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パーティーを追い出してもらいたいと思っていたけど  作者: 畑田 紅
1章

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34/61

敗北

 

「ヴィオラ、ソラちゃん。少しクラウドの町を見て行ってもいいかしら?」


 私たちが王城に向けて飛び始めて少し経つと、シルビアさんがそう言ってきた。クラウドの町は魔族の国を出てすぐだから、あと少しで見えてくる。


「私はいいよ。お母さんもいいよね?」


「……うん。」


 少し渋い表情でお母さんは返事をした。


「ありがとう。」


 そしてすぐにクラウドの町に到着して私たちは降り立った。クラウドの町はもちろん、昨日通った時と何も変わらず、閑散としている。何年も放置された場所だからだ。


「……はあぁ。まあ、こうなってるわよね…。」


 お母さんはため息をつき、寂しそうな表情をしている。私も最初に来たときは同じような表情をしたんだと思う。


「シルビアはどうしてここに寄ろうと思ったの?」


「法が作られ、私は何があったかを聞かされただけで、実際に来て見る事はできなかったわ。魔王城に攻めてきた冒険者たちの怒りを見れば、それが起きたことは本当だって分かっていたんだけど…。本当に…本当にごめんなさい…。」


 シルビアさんは、また私たちに頭を下げて謝ってきた。


「もういいって言ったじゃない。いい加減しつこいわよ。さっ、もう行くわよ。」


「……ありがとう、ヴィオラ。」


 もう十分シルビアさんの気持ちは伝わっている。お母さんもそう感じているみたいで、シルビアさんに頭を上げさせた。


 そして、私たちは再び飛び始めた。


「ねぇ、シルビア。せっかくだから王都までどっちが早くつけるか勝負しない?景品はサラの手作りケーキ。」


「ちょっと、勝手に私を巻き込まないでちょうだい。まあ、それくらいなら別にいいけども。」


「いいわよ、私の本気を見せてあげるわ。」


 お母さんは、辛気臭い空気を変えようしたのか、ただ単に遊び心か分からないけど、シルビアさんに勝負を持ち掛けた。サラお姉ちゃんの手作りケーキがかかっているなら絶対に負けられない戦いになる。ん?でも…。


「ねぇ、私はどっちが勝っても食べていいんだよね?」


「そんなわけ無いじゃない。私が勝ったら私とサラで美味しく頂くわ。私を選ばなかったことを後悔させてあげるんだから。」


「えぇっ!何それ!」


 どうやら、お母さんは私がシルビアさんを選んだことを少し根に持っているようだね。これは絶対に負けられない。…どんな手を使っても。


「じゃあ行くわよ。身体強化3倍(よーいドン)!」


「えっ!魔法ありなの⁈先に言いなさいよ!」


 お母さんはスタートと同時に魔法を使い、私たちを引き離した。シルビアさんも急いで身体強化の魔法を使ったけど、最初にできた差は埋まらない。それどころか更に少しずつ離されて行っていると思う。


「シルビアさん、身体強化重ね掛けするね。」


「え?それはルール的にいいのかしら?」


 私はシルビアさんに身体強化の魔法を掛けた。そうすると徐々に差が埋まっていき、お母さんに追いついた。追いついたころにはすでに東都を超え、王都に向かう道の上空にまで来ていた。やっぱり凄く速いな。


「ちょっと、ずるいわよソラ。」


「私にサラお姉ちゃんのケーキを食べさせないようにしたお母さんが悪いんだよ?」


 最初に明確にルールを決めずに、出だしから身体強化の魔法を使ったお母さんが悪いんだからね。でも、私たちが追い抜き前に出ると、お母さんは更に強化を強くした。


「なら5倍よ!これなら負けないわ!」


 お母さんが強化すると、すぐに私たちに追いつき並んできた。


「どうやら私の勝ちみたいね。じゃあ先に行ってるわよ。」


 お母さんは勝ちを確信したみたいで、そう言ってきた。そして実際に、私たちは少しずつ離され始めた。でも私たちにはもう1つ奥の手があるんだよね。


「リアちゃん、出番だよ!」


「うん!身体強化だよ!」


 そして更にシルビアさんにリアちゃんが身体強化を掛けた。


「はあぁぁぁ!!!ちょっと、それはいくらなんでもずるいわよ!」


「じゃあ先に行ってるね、お母さん!」


 そして私たちは再びお母さんを追い抜いた。


「サラ!私に身体強化魔法掛けなさいよ!!」


「……無茶言わないちょうだい。」


「今からやり方教えるからぁぁぁぁーーーーっ!!!!」


 お母さんはもう追いつく手段が無いようで、かなり無茶を言っている。この勝負私たちの勝ちみたいだね。


 そして、私たちは王城の前に降り立った。本来なら王都の門で手続きをしないといけないけど、そもそも私たちは転移で行って、出るときに手続きしてないから大丈夫だと思う。たぶん。シルビアさんたちは、そもそも通してもらえないと思うし。


「な…。魔、魔族⁈い、急いで団長を呼んで来い!」


 そして、案の定門番の人に警戒された。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



 ガチャガチャガチャッ


 騎士団長は近くにいたみたいで、鎧の音を大きくたてながら走ってきた。


「どういうことだ!どうしてここに居るんだ、魔王!」


「ちょっ!!!」


 騎士団長のジェームズさんは、有無を言わさず剣を抜き、シルビアさんに斬りかかってきた。私は急いでシルビアさんの前に結界を張り、それを受け止めた。


「そこをどけ、ソラ!まさかお前が魔王をここに連れてきたって言うんじゃないだろうな?」


 シュタッ


「私が連れてきたのよ。そんなことより、私の娘に剣を向けるだなんていい度胸してるじゃない、ジェームズ。殺されたいの?」


 お母さんは、私に剣が向けられていることと、勝負に負けたことの両方に苛立ちが隠せないようで今にも誰かを殺しそうな目つきになっている。


「なんでお前が魔王を連れてくるんだよ!魔王だぞ、分かってんのか⁈」


「そんなことどうでもいいから早く剣を納めなさい、ジェームズ。」


「いや…。だがなぁ…。 ……はぁ、分かったよ。」


 ジェームズさんはお母さんと少しの間見つめあい、諦めたかのように剣を納めた。私もそれに合わせて結界を解いた。


「魔おぉぉぉぉぉぉぅ!!!」


 ダンッ!


 そして今度は、上から剣を振りかざした国王様が降ってきた。きっと窓かどこかから飛び出してきたんだろう。だけど、その剣がシルビアさんに届くことは無く、空中でお母さんが張った結界にぶつかり停止した。急に出てきた壁に、国王様はどうすることも出来ずにぶつかったから、かなり痛そうだ。


「おーもう、めんどくさいわね。後はケールの相手もしなくちゃいけないのかしら?」


「その必要は無いわよ。さすがに今のを見てれば手を出そうと思えないわ。」


 魔術師団長のケールさんはいつの間にか来ていて、そう言った。言葉を発するまで、その存在に気づけなかったくらいだから、やっぱりケールさんが国王様やジェームズさんよりも強いんだなと改めて感じた。


「それは良かったわ。こいつらはともかく、ケールの相手は疲れるものね。」


「それは光栄ね。ヴィオラを疲れさせることができると思われているくらいには評価されているなんて。」


 やっぱり、同じ元Sランク冒険者でもお母さんの強さは異常みたいで、ケールさんはそう言ってきた。でもこの感じだと、国王様やジェームズさんは、お母さんの足元にも及ばないって事になっちゃうんだよね。お母さん強すぎるよ。


「ちょっとエル、話があるからこっち来なさい。」


「いくらヴィオラでも、法を破ることに加担して国王であるボクに手をあげるなんて許されることじゃないよ?」


 国王様は多少ふら付きながら、近づいてきた。血が出ているようで、右腕を抑えている。やっぱりかなり痛そうだ。


「あんたが勝手に怪我したんじゃない。完全回復(ほい)。そのことなんだけど、もうその法はいらないから撤回してちょうだい。法が無くなれば、シルビアがここに居ても何も問題ないわよね?」


「……は?本気で言ってるの?ヴィオラが?なんでヴィオラが?」


 お母さんは簡単に国王様の傷を治し、ここに来た目的を実行しようとした。だけど、それを聞いた国王様は思いもしない発言だったようで、驚きを隠せないでいる。


「シルビアと仲良くなったのよ。シルビアを家に招待したいから法を無くせって言ってんのよ。」


「……意味が分かんないんだけど。どうして魔王を家に招くんだよ。ボクだってまだ行ったことが無いのに!」


 あ、そういえば国王様にサラお姉ちゃんの料理が食べたいから、家に招待してって言われたんだったな。伝えて無いけど。


「なんであんたを招待しなくちゃいけないのよ!絶対に嫌よ。」


「……え?ソラちゃん、もしかして言ってくれなかったの?」


「あはは、忘れてました。」


 忘れていたってのは本当だ。元々言うつもりは無かったけどね。


「そんな…。楽しみにしていたのに。なら直接言うよ。サラ姉さん、ボクを家に招待してよ。」


「ヴィオラが嫌がっているなら無理ね。元々あの家はヴィオラのものなんだから。ごめんなさいね。」


 サラお姉ちゃんは謝ってはいるけど、全く申し訳なさそうにしている様子はない。サラお姉ちゃん自身もあんまり気が進まないって事なのかもしれないな。そして、それを見て国王様はあからさまに落ち込んでしまっている。少しだけかわいそうな気もしなくは無いけど、仕方のないことだもんね。


「そんなことより、法は無くすって事で良いわよね?」


「ああ、うん。ヴィオラの好きにすればいいよ。それただの魔王との口約束だし、そもそもこっちには法なんて無いからね。魔族は人の国に入ってはいけないって魔族の国の法律だからね。ボクたちはその法に則って無断で侵入してきた魔族を処罰するだけだから。まあ、その魔王が魔族にしっかりと守らせてるから、その必要は一度も無かったんだけどね。」


 言われてみれば、確かにそうかもしれないな。私たちは自由に魔族の国に行き来できるから、私たちに縛りは無い。ただ、魔族を人の国に入れてはいけないというだけ。それは魔族が勝手に守っているから、私たちには何の問題もない。魔族と一緒に居たいと思う人が居たなら、魔族の国で暮らせばいいだけだからね。


「だからこの状況は、魔王が作った法律を魔王が破ってるって事になるんだよね。どうなの魔王?」


「…魔族にそんな法律なんてありません。ただ、人の国に入れば殺されるから、絶対に入るなという事を守らせているだけですから。」


「じゃあどうすればいいのよ!」


「ボクが『魔族が人の国に入って来ても気にしなくていい』ってみんなに言えば良いだけだよ。まあ、そう言ったとしても魔族は恐ろしい存在って思っている人がいっぱいいるから、簡単にはいかないだろうけどね。」


 クラウドの町が魔族に襲われて滅んだって事は、ほとんどの大人が知っていること。そして、その事実をその子供たちに伝えるときに魔族は危ない存在だって伝えるだろう。だから、初めて魔族に出会った人たちがどういう行動をとるかは想像できる。きっとうまくはいかないだろう。


「人の方から歩み寄ってきてくれるのを待つしかないって事なのね…。」


 できてしまった溝を埋めることは凄く難しく、いくら魔族が人の国に入れるようになっても実際にすぐに人の国に来る魔族はほとんどいないだろう。シルビアさんもそう思ったのか、少し寂しそうな表情をしている。


「じゃあさ、クラウドの町使ってよ!まずは人と魔族が協力してクラウドの町を元の住める状態に戻すの。そしたらその人達が仲良くなって、そこから少しずつどんどん輪を広げていくの!無理かな?」


 ちょっと楽観的かもしれないけど、何もせずにいるよりは良いと思い、私はそう言った。きっかけさえあれば、きっと仲良くなれると思うんだよね。私たちとシルビアさんのように。


「いいんじゃないかな。クラウドの町があのままなのは、ボクも気になっていたことだからね。クラウドの町を復旧するなら騎士団を派遣するよ。騎士が居れば人々も安心するだろうからね。」


「たまにはいいこと言うじゃない、エル。言ったからには責任もってやりなさいよね。」


 お母さんには国王様を敬うって感情は無いんだろうな。とりあえず、私の言ったことに国王様も賛成してくれて、騎士も派遣してくれる。それだけでも凄く嬉しいことだね。


「あ、そうだ。エルにもう1つ言わなくちゃいけないことが有ったのよ。」


「ん、何?もうボクはこれ以上面倒なことは勘弁してもらいんだけどな。」


 そして、お母さんはにやりと口角をあげると、あの事を言い出した。


「私には魔族の血なんて流れていなかったわ。私に流れていたのは天使の血だったのよ!」


「……天使?…ヴィオラが天使? ぷ…あはははは。急に何言い出すんだよ。ヴィオラが。天使だなんて!」


 ばちぃぃぃん!!


 お母さんは耐えられなかったのか、国王様の顔をひっぱたいた。国王様はそのまま数メートル吹き飛び地面を転がり悶えている。これはさすがに仕方がないよね。


「痛いじゃないか!ヴィオラ!物凄く痛いよ!」


「ふん。うるさいわね。完全回復(治せばいいんでしょ)?」


 お母さんはその場を動かずに治療し、国王様を回復させた。遠距離から回復させるなんて、さらっととんでもないことにやっている気がする。


「…とりあえず説明してくれるかな?ヴィオラが…ぷっ。天使だって事をね。」


 笑いを堪えながらそう言ってきた国王様に、お母さんがもう一度攻撃したのは言うまでもない。


「はぁ。シルビア、こいつに説明して。私に魔族の血が流れて無いって事を。」


「ええ、分かったわ。」


 それからシルビアさんは、国王様たちに初代魔王様の事や翼の事を説明した。お母さんが魔王になるべきだという事も交えながら。



読んでいただきありがとうございます。

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