、それが仕事でした。
殺しも、血塗れも慣れています。
それに私が知ってる、偽物は必要ありません。
私だけは、本物を貰っていることを知っていますから。
そんな世界で、私達は旅をします。
新しい居場所を探すため。
私が私であるために。
これはそんな物語。
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