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かつて青かった星へ

作者: 灰根量
掲載日:2021/07/14

 世界は滅んでいました。

 いつからそうだったのか、わかりません。


 何もなく、ただ荒野だけが広がる世界。

 かつてあったという緑色の野っぱらは何処にもありません。

 少年は、かつてそれがあったことを本で知りました。


 少年は幸運にも、字が読めました。

 そして不運にも、字が読めてしまったのです。


 その本は、同じぐらいの年頃の少女がくれたものでした。

 少年と異なる肌の色をした少女でした。


 出会ってすぐの頃、少女は酷く汚れていました。

 最初少年は、肌の色が違うのは汚れているからなのだと思っていました。


 少年と大人たちは少女に敵意がないことを伝えました。

 少女は数日の間は大人たちを警戒した様子でしたが、それもすぐ解れました。


 少女と仲良くなった少年は、ある日その本を読みながら少女に問います。

「どうして、世界は滅んでしまったのだろう」


 少年にも少女にも、それは分かりません。

 大人に聞いても、教えてはくれないのです。

「どうして、ぼくたちは生きているのだろう」


 少年は小さな体で目いっぱい考えましたが、その答えは出ませんでした。

 少女はただ、その姿をどこか悲しげに見つめているのです。


 やがて考え疲れた少年は、「さあ、行こう」と少女の手を引いて、何もない野っぱらに駆けだしました。

 少年と少女は疲れ果てて倒れてしまうまで、野っぱらを駆けまわりました。


 倒れ込んだ背中に当たる土の感触は固かったですが、それでも少年は、そうしているだけでどこか満ち足りた心地がしたのです。


 ある時突然、少女はどこか遠くに行ってしまいました。

 遠くに行ってしまったのだと、大人たちに聞かされたのです。

「急に居なくなって。どこへ行ってしまったんだい? ひょっとして隠れているのかい? なるほど、ぼくが鬼か!」


 少年はあちこちを探し回りました。少女と出会った場所も、一緒に本を読んだ場所も、ともに駆け回った何もない野っぱらも。

 しかし少女の姿を見つけることは出来ませんでした。


「いったいどこへ行ってしまったんだい?」

 疲れ果てて寝転がった少年の目の前に、少女の顔がありました。

 笑っていました。それは少年の見たことの無い表情でした。

 少年は少しうれしくなって、「なんだ、すぐそばにいたんじゃないか」と言いました。


「やっと見つけた。探したんだよ」

 少女から返事はありませんでした。


 少年は身を起すと、少女にまた語り掛けます。

「本当に、どうして世界は滅んでしまったのだろう」

 やはり少女から返事はありませんでした。


「さあ、行こう」

 少年は少女の手を引いて何もない野っぱらに駆けだしました。


 少年は楽しげに笑っていましたが、その手はただ空を掴んでいるばかりでした。

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