サラとシルビア 3
私とヴィオラが落ち着きを取り戻し、周りを見つめると今の状況を思い出した。そして、こんな屋外で大の大人が騒いでいたなんて、急に恥ずかしくなってきた。そして、中に案内しようしたまま放置されていたシルビアの存在を思い出し、急いでシルビアに話しかけた。
「ごめんなさいね、シルビア。って、どうしてシルビアが泣いているのよ。」
シルビアは涙を流しながら、その姿を隠すことなくこちらを見つめていた。
「私は最低ね。あなたたちがこんなにも苦しんでいるのに、自分一人の命で勘弁してだなんて…。」
「何言っているのよ!あなたが悪いわけでも無いのに、自分を犠牲にできるって覚悟があるだけでも凄いことよ。もうこの話は終わり!ヴィオラもいいわよね?」
いくら魔王だからって、全ての責任を自分一人で受けようとしてること自体おかしな話なのよね。シルビアは悪くないっていうのに。
「うん。 …魔王。私はヴィオラ、仲良くするつもりは無いけど、とりあえずよろしく。あと、気持ち悪いからしゃべり方は普通にしなさいよね。」
「ありがとう、ヴィオラ。」
そして、ようやく私たちは魔王城の中に入っていった。
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「それにしても、サラちゃんが来るとは思わなかったわ。もう2度と会えないと思っていたもの。」
私たちは出された紅茶とお菓子を頂きながら、会話を始めた。
「私もそう思っていたわよ。昨日ソラちゃんが急に魔王城に遊びに行くって言いだして、急遽連れてこられたのよ。でも、まさか転移の魔石を持ってるなんて思わなかったわ。大事なものじゃなかったのかしら?」
「ええ、もちろん大事なものよ。この魔王城…いえ、魔族の国一番の宝よ。」
「…え?そんなものどうしてソラちゃんに⁉」
初代魔王が作ったって言うくらいだから、大事なものってのは想像できていたけど、まさかそこまでのものだったなんて…。
「ソラちゃんはセフィリアと仲良くなってくれたもの。でも、簡単に遊びに来れる場所じゃ無いじゃない?」
「え…?それだけの理由でそんな大事なものをあげちゃったの?」
いくらなんでも、それでは宝をあげる理由には少なすぎる。…なにか企んでるのかしら?
「私はセフィリアが大好きなのよ。でも、セフィリアには友達がいなくて、いつも寂しい思いをさせているわ。でも、ソラちゃんはセフィリアの事を魔王の娘としてではなく、友達として接してくれているわ。それが転移の魔石をあげた理由よ。…まあ、他にも理由があるんだけどね。」
「その他の理由が凄く気になるのだけど、聞いてもいいかしら?」
「ええ、本人には断られたんだけど、ソラちゃんが次の魔王やってくれないかなって思ったのよ。」
ぶふぅぅぅっ!!
シルビアの発言に、何もしゃべらずにお菓子を黙々と食べていたヴィオラが噴出した。仕方ないかもしれないけど、さすがに…。
「ちょっと、汚いわよヴィオラ。」
「どういうことよ!どう考えたらソラを魔王にするってことになるのよ!」
ヴィオラの言うことは、すごく分かる。娘の友達になってくれたってだけで、魔王にするだなんておかしいわ。ましてや、人間のソラちゃんを。
「ソラちゃんって、たぶん魔王である私より強いのよ。それに、クラウドの町出身のものが魔王になるなら、いくら人間だろうと魔族は誰も文句を言わないわ。いえ、言えないが正しいわね。」
「…どういう意味よ。」
ソラちゃんって魔王より強いのね…。普段からはまったく想像できないけど、やっぱりヴィオラの娘なのよね。それよりも気になるのは、ソラちゃんが魔王になることに誰も文句を言わないという事。ソラちゃんやヴィオラ、クラウドの町出身のものには魔族の血が流れているものがいるって事が関係しているのかしらね?
「それは、初代魔王様がクラウドの町を作ったからよ。そしてヴィオラ、あなたもだけど、その赤い髪は初代魔王の血を受け継ぐ直系という事なのよ。2代目魔王様の血を受け継ぐ私よりも、初代魔王様の血を受け継ぐあなたたちの方が、魔王にふさわしいと思わないかしら?もちろん、ヴィオラが魔王になりたいならなっていいわよ。」
「それは絶対にダメよ!ヴィオラに魔王が務まるはずがないわ!」
いくら何でもヴィオラはダメ。ヴィオラに任せるには不安要素がありすぎるわ。
「…そういうことだから、私は無理みたいね。もちろんソラもだめよ。あの子はそういうの向いてないもの。」
「あら、残念ね。あなたたちに任せれば、あのような悲劇を絶対に二度と起こさせることは無いと思ったのだけど。でも、気が変わったのならいつでも言ってちょうだい。」
ヴィオラは論外だけど、ソラちゃんに任せるのも不安だものね。あの子はあの子で何しでかすか分からないもの。それに比べて、シルビアはしっかりしているし、信頼できる。今のままが一番ね。
「…ちょっと考えさせて。」
「え⁉どうしたのよ、魔王になりたくなったっていうの⁉」
「だってさ、シルビアがいう事も一理あるじゃない?ソラが魔王になれば、あんなことは二度と起きないと思わない?」
確かにそうだけれど。そうかもしれないけど。ソラちゃんに魔王が務まるだなんて本気で思っているのかしら?
「魔王になったら、魔族の国はあなた達の自由にしていいのよ。」
「ちょっと、シルビアまで!本当に魔王をやるだなんて言い出したらどうするつもりよ!本気でヴィオラやソラちゃんに魔王が務まると思っているの⁉」
「形だけでももいいのよ。私とセフィリアはここに住み続けるつもりだし、面倒なことは任せてもいいわよ。」
これはまずい流れね。ヴィオラに『いいとこどりしていい』みたいに言ってしまうなんて。これじゃあ、ヴィオラはやるって言いかねないわね。
「ソラが戻ってきたら、私からやってみないか聞いてみるわ。」
「ええ、分かったわ。まあ、ソラちゃんならまた断るでしょうけどね。」
ふぅ、良かったわ。私もソラちゃんなら断ってくれると思うから、取り合えず大丈夫そうね。まったく、どうして私が一番慌ててるのかしら。2人はとっくに落ち着いているっていうのに。
「それよりさ、どうしてサラとシルビアは仲良くできてんの?サラがここに来たのって何年も前で、しかもただの付き添いでしょ?」
「あ、やっぱり気になるわよね。サラちゃんはね、私に会うと真っ先にビンタをかましてきたのよ。魔王にいきなりよ?もう私、びっくりしちゃって。」
「ちょっと、その話はいいでしょ!昔の事なんだから、掘り返さないでよ。」
口止めしとくべきだったと思うのもすでに遅く、ヴィオラは興味深々だ。
「いいじゃない、こんな面白そうなこと教えられたら、今更引けないわよ。」
これはもう、何言っても無駄ね。今内緒にしても、後からしつこく聞いてくるわね。
「ごめんなさいね。知られたくなかったのかしら?私は知っといてもらった方がいいと思うけど。」
「はぁ、もういいわよ。すでにほとんど言ったようなものよ。私から話すわよ。」
正直恥ずかしくて仕方ないけど、ここまで知られちゃったなら言ってしまった方が楽だと思い、私は話し始めた。
「私がここに来たのは、ヴィオラが冒険者を引退した半年後くらいよ。そして、その半年間ヴィオラに関する情報はギルドには一切来なかったわ。…だから、その…私も辛かったのよ。ヴィオラに会えなくなって。だから、それを魔王にぶつけちゃったのよ。 …はい、この話は終わり!もういいでしょ!」
「サラ…。」
私が自分の恥ずかしい話を終えると、ヴィオラは私に抱きついてきた。
「サラ、大好きよ。」
「うん、知ってるから。もう離れなさいよ。」
一日に二度もヴィオラに抱きつかれるなんて、思いもしていなかったわ。嫌じゃないんだけど、シルビアが見ているんだから恥ずかしいわ。
しばらくしたら、満足したのかヴィオラは私から離れた。それからは、3人でいろいろな話をして、ヴィオラもだいぶ打ち解けてくれたと思う。最初はどうなるかと思ったけど、意外と何とかなるものね。
「あ、ここにいたんだ。おなか空いちゃった、お昼ご飯食べようよ!」
そして、ソラちゃん達が戻ってきた。セフィリアちゃんと手をつないで来るなんて、本当に仲良しなのね。
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