夜釣り
中学生の時。私は海のそばに住んでいたので、友人と海で遊ぶことが多かった。釣りをしたり、テトラポットの上を駆け回ったり。今にして思えば危ないが、当時の私たちにとっては絶好の遊び場だった。そして、その日は祭りの日。友人と祭りに行った後、私の家に泊まることになり、夜食を求めて深夜コンビニに行くことに。歩いていける距離にあるので、私の親にばれない様にこっそり抜け出してコンビニへ。その後、海を見ながら食べようと友人が言い出し、夜の海を見ながら夜食を食べることに。
「まだ11時くらいだし、大丈夫でしょ」
夜釣りをしている人もちらほらいる。尤も、見つかれば何か言われるかもしれないので、隠れて堤防の端に陣取る。そこは低い位置にあるので、手を伸ばせば触れられるほどに海面が近い。
「うわ、海真っ暗」
友人が、落ちていた釣り糸と針を拾い、結んで垂らす。釣りがしたいわけではなく、話の最中で手が暇になったからやっただけのことだ。そのまま雑談をしていると……
「あれ」
釣り糸を持つ友人が声を上げる。
「どうした?」
「なんか引っ張ってる」
「え、釣れたの?」
「引っ張られてるんだし、そうだろ」
友人は釣り糸を指に巻き付けて引っ張る。だが。
「何これ……全然ダメなんだけど……!」
「糸だけだし力入ってないんだろ。もう離せよ」
「そう、だな……」
指に巻いた糸をほどき始める友人。だが、
「うわ!?」
もう少しで外れるというところで友人が糸に引っ張られ海に落ちかける。
「おい!?」
とっさに私も友人の手をつかみ、友人の腕だけが海に入った状態になる。
「糸は、どうなんだよ!?」
「糸じゃない、なんか、掴まれてる!」
「はぁ!?」
私は地面に踏ん張って友人を引っ張っり、友人も自分の足で踏ん張っているが、それと同じくらい強い力で友人は引っ張られている、綱引きのような状態だ。何に掴まれてるというのか。
「おい! なにやってるんだ!」
私たちの声に気付いたのか、懐中電灯の明かりが私たちを照らす。夜釣りをしていた人だ。
「あ」
友人が一言、声を上げた直後、急に友人を引く力が消え、友人を引っ張り上げる。
「はぁ、はぁ……大丈夫か?」
「ああ、助かった……ありがとう」
その後、夜釣りの人に家に帰るように叱られ、私の家に帰る。帰るまでも友人はずっと掴まれていたという左手を気にしており、
「何かかゆい」
電柱の明かりではよく見えなかったので、私の部屋で改めて見ることに。すると……
「うわ……」
「まじかよ」
友人の左手には、無数のひっかき傷があった。手の中と手の甲どちらにもあり、まるで爪でひっかいたかのようだった。すぐに消毒し、包帯を巻いてその日は寝ることにした。友人も元気がなく、常に青ざめていたので、私もいざというときは救急車を呼ぶ準備をしていたが……何事もなく朝になり、友人は元気になり、傷も消えていた。
「悪いな、心配かけた」
「本当に大丈夫なのか?」
かゆみや違和感ももう無くなったそうだ。あの日友人を海に引きずり込もうとしたものは何なのか。私にはわからないが……夜釣りの人の懐中電灯の明かり。あれで一瞬だけ友人は見えたのではないかと私は思う。なぜなら、あの一瞬、友人の体が硬直して自身の足の踏ん張りが緩んでいた上、何かに気付いたかのように「あ」と言っていた。そのことを指摘しても友人は何も見てないと言う。それが本当なのかどうかは、友人にしかわからない。
完




