乙姫「来ちゃった♡」
むかしむかし、浦島太郎と名乗る若者が居りました。
浦島は天気が良いときは海にて釣りをするのが日課となっており、この日も穴場を目指して波打ち際を歩いておりました。
すると、いじめっ子達が大きな亀をいじめておりました。
「いかん! イジメは良くない! 止めなさーい!!」
浦島がいじめっ子を軽く撲殺すると、いじめっ子達は救急車で運ばれて行きました。
「ありがとうございます。お礼に竜宮城へ──」
カメが背中を差すと、浦島の目に海から現れた一人の女性が目に付きました。
「来ちゃった♡」
「──乙姫様!?」
カメが酷く驚きました。
竜宮城の主である乙姫は小脇に重箱のような物を抱えており、それを浦島へ差し出すと、首を傾けて可愛らしい声で言いました。
「開けて♡」
浦島は不思議に思いましたが、乙姫が可愛かったので特に気にすること無くその箱を開けました。
──ボハッ!
「うおっ! 煙が──!!」
たちどころに煙が溢れ出し、浦島を包みました。
そして煙が晴れると、箱の中にはヘドロ色をしたダイオウグソクムシが入っておりました。
「……なに……これ?」
浦島が眉をひそめて問い掛けました。
「サンドイッチ♡」
「サンドイッチィィィィ!?!?!?」
浦島の悲鳴にも似た声が海辺に響き渡りました。
「食べて♡」
「……は?」
「食 べ て ♡」
「マジで?」
「食して♡」
「いやいやいやいや」
「食 し て ♡」
「あ、はい……」
浦島は、乙姫の笑顔の圧力に負けてヘドロ色のダイオウグソクムシを手に取りました。
(ぐぉぉ……これ絶対サンドイッチの手触りじゃない!!)
口が引き攣り、今にも泣き出しそうな浦島。
──ニコッ♡
それでも乙姫の笑顔は崩れません。
浦島は奇跡を信じて、そのダイオウグソクムシを口にしました。
「……マッッッッッッッッッッッズ!!!!!!!!!!」
浦島はそのあまりの不味さに吐き気を超えた気持ち悪さを感じ、瞬く間に精神的ストレスから老けてしまいました。
「ふがふが……」
浦島は気が付くと一人波打ち際に倒れておりました。
年老いた体は直ぐには動かず、立ち上がるのにも苦労しました。
海は静かに波を運び、今日も変わらずそこにありました。