自称勇者現る 2
「…はぁ、やっと見えてきた…!」
僕はレイルちゃんと別れた後、ひたすら南に向かって走った。レイルちゃんには南に行けば王都に着くと言われたが、まさか2日近く走る事になるとはな。
レイルちゃんに野営の道具は一通り貰っていたからなんとかなったけど、こんなに遠いなら言って欲しかったよ。
「はぁ、体の疲れは殆ど無いけど、精神的に疲れたな。」
僕はこの1年でだいぶ丈夫になったみたいで、これだけ走ってもあまり疲れが無い。身体強化魔法も凄く便利だし、やっぱり魔法って凄いな。
そう考えているうちに門の前まで着いたが、ここである不安が込み上げて来た。…これって入れてもらえるのだろうか?
「こんな朝早くに1人でだなんて珍しいな。」
「ええ、まあ。いろいろありまして。通って大丈夫でしょうか?」
「ああ、通行証を見せてくれ。」
やっぱりそうなるよな。そんなのあるわけ無いじゃないか。…さすがに無理だよな。
「…これでも良いでしょうか?」
「ん?何だこれは。見た事ないぞ?」
僕は無理だと思いつつも、高校の生徒手帳を出した。高3の時にこの世界にやって来たから、もう高校生じゃ無いけどな。…というか卒業してないから僕の最終学歴中卒じゃないか。
「随分と精巧な絵だな。だがこんな通行証見た事無いぞ。文字も何て書いてるのか分からねぇし。」
「だめでしょうか?」
まあ絶対に無理だよな…。どうしよう。お金で解決出来ないだろうか?レイルちゃんにいっぱい貰ったし。
「…だめだな。王都に身分を証明出来る知り合いはいねぇのか?」
「…いません。あの、お金払うんでそれで通して頂けないでしょうか?」
レイルちゃんに貰ったお金は、白い硬貨とそれより一回り大きい金貨を10枚ずつ。多分だけど、僕の知識だとこの白い硬貨の方が価値があると思う。だから僕は大きい金貨を1枚出した。
「な…大金貨だと⁉︎俺たちを買収するつもりか⁉︎」
「あ、間違えました。こっちでした。」
僕の予想は大外れしたようで、この金貨は物凄く高価な物みたいだ。レイルちゃんも教えてくれれば良いのに。
「…は、白金貨ぁぁあ⁉︎お前何者だ!これは何処で手に入れたんだ!」
「あ、えっと。師匠に貰いました。」
くそっ。やっぱりこっちの方が高価だったのか…。他の種類の硬貨は無いし。レイルちゃんめ!
「な、何者なんだ、お前の師匠は⁉︎」
「…レイルちゃんっていうSランク冒険者です。」
うーん。この人達がレイルちゃんを知ってるか分からないんだよなぁ。ずっと山に篭ってるって言ってたし。
「本当か⁉︎生きていたのか!直ぐに団長に報告だ!お前はちょっとここで待っていてくれ。」
「え…。はい。」
えー。レイルちゃんって有名人みたいじゃないか。団長を呼ぶって相当だよなぁ。でもこれで入れそうかもしれないな。
それからしばらく経つと、団長に報告に行った人が1人で戻ってきた。団長忙しかったのかな?
「国王様が話を聞きたいとの事です。御同行下さい。」
「…え?」
国王?なんで?門番の人もさっきと全然態度違うし。
そして僕は言われるがまま門番の人について行った。王都に入る事は出来たけど、そのまま国王に会うだなんて…。僕は一般的な庶民なのに…。
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「君がレイルの弟子って事だけど、本当?」
「は、はい。賢士と申します。」
僕が通されたのは、王城の中の応接間のような所だった。てっきり玉座に座った髭面のおじさんの相手をするんだと思っていたら、国王は若い男性だった。しかもテーブル挟んで目の前に居るし。
国王の後ろには体格の良い男性が立っており、この人が騎士団長らしい。しかもそれ以外には護衛の1人も居ないから、何かあったらこの人だけで国王を守り抜けるくらい強いんだと思われる。まあ、僕よりは弱いと思うけどね。
「レイルは元気にしてるかい?」
「はい。元気にしております。」
はぁ、緊張する。庶民には辛いよ。
「そう。レイルはボクと同い年でね。冒険者時代に結構ライバル視してたんだよ。」
「…え?国王様も冒険者だったんですか?というかレイルちゃんと同い年って、国王様って物凄くお若いですか?」
国王は僕より少し上くらいに見えたけど、レイルちゃんと同い年って事はまだ10代って事か?ちょっと老け顔なのか?
「あははは。レイルちゃんか…!僕はレイルと同い年で27歳だよ。レイルの年齢は聞いて無かったのかい?」
「…え?聞いてましたけど、絶対に嘘だと思っていました。」
国王が言うって事は本当にレイルちゃんは僕より年上って事か⁉︎嘘だ!そんなわけ無い。あの見た目で27歳?…無い無い。
「…それでレイルは何をしているんだ?もう10年も行方が分からなかったんだけど。」
「えっと…。僕を異世界から召喚して修行をつけてくれていました。魔王を討伐するために!」
国王に呼ばれた時はどうしようと思ったけど、かえって良かったかもしれないな。こうして事前に魔王を討伐する事を報告出来たし。
「……。つまり君は違う世界に生まれたけど、魔王を討伐する為にこの世界に来たって事で良いのかな?」
「はい。僕は勇者なんです。勇者である僕が必ずや魔王を討伐して見せます!」
うんうん。きっと国王はこれから『君があの憎き魔王を討伐してくれるのか⁉︎』って感じで驚き、感動するはずだ。
「…勇者ってのがよく分からないけど、君が…魔王を…ぷふっ…討伐するんだね?…あはははははっ!」
「な、なぜ笑うんですか⁉︎国王様だって魔王に悩まされていますよね?」
国王は予想だにしない反応をした。これは僕みたいなやつじゃ魔王を討伐出来ないって思われてるって事なのか?僕の実力を知りもしないで!
「いやー、ごめんね。魔王に迷惑かけられる事は何度も有ったけどさぁ。でもねぇ。」
国王はそう言うと騎士団長を見た。すると2人は諦めたような顔で乾いた笑いをこぼす。
「迷惑なやつなら討伐すれば良いじゃないですか!僕なら魔王だろうと倒せます。任せてください!」
「…うん。まぁ頑張ってね。」
国王はやっぱり僕の事を信用していないようだ。だけど、それはもうどうでも良い。予定とはだいぶ違うけど、国王に魔王討伐を応援されたんだ。それだけで十分だと思おう。
「はい!僕が勇者として必ず魔王を討伐して見せます。」
そして僕はそう言い残し、部屋を出た。僕が部屋を出て歩き出すと、さっきの部屋から物凄い大きな笑い声が聞こえてきた。くそっ。あの国王笑いすぎだろ!絶対に僕を認めさせて謝らせてやる!
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
僕が王城を出てまず向かったのは冒険者ギルドだ。ギルドの位置は王城を出る時に門番の人に教えてもらったから、直ぐに見つける事が出来た。
「ここが冒険者ギルド…!ここから僕の伝説が始まるんだ!」
そして僕は気合いを入れ直し、ギルドに入っていった。




