幸せ
「もう終わってたか。そしてやっぱりソラだったか。」
「ギルドマスター、遅いですよ。」
今凄く大事な話の最中だったけど、遅ればせながらギルドマスターがジェームズさんと共にやって来た。ジェームズさんはやる事があったみたいだから一度戻っていたけど、再びやって来た。
「どういう事なのよ!詳しく説明しなさい!」
「説明するまでも無いだろうが。天使とはほぼ永遠を生きる存在。人間であろうとその血を濃く受け継いでいるのであれば、寿命が長くなるのは当然であろう。」
「でも私の先祖にそんな長生きしている人いなかったわよ!聞いたことも無いんだから!」
このドラゴンが言っていることが本当なら、クラウドの町の人たちは凄く長生きしていたことになる。でも私の曽おじいちゃんも120歳くらいで死んじゃったし、そんなに長寿な人が居た記憶は無い。私が知らなかっただけかもしれないけど、お母さんがそんな人いないって言っている以上、いないんだろう。
「それは天使の力が発現しなかったからであろう。お前以外に…いや、お前とソラ以外に天使の力を使えるものは居たのか?」
「居たわよ!私の姉さんも使えたわ!」
お母さんの姉さんって事は、私の本当のお母さんも翼を出せたって事なんだ。私は一度も見せてもらったこと無いけどな。まあ、冒険者とかじゃなく普通に生活してれば使う事無いもんな。
「それ以外には居たのか?」
「…そんなの分からないわよ。でも姉さんも私もソラも使えるんだから、他にも使えた人くらい居たでしょ!その大天使の子供が生まれたのはものすごく昔の事なんでしょ?」
子供のころは普通にクラウドの町に住んでいたお母さんが、大天使の存在をシルビアさんに教えてもらうまで知らなかったんだから、記録が残らないくらいには大昔の事だと思う。
「確かにもう1000年ほど前になるな。だがなヴィオラ、そもそも人間が天使の力を使えるのがおかしいんだ。魔王の一族である魔族以外に、その力を使いこなせるものが居るなんぞ、我は聞いたことが無いんだ。」
「…じゃあ、私とソラは後何百年も一緒に生き続けられるって言うの? …そんなの。そんなの幸せすぎるじゃない!」
お母さんは声が上ずり、とても嬉しそうだ。私も長生きできるのは嬉しいけど、そんなに喜ぶこと?
「…嬉しそうだな。とにかく、我は100年以内にお前を超える。忘れるで無いぞ!…取り合えず、ソラ。何度もすまないが傷を治してくれ。」
「そんなの私が治すわよ。完全回復。100年後には私はもっと強くなってるかもしれないわよ♪」
こんなにも上機嫌なお母さんを見るのは久しぶりかもしれない。もしかしたらお母さんは山に引きこもっていた反動で、やりたいことが沢山あるのかもしれない。それも人生一回分じゃ足りないくらいに。
「そうだ、名前を考えないといけないんだったわ。そうね…私は今凄く幸せな気持ちだから、『ハピネス』ってのはどうかしら?」
「随分と可愛らしい名前だな。まあお前がつけた名前なら何だってかまわない。好きに呼ぶがよい。」
そして、龍王であるドラゴンの名前は『ハピネス』に決まった。でもこんなドラゴンをペットにしてどこで飼うんだろう?家には入らないし、家の前に置いたら近所迷惑だろうし。
「お前じゃなくてご主人様でしょ?ほら!」
「ぬう、調子に乗りすぎではないか!」




