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パーティーを追い出してもらいたいと思っていたけど  作者: 畑田 紅
1章

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23/61

白金貨42枚分のクッキー sideヴィオラ

過去編です。

 

 その日、私は自宅で朝食を食べ終わり、のんびりしていたら急にドアが開けられた。


 ダンッ!!


「どうしたのよ、サラ。そんなに慌てて。」


 ドアを開けたのは、私の親友サラ。彼女はギルドの受付嬢だけど、歳も近かったこともあり仲良くなった。


「…はあっ、はあっ。クラウドの町が。クラウドの町が魔族に襲撃されてるって情報が…!」


「…っ!!」


 私はドア付近に居たサラを押し除け、鍵も閉めずに走り出した。


「『身体強化5倍(くそっ)』『飛行魔法(くそっ!)』間に合え!」


 私は、自分の体の事も考えずに、無理な強化をしてクラウドの町に向かった。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「…っ。そんな!嘘よ!」


 クラウドの町は無残に破壊され、血の匂いが漂っていた。どこを見ても死体、死体、死体。全く生命反応が感じられない。私は、少しの希望を期待して探知魔法を使った。


「あっちに2つ、生きてる!間に合え、間に合えぇぇ!!」


 そのうちの1つは今にも消えそう反応で、とにかく急いだ。そこに向かうまでにも、数えきれない死体があり感情を抑えきれない。


「クソォ!クソォォォ!!許さない、絶対に許さない!!」


 2つの生命反応があったところまでは、ほんの数秒だったけれど、とても長い時間に感じる。


「しぶといやつめ。お前で最後だ。さっさとくたばれ。」


 バチンッ!


「なんだお前?まだ生き残りが居たのか。わざわざ殺されにやって来るとは随分と死にたがりなんだな。」


 私は、繰り出されていた魔族の手をぎりぎりで受け止め、倒れていた少女に回復魔法を掛けた。


「…殺す。殺す。殺す。殺す!絶対に許さない。私の家族を。私の町を!」



 その後、どうやって魔族を殺したのかは覚えていない。そこには、細切れになった魔族の死体があるだけ。私はひたすらに泣いた。どの位泣いたかなんて分からない。…ただ、ひたすらに。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「…ねぇ、私のお母さんは?お父さんはどこ?」


 私がその場にうずくまって何も出来ないでいると、回復魔法を掛けた少女が目を覚ましたようで、話しかけてきた。


「…みんな、死んだよ。もうここには私達しかいない。」


「…でも、お母さんは私を押し入れに閉じ込めて『ちょっと待っててね』って。」


「ごめんね。…ごめんね。私がもっと早く来れたら…。」


 少女はまだ家族が殺された事を理解出来ていない。私は少女を抱きしめ、何度も何度も謝った。



 しばらくして、少し落ち着いてからこれからどうするか考えた。なかなか回ってくれない頭で。


 そして、少女を見ると私はある事に気が付いた。


「ねぇ、あなたの名前は何?」


「…ソラ。」


 あぁ、やっぱり姉さんの子だ。姉さんに子供ができた時に、1度だけ見た事がある。姉さんにそっくりな目。そして、私と姉さんと同じ赤い髪。


 私がこの子を守る。絶対に。どんな事をしても。


「…私と一緒に来て。この町を出よう。」


「…うん。」


 姉さんの子は確か今は7歳のはず。この状況を理解したようでさっきからずっと俯いている。こんな小さな子供に耐えられる事じゃない。私は、この子さえも生きておらず、誰1人救えなかったならば、ここから動くことさえ出来なかっただろう。


 生きててくれてありがとう。


 私は、少女を抱き抱え、飛行魔法でゆっくりと王都へ向かった。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「ヴィオラ!!良かった。帰って来てくれた。」


 ギルドに着くと、サラが涙を流しながら駆け寄って来た。私は今出来る精一杯の笑顔で答えた。


「…ただいま、サラ。」


「………っ。」


 サラはそのまま私を抱きしめ、泣きじゃくった。泣きたいのは私の方なのに。サラが泣くと、私はまた耐えられなくなって、声を出して泣いた。もう出し尽くして枯れたと思っていたのに、何故かどんどん出て来て止まらない。ソラもずっと我慢してたのか、今まで泣いていなかったけど、一緒になって泣き出した。


 ギルドに響く3人の泣き声。それを止められるものは誰もいなかった。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「私、冒険者辞めるから。」


 しばらくして私達は泣き止み、私はサラにそう告げた。


「…分かった。」


 サラは何も聞かずに、私の気持ちを汲んでそう言ってくれる。凄くありがたい。サラと知り合えて本当に良かった。


「…ちょっと待ってて。」


 サラはそう言い、カウンターの奥から何かを取り出して持ってきた。そしてソラの前にしゃがみ込んだ。


「はい、これあげる。ヴィオラのこと頼んだわよ。」


 サラはそう言い、袋から1枚のクッキーを出してソラに手渡した。あはは、私の方が世話される側なのね。


「…うん。ありがとう。…おいしい。ありがとう、お姉ちゃん。」


「どういたしまして。」


 サラはソラの頭を撫で、笑顔を振りまいている。


「…サラの手作り?…私にはくれないの?」


「…もう。あなたは子供じゃないんだから。はいっ。」


 そう言ってサラはもう1枚クッキーを取り出して私に渡してきた。


「ありがとう。…凄くおいしいよ。」


「…うん。知ってる。」


 サラは残りのクッキーを袋ごとソラに渡して、また頭を撫でた。そしてそのままソラを抱きしめ、もう一度『ヴィオラをよろしくね。』と言った。


 サラは立ち上がり、私を見つめて来るが何も言ってこない。いや、言わないでいてくれる。


「サラ、これ貰って。私はもう使わないから。」


 そう言って私は、家の鍵をサラに渡した。王都での私の家。いろんな思い出があるけど、私にはもう必要ない。


「…嫌よ。でも、預かっておくわ。いつになっても良いから、絶対に取りに戻ってきなさいよね。それまで私が大事に管理しといてあげるから。」


「…うん。」


 確証のない返事。それでもサラはにっこりと微笑み、私を抱きしめる。10秒、20秒、1分、2分。それくらいたって、ようやくサラは私を離した。


「…ばいばい。」


「…うん。ばいばい。」


 そして私はサラと別れ、ソラと一緒にギルドを後にした。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



 ギルドを出た後は、西に向かった。クラウドの町の反対側だ。この子を…いや、私自身が二度と魔族と関わりたくないと思ったからだ。


 西の端と魔族の国の間には、広大な海が広がっており、島ひとつ無い。だから、ここにさえずっと居れば、魔族と会う確率はほとんど無い。


 私は、王都から西都も越え、山の中に降り立った。そして何重にも結界を張り、誰も入って来れないようにした。


 その日は、そこにテントを張り、ソラと2人で野宿をした。でも、泣き疲れているはずなのに、私もソラも眠る事ができなかった。


「ソラ、眠れない?」


「うん。」


「じゃあ、私が眠れるように魔法を掛けてあげるね。」


 私はそう言い、無理矢理眠ろうとした。


「…いい。怖い夢見そうだもん。」


「大丈夫。夢なんて見させないから。『スリープ(おやすみ)』」


 私は、睡眠魔法でソラと共に眠りについた。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



 翌朝、目を開けると、同じタイミングで起きたソラと目が合った。ソラが目の前に居る事で、私は昨日の事が現実である事を改めて実感した。


 それでも、この子の前ではこれ以上、弱さを見せるわけにはいかない。頼れる存在にならなければならない。


「おはよう、ソラ。」


「…うん。」


 私が『おはよう』と言っても、ソラの返事は素っ気なく元気がない。でも、このままじゃダメね。


「おはよう、ソラ。」


「……うん?」


「お・は・よ・う!」


「あ…。おはよう…。」


 先ずは、ここからスタートね。私は、ようやくちゃんと返事をしてくれたソラに微笑み、頭を撫でた。


「さ、ご飯にするわよ!ちょっと待っててね。」


 私はテントから出て、準備をした。買ったけど1度も使ってない魔道キッチンを収納袋から取り出し、料理を始めた。


 そして机と椅子を出し、なんとか完成した料理を並べ、ソラを見た。ソラは私の明らかに慣れていない手付きを見て心配そうにしていたけど、ご飯が出来るなり駆け寄ってきた。相当お腹が空いていたのね。


「いただきます。」


 私はそう言ったけど、食べずにソラを見た。ソラは戸惑っていたけど、私が言いたい事を察したようで、同じように『いただきます』と言ってくれた。


「ソラ、美味しい?」


 私が食べ始めた事で、ソラも食べ始めたので聞いてみた。


「…ううん。あんまり美味しくないよ。」


「…そっか。」


 まあ、分かってはいるけど、正面から正直に言われるのは、結構きついわね。でも、これからはちゃんと練習して美味しいものを作れるようにならなくちゃね。


 だけど、美味しくなくてもお腹は空いていたようだから、ソラは残さずに食べてくれた。


 ご飯の片付けをした後、私はこれからどうするか考えた。そして、先ず1番にやるべき事を決めた。


「ソラ、一緒に家を作ろっか。」


「家…?」


「うん、そうだよ。」


 私は、1番に必要なのは住む家だと考え、造る事にした。毎日テントじゃ気が滅入るからね。


「…どうやって?」


「魔法でかな?」


 私は、家を造るなんて言ったけど、もちろん造った事があるわけが無く、なんとなくで造れるかな?って思っていた。


「私も手伝える?」


「うん!もちろんだよ。」


 ソラが自分から、そう言ってくれた事に私は嬉しくなった。でも、私はある事に気が付いた。ソラがまだ1度も、私の事を呼んでくれていない事に。そもそも私は自分の名前を名乗っていない。サラとの会話で聞いていたかも知れないけれど。


「ねぇ、ソラ。私はヴィオラって名前なの。呼んで欲しいな。」


「…やだ。お母さんの名前と似てるもん…。」


「…じゃあ、お母さんって呼んでくれてもいいのよ?」


「…お母さんじゃないもん。」


 ソラが俯いたのを見て、私は失敗した事に気が付いた。まだ、姉さんを連想させる事を言うのはダメだったと。でも、どうしたら…。


「…なら、師匠ってのはどうかな?私が魔法を教えてあげるよ?」


「魔法?…私でも強くなれる?」


「…もちろんよ!」


 ソラが顔を上げ、少しだけ目に強い意志が見えた事に、私は嬉しくなった。それと同時に、少し不安にもなった。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



 それからは、家造りと魔法の勉強が日課になった。そして、家が完成する頃には半年ほどの月日が経過していた。


 ソラの魔法の腕は、確実に上がっていき簡単な魔法なら、ある程度出来る様になっていた。


 そして、ソラはついに身体強化の魔法まで使えるようになった。


「ソラ、凄いわよ!こんなに早く身体強化出来る様になるなんて。それさえ出来れば、ちょっと強い魔物だって倒せるわよ!」


「えへへ。師匠の教え方が分かりやすいからだよ。」


 ソラは、物凄く飲み込みが良くて、どんどん魔法を覚えていく。


「何かご褒美をあげないとかしらね。ソラ、何か欲しいものはある?」


 2人で暮らすようになってから、ソラは1度も私に何かをねだった事がない。その事に気付いた私はソラに欲しいものを聞いた。


「…えっとね。私、お姉ちゃんのクッキーが食べたい!」


「…お姉ちゃん?それってもしかしてサラのこと?」


「うん、サラお姉ちゃん。あのクッキーがもう一度食べたいな。」


 今から、サラに貰いに行く?どんな顔して合えばいいの?私は迷ったけれど、やっぱりサラに会いに行く事は出来なかった。


「じゃあ、私がクッキーを作るわ。サラのクッキーは何度も食べた事があるから、味は完璧に覚えてるもの。」


「え⁉︎でも、師匠は料理苦手じゃ…。」


「大丈夫よ。任せておいて!」


 そして、私はクッキーを作り始めた。サラがクッキーを作るところは何度も見てきた。家に呼んで一緒に作った事だってある。だから、再現することくらい簡単よ。


「…お姉ちゃんのクッキーの方が美味しかった。」


「…そんな。でも、美味しいわよね?」


「あんまり美味しくない。」


「くっ…。」



 それから私は、ソラに美味しいって言ってもらうために、クッキーを作り続けた。けれど、何回作っても、何年経っても、サラのクッキーみたいに美味しいと言ってもらえる事は無かった。けど、サラのクッキーのおかげで、ソラとの距離が縮まったのは言うまでもない。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



 ソラと2人で住み始めて9年が経ち、ソラは冒険者になる為に家を出て行く事になった。この9年で、ソラに私が冒険者だった時の事をたくさん話した事で、興味を持ったからだ。


「ソラ、気をつけるのよ。お昼寝する時は、結界張り忘れちゃダメよ?」


「うん、大丈夫だって。」


「怪我するような危ない事は、絶対にしちゃダメだからね。」


「うん。そんな事しないから。」


 ソラがこの9年で強くなったのは、私が1番知っているけど、それでも心配で心配で仕方ない。出来ることなら、ずっとこのままここにいて欲しいけど、ソラをここに縛る訳にはいかないものね。


「…いってらっしゃい、ソラ。」


「うん!行ってきます、お母さん!」


 え?今、お母さんって言った?お母さんって…。


 私は、溢れ出る涙を抑えきれずに顔を押さえた。


「ちょっと!どうしたの急に。泣かないでよ。」


「ソラぁ。…ソラぁぁ!」


 私は、そのままソラに抱きつき、もう一度言い直した。


「いってらっしゃい、ソラ。私の最愛の娘。大好きよ。」


「うん。私も大好きだよ、お母さん。いってきます。」



 こうして、ソラは冒険者になる為に旅立って行った。



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