一幕
0:ローダンセに告ぐ 一幕
:
西条:「――本日は、劇団「二等星」の公演にお集まり頂きありがとうございます。
西条:本日お送りする舞台は激動の時代、中世ヨーロッパ。皇族と革命軍の元親友達が織り成す悲劇でございます。」
国城:緞帳が上がる、その数分前
相馬:舞台袖はステージを照らす照明で熱気を帯びている
国城:そこから吹き通る風までほんの少し熱くて、楽屋の古びた中継ビデオから観客が見える。待ってる。俺達の演目を、待っている。
相馬:横には背中を預けられる共演者が居る。共に練習した時間、何度も練った演出。動き、声の張り方。表情、目線、癖、全て知ってる
国城:これまで重ねた何日、何ヶ月って時間が、この一時間半に収束する。努力も苦労も血も涙も、この90分に詰め込むしかない。
相馬:緊張とプレッシャーで吐きそうだ。ヘマは出来ない。何百人という人が関わってくれている。失敗出来ない。一回きり。
国城:それでもやっぱり
相馬:この緊張感が、たまらない
西条:「それでは、間も無く開演致します。劇団「二等星」より。
西条:「ローダンセに告ぐ」。」
相馬:「楽しんで行こう、界人」
国城:「当然だろうが、秋吉」
0:舞台袖
西条:「…。あぁあ緊張したぁあっ。」
相馬:「よくやった」
国城:「いい演説だったと思うぞ、顔面凄いことになってたけど」
西条:「うるさい。」
国城:「怒んな怒んな」
相馬:「…よっし。社、いつもの頼む」
西条:「…はいよっ。」
0:西条は二人の背中を軽く叩く
西条:「行ってらっしゃい、二人とも」
国城:「――おう。行ってきます」
相馬:「行ってきます」
西条:「楽しんでおいで。」
相馬:――緞帳が
国城:上がる。
0:観客席
音瀬:始まりは、何となくだった。高校の夏休み。友達に誘われて特に興味もない舞台を見に来た。有名な劇団らしくて、観客席はどこを見ても人で溢れ返ってる。緞帳?っていうのが上がると、やたらと眩しい照明に目が眩んだ。
音瀬:熱が篭った舞台から熱風が解放される。すると男が二人、舞台上で演技を披露している。体をめいいっぱい使って、表情なんてこんな遠くから見えない筈なのに、伝わってくる。
音瀬:声が、熱が、俺の体を刺激して、いつの間にか時間を忘れてのめり込んでいた。
0:舞台上で斬りあう二人
ルーファス:「オリバーっ!お前は、私の、友だっ!」
オリバー:「俺にとってもそうだ!お前は俺の、たった一人の友人だ、ルーファス!!だが、この国を思えばこそ、反乱は必然だった!例え俺がここで斬られようが!俺には俺の、意地がある!」
ルーファス:「ならば私を斬り伏せて、前に進んでみろ!!革命軍として、私の友として、私を斬ってみろ、オリバー!!」
オリバー:「っ…!ルーファスぅうっ!」
0:斬り伏せられるオリバー
ルーファス:「――ごほっ。」
音瀬:息を飲んだ。本当に斬られたと思った。本当に血を吐いたと思った。
ルーファス:「…ああ。見事だ。お前には、敵わないらしい」
オリバー:「…。ルーファス、俺は…」
ルーファス:「謝るな。それは私にとって、屈辱以外の何物でもない。私は私の道を行き、お前はお前の道を歩んだ。それが、たまたま食い違っただけなんだ。」
オリバー:「俺は、必ずこの国を良くしてみせる。誰も貧困に喘ぐことの無い国を、作ってみせる…!」
ルーファス:「…ああ、お前ならできる」
オリバー:「だからその前に。最後にひとつ聞かせてくれ。お前は、本気ではなかったな」
ルーファス:「――本気だったさ」
0:舞台袖
西条:「…!」
音瀬:周りの観客の表情が動く。このローダンセに告ぐは三度目の上演らしい。肌で伝わった。周りの空気で伝わった。これは、アドリブっていうやつだ
西条:「あの馬鹿ども…。」
0:舞台
ルーファス:「私は本気でお前に立ち向かった。その上で、負けたんだ」
オリバー:「そうじゃないっ!お前は、本気で俺を殺そうとは思っていなかった!これっぽっちもだ!俺がそれに気づかないほど間抜けに見えるのか、お前を理解していなと思うのか、ルーファス!」
ルーファス:「…。ああ、やはりお前には、かなわんなぁ。」
オリバー:「…お前は、死にたかったんだろう。皇族としての責務も、国民達からの不満も。何もかも。捨ててしまいたい程に、疲れてしまったのだろう」
ルーファス:「……」
オリバー:「お前の背負った罪も、業も、罰も、全て俺が引き受けるっ!だから…!」
ルーファス:「…」
オリバー:「だから今は、少しおやすみ。ルーファス」
ルーファス:「……ありがとう。」
ルーファス:(M)父上、母上。兄上。今参ります。そちらへ行ったら、どうか私を、よくやったと褒めて下さい。あの頃のように、私たちを…
オリバー:「…ルーファス。俺は、俺は…。この国を良くしてみせる。誰も食べる物に、寝る場所に、着る物に困らない世界を、作ってみせるっ…!だから、先にそっちで待っていろ。ルーファスっ…!!」
0:舞台袖
西条:「…」
0:観客席
音瀬:気付いた頃には、あの人と一緒に涙が出ていた。そこまで入り込まされた。深く深く、心に響いてはその波紋が消えない
音瀬:涙が止まらない。邪魔だ、視界がぼやけて見えない。あの人たちの顔が、動きが、見えない、そうやって手で拭っていると
音瀬:緞帳は降りてしまった。
0:舞台裏 楽屋
国城:「…ふぅ。」
相馬:「…はぁ。」
国城:「楽しかったな、秋吉」
相馬:「…最高だった」
0:一間
国城:「うぉぉおおおおおっ!」
相馬:「うぉらぁぁああっ!」
国城:「最高に楽しかったなぁおい!」
相馬:「まじで!おまえ!あのアドリブ!ずるいって、まじで、泣いちまって俺!」
国城:「俺だって泣きそうだったっつーのっ!」
相馬:「うわぁあああかいとおおおおっ」
国城:「うおおおおおあきよしいいいっ」
西条:「うるさいお前らっ!」
相馬:「お疲れやしろおおお」
国城:「裏方ありがとなあああ最高だったお前らの演出もおおお」
西条:「ああもう、うざいっ。くっつくな!」
相馬:「うわあああんっ」
国城:「たのしかったあああっ」
西条:「〜〜っ、ばか、最高の舞台だったっ!ぼけ!アドリブすんな!こっちがヒヤヒヤすんのっ」
相馬:「ごめえええん」
国城:「たのしかったああっ」
西条:「ほら、ロビーコール行くよ」
相馬:「ぐす。おう」
国城:「ぐす。おう」
西条:「…。おかえり、二人とも」
相馬:「ああ、ただいま」
国城:「ただいまっ!」
0:
音瀬:ロビーコール。観客が帰るのを演者が見送ってくれるファンサービスのようものらしい。俺の人生において、あの舞台は決定的なものになった。俺の夢は、その日に決まった
相馬:「ありがとうございましたぁ。写真ですか、勿論いいっすよ!」
国城:「はいはぁい並んでねぇ」
西条:「うっぜ。」
音瀬:「はぁっ。はぁっ。あのっ!」
相馬:「ん?ああごめんね、写真ならそこの列に」
音瀬:「感動しましたっ!上手く言えないけど、僕、すっげぇこう、ビリビリって来て!」
国城:「おうおう」
音瀬:「俺も、そんな風になりたいんです!どうすればいいですか!」
西条:「ひやぁ。おあつい」
相馬:「…」
国城:「だったら」
相馬:「おう。こっち側で待ってるよ」
音瀬:「…!はいっ!」
西条:「やばっ。みんなー、撤収作業するよー、時間押してるみたい!」
国城:「なんで?」
西条:「お前らのアドリブで尺伸びたからだよばか」
国城:「わり」
相馬:「そんじゃね、えーっと」
音瀬:「俺、音瀬 日向です!」
相馬:「うん。じゃあ待ってるよ、音瀬くん」
音瀬:俺も、いつか
相馬:「そぉれ帰るぞ、界人、社」
西条:「お前待ちだよばか秋吉ぼけ」
国城:「社きびしぃ。」
相馬:「きびしい」
西条:「うっさい手動かせ!」
音瀬:いつか、そっち側に…!
0:
0:三年後 夏
0:
音瀬:「今日から劇団「二等星」に所属します、音瀬 日向です!よろしくお願いしますっ!!」
西条:「あれ。君、三年前の…」
音瀬:「!はい!そうです!覚えててくださって感動しました!!ありがとうございます!」
西条:「元気いいなぁ、上半期の合格者は君だけらいけど。厳しいねぇ」
音瀬:「3回落ちました!!」
西条:「厳しいねぇ」
音瀬:この人、あの二人と一緒にいた人だ…!この人もするのかな、すっげぇ演技。するんだろうなっ。
西条:「私は西条 社。「二等星」の16期生。今は、新人教育と裏方をやってる、よろしくね。音瀬くん」
音瀬:「よろしくお願いします西条さんっ!…え?裏方?」
西条:「うん、裏方」
音瀬:「えっと、西条さんは、出ないんですか?舞台」
西条:「私はセカンドクラスだからね。舞台に出られるのはファーストクラスの劇団員だけ。君はサードクラスからだよ」
音瀬:「え。俺が28期生だから、えっと、いち、に、さん。六年!?六年やってて舞台に出られないんですか!?」
西条:「手厳しいなぁ。うん、私以外にも結構いるよ。セカンドからファーストへの昇格は鬼門だからね。」
音瀬:「じゃあ俺も六年裏方ですか!?」
西条:「知らないよ。音瀬くん次第じゃないかな」
音瀬:「あ、ごめんなさい。失礼でしたよね」
西条:「ううん、いーよ。そう言われても仕方ないと思う」
音瀬:「…あのっ!えっと、相馬さんと国城さんはファースト?っていう所にいるんですか!」
西条:「え?ああ、音瀬くんもあの変人共に憧れた感じ?」
音瀬:「はい!三年前、二人のローダンセに告ぐを観てからずっと憧れてます!痺れてます!」
西条:「ほんと元気いいなぁ、どこがいいのかねぇあんなやつら」
音瀬:「凄いんです!演技が、こう!ビリビリって来て!」
西条:「わかったわかった、ちょっと落ち着いて」
音瀬:「はいっ!落ち着きます!それで、おふたりはまだ稽古に来てないんですか!」
西条:「来てるよ、来てるけど…」
音瀬:「けど…?」
西条:「うーん、あんまり見ない方がいいかもね、理想は理想でいるうちが花だから」
音瀬:「?どういう意味ですか?」
0:廊下から声が聞こえる
国城:「何度言わせんだよっ、なんで今アドリブした!」
相馬:「やった方が熱いだろ!」
国城:「演出通りにしろ!何かあってからじゃ遅いんだよっ」
相馬:「俺とお前で何かあるわけが無いだろっ、ふざけんな!」
国城:「話が通じねぇなぁ!勝手にしろ、お前がどれだけ即興吹っ掛けても俺は乗らないからな」
相馬:「それだと演技になんねぇだろ」
国城:「うるさい」
相馬:「おい!どこ行くんだよ界人!」
国城:「休憩だ、頭冷やしてくる。お前も冷やせ、ぼけ」
相馬:「〜〜っ!おい!界人!」
音瀬:「…ええ。」
西条:「…ってな具合でね。二人に憧れたって言うならやめといた方がいい」
国城:「おお、社。その子が新人くんか」
西条:「うん。そーだよ。音瀬くん」
音瀬:「あの、えっと、音瀬日向です!俺、三年前にやってたローダンセに告ぐ観て、国城さんと相馬さんにすっげぇ憧れてて!二人の即興劇とか、本当に心臓がどぅるるんってなって!」
西条:「ちょっ…!」
国城:「いいか、音瀬くん。あんなもんは演技とは言わない。」
音瀬:「え」
国城:「俺もまだ若かったからさ、あの時はああやって感情的になって即興劇してたけど。あんなもんは他の共演者が困るだけだし、演出にだって迷惑がかかる。俺達はプロだ。高校演劇とは訳が違う。君は、あんなふうになっちゃダメだ」
音瀬:「あんな風って…」
国城:「秋吉だよ。相馬秋吉。この劇団の亡くなった元監督の息子。そんで好き勝手やってるけど。あいつもいい加減弁えて欲しいもんだ。ガキじゃねぇんだぞって話」
西条:「界人、言い過ぎだぞ」
国城:「うるせぇ。新人教育はお前の仕事なんだから、本来お前が言うことなんだよ。」
西条:「はぁ。ごめん音瀬くん。場所を移そう」
音瀬:「え、でも」
西条:「いいから行くよ。またね、界人」
0:二人、退出
国城:「……。くそっ」
0:第二練習所
西条:「まったく。新人に当たってどーすんだって。ほんとごめんね」
音瀬:「いえ…」
西条:「…幻滅した?」
音瀬:「そんなこと…。あります」
西条:「素直だねぇ。いいよ、みんな思ってる事だし。一時は変態コンビって言われるくらい息があってたんだけど。今は見る影もないって感じかな」
音瀬:「…なにか、あったんですか?」
西条:「うーん。界人…ああ、国城もそんなに語られたくないだろうし。今は内緒って事でいい?」
音瀬:「…はい」
西条:「さ。私達のやることはまず基礎練習。君だって舞台にあがりたくてうちに来たんでしょ?だったらまずはファーストまで上がらなきゃ」
音瀬:「…っ。はい!」
西条:「うん、良い目だ。まずは柔軟からだよ、ほれ」
音瀬:…たしかに。残念な気持ちはある。だけど、西条さんの言う通りだ。まずは自分のことに専念しろ。そっち側には、まだ行ってないんだから…!
0:時間経過
0:墓前
相馬:「ほら親父、好きだったろ、この日本酒。あと煙草。親父はどぎついの吸ってたからなぁ。俺も人の事言えねぇけど。
相馬:そろそろ小さい公演があるんだよ。セカンドも出られる舞台だから社とも久しぶりに演技出来るかもしれないんだ。界人は、どうだろうな。自力でオーデションはもぎ取るだろうけど。
相馬:……なあ、親父。見てるか、見てるだろうな。情けねぇな、俺。今、芝居すんのがこれっぽっちも楽しくない。親父、言ってたな。舞台に無理矢理立つくらいなら降りろ、って。
相馬:だったら俺は、降りた方がいいのかもしんねぇな。そろそろ、身体も限界だし」
西条:「ほら音瀬くん、こっちだよ」
音瀬:「ぜぇ、ぜぇ、なんで、こんな、高台にあるんですか」
西条:「しょーがないだろ。ほい、ここが劇団「二等星」の創設者であり元監督、相馬監督のお墓だよ。夏になったら皆で墓参りに来るんだ」
音瀬:「相馬さんの、お父さん…。ん?」
相馬:「ん?」
西条:「あれ、秋吉じゃないか。」
相馬:「おぉ、お疲れ様、社。そっちの子は…初めましてだな」
西条:(小声で)「はじめましてじゃない。」
相馬:「久しぶりだな!!俺、相馬 秋吉。覚えてる??」
音瀬:「はいっ!覚えててくれたんですかっ!嬉しいです!」
相馬:「覚えてる覚えてる、あれな。あれ」
音瀬:「はい!三年前のローダンセに告ぐの時に!」
相馬:「はいはいはい!そうそう!その時の、ね!えっと、ね!」
西条:(小声で)「音瀬くん」
相馬:「音瀬くんだろ!いやぁほんと久しぶりだ!」
西条:「秋吉と界人に憧れて本当に入所したんだって。さっき一通り見てきたけど、悪くないよ。センスある」
相馬:「え。まじで?」
西条:「大マジ。審査もさっさと通過してファースト入りするかもね」
相馬:「お前…。また後輩に先越されんのか…」
西条:「うっさい」(蹴る)
相馬:「いったぁい!」
音瀬:「あの、俺。絶対に舞台に上がって二人と芝居したいんです!」
相馬:「ふたり?」
音瀬:「はい!相馬さんと、国城さん!ふたりみたいに、自由に舞台を駆けてみたいんです!」
相馬:「…」
音瀬:「だから、待ってて下さい、相馬さん!絶対に俺!最高に楽しい舞台を作ってみせます!」
西条:「…」
0:回想
相馬:「合格だ、合格だぞ!界人、社!あの頑固親父っ、やっと認めやがった!」
国城:「まじで!?まじで!??」
相馬:「大マシだ!!」
国城:「よっしゃあああああっ」
相馬:「うぉおおおおらららああっ」
西条:「……」
相馬:「なんだよ社…嬉しくないのか…」
国城:「ここまで感情が死んでんのか…」
西条:「嬉しいに、決まってんだろ、ぼけぇ」
国城:「…へ」
西条:「よしっ。今日は私が奢ってやる。行くぞっ、ファミレスにっ」
相馬:「やっす」
西条:「やかましい」
国城:「ははっ。やっぱお前ら、変」
相馬:「一番変わってるやつに言われてもなぁ」
西条:「秋吉も大差ないよ」
相馬:「どゆこと???」
国城:「そぉれっ、気合い入れていこーぜっ」
相馬:「ファミレスに?」
西条:「ばか、舞台の上でしょうが」
相馬:「分かってる、あぁ。ちゃんと楽しみだ」
国城:「二等星に入っても俺らがやることは変わんねぇ!」
相馬:「自由に、楽しく!」
西条:「最高の舞台を!」
0:三人同時に
相馬:「俺達が!」
国城:「いい感じに!」
西条:「お前らが!」
0:
相馬:「バラバラじゃねーか!」
国城:「ていうか今社なんて言った!?」
西条:「お前らがって」
国城:「きっっしょ!こいつきっしょい!」
0:回想終了
音瀬:「…相馬さん?相馬さーーん。西条さん??え?どっちも寝た?起きてくださーーーーいっ!」
相馬:「…」
西条:「秋吉、顔死んでる」
相馬:「ああ。わりぃ。」
音瀬:「起きてるならそう言ってください。」
相馬:「…似てね?」
西条:「うん。似てるね」
音瀬:「…?」
相馬:「はは、雑草コンクリート、いい拾い物って感じか。」
西条:「どゆこと?」
相馬:「オットセイくん」
音瀬:「音瀬です!」
相馬:「音瀬くん。俺、君のことすっげぇ気に入った」
音瀬:「…!」
相馬:「社、この子、クソハードに鍛えてやってよ。」
西条:「言われなくてもそのつもりだよ」
相馬:「そんじゃあ。俺は、こっちで待ってるよ」
音瀬:「…っ。はい!!」
相馬:「またね〜、音瀬くん、社も。」
音瀬:「また!!いや、ほんとに!また!!」
西条:「…ほんと、似てるなぁ」
音瀬:「何にですか??」
西条:「ううん。さ、帰ってまた練習だよっ。ビシビシ行くから」
音瀬:「!?まだやるんですか!?」
西条:「やるよ、やってやってやりまくらなきゃ。」
音瀬:「〜〜っ(頬を叩く)。分かりました!血反吐吐くまでやりましょう!西条さん!」
0:
相馬:「――ごほっ。ごほっ、ごほっ。ちっ、終わってんな。まじで。次が最後…いや、あと二回ってとこか。早すぎんだよ、ぼけ」
0:
音瀬:7月下旬。千葉で行われる観客数400前後の小さな公演。俺からしたらすげぇ人数だけど、「二等星」からしたら小さいらしい。訳分からん。
音瀬:出演者数は14名。ファースト、セカンドクラスからオーデションでの選抜だった。俺も出たかった!出たかった、けど。クラス昇格の審査は8月だったから、サードクラスの俺はオーデションにすら参加出来なかった。悔しい、悔しい!
音瀬:拳に力を入れてると、合格者の名前が呼ばれる。当然のように前に出るふたりが居た。
音瀬:相馬秋吉 国城界人。
相馬:「はい。いい感じに頑張りますっ」
国城:「精一杯、やらせて頂きます」
音瀬:それから次々と、俺でも知ってるような有名な役者の名前が呼ばれていく。舞台監督が一番最後まで名前を呼びきる。その中に、西条さんの名前はなかった
0:第二練習所
西条:「…」
音瀬:「あの、そのっ!今回はダメでしたけど!俺もダメって言うかそもそもオーデションにすら出れてませんしっ!次!!次一緒に頑張りましょ!ね!」
西条:「?私オーデション受けてないよ?」
音瀬:「…へ?」
西条:「言ったでしょ。私は新人教育と裏方。舞台に出るのはファーストに上がってから」
音瀬:「いや、でも。今回のオーデションはセカンドも受けられるって」
西条:「いーのいーの。私はこれで」
音瀬:「いいわけないじゃ」
相馬:「社っ!!」
西条:「…おめでとう、秋吉」
相馬:「お前、どういう事だよ。受けてないんだってな、オーデション。監督に聞いたぞ」
西条:「うん。受けてない」
相馬:「意味わかんねぇっ。なんで受けなかった!お前なら取れただろあんなオーデション!そもそもファーストにだって――」
西条:「いいんだって。」
相馬:「なんもよくねぇよ。なあ社。俺、お前とだってまた舞台に―――」
西条:「これからレッスンだし、戻るよ。またね、秋吉」
相馬:「おい!待てよ、社!話聞けって!」
0:二人 立ち去る
音瀬:「…よかったんですか…?」
西条:「うん。私には、裏方がぴったりだから」
音瀬:「……俺も、相馬さんと同じ意見です。なんで受けなかったんですか。誰だって立ちたいはずです、舞台」
西条:「いいんだって。裏方だって立派な仕事だよ。」
音瀬:「そんなことはわかってますよ、それでも、なんというか、ムカつきます」
西条:「…いつか話すよ、ごめんね」
音瀬:なんでこの人は。こんなに悲しそうな顔をしてるんだ。悔しそうな顔をしてるんだ。悔しいなら立てばいいのに。もったいない
音瀬:オーデションすら受けられない事に、とんでもない無力感を覚えた。舞台に立てるってだけで凄いことなんだ。オーデションを受けられることだって充分凄い。なのに―――
マックス:「僕は、戦争に行くのが怖い。怖くて怖くてしょうがないんだ。ヘルマン」
ヘルマン:「俺達は軍人だ。故郷で待っている家族がいる。恋人がいる。友がいる。死なせてはならない人達が故郷にいる。」
マックス:「僕は死にたくない。」
ヘルマン:「俺だって死にたくない
ヘルマン:…死にたくないから、共に生きて帰ろう。」
マックス:「…ああ。約束だ。ヘルマン」
音瀬:「…すげぇ」
西条:「…カット〜。この辺りで暗転入れるから、もうちょい上手よりで出来る?」
国城:「ああ、任せろ」
相馬:「…でもここ、センターの方が映えるだろ」
音瀬:確かに
西条:「ただでさえ上演時間がおしてるんだ、場転は早めにテンポよく回したい」
音瀬:なるほど
相馬:「なんだその打算的な演出。ふざけんな」
音瀬:確かに
国城:「黙って演出の言うことを聞け。俺達は台本通り、演出通りにやればいい」
相馬:「…そーですか。」
西条:「…」
音瀬:…空気、わる。
0:2ヶ月後
西条:オーデションから2ヶ月。クラス昇格の審査が終わって、私はセカンドに残留。音瀬くんは、私と同じセカンドに来た。
音瀬:「嬉しいですぅぅぅううううっ!」
西条:「よかったねぇ」
音瀬:「よかったですぅぅううっ!でも、満足しませんっ!まずは一週間後の本番!ちゃんと裏方して、見て学んで盗みます!」
西条:「うん。頑張ろ」
音瀬:「はい!」
西条:そして9月12日。公演、当日
音瀬:発声、ストレッチ、場当たり、リハーサルが終わって、いよいよ迎えた本番。舞台裏はこんなにも緊張感で漂っていることに驚いた。俺が見ていた向こうからは、見えなかった。感じることの出来なかった肌寒さ
音瀬:初めての裏方でろくに舞台もみれないまま、物語は終盤へと向かっていった。
音瀬:空気は、重かった
0:舞台上
マックス:「僕は、戦争に行くのが怖い。怖くて怖くてしょうがないんだ。ヘルマン」
ヘルマン:「俺達は軍人だ。故郷で待っている家族がいる。恋人がいる。友がいる。死なせてはならない人達が故郷にいる。」
マックス:「僕は死にたくない。」
ヘルマン:「俺だって死にたくない」
マックス:「――僕は、ドイツに帰りたい。母さんの作るサンドイッチが食べたい。」
0:舞台袖
西条:「…!」
音瀬:「西条さん、あんな台詞…」
西条:「うん。台本にはない。アドリブだね」
音瀬:「やっと、やっと生で見られるんですね!二人の即興劇が!」
西条:「…いや。」
0:舞台上
マックス:「皆に会いたい、ヘルマン、お前とだって、昔みたいに――」
ヘルマン:「死にたくないから、共に生きて帰ろう。」
マックス:「―――。」
0:舞台袖
音瀬:「台本通りに戻っちゃいましたね」
西条:「…」
音瀬:「見たかったなぁ変態コンビ…」
西条:「うん。見たかったね」
0:
音瀬:結果として、舞台は大盛況。満席は当然、緞帳が下がっても尚鳴り止まない幾つもの拍手が鼓膜を揺らした。
音瀬:即興劇が見れなかったのは残念だけど、それでもやっぱり、あの二人は凄い
西条:「音瀬くん、撤収作業行くよ」
音瀬:「はいっ!」
0:楽屋から声が聞こえる
相馬:「ふざけんなよ界人てめぇ!!」
国城:「こっちのセリフだ。何回言わせるんだ秋吉、演出通りにやれ」
相馬:「練習通り演出通りって、俺たちがやってんのは生の舞台だ!一回きりなんだよ!その時思った感情を即興に乗せて何が悪い!お前だってこれを楽しんでただろ!」
国城:「アドリブなんかしなくても芝居は成立する。しないならそれは脚本の問題だ。衣装が破ける、離せ」
相馬:「そーかよっ。そんなに予定通りにやりてぇなら人間がやる必要ねぇな、機械音声にでも喋らせろっ!」
国城:「――っ。うるせぇんだよっ、いつまでガキみたいなこと言ってんだ。俺達はプロだぞ!ヘマは出来ない、一回きりだからだ!やり直しだって効かない、生だからだ!金貰って芝居やってる分際で、自分の事情押し付けてんじゃねぇよ!」
相馬:「だったらプロなんかやめたっていい!親父はそんなお前を見たくて二等星を作ったんじゃないっ、楽しんでなきゃ意味が―――ごほっ。」
国城:「…。みんなもほら、見てないで撤収作業しろ」
0:国城 退室
相馬:「…くそ。」
0:舞台裏 廊下
国城:「…はぁ」
音瀬:「あ…。国城さん…」
国城:「ん。ああ、音瀬くんだったか。」
音瀬:「お疲れ様ですっ。」
西条:「お疲れ、随分怒られてたね。」
国城:「…ああ。困ったもんだな」
音瀬:「どうしてアドリブ返さなかったんですか」
国城:「……は?」
音瀬:「あれじゃ、相馬さんが可哀想です。」
国城:「台詞の流れとしては成立してた。何も可哀想じゃない、あいつが勝手に暴走しただけだ」
音瀬:「でも国城さんも相馬さんも楽しそうじゃなかったです。二人の演技は凄かったですけど、あんなのじゃ俺、今ここにいません」
国城:「社、新人教育どーなってんだ」
西条:「…」
国城:「おい、聞いてんのか」
西条:「界人のそれは八つ当たりだ。よくないよ。これは、私たちの問題だ。違う?」
国城:「…帰る」
音瀬:「国城さん!」
国城:「社はお前を可愛がってるみてぇだが、俺はお前を認めない。センスがあるなしの問題じゃねぇ。何も知らねぇし分かってねぇくせに憧れだのなんだので口出してきやがる。
国城:芝居は、舞台は。ひとりじゃ成立しないんだ。だから演出がいる。脚本家がいる。裏方がいる。その上で、やっと舞台に立っているのが役者だ。
国城:俺ら役者が、個人的な愉悦で舞台を壊していいわけないだろ。俺達は、舞台の上に、立たせてもらってるんだ。てめぇも秋吉も、ちったぁ立場を弁えろ。ガキのままごとじゃねぇんだぞ」
音瀬:「…」
西条:「界人、言い過ぎ」
国城:「間違ったことを言ったつもりは無い。これでこいつが役者を辞めるなら好きにすればいい。その程度で折れるなら、どの道この先やってけねぇよ」
西条:「正論。だけど言えばいいってものじゃないだろ、馬鹿。ごめんね音瀬くん。界人もピリついてるみたいだし――」
音瀬:「国城さんの言うことは間違ってないです。正しいです。」
西条:「…」
音瀬:「…でも、ひとつだけ言うのなら。役者が立たせてもらってる。なんて理由で演技をしてるなら、それは舞台に関わってる人にも、観客にも、オーデションで蹴落とした人にも。失礼だ。」
国城:「…」
音瀬:「俺は、舞台に立ちたいから芝居をしています。俺がやりたいこと、めいいっぱい詰め込んで、最高の作品にするんです
音瀬:言葉を、動きを、表現をいちばん伝えられるのは、役者だと思います。国城さんのそれは、協調じゃなく、妥協ですよね」
西条:「…」
音瀬:「後ろめたい気持ちがあるのは、いいと思いますし、俺には確かに関係ない。でも、舞台に。演技に持ち込むのなら。俺にだって関係あります。
音瀬:だから、今の国城さんは。かっこ悪いです」
国城:「…はぁ。」
音瀬:「あ。やべ」
国城:「やべぇよ言い過ぎだ、先輩だぞこちとら」
音瀬:「すみませんっっ!でも、本心です!」
国城:「だからやべぇんだろうが。」
音瀬:「…。生意気なこと言いましたっ、本当にすみません。でも、前言を撤回する気はありません。
音瀬:…以上です、失礼します」
西条:「どこ行くの」
音瀬:「撤収作業、手伝ってきますっ。俺が一番新人だから、俺が一番頑張らないと。
音瀬:で、明日も血反吐でるまで練習します。そのために、さっさと帰って、飯食って寝ます」
国城:「…なんだそれ」
音瀬:「俺も何言いたいかわからなくなりました!!ので、逃げます!失礼しますっ!」
0:音瀬 撤収作業へ
西条:「…言われちゃったね」
国城:「…社。俺は今、かっこ悪いか」
西条:「さぁ。界人がそう思うなら、そうなんじゃない?」
国城:「俺はお前に聞いてんだよ」
西条:「うーん。そうだね。私も、君も。かっこ悪いんじゃないかな」
国城:「…だな」
西条:「ちょっと、スッキリした」
国城:「…正論。言えばいいってもんじゃねぇな」
西条:「音瀬くんは素直だからね。思ったことはすぐ口に出ちゃうんじゃない。そういう所が好きなんだけど」
国城:「ああ。本当にクソガキだ」
西条:「ませちゃって。」
0:場面転換
0:とある墓前
相馬:「…親父。前話してた公演、終わっちまった。社はオーデションにすら出ねぇし、界人はあんなんだし。俺も身体ボロボロだし
相馬:…あの時、俺があそこに居たら。こうはならなかったんだろうな。
相馬:……なあ。親父ぃ。俺、折れちまいそうだ…」
音瀬:「はぁ、はぁ。やっぱり、きっつ」
相馬:「音瀬くん?」
音瀬:「相馬さん!奇遇ですね」
相馬:「…。君も親父の墓参りか?嬉しいな、ありがとう、きっと親父も喜んでるよ」
音瀬:「…俺。国城さんと、喧嘩しました」
相馬:「喧嘩ぁ?まじで?」
音瀬:「喧嘩…っていうか、一方的に言いたいこと言い合っただけっていうか」
相馬:「それを喧嘩って言うんじゃないかな」
音瀬:「はい。」
相馬:「そんでここに来たのかい」
音瀬:「…俺は、相馬さんのお父さんに会ったことが無いので、どんな人か、知りません。
音瀬:でも、二等星を作った人なら、きっとすごい人だし、今の国城さんと西条さんに、なんて言うのかなって、どうすれば。あの人たちは、なんというか…救われるんでしょう」
相馬:「…どうだろうね。そもそも救おうだなんて考えることが余計なお世話なのかもしんない。あいつらは、あいつらなりの理由があって、今ああしてる。難しいところだよ。どっちも間違ってない。ってのが事実なんじゃないかなって、親父なら言うよ」
音瀬:「…相馬さんのお父さんって、どんな人だったんですか」
相馬:「うーん。親父はさ。なんでも「面白い」って言う人だった。俺が本番中に台詞ド忘れした時とか、界人がアドリブで他の人置いてってリカバリーに必死だった時とか、社が緊張のし過ぎで舞台中に気を失った時とか
相馬:全部大爆笑して、面白い。って言う人」
音瀬:「器がでかいっていうか、なんか、凄い人ですね!」
相馬:「どーだろうね。親父は演技が死ぬほど好きなだけでセンスは全くなかった。声もでかいだけだし、動きもやたらと胡散臭い。
相馬:役者としては何も凄いところなんて無いんだろうけど、それでも親父は芝居が好きだった。あの人、楽しそうに芝居するし、楽しそうに俺らの芝居見てくれるんだ」
音瀬:「寛容な人、っていうか、怒らなさそうな人って感じですね!優しそうで好きです!」
相馬:「いーや、全然怒るよ。」
音瀬:「ふむ」
相馬:「やりたい事押し殺してる時とか、つまんなそうに芝居してる時とか、もうとにかく怒る。何言ってるか分かんないくらい怒る。」
音瀬:「それも怒るって言うか」
相馬:「そ。暴れてんの」
音瀬:「はは、そんな人なら、きっと今。呆れてるんでしょうね」
相馬:「それも、どうだろ。」
音瀬:「そう言えば、どうしてこの劇団の名前は「二等星」なんですか?」
相馬:「あー。一等星じゃないのは何故?ってことね
相馬:親父は、役者が舞台の花形だって言ってた。実際そうだと思うし、間違ってもないと思う」
音瀬:「俺もそうお思います。でも国城さんは、舞台はひとりじゃ立てないって」
相馬:「それも正解。だから、それぞれやりたいことを押し付けあって、ちょうどいい所でガチってハマればいいんじゃない?ってのが親父の考え方
相馬:一人輝く一等星より、皆でもっと大っきい光を紡ぐ二等星の方がかっけーじゃんって」
音瀬:「確かに、確かに確かにっ!」
相馬:「…だから、今は皆で繋ぎ直してるって感じじゃないかなぁ。親父が肺癌で死んでからは、あいつらも何を頼りにすればいいか分かってないんだと思う。」
音瀬:「…」
相馬:「ほーら音瀬くん、そんな顔すんなっ。大丈夫、俺がなんとかする。俺だってあいつらが楽しく芝居してるとこ、絶対にまた見たい
相馬:だから全部俺に任せとけ、後輩」
音瀬:「…俺に出来ること、あれば言ってください!なんでも手伝います!」
相馬:「そーかそーかっ、でもこの役はやらねーっ。界人と社は俺の大事な親友だっ。俺がなんとしても舞台に立たせんのっ」
音瀬:「ずるっ!西条さんは俺の先輩ですしっ、国城さんは俺の憧れですっ!俺も俺で勝手に頑張ります!」
相馬:「ほーっ、そうかそうかっ!じゃあ、ライバルだ」
音瀬:「はい。ライバルです」
相馬:「…よし。じゃあ、俺は疲れてっから飯食って寝る!」
音瀬:「あ!俺も同じこと言いました!」
相馬:「パクんな」
音瀬:「俺が先です。…って!やべぇっ、今日鍵の当番俺だっ。練習場あけっぱ!」
相馬:「はっ、ウケる。」
音瀬:「西条さんにころされるっ!し、しし、失礼します!!」
相馬:「ほーい、気ぃつけてな」
0:音瀬 立ち去る
相馬:「…親父、見てたか?面白いやつが入ってきたよ
相馬:…そうそう、俺が、折れてる場合じゃないんだ。誰の為なんてことは言わない
相馬:お節介余計なお世話上等!俺が、あいつらが大好きだから。頑張るんだ」
0:場面転換
0:街中
国城:「はぁ〜、疲れた。」
西条:「疲れたね」
国城:「…なんか、懐かしいな。この感じ」
西条:「あー。昔は三人で夜遅くまで練習して帰ってたなぁ」
国城:「あそこのコンビニ、潰れたんだな」
西条:「らしいよ。よく肉まん買い食いしてたのに。秋吉が」
国城:「食い意地だけは張りまくってたからなぁ」
西条:「だねぇ」
国城:「…」
西条:「…界人、次の演目、聞いた?」
国城:「ローダンセに告ぐ、な」
西条:「…出るの?」
国城:「まぁ」
西条:「いいね。今回もバックアップは任せてくださいな」
国城:「……」
0:場面転換
0:練習場
音瀬:「はぁっ、はぁっ、よかった、バレてない!鍵、鍵。っと
音瀬:…風、涼しくなってきたなぁ」
0:場面転換
0:街中
国城:「…なあ、社」
西条:「どうしたの」
国城:「…いや、なんでもない」
西条:「…ん。そっか」
0:場面転換
0:とある墓前
相馬:「…ごほっ、ごほ。蝉の声、聞こえなくなったなぁ。
相馬:多分。次が最後の舞台になるよ。親父
相馬:他のやり方もあると思う。全部うちあけて、残りの人生平穏に過ごすのも、どっかの企業で朝から晩まで働くのも、夢を追いかけるのも。だいたい全部一緒だろ。一回きりの人生、どーせ棒に振るなら、俺は舞台の上に居たい」
0:場面転換
0:街中
西条:「今年は皆でお墓参り、行けなかったね」
国城:「忙しいからな。しゃーない。」
西条:「そうだね、しょうがない」
西条:「見て界人。じぇーけーだ、じぇーけー。若いなぁ」
国城:「もう長袖着てんのか」
西条:「衣替えの季節だから」
国城:「夏。終わるな」
西条:「うん、終わる。」
0:
音瀬:蝉が鳴き止み、風が涼しくなってきた。
音瀬:十月下旬。ローダンセに告ぐ。の公演決定が発表された