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出会い sideレイン

 

「はぁ、はぁ。ちょっとクライ!フウジ!あれなんとかしてよ!」


「無理に決まってんだろ!魔狼10匹以上とか今の俺たちがどうにかできるレベルを超えてるだろ!とにかく今は逃げるんだ!」



 私たちは、今日初めて森の中層まで来ていた。今までは森の入り口付近で弱い魔物や単独の魔狼を狩ったり、薬草を採取したりしてたけど、『そろそろ中層に挑戦してみないか』とクライが言ったので、私とフウジも賛成して少し奥まで進んでみることにした。



 この『魔狼の森』は中堅から上級冒険者が狩りをする場所として人気だ。私たちのパーティーも、上級冒険者パーティーとちらほら言われるようになり、少し調子に乗っていたかもしれない。


 その結果がこれだ。どんどん魔狼が出てきて対処できなくなったのだ。最初のうちは数匹ずつだったから大丈夫だったけど、私とフウジの魔力が残り少なくなってきたからそろそろ帰ろうとした時に、魔狼の群れが現れた。


 万全の状態でも一度に魔狼10匹以上は厳しいのに、魔力が残り少ない状態では勝てる見込みがなく、私たちはとにかく逃げていた。



「…もう無理。つかれたー!」


「無駄口叩ける間はまだ大丈夫だ!魔狼は自分たちの縄張りを抜けてまで追ってこない…はずだ!あと20分くらい逃げ切れれば中層を抜けれる。それまで辛抱しろ!」


「うー…」



 クライはそう言うけど、私とフウジはあと20分も走り続けられるほど体力バカじゃないんだよ!身体強化魔法で、なんとか追いつかれないようにするのが精一杯なのに。


 だけど、それから数分間走り続けた時、クライが急に嬉しい事を言ってきた。


「おい!2人とも止まれ。魔狼が追ってきてないぞ!」


「ほんとに⁉︎ やったぁ〜!」


 私とフウジも止まり後ろを振り返った。でも、見ると確かに魔狼には追いかけられていなかったけど、魔狼に追われるよりも最悪な状況になっていた。


 魔狼は逃げる私たちから、標的を変更しただけにすぎなかったのだ。魔狼が立ち止まっっている先には大樹を背にし1人の少女がいた。休憩しているようで、魔狼に気付かずに寝ているようだ。それを魔狼の群れが囲い、今にも飛びかかろうとしていた。


 偶然とはいえ、他人に獲物をなすりつけるのは、冒険者として恥ずべき最低の行為だ。


「くそっ!なんでこんな森の中1人でのんびり休憩してんだよ!しかも寝てんのか?」


 クライはそう言いつつその少女の元に駆け込んだ。しかし少女のところまで10m以上あり、しかも魔狼が間にいる。


 私とフウジも駆け寄るが、間に合うはずもなくクライが魔狼に斬りかかるより早く、数匹の魔狼が少女に襲いかかった。


 バギッ ボキッ! 


「「「は?」」」


 しかし少女に襲い掛かった魔狼は、何かに阻まれ思い切りぶつかり牙や爪が折れ、そのまま反射され、周りに居た他の魔狼にぶつかり、そのまま数メートル吹っ飛んでいった。


「…あれは結界魔法?」


「みたい。しかも反射効果付きの2重結界みたい」


 私とフウジは魔法剣士だから、なんとなくどんな魔法か分かった。びっくりしすぎて棒立ちしていたけど、クライが数匹無傷の魔狼に切りかかっていくのに気付き、私たちも参戦した。


 そして、結界に衝突した魔狼とその反射に巻き込まれた魔狼が負傷しており、なんとか倒すことができた。


「にしても、さっきのは何だったんだ?この気持ちよさそうに寝てる子がやったのか?」


 クライはさっき何が起こったのか分からなかったみたいで、私達に聞いてきた。


「たぶん反射効果付き2重結界魔法だよ。ものすごい高度な魔法…」


「しかも長時間掛けっぱなしみたいだから、この子の魔力はかなりの量だね。同じ人間とは思えない程に…」


「そんなすげぇ魔法と魔力持って、ソロでこんなとこで昼寝出来るってことは有名な魔術師なのか?AとかSランクの。」


 確かにこんな魔法使えるならすごい人なんだろうけど私は見たことなかった。


「フウジは知ってる?」


「いや、見たことないから王都のギルドに登録してる人じゃないと思う。たぶん、どっか別の町から来た人じゃないかな?」


「そうだよね。こんなすごい人いたら有名になってるはずだもんね。」


 魔術師と言っても、ほとんどの人は攻撃特化で、それ以外は防御魔法を少し使える程度の人がほとんどだ。防御する前に倒せばいいって言う人が多いし魔物相手なら正面だけ守れる防御魔法が使えれば良いと思う。


 結界魔法みたいに、相手から完全に遮断する高度な防御魔法を習得するのは、上位の魔物や広範囲魔法を使ってくる相手と対峙する機会があるような人。


 まあ、安全第一って言って最初から結界魔法習得しようとする人もいるけど、そういう人はそれに精一杯になって魔力が足りず攻撃が疎かになる人が多い。



「何はともあれ、俺たち助かったんだな」


「うん。なんとかね。この子のおかげだね」


「2人ともとも助かった気でいるけど、まだ森の中なんだからね!気抜きすぎだよ!」


 とか言う私も、かなり安心しきっていた。もう中層もあと少しで抜けれるところまで来てるし、これから森を抜けるまではよっぽどのことがない限り大丈夫だ。


「とりあえずこの子にお礼言わないとなぁ。でも気持ちよさそうに寝てるしわざわざ起こすのも悪いよな」


「ほんと気持ちよさそうだし、可愛い寝顔」


 少女の肩下まで伸びた赤い髪に、木々の間から差し込む夕暮れ時の光が反射し、美しく輝いている。まだ幼さの残る顔も可愛らしくてずっと見ていたい気持ちになる。


「私たちにとっては命の恩人だからね。あぁ、なんか女神様みたい。女神様なのかな?」


 私は思わず、おかしな事を口にした。だけど、私の言葉に2人は否定する事なく、少女を眺める。2人も、薄々そう感じたのかもしれない。


「そろそろ行くか。きっとこの子も冒険者だろうから、ギルドに顔を出すだろう。そしたら改めてお礼を言おう」


「でも、この子は寝てただけだし、急にお礼を言われても何のことか分からないんじゃない?」


 確かにそうだ。急に知らない人に『命の恩人です!』なんて言われても戸惑うだけだろう。もし私が言われたら、怪しすぎて逃げると思う。


「うーん。じゃあこの子が困ってたら助ける。そして仲良くなって『こういうことがあった』ってちゃんと説明してしっかりお礼言おうよ!」


 私たちに出来ることなんてそんなにないかもしれないけれど、もしこの子の助けになれることがあったら絶対に力になる。私たちはそう3人で誓ってこの場を後にした。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



 翌朝、私たちがギルドに行くと、ギルドの受付から声がかかってきた。


「クライさんたち!ちょっと良いかしら?」


 声をかけてきたのは私たちのパーティーの担当をしている受付嬢のサラさんだった。私たちは呼ばれるまま向かっていくと、そこには昨日の私たちの恩人の少女がいた。


「この子は今日冒険者登録をした回復術師ヒーラーのソラさん。あなたたち3人とも前衛で後衛がいなっかったから、パーティーにどうかなっと思ったんだけど?もちろん無理にとは言わないしちょっと話してみて、お試しとかでも…」


「「「組みます!!」」」


「ぜひ、俺たちのパーティーに入ってください。歓迎します!」


「ちょっと即答しすぎじゃない?それにクライさんが、年下に敬語使ってるとか違和感凄いんだけど」


 願ってもないことで私たちは即答した。まさか、まだ冒険者じゃなかったことは驚きだけど。私達の反応を見て、サラさんがちょっとおかしな人を見るような目になってるけど関係ない。命を預けるパーティーメンバーを普通はこんな簡単に決めれるものじゃないけれど、私たちはすでに命を助けてもらってるし、恩返しもしたいから断る理由が無かった。


「えっと、ソラちゃん。私たちのパーティーに入ってください。お願いします!」



 私は彼女の手を取りお願いした。ここでこんなチャンス逃すわけにはいかない。


「レインちゃんまでどうしたの⁉︎もしかして知りたいだったの?」


「知り合いというか何というか… 。一目惚れ?」


「…あなた達、仲間を顔で選ぶわけ?確かにソラさんは可愛らしいけど、それはどうかと思うわよ?」


 サラさんに誤解されそうだけど、違うの。今はまだ言えないだけで、別に顔で決めてるわけじゃないの。確かにかなり可愛いけど。私の好みだけど!


 私が返答に困っているとフウジが助け舟を出してくれた。


「ちょうど後衛が欲しいと思ってたし、彼女から感じられる魔力はとても綺麗で大きい。きっと、ものすごく頼りになると思う。だから、ぜひパーティーメンバーになって欲しいと思うんだ」



 さすがフウジ!それっぽいこと言ってる!


「…まあ、フウジさんがそう言うなら、そう言うことにしとくわ。ソラさん、どうかしら?入ってみる?」



 そして彼女は少し考えた後、返事をくれた。


「はい。よろしくお願いします」


「やったー!!よろしくね、ソラちゃん。私はレイン。で、こっちの黒髪のがフウジ、茶髪のがクライ。私とフウジが魔法剣士でクライが剣士だよ」


「「よろしく」」


「よろしくお願いします」



「なら、パーティー変更・更新用紙に必要事項を記入してちょうだい」


 そう言ってサラさんは1枚の用紙を渡してきた。これはギルドが冒険者を管理するための書類で、変更があった時等に提出しなくてはならない。


 私達は、一度受付カウンターから離れ、記入内容を確認した。


「この際、パーティー名も変えてみるか?」


「さんせーい!もっと可愛い名前がいい!」


 今のパーティー名はクライが勝手に決めたもので、これで長いことやってきていた。正直言って気に入ってないから、私は大賛成!クライからそんな事を言うなんて、自分で付けたパーティー名が恥ずかしくなってきたのかな?


 そしてフウジも『かまわないよ』と言ってくれたので、変更することになった。


「そんな簡単に変えちゃっていいの?」


「いいのいいの。いい機会だしね」


 ソラちゃんは、少し気にしていたようだけど、こんな機会でもないとなかなか変更できないからね。今までの『漆黒の牙』ってパーティー名は何年も前のクライのセンスだし、影で『すごい虫歯のやつが居るんじゃね?』とか言われたこともある。それに、正直だダサい。


「じゃあ、なんかいい名前あるか?俺的には『暗黒の魂』とかどうかと思うんだが?」


「ちょっと嫌かな…」

「絶対やだ!」

「私も正直嫌です」


「…そうか。結構良いと思ったんだがな…」


 危ない危ない。また変な名前になるところだったよ。みんな反対してくれて良かったー。もう、クライは相変わらずだな。変えるって言ったのも、そんな気分だっただけなのかもしれない。


 んー。なんか良いのないかなー。…あ!


「あのさ、『夕暮れの女神』なんてどうかな?」


「「………」」


「…あー!そういうことか!俺もそれなら良いと思うぞ」


「うん。良いんじゃないかな」


 クライとフウジは少し考えた後、賛成してくれた。フウジよりもクライが先に応えたのは意外だったけど。


「私もそれなら良いと思うけど、なんか由来があるの?」


 ソラちゃんも賛成してくれた。加入したばかりであんまり意見は言えないだろうし。まあ、比較対象が『暗黒の魂』だからってのもあるかも知れないけど。



 ソラちゃんになんて説明すれば良いんだろうかな。うーん、そのまま言っちゃえ!


「えっとね、私たちこの前ちょっと大変な目にあったんだけどね、その時ある女の子が助けてくれたんだ。私たちにとってはその子が命の恩人で女神様みたいに感じたんだよ。だから私たちが今こうやって生きているのも、その夕暮れ時に助けてくれた女神のような女の子のおかげ。いつかその女の子に恩返しできるように、その子のように強くなれるようになれたら良いな。って言う感じかな。ごめんね、私達の私情でパーティー名を決めちゃって!」



「…そんな事があったんだ。私は、それでも構わないよ。じゃあ私も仲間に加わるんだから、一緒に恩返し出来る様に頑張んないとだね!」


「…う、うん!」


 …恩返ししたい人に恩返しを手伝ってもらうっていう変な感じになっちゃったよ。


「じゃあ、パーティー名は『夕暮れの女神』に決定な。リーダーは誰にする?」


「1番強い人で良いんじゃないかな?」


「私もそれで良いよ」


「私も」


「よし。レイン、用紙に記入して持ってってくれ」


「おっけー!」


 私はぱぱっと必要事項を記入してサラさんのところに持っていった。


「…本当にこれで良いの?パーティー名変えると今まで築いてきた知名度も無くなるし、リーダーも…」


「いいの。みんなで決めたから!」


「…分かったわ。じゃあ、この内容で登録するわよ?」


「うん!」


 私は用紙を出してみんなの元へ戻った。私が居ない間に、今日も魔狼の森に行く事が決まったみたいだった。


 今日から新しいパーティー。新しい仲間で冒険できる事がものすごく嬉しい。楽しみでいつもより少しだけ早足で私たちは森に向かって行った。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 パーティー登録用紙


 パーティー名  夕暮れの女神



 リーダー    ソラ  Eランク


 メンバー    クライ Bランク

         フウジ Cランク

         レイン Cランク







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