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二幕

0:ローダンセに告ぐ二幕





西条:「――本日は、劇団「二等星」の公演にお集まり頂きありがとうございます。



西条:本日お送りする舞台は激動の時代、中世ヨーロッパ。皇族と革命軍の元親友達が織り成す悲劇でございます。」



国城:緞帳が上がる、その数分前



相馬:舞台袖はステージを照らす照明で熱気を帯びている



国城:そこから吹き通る風までほんの少し熱くて、楽屋の古びた中継ビデオから観客が見える。待ってる。俺達の演目を、待っている。



相馬:横には背中を預けられる共演者が居る。共に練習した時間、何度も練った演出。動き、声の張り方。表情、目線、癖、全て知ってる



国城:これまで重ねた何日、何ヶ月って時間が、この一時間半に収束する。努力も苦労も血も涙も、この90分に詰め込むしかない。



相馬:緊張とプレッシャーで吐きそうだ。ヘマは出来ない。何百人という人が関わってくれている。失敗出来ない。一回きり。



国城:それでもやっぱり



相馬:この緊張感が、たまらない



西条:「それでは、間も無く開演致します。劇団「二等星」より。



西条:「ローダンセに告ぐ」。」



相馬:「楽しんで行くぞ、界人」



国城:「ああ。当然だ、秋吉」



0:舞台袖



西条:「…。ふぅ。ただいま。」



音瀬:「おかえりなさい!凄い演説でしたっ」



国城:「おかえり、慣れたもんだな。」



相馬:「昔は緊張で顔面すごいことになってたのに」



音瀬:「そうなんですか?」



西条:「うっさい、今でも緊張はするっつーの。緊張の殺し方をちょっと学んだだけ、裏方歴六年舐めんな」



相馬:「次は、役者として、な」



西条:「期待せず待ってて」



相馬:「…おう。」



音瀬:「…」



相馬:「それじゃあ日向。頼んだよ」



音瀬:「はい。」



国城:「ああ、あれやってくれよ社。」



相馬:「お。あれか。懐かしい」



音瀬:「?」



国城:「やっぱこれねぇとな」



西条:「…はいよっ。」



0:西条は二人の背中を軽く叩く



西条:「行ってらっしゃい、二人とも」



音瀬:「…!」



国城:「――おう。行ってきます」



相馬:「いってきます」



西条:「楽しんでおいで。」



0:回想



国城:「――よし。こんなもんだろ。」



相馬:「おーっ、部室っぽい!部室っぽいじゃん!」



西条:「アガるもんだねぇ。殆ど私がやったけど」



国城:「このグラビア写真とか、まじでイカしてる」



相馬:「だろうが、親父の押し入れから拝借した」



国城:「とんでもねぇ事するなお前…」



西条:「女子がいるんですけど!女子が!ここに!」



相馬:「写真撮ろうぜ!」



西条:「話聞け!」



国城:「演劇部、始動ってやつな!撮ろう撮ろう」



相馬:「ほら集まれ集まれぇ」



西条:「ちょ、くっつくな!女子がいるっつってんの!」



国城:「ほれ笑え社〜」



西条:「はおあわんあ!(顔さわんな!)」



相馬:「はい、チーズっ」



国城:「ぱしゃ」



0:回想終了



相馬:「――…。」



国城:「懐かしい写真持ってんな、秋吉」



相馬:「随分ボロくなったなぁ。」



国城:「俺のも」



相馬:「はっ。」



0:



音瀬:「…西条さん?それなんの写真ですか?」



西条:「うーん、若気の至りと言うか」



音瀬:「演劇部…始動?ああ、三人とも、楽しそうな顔ですね。」



西条:「若いよねぇ、高校の時の写真だから。もうだいぶボロくなっちゃった」



音瀬:「でも、大切にしてたんだなって分かります。」



西条:「…さ、私達は私たちの仕事をするよ、音瀬くん。」



音瀬:「―――はい。」



相馬:――緞帳が



国城:上がる。



0:



音瀬:始まりは、何となくだった。高校の夏休み。友達に誘われて特に興味もない舞台を見に来た。有名な劇団らしくて、観客席はどこを見ても人で溢れ返ってる。そこで俺は、あの二人にであった。



音瀬:あの二人に憧れて、俺は今。ここに居る



0:舞台上



オリバー:「今日は月が綺麗だな。ルーファス。」



ルーファス:「やはり来ると思っていた。最後は私だと思った。最後は、お前だとも思った。なんだか少し、嬉しく思うよ。オリバー」



オリバー:「酒を持ってきたんだ。少し、話でもしないか」



ルーファス:「この戦火の中、酒を飲んで語らい合おうと」



オリバー:「ああ。父上に怒られてしまいそうだが、構わないだろう。俺達は昔から問題児だった」



ルーファス:「…お前の言う通り。今日は月が綺麗に出ている。きっとゆっくりと眺められるのは、今日が最後だろう。盃を交わすなら、今が良い」



オリバー:「…ボルドーから取り寄せたワインだ。月であろうが、煙であろうが、何が摘みでも不味くはないだろう。」



ルーファス:「どうだろうな。私達は昔から舌と着るものだけは安い」



オリバー:「ああ、まったくだ。」



ルーファス:「昔、この国をよくしようと誓い合ったのを、覚えているか」



オリバー:「勿論だ。誰も貧困に喘ぐ事のない国を作る。俺と、お前なら出来ると。そう言って夜を明かした」



ルーファス:「…あれから十年だ。信じられるか?あの私達が今、酒を飲める歳になった」



オリバー:「ああ。本当に、長い十年だった。さあ、飲んでくれ。俺とお前の、最後の杯だ。」



ルーファス:「…乾杯」



オリバー:「乾杯」



0:舞台裏



西条:相馬監督。見ていますか。秋吉も、界人も、相変わらず上手い。きっとあいつらよりも凄い演者は山ほどいる。それでも、あいつら以上に楽しそうに芝居をする二人を、私は知りません。



音瀬:「…。」



西条:「集中して見てるね、音瀬くん」



音瀬:「はい。俺、今。ちょっと泣きそうです」



西条:「…うん。」



音瀬:「悔しい。悔し過ぎます。俺だってあそこに立ちたかった。相馬さんと一緒に、芝居をしてみたかった。それでも今は、こんなに見ててワクワクする。そういう所が、ずるいです」



西条:「…私もそう思う。」



音瀬:「くそ、くそぉ、いいなぁ」



西条:いつの間にか、舞台袖から見る、あの二人の横顔を見慣れた。舞台袖の薄暗さに、安心感すら抱くようになった。雑然と舞台道具が置かれたこの景色も、何もかも。



西条:それなのに、どうしてこんなにも今。居心地が悪いんだろう



0:舞台上



ルーファス:「はははっ。そうか、ミリアが」



オリバー:「ああ、信じられるか?あの堅物だぞ、俺じゃなくライナーとくっつきやがった」



ルーファス:「お前は昔からこう、なんというか」



オリバー:「なんだ」



ルーファス:「鈍いというか無神経というか、なぁ」



オリバー:「おいおい、お前だって人の事は言えないだろう。聞いたぞ、リース様に逃げられたらしいじゃないか」



ルーファス:「耳が早いし、耳が痛い。参ったな」



オリバー:「はっ、変わらんなぁ。お前は」



ルーファス:「お前も、私も。変わらんよ。だからこうして今。戦の火種はヨーロッパを包んでいる。だろう」



オリバー:「…ああ」



ルーファス:「ご馳走さま、良い酒だった。」



オリバー:「最後の晩餐には、ちょうど良かったか」



ルーファス:「十分過ぎるな、私には」



0:舞台裏



西条:ああ。良いなぁ



音瀬:体をめいいっぱい使って、表情なんてこんな遠くから見えない筈なのに、伝わってくる。



音瀬:声が、熱が、俺の体を刺激して、時間を忘れてのめり込んでいた。



西条:かっこいいよ、秋吉、界人。最高に、かっこいい



0:舞台上



オリバー:「俺達は国を良くしようと思った。」



ルーファス:「そして十年。私は皇族として。第十三代目皇帝として。」



オリバー:「俺は革命軍として。皇族の血が流れる身でありながら、冠に牙を向く矛として」



ルーファス:「あれから十年。袂は分かった。」



オリバー:「真剣を握って戦うのは、初めてだな」



ルーファス:「二度もあってたまるか。」



オリバー:「…まったくだな。」



0:二人は構える



ルーファス:「第十三代目皇帝、ルーファス・フルブルーノ。」



オリバー:「革命軍総長。オリバー・カーネンハーツ。」



ルーファス:「国の為に」



オリバー:「民の為に」



ルーファス:「うぉおおおおおおっ!」



オリバー:「うぉおおおおおっ!」



ルーファス:「っ…!やはり、強いな、お前は、剣の腕だって、何だって、私は何一つお前に敵わなかった!」



オリバー:「思い上がりも甚だしい!俺とお前は、同じだっ!国があっての民、民があっての国っ。この衝突に不利有利もない!」



ルーファス:「ああ、まったくもって、同意する!!」



オリバー:「ごほっ…。まっこと、醜い…!」



0:舞台裏



西条:「…!?」



音瀬:「相馬さん…!」



西条:「やっぱりまだ完治してないな…あのバカ…!」



音瀬:「…」



0:舞台上



オリバー:「まだ、まだぁあああっ!」



ルーファス:「ぉおおおおっ!」



オリバー:「ルーファスぅうっ!」



0:舞台上で斬りあう二人



ルーファス:「オリバーっ!お前は、私の、友だっ!」



オリバー:「俺にとってもそうだ!お前は俺の、たった一人の友人だ、ルーファス!!だが、この国を思えばこそ、反乱は必然だった!例え俺がここで斬られようが!俺には俺の、意地がある!」



ルーファス:「ならば私を斬り伏せて、前に進んでみろ!!革命軍として、私の友として、私を斬ってみろ、オリバー!!」



オリバー:「っ…!ルーファスぅうっ!

オリバー:―――ごほっ…」



0:相馬はその場で膝を付く



0:舞台裏



西条:「秋吉…?」



音瀬:「…っ。」



0:舞台上



オリバー:「はぁ。はぁ、ごほっ、げほっ」



0:自分の手に血が付いていることを確認する相馬



国城:「…っ!」



オリバー:「――…。」



国城:「おい、お前…」



オリバー:「…は、はは。なんだよ。もう、駄目なのかよ」



国城:見たら分かる。あれは血糊じゃない。本物だ。秋吉の顔がみるみる白くなっていくのも分かる。これは、演技じゃない



0:舞台袖



音瀬:覚悟はしていた。でも、でもよりよって公演中に…っ



西条:秋吉が立たない。意識的なアドリブじゃない。あれは、間違いなくイレギュラーだ



音瀬:「社さんっ!舞台照明落としましょうっ、暗転して一旦時間を――」



0:舞台上



オリバー:「ルーファスっっ!!」



国城:「…っ?」



オリバー:「俺には分かる。お前は、本気じゃあない。本気で、俺を殺すつもりで矛先を向けていないっ。それの分からないっ、俺じゃない。馬鹿にするのも大概にしろっ!

オリバー:皇族としての責に疲れたか、国民の不平不満の声に潰されたかっ。

オリバー:ふざけるな!お前にはお前の罪がある、業がある、償うべき罰があるっ!

オリバー:それから逃れて死んでしまおうなどと、ごほっ。甘ったれてるんじゃないっ!」



0:舞台袖



音瀬:即興…っ!?続けるつもりなんですか、相馬さんっ!その状態で!無茶だ、このままじゃあ相馬さん、本当に――



西条:「スモーク焚いてっ!めいいっぱい。秋吉の不調が観客にバレないように。急いで!」



音瀬:「な、まだやらせるつもりなんですかっ!西条さんっ!」



西条:「秋吉はまだ、諦めていない。この公演を終わらせるつもりが無い。舞台に立っている演者がそう言っているんだ。

西条:私達は舞台には立てない。観客の前には姿を見せられないっ!だからっ

西条:表に居るあいつらに、精一杯の演出を託すことが、私たちの仕事なんだ。」



音瀬:「〜〜っ。だって、このままじゃあ相馬さんがっ」



西条:「音瀬くん。黙って見てるんだ。秋吉を、界人を。あの馬鹿共を」



0:西条は固く拳を握りしめる



音瀬:「……震えてますよ、西条さん」



西条:「…知ってる。情けないね。本当に情けない。だから、私はこの光景を目に焼きつける。この悔しさを、無力感を、忘れないように…っ。」



音瀬:「…国城さん。お願いします…っ」



西条:「何言ってるんだ。あの馬鹿についていけるのは、あの馬鹿だけだよ。頼まなくたって、最高の舞台にしてくれる」



0:舞台上



オリバー:「ごほっ。俺を、斬り伏してみせろ」



国城:「……っ。」



西条:界人、私達は優等生じゃない。優等生ひとりじゃ舞台は作れない。最上じゃなくたっていい、完璧でなくたっていい、ひとりじゃない、だって私は、二等星だから…っ。



オリバー:「俺を、殺して見せろ!お前の手でっ」



西条:もうお前は、逃げない。



オリバー:「さあ、来い。――ルーファスぅっ!」



西条:逃げないだろ、界人…!



0:国城は深く息を吸う



ルーファス:「……。私達は、いつだって意見が食い違う。こういう時はいつも、剣に己の主張を込めて立ち合ったものだ。覚えているだろ、オリバー」



0:舞台裏



音瀬:「…!国城さん…っ!」



西条:「…っ。遅いんだよ、ぼけ」



0:舞台上



オリバー:「…ああ。そうだ、そうだとも。意見が割れた時、俺達はいつもそうして来た。今も、同じだ」



ルーファス:「…立て。構えろ。お前の意地を、見せてみろ、私にっ。」



オリバー:「……。勿論、そのつもりだ。」



0:一瞬の静寂



ルーファス:「…うぉぉおおおおおっ!」



オリバー:「ぉおおああああああっ!」



西条:振り絞るような秋吉の声。



国城:最後なんだなと実感させられる。そんな声



西条:こんな時。ふと思い返すのは。あのたった二年半



国城:その記憶に。思わず目頭が熱くなる



西条:帰り道、人気のないバス停も



国城:服屋の隣にあるコンビニも



西条:品の欠片もない部室も



国城:校舎裏の自販機も



西条:五円のないお参りも



国城:どれもこれも、どこにでも有り触れた思い出だけど、お前らがくれたものなんだよ、お前が連れてってくれたんだよ、秋吉



西条:大袈裟だと笑われるかな。誇張だって言われるかもしれない。好きにしたらいい



西条:私は、今



国城:ここで逃げ出すくらいなら



西条:死んだ方がマシだ…っ!



オリバー:「うおおぉおおおおおおおおあっ!」



国城:ありがとう、秋吉。社。本当に、ありがとう



ルーファス:「…っ!おぁああっ!」



オリバー:「――ごほっ。」



音瀬:息を、呑んだ。本当に斬られたかと思った。本当に、死ぬんだと思った



オリバー:「…(激しい吐血)。ああ、本当に、凄いなぁ、お前は」



ルーファス:「……お前は私に、本気ではないと言った。」



オリバー:「…ああ。言ったな」



ルーファス:「…っ、私を侮るなよ、オリバー!何年の付き合いだと思っているんだ。

ルーファス:お前が病を患っている事など、とうの昔に聞き及んでいる。死ぬつもりでここに立っているのは、私だけでは無かった…!」



オリバー:「……俺は、死なないさ。生きて、生きて生きて、もがいて。お前に繋ぐんだ」



ルーファス:「またそうやって、私に背負わせるんだな。お前達は」



オリバー:「…は、は。悪い、なぁ。どうにも、こういう生き方しか、できないらしい。俺だって、本当はお前と共に、生きていたかった。」



ルーファス:「…」



オリバー:「あの頃のように、皆一緒に」



ルーファス:「…何故それを、今になって言う…っ。遅い、もう、遅すぎるんだ。オリバー」



オリバー:「……。あぁ。時が経って、俺達は、俺達が掲げた意地と共に、隔てられた。

オリバー:でも、不思議な気持ちだ。」



ルーファス:「…」



オリバー:「意志を繋げる相手が、お前でよかった。」



ルーファス:「……オリバー。」



オリバー:「……」



ルーファス:「……っ。ふざけるな!!!いつも、いつもいつも、私に全て押し付ける!

ルーファス:誰が…。誰がお前の言う通りになんてなってやるものか、こんな沢山の業も、罪も、責も、全て、私一人では背負いきれないじゃないか。

ルーファス:なあ。返事を、しろ。私に、激を飛ばせ。頑張れと、だけでいい。言ってくれ…っ。

ルーファス:――オリバぁああああっ。」



0:舞台袖



音瀬:「……」



西条:「……」



音瀬:俺も、西条さんも、最後の瞬間まで、舞台から目を離さなかった。その一挙手一投足を、目に焼き付けるように。



西条:「……っ。」



音瀬:「西条さん、ハンカチ。つかいますか」



西条:「いらない。泣いてない。」



音瀬:「…はい」



西条:「……っ、嬉しい、もんだなぁ。」



音瀬:「……はい。」



0:



音瀬:――緞帳が、降りた。



0:緞帳の降りた舞台上



国城:「――…はぁ。」



相馬:「……ごほっ。…ふぅ。」



国城:「…体調、どうだ。」



相馬:「しんどい。」



国城:「……そうか。」



相馬:「…ありがとな。やっぱりお前は、凄い」



国城:「たまたまだ、上手くいってよかった。」



相馬:「まーた、ませたこと言っちゃって。」



国城:「…は。」



相馬:「…楽しかったか、界人」



国城:「…ああ。最高だった」



相馬:「…それが聞けたら、満足だ」



音瀬:「はぁ、はぁっ、相馬さんっ!」



相馬:「おお日向、お疲れ様」



音瀬:「大丈夫なんですかっ!」



国城:「お疲れ、裏方ありがとな。スモーク助かった、あれ社の指示か。って、社は?」



音瀬:「今、救急車を呼んでます」



国城:「そうか。」



相馬:「…日向、どうだった」



音瀬:「…凄かったですっ。やっぱり俺、二人に憧れて、良かった…っ。」



国城:「…」



相馬:「……お前はいつかきっと、俺よりも凄い役者になる。トラブルだとか、楽しくない事も沢山あると思う。実際、俺もそうだった。でも、結局俺、芝居が好きだ。この結果に、不満は無い。」



音瀬:「はい。」



相馬:「…ごほっ。…ああ、くそ。なんだよ。不満なんて、何もないのに。全然、嫌だなぁ。日向とも、舞台立ちたかった。界人とも、もっとやりたい事があった。社とだって、また三人で舞台立ちたかったんだぁ」



国城:「なに遺言みたいにしてんだ。病院行って、体治して。で、また帰ってこい。また俺たちと、舞台に立て。お前みたいな暴れ馬の横に立てるのは、俺だけだろうが」



音瀬:「…っ」



相馬:「……。ああ、やっぱり俺、芝居が好きだ。みんなが、好きだ…ごほっ」



音瀬:「相馬さんっ。」



国城:「おい秋吉、もう喋んな」



相馬:「……ありがとなぁ、お前ら」



音瀬:「……っ」



国城:「……」



相馬:ああ。意識が遠のいていく。視界がぼやける。体の感覚も、叫びたくなるほどの痛みも、徐々に無くなっていく



西条:「秋吉ーっ!今、救急車呼んだ、ちょっと道混んでて、二十分くらいかかるって」



国城:「はぁ!?おせぇよ!もっと急がせろよ!」



西条:「しょうがないだろ!」



相馬:何かの本で読んだことがあった。人間が最後まで残る感覚は、聴覚らしい。



相馬:まじなんだなぁ。こいつら、いつだって喧嘩してる。いいなぁ、俺も混ざりたい



西条:「って、ねぇ秋吉?聞いてる?」



相馬:聞いてる。お前にだって言いたいことがあるのに



音瀬:「西条さん。」



西条:「ん。なに?」



音瀬:「…相馬さんに。何か言ってあげてください」



西条:「え。なにかって、なにを」



音瀬:「なんでもいいんです。今思った事を、なんでもいいので、相馬さんに」



国城:「…」



西条:「…わかった。

西条:秋吉。界人。…アドリブすんな!ヒヤヒヤすんだよ!でも、最高の舞台だった!」



国城:「…へ。」



相馬:―――…。



音瀬:「……。」



西条:「秋吉は、気でも失ってるのかな」



国城:「ああ。多分な、そうとうしんどそうだったし、顔色も真っ青だ」



音瀬:「…。」



西条:「救急車来るまで、とりあえず楽屋に運ぼう」



国城:「わかった、音瀬、手伝え」



音瀬:「…はい。」



0:相馬を運ぶ三人



0:楽屋



西条:「…重いな、こいつ」



国城:「よっと、ふぅ。ひとまずお疲れ様だ。」



音瀬:「はい」



西条:「元気ないね?珍しい」



国城:「感動し過ぎて声も出ないってやつじゃねぇのか。」



西条:「調子乗んな。こっちはヒヤヒヤしっぱなしだったっつーの」



国城:「わりぃ」



音瀬:「…」



西条:「…私さ。また、舞台に立ちたい。」



国城:「…!」



西条:「久しぶりに、二人の演技見て。やっぱり、楽しそうだなぁって思った。私も、昔みたいに。一緒に舞台に立ちたい。」



国城:「…秋吉が聞いたら、跳ねて喜ぶだろうな」



西条:「…だと、いいね」



音瀬:「なんでそれを。もっと早くに言わなかったんですか。」



西条:「え…?そりゃだから、さっきの舞台見たから…」



音瀬:「じゃあ救急車呼ぶくらい、他の誰かに任せて、さっさと相馬さんに伝えればよかったっ!」



国城:「おい、音瀬…?」



西条:なんだか、そう。嫌な予感がしていた。相馬監督が亡くなる前も、同じような気持ちだった。



音瀬:「西条さんが黙って見てろって言ったんです。黙って見て、目に焼き付けて、待って待って待って、相馬さんはこうなったんですよ!!遅いんですってば、国城さんも、西条さんもっ!遅すぎるっ!」



西条:ちょうどあの日も、蝉の声がうるさかったなぁ。



国城:「なにをそんな怒ってるんだ、どうした音瀬」



音瀬:「…オーデションのあと、俺にだけ、相馬さんは、零すように言ってくれました。肺癌を患ってること、二年の余命宣告をされてること、これが最後の舞台になるってこと…っ。

音瀬:だから、相馬さんはっっ。もう、助からない!!もう、西条さんの覚悟も、国城さんと舞台に立つことも、無いんですよ!!」



西条:あれ。



国城:「―――は?」



西条:……何かが、折れた音がした。



0:場面転換



0:葬儀場の外



音瀬:「…。」



音瀬:あれから2週間。相馬さんの葬儀には沢山の人がいた。二等星の人、相馬さんの友人、同級生、幼馴染。西条さんも、当然居た。



音瀬:皆、放心状態という様子だった。その中に、国城さんの姿は見当たらなかった。



音瀬:そして――



音瀬:「……あの、相馬さんのお母さん、ですよね。

音瀬:…すみません。俺、相馬さんが今回の舞台で、亡くなられるかもしれないって、聞いてました。相馬さん本人から

音瀬:…なのに、俺。……俺、止めませんでしたっ。相馬さんが舞台に立つことを、望んでしまいました。

音瀬:だから、すみませんっ!!」



音瀬:頭を下げて、地面を見つめる俺に、相馬さんのお母さんは、優しく、俺の頭を撫でてくれた



音瀬:夫に似て、根っからの舞台人だから、と。あなたが気に病むことじゃない、と。



音瀬:そう言ってくれるその声は、震えていた。



音瀬:相馬さんのお父さんを失って、相馬さんも失った。誰よりも、俺なんかよりも、ずっとずっと、しんどいに決まってるのに。



音瀬:強いひとだ。ああ、親子なんだなぁ



0:場面転換



0:とある墓前



国城:「……。秋吉」



相馬:(回想)「俺、相馬秋吉っ。お前かっけぇな!背も高いし声も通るっ。なんかやってた?

相馬:へー。じゃあさじゃあさ、演劇、興味無いか―――」



国城:「……っ。」



西条:「やっぱり居た。」



国城:「社…。」



西条:「……出てなかったね、秋吉の葬儀」



国城:「…あんな薄情なやつ、知るか」



西条:「…うん。薄情だ。本当に、薄情なやつ」



国城:「…」



西条:「…私、趣味とか昔から無くてさ。たまたま秋吉に誘われて演劇始めたんだ。それで、そこに界人も居た。覚えてる?」



国城:「覚えてる。」



西条:「初めて二人を見た時、ああ。これが天才ってやつなんだなぁ。って思った。なんていうか、身勝手で、我儘で、自由で。唯一無二って感じ」



国城:「…ああ。」



西条:「そんな二人に、憧れた。ズブの素人だった頃から、二人を見てた。ちゃんとやってみればまた二人が遠い存在なんだなぁって思い知らされてさ。心折れそうになった時もあった」



国城:「……ああ」



西条:「……でも、今の方が。よっぽど折れちゃった」



国城:「………」



西条:「なんでだろうね。なんで言わないんだろ。相馬監督も、秋吉も。なんで言わずにいなくなっちゃうんだろう」



国城:「…薄情な親子だから、なぁ。」



西条:「音瀬くんが私に言った言葉が、ずっと。ずっと残ってる。遅すぎるって。

西条:……ほんとうに、遅すぎじゃん」



国城:「……俺、多分今。怒ってるし、なんか虚しい」



西条:「…うん。」



国城:「最後に残った糸が、切れちまった気分だ。」



西条:「……うん。」



国城:「……秋吉。お前、本当に最低だっ。最低のクズ野郎だっ。お前らやっぱ親子だよ、まじで、さぁ」



西条:「……ばか。」



国城:「勝手なんだよお前はいっつも、はしゃいで連れ回して、真っ先に自分が疲れたっつって帰りやがるっ」



西条:「ほんとだよっ。高校の修学旅行なんてまさにそれだったっ。結局秋吉探して私も界人も全員迷子になったんだぞっ」



国城:「あぁそうだったわ!思い出したら俄然腹たって来た!秋吉、俺が貸したゲームまだ返してねぇだろっ。ニフラムで消えるやつ!」



西条:「何回お前に台本貸して鍋敷きにされたと思ってんだっ。ぼけっ」



国城:「あといつか貸した三千円もだ、返してもらってないっ。俺とお前が、初めて買った、練習用のジャージ代っ。返してねぇもんが多すぎんだよっ、かす!」



西条:「ばかっ!」



国城:「あほ!……っ、なぁ。なんか言い返せよ、秋吉。」



西条:「……」



国城:「……」



0:徐々に涙があふれる



西条:「…私。私、だって、さぁ。秋吉と、界人と、また、舞台立ちたかった。私には無理だって、思ったんだよ、しょうがないじゃん、お前ら、いっつも私を置いてって、突っ走って行って、もう追い付けないんだもん、いつも、いっつも、いつもっ……!そんな難しいこと、言ってるかなぁっ…。私、ただ、三人一緒にいたいだけなのに、なぁ…」



国城:「……。」



西条:「〜〜っ…。」



国城:「…じゃあもう、突っ走らねぇ。動かない」



西条:「……」



国城:「…なんか。疲れた」



西条:「違…わ、たし、は…」



0:一人墓前に近付く音瀬



音瀬:「あの。」



西条:「え…」



国城:「…音瀬」



音瀬:「…空けてもらっていいですか。俺も、相馬さんに言いたいことがあります。葬儀場では、きっと言っちゃいけない事だと思ったので」



西条:「…。」



0:墓の前で膝を着く



音瀬:「…。相馬さん、俺。見てました。最後の、最後まで。目に焼き付けました。やっぱり、相馬さんは凄い。

音瀬:ずるいですよ、勝ち逃げなんて。これじゃあ、ずっと相馬さんの方が凄いままじゃないですか。

音瀬:……相馬さんは俺に、酷い呪いのような物を置いていきましたね。きっと投げ出した方が気持ちは楽です。重荷を背負わなくて済むから。

音瀬:――でも、俺。演劇辞めません。逃げません。芝居が、好きだから。俺も、ああやって、やる事やって、死にたい。人生なんてたった一回キリなんです。絵を描くことだっていい。歌を歌う事でもいい。幸せに家庭を築くことでも、お金を稼ぐ事でも、なんでもいい。

音瀬:ただ俺たちは、それが芝居だったってだけなんですよね。だから俺は、もう謝らない。

音瀬:いつかきっと…っ。相馬さんが悔しくなるようなっ、一緒にっ、舞台に立ちたいって思うような、立派な役者になってみせますっ…!だから、見てて下さい…っ。相馬さんの分も、俺達が楽しみます。ざまぁみろっ!!くそ、くそ、くそっ…。」



国城:「…」



音瀬:「――お疲れ様でした、相馬さん。」



西条:「…」



音瀬:「長々とごめんなさい。今相馬さんに言った通りです。俺は芝居を続ける。辞めるなら、逃げるなら。好きにして下さい。そんで、相馬さんにまた悲しい顔させて下さい。それはそれで、スッキリしたりもしますので」



西条:「…君に、何がわかるのさ。私は、私達はっ。秋吉に誘われて演劇始めたんだ。もう、嫌だ、相馬監督も、秋吉も、顔を思い出すだけで、舞台に立ってる姿を思い出すだけで、しんどいんだよっ、劇団の練習場も、休憩室もっ、楽屋だって、あいつの顔がチラついてさぁ、しんどいんだよ」



音瀬:「…」



西条:「…分かってる、八つ当たりだよ。かっこ悪い先輩だね。ごめん」



音瀬:「いえ。西条さんをかっこ悪いと思ったこと、ないです。」



西条:「…うん」



国城:「お前は俺と秋吉に憧れてここに来たんだ。その片方が死んじまった。虚しくないのか、追いかける目標が居なくなって、やる気が無くならないのか」



音瀬:「悲しい気持ちは当然あります。でも俺は…。はい、さっき言った通りです

音瀬:芝居が、好きなんです。一回きりの人生、どうせ棒に振るなら、俺は舞台の上がいい。」



西条:「……」



国城:「…これからも、お前はここで。芝居をするんだな。ここでやって行くんだな。

国城:どうする。俺から言わせりゃお前なんてまだまだド下手で、ズブの素人と大差ねぇ。この前のオーデションだって秋吉に負けてるっ。そんなてめぇが、あの馬鹿がお前に吹っ掛けた呪いから、どうやって逃げずに立ち続ける。」



音瀬:「相馬さんが亡くなったからって、二等星が潰れるわけじゃない。次の舞台の予定だってある。オーデションが控えてます。

音瀬:だから…っ。明日からまたちゃんと立てるようにっ、今は。

音瀬:飯食って寝ます」



国城:「…」



音瀬:「生意気なこと言いました。ごめんなさい。

音瀬:でも、本心です。失礼します。」



0:音瀬 立ち去る



0:少しの沈黙



西条:「…はぁ。」



国城:「本当に。生意気だなぁ、あいつは」



西条:「生意気どころの騒ぎじゃない」



国城:「……っ。秋吉。お前、とんでもない遺し物してくれたな。本当に、嫌な奴だ」



西条:「…」



国城:「…前言撤回だ。俺は、演劇を続ける。音瀬はきっといい演者になる。あいつだけじゃない、世界は広いんだ。

国城:お前より凄い演者なんてっ、何万と出てくるっ…。だから、さぁ。精々、そこで爪噛んで見てろ。泣いて謝っても、お前はもう舞台に立てないんだって、言ってやるからな。馬鹿野郎」



西条:「……本当に、強いなぁ。君達は」



国城:「…どうする。乗るなら今だぞ、社」



西条:「…」



国城:「お前は、どうしたい」



西条:「…私、才能ない」



国城:「ああ。無いな」



西条:「根性もない」



国城:「無いな」



西条:「すぐ逃げるし、言い訳する、意気地無し」



国城:「そうだな。全部、知ってる」



西条:「…でも、さ。才能が無かったり、根性が無かったり、逃げたりしたって、それは。好きな事しちゃいけないって理由には、ならない。…なんてのは分かってる。だから。今の私は、秋吉にざまぁみろって、言いたい。悔しがらせたい。界人と、音瀬くん達と一緒に」



国城:「…ああ。」



西条:「私も、立つ。舞台に、立ちたい。」



0:二人は立ち上がる



国城:「…立つってーと、舞台裏にか?」



西条:「…ばか、表だよ」



国城:「…は。」



西条:「…はは」



0:風が吹く



西条:「…。」



国城:「社?どうした。」



西条:「…ううん。風の音だと思うけど。一瞬、秋吉の声が聞こえた気がした」



国城:「そりゃどう考えても気の所為だし風の音だな。

国城:…因みに、さぁ。あいつ。なんて言ってた」



西条:「…さぁね」



国城:「飯食って寝るか」



西条:「うん。またね、秋吉」



国城:「行ってくる」



0:二人はその場を立ち去る



相馬:行ってらっしゃい。界人、社。



0:場面転換



0:時間経過



音瀬:――あれから、二年の月日が流れた。



音瀬:国城さんは二等星を代表する大俳優になった。やっぱり凄い人だ。あれから更に拍車がかかったように名前が知れていく。きっとこれからも、自由に、楽しく舞台を作る。



音瀬:西条さんは、ファーストクラスに昇格した。裏方と新人研修は別の人へ引き継いで、表で活躍している。国城さんと比べると、実績こそ無いものの、俺には西条さんのような演技は出来ない。やっぱり尊敬する先輩のひとりだ



音瀬:そして俺もつい先月、ファーストクラスに昇格した。異例の昇格とは言われてるけど、まだまだ満足するわけもない。



音瀬:そして、梅雨が明けて、蝉の声が遠くから聞こえて来る頃



0:とある墓前



音瀬:「…よいしょっ、と。お疲れ様です、相馬さん。煙草、買ってきましたよ。俺は吸わないので全部あげます

音瀬:…もしかしたら、もう二人から聞いてるかも知れませんが、来週。公演があるんですよ

音瀬:ローダンセに告ぐ。五回目の公演です。

音瀬:…あれから色々あったんですよ。凄い新人が入ってきたり、界人さんと社さんはよく喧嘩するし、俺は俺でまた大変で…。

音瀬:あぁでも。なんだかんだ言っても、上手くいってますよ、皆

音瀬:相馬さんの言う通り、しんどいこと、楽しくないことも増えてきました。それでも、やっぱり俺は。芝居が好きです。

音瀬:…はぁ〜。暑くなって来ましたね。

音瀬:今年も、夏が来ますよ、相馬さん。

音瀬:――ああ、そういえば。ローダンセに告ぐの配役、どうなったと思いますか。多分びっくりしますよ」



0:二人が高台を登ってくる



西条:「おーーい、日向!」



音瀬:「おっとと」



国城:「いつまで練習抜けてんだ、さっさと戻ってこい。演出組み直すっつってんだろっ。」



音瀬:「はーーい、今行きますっ。」



音瀬:「…それじゃあ、行ってきます。相馬さん」



0:高台 階段



国城:「日向おまえ、秋吉に何喋ってたんだ」



西条:「どーせ今日の昼飯のことだよ。言ってやれ、界人の炒飯死ぬほど不味いって」



国城:「美味いだろっ、いい加減にしろ!」



音瀬:「界人さんの炒飯はまずいです!」



国城:「素直かぼけ!」



西条:「はははっ、よし。ダッシュで帰るよ」



国城:「おい、よーいどんって言ってから走れよ!ぼけ!社ぼけ!」



音瀬:…6月下旬。ローダンセに告ぐ、全練習日程が終了。



音瀬:そして7月2日。ローダンセに告ぐ、第五回公演の日を迎えた



0:



音瀬:「――本日は、劇団「二等星」の公演にお集まり頂きありがとうございます。



音瀬:本日お送りする舞台は激動の時代、中世ヨーロッパ。皇族と革命軍の元親友達が織り成す、とある悲劇でございます。」



国城:緞帳が上がる、その数分前



西条:舞台袖はステージを照らす照明で熱気を帯びている



国城:そこから吹き通る風までほんの少し熱くて、楽屋の古びた中継ビデオから観客が見える。待ってる。俺達の演目を、待っている。



西条:横には背中を預けられる共演者が居る。共に練習した時間、何度も練った演出。動き、声の張り方。表情、目線、癖、全て知ってる



国城:これまで重ねた何日、何ヶ月って時間が、この一時間半に収束する。努力も苦労も血も涙も、この90分に詰め込むしかない。



西条:緊張とプレッシャーで吐きそうだ。ヘマは出来ない。何百人という人が関わってくれている。失敗出来ない。一回きり。



国城:それでもやっぱり



西条:この緊張感が、たまらない



音瀬:「それでは、間も無く開演致します。劇団「二等星」より。



音瀬:「ローダンセに告ぐ」。」



国城:「楽しんで行こう、社」



西条:「当然だ、界人」



0:舞台袖



音瀬:「…。ああっ!舞台に出る時間が終わってしまったっっ!」



西条:「お疲れ様、いい演説だったよ」



国城:「顔面凄いことになってたけどな」



音瀬:「界人さんっ、社さんも。再三言いますが、次は、次はぜーーったい俺が、オーデションもぎ取りますから。」



西条:「…いーーや。私も日向に負けるつもりは無いし、その他の後輩にだって追い越されるつもりもない」



国城:「お前自分が上に立ってると思ってたのか」



西条:「今から舞台立つんだからそういうこと言うなっ!お前がぁっ!」



国城:「怒んな怒んな」



音瀬:「…悔しいですけど、オーデション。勝ち取ったからには、最高の舞台にしてきて下さい」



国城:「当然だ。誰に物言ってやがる」



西条:「…任せときな。あ、そんじゃ激励にあれ。やってよ、日向」



音瀬:「はいっ。分かりました」



国城:「社がこれされる側になるとはなぁ」



西条:「うん。不思議な感じだ」



0:音瀬は二人の背中を強く叩く



音瀬:「行ってらっしゃい、社さん。界人さん。」



国城:「――おう。行ってくる」



西条:「行ってきます」



0:ほぼ同時に重ねて



音瀬:「めいいっぱい、楽しんで来て下さいっ!」



相馬:せいぜい、楽しんで来いよ!



0:



国城:「ぁ…」



西条:「…ほんと、どこまで似てるんだか」



国城:「は。だな」



西条:「…。よし。」



音瀬:「開演、五秒前ですっ。

音瀬:4、3、2、1――」



西条:――緞帳が



国城:上がる。




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