かつて青かった星へ
世界は滅んでいました。
いつからそうだったのか、わかりません。
何もなく、ただ荒野だけが広がる世界。
かつてあったという緑色の野っぱらは何処にもありません。
少年は、かつてそれがあったことを本で知りました。
少年は幸運にも、字が読めました。
そして不運にも、字が読めてしまったのです。
その本は、同じぐらいの年頃の少女がくれたものでした。
少年と異なる肌の色をした少女でした。
出会ってすぐの頃、少女は酷く汚れていました。
最初少年は、肌の色が違うのは汚れているからなのだと思っていました。
少年と大人たちは少女に敵意がないことを伝えました。
少女は数日の間は大人たちを警戒した様子でしたが、それもすぐ解れました。
少女と仲良くなった少年は、ある日その本を読みながら少女に問います。
「どうして、世界は滅んでしまったのだろう」
少年にも少女にも、それは分かりません。
大人に聞いても、教えてはくれないのです。
「どうして、ぼくたちは生きているのだろう」
少年は小さな体で目いっぱい考えましたが、その答えは出ませんでした。
少女はただ、その姿をどこか悲しげに見つめているのです。
やがて考え疲れた少年は、「さあ、行こう」と少女の手を引いて、何もない野っぱらに駆けだしました。
少年と少女は疲れ果てて倒れてしまうまで、野っぱらを駆けまわりました。
倒れ込んだ背中に当たる土の感触は固かったですが、それでも少年は、そうしているだけでどこか満ち足りた心地がしたのです。
ある時突然、少女はどこか遠くに行ってしまいました。
遠くに行ってしまったのだと、大人たちに聞かされたのです。
「急に居なくなって。どこへ行ってしまったんだい? ひょっとして隠れているのかい? なるほど、ぼくが鬼か!」
少年はあちこちを探し回りました。少女と出会った場所も、一緒に本を読んだ場所も、ともに駆け回った何もない野っぱらも。
しかし少女の姿を見つけることは出来ませんでした。
「いったいどこへ行ってしまったんだい?」
疲れ果てて寝転がった少年の目の前に、少女の顔がありました。
笑っていました。それは少年の見たことの無い表情でした。
少年は少しうれしくなって、「なんだ、すぐそばにいたんじゃないか」と言いました。
「やっと見つけた。探したんだよ」
少女から返事はありませんでした。
少年は身を起すと、少女にまた語り掛けます。
「本当に、どうして世界は滅んでしまったのだろう」
やはり少女から返事はありませんでした。
「さあ、行こう」
少年は少女の手を引いて何もない野っぱらに駆けだしました。
少年は楽しげに笑っていましたが、その手はただ空を掴んでいるばかりでした。




