誰もいないカフェ
大学からの帰り道でカフェを見つけた。
そのカフェがあるのは栄えた商店街でもなく、人通りの多い大通りでもない。
気まぐれにいつもとは違う道で帰ろうと思って見つけた裏道の一角。
SNSに載せても絶対に映えそうに無い外観に加え、窓越しに見える店内の静寂感。
言ってしまえば、潰れかけそのものだった。
それでもなぜか無性に気になってしまって。
そもそもこの帰り道は地域の開拓も含めたものでもある。
一人暮らしを今年から始めた俺は馴染みの低いこの地域を散策することが稀にあった。
今日の気まぐれもそんな理由があったのだと思う。
そして見つけた、未開の地。
そんな場所に惹かれないわけがなかった。
俺は、店のドアを開けて店内を窺った。
やはり店の中に客はいなかった。
それどころか店員さえいない。
不安になって店表を確認したが、「営業中」の木板が確かにあった。
俺が店内をうろうろしていると、奥から黒いエプロンをつけた女性が現れた。
年齢は俺より数個上だろうか。
とても大人びた――いや、大人な女性。
俺はその美しい風貌に釘付けになっていた。
染まる頬は熱を帯び、体を硬直させる。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
その言葉に俺は自然とカウンター席を選んでいた。
テーブル席も当然空いているのに。
香るコーヒーの匂いが鼻をくすぐる。
木製の家具で統一された内装がどこか心を落ち着かせてくれた気がして。
「ご注文はいかが致しますか?」
突然の声に、俺は体を震わせ店員さんの顔を見る。
店員さんは唇を緩ませることなく、俺の反応を笑うことも無い。
その無反応が逆に俺を恥ずかしくさせた。
その反動か否か、似合いもしないコーヒーをブラックで注文するのであった。