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幕間

0:ローダンセに告ぐ 幕間





西条:今でもたまに、ふと思い出しては憂鬱になる。梅雨が明けて、蝉が鳴き始めた頃



国城:あの日は、とても暑かった



0:二年前 夏



相馬:「俺。今回の舞台には出ない」



西条:「―――え?」



相馬:「昨日、練習中にぶっ倒れて、病院行った。今回の舞台は出るなって言われた」



国城:「熱中症だって言ってたろ、お前」



相馬:「ごめん」



国城:「いや、ごめんじゃなくて。今回の舞台が、相馬監督が見てくれる最後の舞台なんだぞ。」



相馬:「親父にはもう話したよ。」



国城:「そういう話じゃねぇだろうが。なんだ?なんかの病気か?だったらそう言え。俺らに納得できるように言えよ」



相馬:「ちょっとした体調不良だ。まだ快復してないし、今回俺が無理やり出たら、舞台を壊してしまうかもしれない。俺だって親父が見る最後の舞台に出たいけど、それ以上に。親父に情けないもん見せたくないんだよ」



西条:「…もう本番まで1ヶ月切ってる。今から秋吉抜きで練習し直す。この意味、分からないわけないよね」



相馬:「…ごめん」



西条:「謝らなくていいし、調子が悪いのもしょうがないと思う。でも、なんていうか、秋吉らしくないじゃん。今までの秋吉なら無理矢理にでも出ようとして私たちが止めてたのに」



相馬:「検査入院があるんだ。だから、本番まで一切練習に参加できない。俺の代わりは高岡に頼んでる。あいつセンスあるし、俺抜きでも充分こなせる。お前らならできる」



国城:「秋吉、てめぇいい加減にしろよ。」



0:胸ぐらを掴む



西条:「ちょっと、界人っ!」



国城:「俺たちは、三人でここに入った!!相馬監督の元で、相馬監督が作ったこの「二等星」で、今まで舞台に立ってきた!!



国城:で、その相馬監督が肺癌で死んじまう!!あの人が見てくれる、最後の舞台だっつってんだよ!!そこにお前が居ない!!その舞台に俺たち3人が揃ってない!



国城:俺たちなら最高の舞台を作れる!俺たち以外には無理なんだよ!!相馬監督に恩返しできる、最後のチャンスなんだ!」



西条:「界人!!やめて!」



国城:「じゃあ社はそれでいいのかよっ!こいつが、こんな顔して舞台降りるっつってんだぞ!!」



西条:「私だって悔しいし心細いけど、体調不良ならしょうがないだろ!」



国城:「そこにキレてんじゃねぇんだって、こいつが、自分から言ったんだぞ!!降りるって!俺ら秋吉となげぇ付き合いだろ、そんなの聞いた事あるか!?こいつはいつだって目立ちたがり屋だ!そんな秋吉が、俯いて、くそ辛気臭ぇ顔して舞台降りるって言いやがった、そのことにムカついてんだよ!!」



西条:「秋吉だって辛いに決まってるだろ!自分のお父さんが死ぬんだよ!?逆に今まで私たちを一番に引っ張ってくれてた、そんな秋吉が、一番辛いに決まってるのになんで分かって―――」



相馬:「社、ありがとう。でも、いい」



西条:「…」



国城:「あ?」



相馬:「界人。俺さぁ、今。舞台に立ちたくない。芝居してて楽しくない。こんな姿、親父に見せらんない」



国城:「だから、俺と社がついてるって言ってんだろうが!俺たちが一緒に舞台に立ってて、お前がつまんなそうにしてた事あったかよ!俺達は――」



相馬:「ごめん、界人。今は無理だ」



国城:「…っ。」



相馬:「本当にごめん。」



西条:「…謝んなってば」



相馬:「…うん」



国城:「もういい。お前抜きでも、絶対にいい舞台にする。」



西条:「界人、そういう言い方やめな」



国城:「だってそうだろ。こいつはいま、俺達と舞台に立ちたくないって言いやがったんだ」



西条:「秋吉はそんな事一言も言ってないだろ!」



国城:「言ったのと同じだろうが!!」



相馬:「…」



国城:「練習に戻ろう。俺達が、やらねぇと」



西条:「…。」



相馬:「行ってくれ、社。」



西条:「でも…」



相馬:「早く、行ってくれ。」



西条:「……。分かった」



0:



音瀬:(N)相馬 春彦。出演作品50を超える舞台俳優、相馬 秋吉の父であり、年商130億を超える劇団「二等星」の創設者、総監督である



音瀬:彼が58歳の時、肺癌を患っている事が発覚。と同時に、当時の報道やネットニュースで大きく取り上げられた彼が監督する最後の舞台。



音瀬:2008年 6月 15日。相馬 晴彦作、「エーデルワイスより」の公開が大々的に発表され、前売りチケットは即日完売



音瀬:歴代最高の売上を叩き出し、出演キャストも錚々たるメンバーが揃えられた、が



音瀬:公演の一か月前。相馬 秋吉の降板が世間を騒がせる。原因は体調不良とだけ説明され、その詳細は不明のままである



音瀬:そして迎えた6月15日。



0:



国城:緞帳が上がる、その数分前



西条:舞台袖はステージを照らす照明で熱気を帯びている



国城:そこから吹き通る風までほんの少し熱くて、楽屋の古びた中継ビデオから観客が見える。待ってる。俺達の演目を、待っている。



西条:横には背中を預けられる共演者が居る。共に練習した時間、何度も練った演出。動き、声の張り方。表情、目線、癖、全て知ってる



国城:これまで重ねた何日、何ヶ月って時間が、この一時間半に収束する。努力も苦労も血も涙も、この90分に詰め込むしかない。



西条:緊張とプレッシャーで吐きそうだ。ヘマは出来ない。何百人という人が関わってくれている。失敗出来ない。一回きり。



国城:この緊張感が、好きだった。



西条:それでもやっぱり――



0:



国城:「絶対に、良い舞台にする」



西条:「当然だ、界人」



0:



音瀬:(N)緞帳が、上がる。



音瀬:舞台関係者、数多くの観客が息を飲み、舞台の成功は約束されていたものだった。



音瀬:出演キャストを除いて



ドルフィン:「我が名はドルフィン、皇帝陛下直属、帝国騎士団団長である!」



西条:私は、秋吉とか界人みたいに身体で表現するのが得意じゃない。だから間の取り方だったり、演出通りにやることだったりが私の唯一できる事なんだ、分かってる。私に二人みたいな才能はない。正直、こいつについて行くので精一杯だ…!



西条:それでも、相馬監督の顔に泥は塗れないっ!



ドルフィン:「これがきっと、俺の最後の戦いになる、ここまで着いてきてくれたこと。感謝する、アルフィー」



アルフィー:「とんでもない。陛下の為ならこの命、惜しくはありません」



ドルフィン:「馬鹿め、生き残ってこそ、陛下の為だ」



0:アドリブに戸惑う



アルフィー:「…貴方は、本当に」



ドルフィン:「本当に?」



アルフィー:「いえ。行きましょう、団長」



ドルフィン:「ああ。行こう」



0:舞台裏



裏方:「はい、暗転します。一幕が終了したので十五分の休憩アナウンス入れます

裏方:お疲れ様です」



国城:「…」



西条:「ちょっと界人」



国城:「なんだ」



西条:「今日アドリブ酷くないか。さっきも、シーン5の時だって」



国城:「俺はいつも通りだ」



西条:「そんなわけないだろ。正直、みんなついて行くので精一杯だ。無理矢理即興する意味なんてない」



国城:「…っ。相馬監督が見てるんだ、今までで一番いいものにするんだ」



西条:「焦る気持ちも分かるけど、あのままじゃいつか誰か置き去りにする。」



国城:「別に、今までだってあっただろ。俺とお前がリカバリーすればいい。」



西条:「私だってアドリブは得意じゃないの知ってるだろ。楽しんでないならやめな」



国城:「うるせぇな。俺に合わせろ、俺が絶対にいい舞台にしてやるって言ってんだ」



西条:「誰もが誰も君みたいにできる訳じゃないんだって」



国城:「―――秋吉だったらできたろうが。」



西条:「……なにそれ」



国城:「……。」



裏方:「西条さん、次板付きです。水分補給とか、大丈夫ですか」



西条:「…うん」



裏方:「あと、あの新しい子。相馬さんの代わりに入った高岡くん。」



西条:「…?何かあった?」



裏方:「だいぶ思い詰めてますよ、あれは。顔色もよくない。」



西条:「……っ。」



0:西条は自分の頬を叩く



西条:「分かってる。私が、なんとかする」



裏方:「すみません、一旦メイク直し入ります!次のシーン板付きの方、楽屋までお願いします!」



西条:頑張れ、頑張れ、西条 社。秋吉が居ないし、界人も暴走気味だ。私が、なんとかしないと。



0:



相馬:「はぁ、はぁ。なんとか間に合った。もう二幕始まる頃か。

相馬:…うお、やっぱ凄い人だなぁ。立ち見でいいか」



裏方:「お待たせしました。只今より、「エーデルワイスより」第二幕を上演致します。」



相馬:「おお、ちょうどセーフって感じだな。冷や汗

相馬:…楽しんでるか、界人。社」



0:舞台上



ドルフィン:「・・・皆、今日まで沢山の戦いがあり、失ってきた日々があった。

ドルフィン:そして今日、陛下に仇なす賊軍。その総戦力が相手となる。彼らは我々に堂々たる宣戦布告をした。正真正銘自分達が正義であると言わんばかりにな。

ドルフィン:だが私たちは負ける訳にはいかない。私たちには私たちが掲げた正義がある。そしてそれは向こうも同じ。なればこれは互いの信念がぶつかりあった戦いとなる。恐らく今までの戦闘の中で最も熾烈なものになると私は思っている。」



アルフィー:「ここで去るというのならば止めません。私たちは友であり、家族だと思っています。陛下の為に命を捨てること。それが惜しい者はここで立ち去って欲しい。皆さんに無理強いしてまで命を投げ出して欲しくは決してありません。陛下も、それをご所望のはずです」



0:観客席



相馬:…本当なら、俺だってあそこに居たはずなのになぁ。あーあ。いいなぁ



0:舞台上



ドルフィン:「・・・ありがとう。そして歓迎する。ようこそ地獄へ

ドルフィン:綺麗事だけではまかり通らない世の中だ。昨日まで共に飯を食った友が血反吐を吐いて死に倒れ、捕虜になったものは無惨にも奴隷として様々な屈辱にあうことだろう。

ドルフィン:だからこそ、このような暴挙を俺は正義とは言わせない!

ドルフィン:この戦いに勝ってこそ正義、陛下に仇なす羽虫は全て蹴散らせ!」



0:舞台 平台上



アルフィー:「全部隊!突撃ーーー!!」



0:ステージ中央



ドルフィン:「全軍!突撃ーーっ!!」



0:観客席



相馬:観客席で見て、改めて思う。やっぱりあいつらは凄い。



相馬:本当に上手くなったなぁ。



相馬:つーか。界人、今日はやけにアドリブが多いな。でもちゃんと社が上手くカバーしてる。



相馬:うーん。見ていて不自然なところなんてこれっぽっちもないが



相馬:なんか嫌な予感がする。嫌な予感っていうか、不穏な感じだ。



相馬:いいや大丈夫、舞台上には高岡と、界人と、社。あいつらがついてりゃ問題ない



音瀬:(N)舞台は、クライマックスへと進む



音瀬:そして「エーデルワイスより」の公演は、舞台史に残る最低最悪のアクシデントを迎える事になる



音瀬:――2008年6月21日。週刊リオール。エンタメ特集より抜粋



0:舞台上



ドルフィン:「はぁ、はぁっ。」



アルフィー:「団長!!」



国城:秋吉なら、このタイミングで、斬りかかってくる。間違いなく、だから――



ドルフィン:「――うぉおおおおおおっ!」



西条:二人の殺陣たてのタイミングがズレてる…!



ドルフィン:「――っ」



アルフィー:「団長っ!うおおっ!」



0:相手を斬りつける二人



ドルフィン:「…!」



アルフィー:「…はあ、はぁ。やりましたね、団長…」



国城:また、社のリカバリーに助けられた。この公演で何回目だ?俺がミスったから?俺のせいなのか?



国城:いや、違うんだよ、ここはもっと、長い殺陣たてがあって、挟みたいアドリブも、ちょくちょくあったんだよ。



西条:こいつ、どこまで人を振り回すんだ…っ。でもよかった、なんとか丸く収まっ――



ドルフィン:「どうした賊軍。その程度か」



西条:「…!」



0:観客席



相馬:「…っ。アドリブ、だな。このクライマックスでの即興は…大丈夫か、界人」



0:舞台上



ドルフィン:「まだ立てるはずだ。私はまだ、本気でお前を殺していない。本気でお前を斬っていない。

ドルフィン:さあ、立て。お前の信念を、私に示して見せろ」



西条:この、バカ…!



国城:相馬監督の最後の舞台だ…!何がなんでも、今までのどの舞台よりも、いいものにっ。演出も、予定も、何もかも度外視した凄い舞台を作るんだっ!



音瀬:(N)当時、入団から一年も立たない新人に、国城 界人は台本上にない台詞、所謂アドリブを仕掛けたのだ



音瀬:が、しかし。



相馬:…そりゃあ、拾えねぇだろ。高岡のツラ見れば分かるだろうが、もうその舞台上の誰も、お前についていけてないぞ…!



0:舞台上



ドルフィン:「どうした。なぜ立たない。俺を殺してみろ。ゼファー。お前の国に対する想いはその程度か!なんとか言ってみろ!!」



アルフィー:「…。」



国城:なんで、答えないっ!相馬監督が見てる!最後の舞台を、見てるんだよっ!こんなもんチャチャッと返して終わりだろうがっ!



西条:頭が真っ白だ。界人がここまで暴走するとは思わないだろっ。この子がここまでアドリブに対応できないとは思わないだろっ。



国城:何秒静寂が続いた!?十秒、いや、何分経ってる…!?



相馬:焦ってんな界人、舞台におけるアクシデントは、倍以上の体感時間に感じるものだからな。きっと時間にしたら十数秒。それでも、気付くやつは気付く。けど



相馬:まだ、なんとかなる。今からでも――



国城:「おい、てめぇ。」



アルフィー:「…!」



音瀬:(N)国城 界人が放った言葉は、既に台詞では無かったという



国城:「――相馬監督が見てんだぞ!!最後の舞台なんだぞ!!ちゃんとしやがれっ!それでも役者かてめぇはあ!!」



相馬:―――…。



西条:「…は?」



国城:…俺は今、こいつになにを言った?なんで今言った?俺が悪いだろ、今のは。ていうか、あれ、次のセリフなんだ。次、演出はどうなってた、暗転はいつだ。やべぇ、頭、回んねぇ



西条:「今すぐ暗転に――」



相馬:「――なにやってんだぁ!!界人ぉおおっ!!」



国城:「―――っ。」



0:場面転換



0:第四練習所



音瀬:「――さん。西条さんっ!聞いてますか?」



西条:「――。あ、うん。なに?」



音瀬:「次の公演。ローダンセに告ぐ、ですよね」



西条:「…うん。音瀬くんは、オーディション受けるの?」



音瀬:「はいっ。今回のもセカンドから受けれるって聞いたので!特別措置らしいです!この期を逃すアホはいませんっ!」



西条:「…そっか」



音瀬:「西条さんは、今回も出ないんですか?」



西条:「うん。出ないよ」



0:二人を見つける相馬



相馬:「お?おつ(かれ)」



音瀬:「いやです!!」



西条:「はい?」



音瀬:「俺、確かに相馬さんと国城さんに憧れてここに来ました!でも、稽古付けてもらってて分かります!西条さん、すっごい沢山練習したんだなって!

音瀬:何回教えて貰ってもふと忘れちゃう基礎的なこととか、体に染み付いてるように出来てて、俺今、すげぇって思ってます!」



西条:「…ありがと、でも私はいいんだよ」



音瀬:「西条さんがよくても俺が嫌です!!俺、西条さんとも舞台に立ちたんです!」



相馬:「…」



西条:「…音瀬くんはさ。芝居が好き?」



音瀬:「はいっ!死ぬほど好きです!」



西条:「…自分が好きなもので、誰かの好きを奪っちゃったり、壊した時でも、音瀬くんはそれを好きって言い続けられる?」



音瀬:「…。それは、西条さんのことですか?」



西条:「私と、界人と、多分、秋吉のことかな。」



音瀬:「…。なってみないと分からないのでなんとも言えませんが

音瀬:嫌いじゃないなら、俺は好きって言い続けますよ。馬鹿みたいに素直なところが、俺の取り柄ですので」



西条:「…」



音瀬:「西条さんは、それが嫌いですか?」



西条:「嫌いだったら、今ここには居ないよ」



音瀬:「なら、良かったです。多分、西条さんは真面目だし、人の事をよく気にかけてくれる人だから、人一倍自分を許せないんだと思うんです

音瀬:でも、そんなの俺に関係ない。俺は西条とだって舞台に立ちたい。

音瀬:それに人を殺す事以外は、大抵許されることだと思います」



西条:「…そっか」



音瀬:「そうです」



西条:「ありがとう、音瀬くん」



音瀬:「いえ。」



西条:「さっ、練習練習。私は君の教育担当だからね。さ、説明するよ。知ってのとおり、ローダンセの出演枠はメインが二人。驚きの競争率だ。ビシバシ行くよ、頑張ろう」



音瀬:「…。はいっ!頑張ります!」



相馬:…。



0:相馬 立ち去る



西条:「まずは柔軟からっ。体壊しちゃいけないし、動きの幅が広がる…」



音瀬:「びよーーーーんっ」



西条:「柔らかくなったねぇ、気持ち悪い。」



音瀬:「酷くないですかっ!酷くないですかって!」



西条:センスはある。体の使い方だって不器用じゃない。



音瀬:「――傲慢否定する事勿れ。彼はそう言った。欲はすべからく動機であるとも言った。彼の口は、既に閉じていた」



西条:なによりこの子の武器は――



0:



音瀬:「声…ですか」



西条:「うん。動き、テンポ、声。これがミュージカル以外の舞台における主な表現方法だ。表情とかも大事なんだけど、客席からは見えにくいからね。それに必然的についてくるものでもある」



音瀬:「めもめも」



西条:真面目。人あたりだっていい。友達も沢山できたようだ。きっとこの子は、そう遠くない先、立派な役者になる。



西条:この子なら、きっとあの時だって。ああはなってなかったかもしれない。



0:場面転換



0:休憩室 煙草を吸う国城



国城:「…。はぁ」



相馬:「たばこたばこっ、あ。」



国城:「あ。」



相馬:「…隣、いいか?」



国城:「勝手にしろよ」



0:煙草に火をつける



相馬:「…また値上がりしたな、煙草」



国城:「まあ、やめらんねんだけどな」



相馬:「だなぁ。」



国城:「…」



相馬:「次、ローダンセ。出んの?」



国城:「出る。お前は」



相馬:「出るに決まってんだろ。体の調子も絶好調」



国城:「お前、煙草やめろよ」



相馬:「うーん。そうなぁ」



国城:「辞める気ねぇな」



相馬:「ないなぁ」



国城:「…」



相馬:「界人は、なんで舞台に立ち続けるんだ」



国城:「何だ急に」



相馬:「俺は、お前と楽しく芝居をするのが好きだった。社とだってそう。でも、今のお前はこれっぽっちも楽しそうじゃない。のに、なんで舞台に立つんだ」



国城:「…」



相馬:「素直じゃないな、界人は」



国城:「うっさい」



相馬:「…俺は。お前らがいつかまた、好きなもの好きって言えるまで、舞台に立つからさ。」



国城:「エーデルワイス出なかっただろうが」



相馬:「はい、揚げ足取り」



国城:「…まあ。気長に待ってろ」



相馬:「なんか意外な返答だな。あー。音瀬くんだな?」



国城:「うっさいって」



相馬:「素直じゃねぇー。」



国城:「…寒くなってきたなぁ」



相馬:「11月だしなぁ。秋って一瞬で終わりやがるから」



国城:「高校の時、初めて人前で芝居した時も11月のこんくらいだったんだよ」



相馬:「覚えてる。社が緊張し過ぎて吐いたやつな」



国城:「懐かし。そういやお前がよく買い食いしてたコンビニ潰れたんだぞ」



相馬:「え。服屋の隣の?」



国城:「その服屋も潰れてる」



相馬:「…まじかぁ。なんか、時間経ったんだなぁって感じだ」



国城:「だな。」



相馬:「…多分さ。次が俺の、最後の舞台になる」



国城:「……は?」



相馬:「俺、体の調子がいよいよ本格的にやばい。から、これが終わったら。暫く舞台からは身を引く」



国城:「…」



相馬:「だから最後、めいいっぱい楽しもうな、界人」



国城:「断る。」



相馬:「え」



国城:「俺が、社が演劇始めたのは、お前が誘ったからだ。ここに入ったのだってそうだ。で、そのお前が一抜けリタイアだぁ?

国城:ふざけんな。絶対帰ってこい。」



相馬:「…」



国城:「俺の番だ。それまでは、舞台の上で待っててやる。」



相馬:「…。あんがとな、界人」



国城:「はっ。なんの礼だよ。そもそもオーデション、落ちんなよ」



相馬:「てめぇ、誰に物言ってやがるんだコラ」



0:場面転換



音瀬:12月中旬。今年最後の練習が終わった。



0:外



西条:「寒いねぇ〜」



音瀬:「本当に寒すぎっす…」



西条:「暑い方が得意?」



音瀬:「はい…」



西条:「元気無さすぎてウケる」



国城:「おー、お疲れ様。」



西条:「おつかれ界人」



音瀬:「あ、お疲れ様です…」



国城:「元気無さすぎ。どうしたこいつ。唯一の取り柄死んどるぞ」



西条:「寒いのは苦手なんだと」



国城:「ウケる」



西条:「んね。」



音瀬:「はっっくしょぉおいっ!あ、そういえば相馬さんは大丈夫なんですか!定期検査で入院って聞きましたけど」



西条:「あー、うん。あんまり病院での話はして来ないから詳しくは知らないけど、普段の感じ見てる限りじゃ大丈夫そうじゃないかな」



国城:「ま、そう簡単に死ぬたまでもないだろうよ、安心しろクソガキ」



音瀬:「クソガキじゃないです。」



西条:「二人とも、年末ひま?」



国城:「実家帰る予定もないし、暇だぞ」



音瀬:「俺も暇です!練習ですか!個人練習なんですかっ!」



西条:「いきなり元気。いいえ、普通に初詣でも行こうかなって」



音瀬:「行きます行きます!」



国城:「おー。行くか」



西条:「よし、秋吉も呼んでみる?」



音瀬:「呼びましょう!」



国城:「病人は置いとけ、俺達だけで楽しんで写メ送って悔しがらせよう」



音瀬:「うっっわぁ…」



西条:「いいね、乗った」



音瀬:「うっっっわぁ…」



0:病院



相馬:「ぶぇぇえっっくしょぉい!!

相馬:…なんだ。まさか…俺が、風邪…!?」



0:回想



0:神社



国城:「おーいお前ら、さっさと来い!」



相馬:「あの、なぁ、界人!こちとら人ひとり抱えてんだぞっ、少しは、ねぎらえ!」



西条:「そぉーれ、私はもう歩きたくないんだぁ。さっさとあるけぇ秋吉ぼけぇ」



相馬:「うるせぇなこのブス!」



西条:「今なんつった!」



国城:「ぷっ」



西条:「笑うな!」



相馬:「ふぅ。やっと着いた。」



国城:「あ、5円無い。」



相馬:「あ。俺もない」



西条:「いやです」



相馬:「どーすんだよ!お参りできねぇじゃねぇか!」



国城:「まて秋吉!十円を真っ二つにすりゃあ…」



相馬:「お前は天才だ界人〜!!」



西条:「ばか!!やるから!5円やるから!やめろ!」



0:回想終了



0:神社



音瀬:「西条さーん、国城さん?なにしてるんですか!置いていきますよ!」



西条:「…歩くの疲れたー。界人、おぶって」



国城:「いやです」



西条:「ケチですね」



音瀬:「こんな所に神社あったんですね」



西条:「穴場だよ。来るのは大変だけど、結構立派だし、人もあんまり居ない。ナイショだよ」



音瀬:「はいっっ」



国城:「おいガキ、5円あるか」



音瀬:「?ありますけど?そこのコンビニで崩してきましたし」



国城:「そうか。ぼけ」



音瀬:「なんで!?」



西条:「ほら、あんまり神社で騒ぐんじゃないよ」



音瀬:「うす」



0:お参りをする三人。



音瀬:「…。」



西条:「…。」



国城:「…。」



音瀬:「よしっ。」



西条:「音瀬くん、何お願いしたの?」



音瀬:「健康に一年過ごせますようにって!」



国城:「舞台のことじゃねぇんだな」



音瀬:「それはほら、俺が頑張りますから!」



国城:「はぇ〜。」



音瀬:「西条さんと国城さんはなにお願いしたんです?」



西条:「内緒。」



音瀬:「え?」



国城:「ま、他人に言うと叶わないって言うしなぁ」



音瀬:「えぇ!?酷くないですか!?じゃあなんで俺に聞いたんですかって!ねぇ!」



西条:「飯奢るから許してよ」



音瀬:「許します!!」



国城:「やっすいなぁ」



0:場面転換



音瀬:そうだ。舞台のことは、俺が頑張る



音瀬:年が明けて、二月。ローダンセに告ぐ。選考オーディションが始まった



音瀬:「がくがくがくがく」



西条:「緊張してんね、音瀬くん」



音瀬:「しししししししししてます」



西条:「素直だねぇ」



音瀬:あれ。この前のオーデションってこんな人多かったっけ。こんな寒かったっけ。手足の震えが止まらないぞ〜。なんかみんな顔怖いぞ〜。



国城:「おはようございます。」



西条:「おはよう、界人」



国城:「おう、社。音瀬も。おはよう」



音瀬:「おおおおおおおこんにゃ!」



国城:「あがってんな」



西条:「うん。あがってる」



国城:「…秋吉は、まだか」



西条:「重役出勤だねぇ、本当に」



音瀬:相馬さんが来る。まずい、がくぶるだっ。あがりまくってる。まずい、まずいまずいっ。



相馬:「おはざーす。」



西条:「おはよ(う秋吉)」



音瀬:「まずーーーいっ!」



国城:「!?」



西条:「!?」



相馬:「…はは。おはよう、音瀬くん」



音瀬:「おおおざはまらたざます!」



相馬:「今日は、俺、お前をぶっ潰すつもりで来てるから」



音瀬:「…!」



相馬:「でもライバルがその調子じゃ、余裕そうだ」



音瀬:「……(自分の頬を叩く)っ!!」



西条:「なななにしてんの音瀬くんっ」



音瀬:「……落ち着きました。なんでもありません。」



相馬:「ははっ。何よりじゃん」



0:前に出る西条



西条:「と、いうわけで全員揃いましたので、今からローダンセに告ぐ。選考オーディションを始めます。審査役は三谷さん、朝野さん、吉田さん、竹村さん。私、西条の五人が務めます。

西条:監督から、一言ありますか?」



音瀬:あぁ、集中出来てきた。周りが一気に静かに感じる。でも、音は明瞭に聞こえる。



音瀬:うん。悪くない、この舞台で、もしかしたら国城さんか相馬さんと出られるかもしれない。



音瀬:なんだ、全然俺。ワクワクしてるじゃん



相馬:「凄い集中してんね、音瀬くん」



音瀬:「…はい、してないと言ったら嘘になります」



相馬:「君は本当に凄いなぁ。社からも聞いてる。センスもピカイチ、きっと音瀬くんはいずれ、凄い役者になる。俺からも太鼓判を押してあげる」



音瀬:「本当ですか!」



相馬:「うん。ほんと」



国城:次々と役者達が自身が出せる最高のパフォーマンスを審査員に披露する。



国城:ローダンセは二人のみの採用と言うことがあってか、完全実力主義のオーディションだ。



国城:ファーストから入団歴の浅いセカンド、総勢120名のオーディションは次々と進んでいく



西条:「次、音瀬 日向。前へ」



音瀬:「はい!オリバー役を希望します、よろしくお願いします!」



国城:「…」



相馬:「…」



音瀬:「――俺達は、国を良くしようと思った。」



相馬:「おぉ、やっぱり、上手い」



音瀬:「俺は革命軍として。皇族の血が流れる身でありながら、冠に牙を向く矛として」



国城:「…」



音瀬:「真剣を握って戦うのは、初めてだな」



西条:集中できてる。練習より雑と言えば聞こえが悪いけど、圧倒的にパフォーマンスが高い



音瀬:「革命軍総長。オリバー・カーネンハーツ。民の為に」



西条:本当に才能の塊だよ。正直羨ましい



音瀬:「思い上がりも甚だしい!俺とお前は、同じだっ!国があっての民、民があっての国っ。この衝突に不利有利もない!」



国城:120名が、それぞれの最前を尽くして、オーディションは幕を閉じる



相馬:「凄かったよ、音瀬くん」



音瀬:「ありがとうございます、相馬さんの演技が見れなかったのが残念ですけど…」



相馬:「120人だからね、棟を分けてやらないと二日かかるよ」



西条:「それでは、ローダンセに告ぐ。選考オーディションの結果発表を行います」



相馬:「俺は寸前まで見てたけど、やっぱり音瀬くんは凄いよ」



西条:「ルーファス役。国城 界人」



国城:「はい。」



西条:「おめでとうございます。続きまして」



国城:来いよ。秋吉



相馬:「それでもやっぱり」



音瀬:その時見た相馬さんの顔は、少し寂しそうに感じた



西条:「オリバー役。相馬 秋吉」



相馬:「――今は、俺がすごい」



0:国城は拳を静かににぎりしめる



0:



0:



西条:「おめでとう、秋吉、」



相馬:「おぉ、さんきゅな」



0:休憩室



音瀬:「うゎぁあああんっ西条さぁあああんっ」



西条:「泣くな泣くな」



音瀬:「ぐやじぃでずぅ」



西条:「いや、審査員の中でも結構票が別れてたよ。秋吉か、音瀬くんかの二択だったんだから、これは凄いことだ」



音瀬:「でもぉぉ…」



西条:「自信持ちなって。音瀬くん、君はセンスある。」



音瀬:「…俺、西条さんから教えてもらったこと、全部出来ませんでした。」



西条:「うん。出来てなかったね」



音瀬:「やっぱり、西条さん。凄いんだなぁって思いました。当たり前のこと、当たり前にできる。基礎的なこととか、体に染み付いてるんだなぁって」



西条:「私をヨイショしてどーすんのさ」



音瀬:「だから。やっぱり俺、西条さんとも舞台に立ちたいって、このオーディションして思いました。こんな凄い人が目の前にいるなら、きっと最高に楽しいんだろうなって」



西条:「…」



音瀬:「だから!たちましょ!舞台!」



西条:「ごめんね」



音瀬:「くそぉおおっ!悔しい!」



西条:「まあまあ、また次があるから」



音瀬:「それもですけど!!西条さんが舞台に立たないの!悔しいんです!!」



西条:「いやそれは…」



音瀬:「相馬さんのお父さんにチクっていいですか!!」



西条:「はぁ…どうぞ?」



音瀬:「むきーーっ!相馬さんのお父さんに怒られてください!!」



西条:「わかったわかった、気をつけてね」



音瀬:「行ってきます!」



西条:…ああ。そうなんだよ。私は、誰かに怒って欲しかったんだ。



西条:本当に、変な子だなぁ、君は



国城:「おつかれ、社」



西条:「界人、おつかれさま。おめでとう」



国城:「やたらとまあ、駄々こねられてたな」



西条:「まあ、ね。可愛い後輩だよ」



国城:「…なぁ。」



西条:「ん?」



国城:「そろそろ、許してもいいんじゃねぇかな。」



西条:「…」



国城:「俺は…。これ以上、相馬監督にかっこ悪いところ、見せたくない」



西条:「…うん」



国城:「…それでも、やっぱり怖さはあるし、やったことが消えるわけじゃない。高岡が芝居やめたのは、間違いなく俺のせいだから」



西条:「私のせいでもある。リカバリー出来なかったのは私だ」



国城:「過失割合の話してんの」



西条:「細かいなぁ」



国城:「俺が8・2で悪いのに、2のお前が自分を許さないんじゃ、俺もなんか、こう。腑に落ちん」



西条:「うん」



国城:「だから、えっと。なんだ。」



西条:「なに?」



国城:「次、出てみたらどうだ。」



西条:「…」



国城:「〜〜っ、くそ!!」



西条:「界人?」



国城:「お前がお前許さねぇと俺がやりづれぇんだよ!!だから!もう一回、俺らの背中押してくれ!!社!!」



西条:「…はは。なんか、キャラ変わった?」



国城:「俺は元々こんなんだ」



西条:「だったね。」



国城:「…」



西条:「はい。前向きに検討させて頂きます」



国城:「企業面接か」



西条:「うっさい、私なりの照れ隠しだ」



国城:「変わんねぇな」



西条:「変わんないよ。私も、界人も。秋吉だって。クソガキのまま」



国城:「…だな」



西条:「そろそろ、春も終わるね」



国城:「おう。また、夏だ。」



西条:「暑いのは、嫌いだなぁ」



0:場面転換



0:とある墓前



相馬:「ごほっ、ごほ。ほんと、暖かくなってきやがったなぁ、親父

相馬:結局、俺一人じゃなにもできなかった。全部あのおもしろ新人が、なんとかしてくれた。正直悔しいよ

相馬:ああ、あと。次のローダンセに告ぐ。やっぱり俺と界人が出ることになった。

相馬:やっと楽しくなってきた頃に、終わっちまう。」



音瀬:「はぁ、はぁ、やっぱっ、きっっつ!」



相馬:「…またこういう時に、音瀬くんだなぁ?」



音瀬:「あれ、相馬さん?あー、相馬さんじゃないですかぁ」



相馬:「いつものやるか。親父の墓参りか?嬉しいな、ありがとう」



音瀬:「俺!!相馬さんに負けました!!」



相馬:「…」



音瀬:「すっっげぇ悔しいです!!」



相馬:「おう」



音瀬:「西条さんに、沢山教えてもらいました!!でも、全然できなかった!!やっぱり、凄いんだなぁって思いましたっ。

音瀬:そんな西条さんがずっと裏方やってんのも、やっぱり悔しいです!」



相馬:「…はっ。本当に、話のわかるやつだなぁ、音瀬くんは!がしっ」



音瀬:「相馬さん!がしっ」



0:二人は手を掴む



相馬:「最近さ、思うんだ。」



音瀬:「?」



相馬:「人には出来る役割が限られてるんだって。きっとあいつらを前向かせるのは、音瀬くんなんだと思う。

相馬:結局俺は、何も出来なかった。あの時も、今までも」



音瀬:「そんな事ないです。俺こそ何もしてない。相馬さんが舞台に居ることに意味があるって、思います」



相馬:「…本当に、面白い子だなぁ、君は」



音瀬:「俺は、相馬さんも、国城さんも、西条さんにも、楽しく演技してて欲しいんです。俺と!!」



相馬:「じゃあ、その誰も舞台に居なくなったら、音瀬くんは舞台降りる?」



音瀬:「…?降りませんよ?だって俺、芝居が好きなんです」



相馬:…どこか、勘違いしてた。ごめん音瀬くん。初め、君は俺に似てると思ってた。



相馬:でも、そんなわけないな。君は君だ。



音瀬:「俺は舞台に立ちたいから立つんです!そこに相馬さんや国城さん、西条さんが居たら、最高だなって、思います!」



相馬:でも、こういう所は一緒なんだ。それでも、自分とこの子を重ねるのは、この子に失礼だ



音瀬:「…相馬さん?」



相馬:「俺の親父は、二年前。末期癌で死んだ。で、俺も肺癌」



音瀬:「…え?」



相馬:「誰にも言ってないから内緒ね。二年前、ちょうどエーデルワイスよりっていう作品が公演される一か月前に、余命宣告くらった。

相馬:で、余命通りだと、俺はいつ死んでもおかしくない」



音瀬:「…」



相馬:「だから、これが最後の舞台だ」



音瀬:「……本当に言ってるんですか?」



相馬:「うん。大マジ」



音瀬:「でも、あんなに元気だったじゃないですか」



相馬:「あ、そう見えてる?なら作戦成功だな」



音瀬:「…」



相馬:「…」



音瀬:「…だったら。」



相馬:「うん」



音瀬:「俺と、舞台に立ってください。」



相馬:「…」



音瀬:「俺、相馬さんと国城さんのあれ見てここに来ました。いつか俺もあんな風にって思って来ました。3回もここの選考落ちて、やっと入所したのに。そんなのありえない。詐欺です」



相馬:「詐欺じゃないだろ」



音瀬:「詐欺ですっっ」



相馬:「…俺は、もう音瀬くんと舞台に経つことは無い。そりゃ俺だってやってみたかったけど、俺に次は無いんだ。」



音瀬:「…」



相馬:「今からお願いすることは、音瀬くんにとって、重荷になってしまうかもしれない。これを言うことで、君に呪いをかけてしまうかもしれない。それでも言わせて欲しい

相馬:楽しんで、芝居をしてくれ。好きなもの、好きって言い続けてくれ。

相馬:俺にはもう出来ないから、音瀬くんに託させて欲しい。」



音瀬:「―――やっと来ました、こっち側に。

音瀬:今更、しっぽ巻いて逃げたりしません。言われなても、俺は、俺は舞台に立ちたいです。」



相馬:…ああ。この目。思い出した。音瀬 日向。あの時の子か…



音瀬:「だから!!相馬さんが楽しんでるところ!!目に焼き付けます!!絶対に忘れないように、俺の憧れた人は凄いんだぞってところ、忘れないように!!見ておきます!」



相馬:「うん。ありがとう、日向」



音瀬:「…国城さんと、西条さんには、言わないんですか。このこと」



相馬:「言ったら止められるんだよ。分かってる、そういう奴らだし、俺もこういうやつ」



音瀬:「…根っからの舞台人ですね。最低だと思います」



相馬:「俺もそう思うよ。けど、1回きりの人生だ

相馬:どうせ棒に振るなら、俺は舞台の上がいい。」



音瀬:俺の憧れの人は、最低で、最悪で、最高にかっこいい人だ。



音瀬:ほんと、ずるいなぁ



0:一人になった墓前にて



相馬:「…日向のやつ、足、速くなったなぁ。頑張ってたんだな。ちゃんと

相馬:界人も、社も、あの子がいれば大丈夫だ。きっと、大丈夫

相馬:……。あーーー。くそ、くそぉ。

相馬:もしもーーし!誰か、いますか〜?日向〜!帰ったか〜!」



0:沈黙



相馬:「―――…。よし。

相馬:あああああああああ!!くそ!!!死にたくねぇ!!まだ、舞台に立ちたい!芝居したい、あいつらと、一緒に居たい!!

相馬:なんで俺だけ一抜けピなんだよ!なんも嬉しくねーー!ふざけんなっ、くそ!くそ!!くそっ!

相馬:……ああ、もう。ちくしょぉ。悔しいなぁ。」



音瀬:四ヶ月後。梅雨が明けて、再び蝉が鳴きはじめた頃。



音瀬:暑くなってきた、夏だ。今年も、夏が来た。



0:とある墓前



国城:「…」



西条:「やっぱり来てたか、界人」



国城:「おぉ。この季節は、ついな」



西条:「だね。」



相馬:「へいへいへーい。」



西条:「あれ、秋吉?」



相馬:「親父の墓参りには酒持って来いって習わなかったのか、お前ら」



国城:「お前が持ってくるからいーんだよ」



相馬:「俺持ちかよ。割り勘な」



西条:「嫌です」



国城:「馬鹿、相馬監督の酒だろ。俺は出す」



相馬:「さっすが界人、恩知ってるわ〜」



西条:「私も出すってば!」



相馬:「ごち!」



国城:「いや〜今月ピンチだったから助かったァ!」



西条:「ほんとベタだなお前ら」



相馬:「は。

相馬:…あ〜。暑くなってきたな」



国城:「…あぁ。暑い」



西条:「…今年は皆で来れたね、お墓参り」



相馬:「…だな。また、夏が来るよ、親父」



音瀬:6月上旬。ローダンセに告ぐ。公演日を迎えた


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