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パーティーを追い出してもらいたいと思っていたけど  作者: 畑田 紅
1章

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29/61

帰還

 

「そろそろ着く?」


「もう少しだと思うよ。」


 私達は今、王都に向かう乗合馬車に乗っている。私が目を覚まし尋ねると、フウジが答えてくれた。行きではちょっと寝過ぎちゃって迷惑をかけたから、今回は少し早めに起きた。


 今朝魔王城を出て、午後一の乗合馬車に乗り、そろそろ日が落ちてくる時間だ。今回も馬に強化魔法を掛けさせて貰ったから、予定よりもかなり早く到着出来そうだね。


 馬車はその後数分で止まり、王都に到着した。私たちは馬車から降り、これからどうするか話し合った。


「このまま王城まで行くの?」


「こんな時間にいきなりはまずいだろ。先ずはギルドに行って帰還報告だ。」


 私はそのまま王城に向かうつもりでいたけど、クライに反対されギルドに向かうことになった。まだ夕方だし大丈夫だと思うんだけどな。


 ギルドに到着すると、中は少しだけ混んでおり、私たちは担当受付の前に並んだ。少し待つと前の人が終わり、私達の番になった。


「次どうぞ。」


「ただいま!」


 私は前に出るとサラ姉ちゃんにそう言った。受付に集中していて私達には気づいていなかったようで、少し驚いた様子で私たちを見てくる。


「…おかえりなさい。ちょっと帰ってくるの早すぎないかしら?あなたたちが王都を出発したのは昨日よね?」


「うん。魔王城で一泊させてもらって帰ってきたよ。」


 普通なら4~5日かかる道のりを、2日で帰ってきたのだから疑問に思われたみたいだ。


「まあいいわ。後でゆっくり聞かせてもらうわね。今日はどうせ1人だから夕ご飯は適当にしようと思っていたけど、ソラちゃんが帰ってきたなら何か美味しいものを作らないといけないわね。」


「うん!楽しみにしてるね。でも、1人ってお母さんは居ないの?」


 私は師匠とサラ姉ちゃんと一緒に暮らしてるから、師匠はどっか行っちゃったのかな?まさか1人で狩りにでも行ったのかな?


「…ヴィオラはデートよ。だから夕ご飯まで食べてくると思うわ。」


「あっ、そっかぁ。…え?…ええぇぇぇぇぇ!!?」


 どういうこと?師匠がデート?え、デートって何だっけ?師匠って冒険者としては有名だからいろんな人が寄ってくるって事?悪い人に捕まってないといいけど…。まあ師匠なら大丈夫か。


「そんなことより、依頼は達成できたの?」


 私が頭を抱えていると、サラ姉ちゃんはどうでもいいことかのように切り捨て、話を戻してきた。


「え、うん。返事の手紙預かってきたよ。」


「なら、エルくんに届けないといけないわね。今から行ってくるといいわ。」


「「「「エルくん!?」」」」


 国王様の事を随分と親しげに呼ぶサラ姉ちゃんに、私たちはみんなして驚いた。確かに国王様は『エルさんって呼んで』って言っていたけど、くん付けするなんてサラ姉ちゃんと仲いいのかな?


「あぁ、エルくんは冒険者だった頃、私の担当だったのよ。もちろんジェームズさんとケールも。そして、ヴィオラとギルドマスターも。後、今唯一のSランク冒険者、レイルちゃんも私の担当よ。もう何年も姿を見てないけれど。…今はどこにいるのかしらね。」


「「「「………。」」」」


 国王様だけだはなく、騎士団長や魔術師団長、私の知っている元Sランク冒険者全員がサラ姉ちゃんの担当だったなんて…。道理でギルドマスターもサラ姉ちゃんには弱かったんだね。


「今から行って大丈夫なの?」


「大丈夫よ。会ってくれなかったら、エルくんに『サラが会えって言ってた』って門番の人に伝えてもらえば大丈夫よ。」


「う、うん。」


 サラ姉ちゃんがそう言うんだから大丈夫だと思うけど、サラ姉ちゃんがこの国の国王様にそういう態度をとれる立場にあることに驚きを隠せない。実は国王様ってそんなに偉くないのかな?


「じゃ、いってらしゃい。」


 そう言って、サラ姉ちゃんは私たちを送り出した。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「なあ、サラさんって国王様とかなり親しい間柄なのか?」


 私たちはギルドを出て、すぐに王城に向かって歩き出した。すると、クライが急にボソッと言ってきた。


「少なくとも、国王様に対する扱いじゃなかったよね。冒険者時代に結構親しかっただろうことが想像できるよね。」


「…だよなぁ。」


 クライの言葉にフウジが答えた。国王様は元Sランク冒険者だから、それなりに長い間冒険者をやっていたと思われる。そして、その担当受付であれば、その期間はずっと関わっていたって事になる。


「そんなに気になるなら、さっき聞けばよかったじゃん。だいたい、いつになったら告白するつもりなの?何年片思い続けるつもりなの?」


「な…!だって、全く脈がないだろ。自分で言うと悲しくなるが…。それに、サラさんは美人だし人当たりもいいから、彼氏くらいいてもおかしくないだろ。」


 レインちゃんの言葉と自虐に、クライはさらに落ち込み、うなだれている。さすがに見てられないから、勝手に言っていいものか分からないけど、少しだけサラさんについて教えることにした。パーティーメンバーの悩み事を放って置くわけにはいかないからね。


「サラお姉ちゃん、今付き合っている人いないよ。それに、受付嬢になってからは誰とも付き合ってないって言ってたよ。」


「本当か、ソラ!嘘じゃないよな?」


 クライはさっきとは違い、急に大きな声になった。よっぽど気になっていたみたいだね。


「う、うん。だから、もしかしたらうまくいく…かもしれないよ。」


「そうだよな!ありがとうソラ!俺、もっと強くなってSランクまでなれたら絶対に告白するぜ!」


「うん。頑張って強くなろうね。」


 動機はどうであれ、私と同じようにクライもSランク冒険者を目指しているようで嬉しくなった。クライも私と同じでAランク冒険者だから次に目指すものは一緒だもんね。


 そうこうしているうちに、王城の門に到着した。だけどそこには門番には似つかわしくない屈強な男の人が立っていた。


「こんにちは、ジェームズさん。どうしてそんなところにいるんですか?」


 そこに立っていてのは騎士団長で元Sランク冒険者のジェームズさんだった。


「おう。王都の門にお前たち『夕暮れの女神』が帰ってきたら、王城まで知らせに来るようにしていたからな。だから俺が門で待っていたって訳だ。国王様もここで待つって言ってたんだが、すぐに来るか分からなかったから中で仕事してもらっている。しかし随分と早かったな。ちゃんと返事はもらえたか?」


「はい。もらってきましたよ。」


 私はすぐに収納袋から手紙を出そうとしたけど、ジェームズさんに『国王様に直接渡してくれ』と言われたから、そのまま私たちはジェームズさんに連れられて王城に入っていった。前回と同様に応接の間に通され、少し待つと国王様が入ってきた。


「みんなおかえり。ソラちゃん、ケガしなかったよね?」


「はい、大丈夫ですよ。」


 私が少しでも怪我をして帰ってきたら師匠が魔族を滅ぼすって言っていたから、国王様はそれを心配してなのか、私にそう言ってきた。


「よかったぁ。これでヴィオラに殺されずにすんだよ。」


 あぁ、魔族を心配してではなく、自分の身を心配していたんだね。いくら師匠でも私がケガをしたからって、言った通りに国王様まで殺したりしないと思うのにな。…たぶん。


「あ、これ。シルビアさんから預かってきました。」


 それから私はすぐに収納袋から手紙を出し、国王様に手渡した。


「ん?シルビアってだれ?」


「あ、魔王様です。魔王様はシルビアさんって言うんですよ。」


「ふーん。そうなんだ。読ませてもらうね。」


 国王様は、そんなことには全く興味ないというような反応で手紙を受け取り、その場で読み始めた。やっぱり国王様自身は魔族を嫌っているみたいだな。いい人たちなのに…。



「…ぷふっ!何この内容。ソラちゃん何やらかしてんの。」


「…え?…何か変なことが書いてあるんですか?」


 国王様は手紙を読むと急に笑い出し、私にそう言ってきた。


「うん。凄いよ。ちょっと要約して読み上げるね。´娘が迷子になり人の国に入ってしまった。それを探すために数人更に入ったが、娘を探す以外の事はやっていない。迷子になった娘はソラ様が送り届けてくれた。今回の事を咎めるのであれば、私の命一つで勘弁してほしい。私を殺す場合、できれば次の魔王はソラ様にしてほしい。´って感じかな。」


「……はい?」


 シルビアさんったら、手紙になんてことを書いてるの⁉というか、ソラ様って何?私が手紙の内容を聞き、ほうけていると、更に国王様から追い打ちがかかっってきた。


「じゃあソラちゃん、魔王殺して次の魔王になってきて。」


「……嫌ですけど。」


 本気なのか、冗談なのか分からない国王様の言葉に、少し戸惑いながらも正直に断った。


「ボクのお願いを断るの?ボク、一応国王なんだけど。」


「関係ありません。シルビアさんを殺すなんで出来ません。」


「本気で言ってんの?ボクは命令してるんだよ?」


 国王様は今までの態度からは想像できないくらいに、怖い表情で私にそう言ってきた。でも、これに関しては私は引き下がることはできない。だって、シルビアさんは凄くいい人だし、そんなことをしたら絶対にリアちゃんが悲しむ。私は、どう答えたらいいか分からなくなり、とっさに頭に浮かんだ言葉を口にした。


「…エルさんにいじめられたって、サラお姉ちゃんに言いつけますよ?」


 どうして、こんなことが頭に浮かんだかは分からない。けど、言っちゃったものはどうしようもない。


「………。ぷっ、あはははははは!」


 すると国王様は、さっきとは比べ物にならないくらい盛大に笑い出し、応接の間全体に声が広がった。


「…あの。」


「はぁ、はぁ。それだけは勘弁してほしいかな。まさか、サラ姉さんの名前を出してくるなんて思いもしなかったよ。…魔王を殺せって言ったのは半分冗談だよ。ソラちゃんにとって魔王がどんな人なのか気になって、少し試させてもらったんだ。」


 国王様が、サラお姉ちゃんの事を『サラ姉さん』と呼んだこと、魔王を殺せって言ったのが半分だけ冗談だという事。私が頭の中で情報を整理するのに時間がかかっていると、私が次の言葉を発する前に国王様は続けて言ってくる。


「そういえば、ソラちゃん達もサラ姉さんが担当してるんだよね?サラ姉さんが今どんな感じなのか聞きたいな。そうだ!今日夕ご飯食べていきなよ。ボク達の冒険者時代の事を話してあげるよ。」


 国王様に夕ご飯を招待されるなんて、思ってもみない出来事に、もう私の頭の中は更にパニックになっていった。でも、この答えは考えるまでもない。


「嫌です。遠慮しておきます。」


 昔のサラお姉ちゃんや師匠の話は気になるけど、そんなの本人に聞けばいいことだからね。それに…。


「…ソラちゃんってボクの事嫌いなの?さっきの事怒ってる?…ごめんね。ちょっと冗談が過ぎたかもしれないよ。」


「あ、いえ。別に嫌ってはいませんよ。今日の夕ご飯はサラお姉ちゃんがおいしいものを作ってくれるって言ってたから、そっちを優先しただけです。」


 サラお姉ちゃんに今日は家で食べるって言ったから、帰らないわけにはいかないもんね。


「え!サラ姉さんの手料理⁉…ボクもお邪魔していいかな?サラ姉さんの手料理食べたいな。」


「…ダメです。」


 国王様の頼みを断るのは不敬かもしれないけど、考えてみればさっきから断りまくってるから、今更だよね。


「…やっぱりボクの事嫌ってるんだね。」


 国王様はそう言うとあからさまに落ち込みだした。


「ち、違いますよ!国王様が来ちゃったら私の食べる分が減っちゃうじゃないですか!国王様は男性なんだからそれなりに食べてしまいますよね?」


 元々私とサラお姉ちゃん2人分なのに、そこに国王様が入ってきてしまったら、私の食べる分は半分以下になってしまうかもしれない。そんなの絶対に耐えられないもんね。


「そっか、そうだよね。…ごめんね、無理言って。でも、今度招待してってサラ姉さんに言っといてよ。絶対だからね!」


「…はい。  (ぼそっ)気が向いたら。」


 まあ絶対言わないけどね。口約束なんて、忘れてたでどうにでもなるからね。なんかこの人をあんまりサラお姉ちゃんに会わせたくないんだよね。師匠とも。


「約束だからね。じゃあ、報酬はギルドに渡しておくから受け取っておいて。サラ姉さんによろしく言っといてね。」


「はい。では失礼しますね。」


 そう言って私が一礼すると、クライ達も少し遅れて頭を下げ、その場を後にした。


 クライ達は、相変わらずこういう場では一言もしゃべらずに、今日も流れに身を任せていた。まあ私が一応リーダーだからいいんだけどね。一応は。


 門を出るとクライ達は宿に、私は家に向かった。そして、サラお姉ちゃんは何を作ってくれるのかな?と楽しみにしながら、足早に家に向かった。







読んでいただきありがとうございます。

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