スキスキ店長
イヴは店長が好きなのです。
出会った頃からずっとずっと。理由を考えても分からないけど、確かに好きなのです。
好きだよ。って言ってくれる目が好き。
表情、声、態度。全身がイヴに対する愛に溢れているのです!
名前も何も教えてくれないけど、アイツ好意がバレバレなのですよ。
イヴが子供の頃に告白して来てたら、絶対に通報してたのです。
でも好きだから、もしかしたら付き合ってたかもしれないのですね。
……恥ずかしいから、今の無しです。フリダシに戻るのです!
イヴは店長の冗談しか言わない捻れた性格が好き。
陰キャ感のある黒髪黒目黒服も好き。
目付き悪くて社会不適合者っぽい顔してる所とか。
実際店長は素行も悪い……。
子供の頃から側に居ても、腹の中では実際何を考えてるのか読めない人。
誰もが店長を避け、気味悪がり、巷では「実は機械なのでは?」という噂まである。
店長はちょっと歳を取りにくくて感情が見えにくいだけで、きっとイヴと何も変わらない普通の人間なのです。
名前も年齢も誕生日も知らない。何を思ってどう生きたのか、イヴの事を何で好きになったのか……。性別さえあるのか怪しい。
高過ぎる背も、冷静で大人っぽい所も、全部自分とは正反対で理想的……???なのです??
どんなに辛い時もちょいワックをして、店長にワックして貰えばイヴはいくらでも頑張れるのです。
だから店長の全部は知らなくても、イヴは店長を癒してあげるワックになりたいのです。
「それでは、イヴは明日から商品の発注を担当すれば良いのですね!」
「ミスしたらトンデモナイ目に遭わせてやる」
「ひぇぷんっ!が、頑張るのです…!」
コーヒーの最後のひと口をグッと飲み干す。
突然仕事をクビになって、明日から住む所も無いと説明したら、店長はイヴを住み込みで働かせてくれると約束してくれた。
イヴは幸運なのです♪思わぬ形で店長と同棲出来るようになったのです♪
嬉しそうにニヤけるイヴに気付かず、店長は明日からの生活を考えてニヤニヤしている。
と、突然、真剣な顔になった店長がイヴを抱き締め白い床に押し倒した。
「店……長……?」
小さな胸がドキドキする。
明日から同棲するとはいえ、そういう事はまだ早いのですよ!!?!
しかも、こんな所でいきなりだなんて雰囲気というものをガン無視なのでは…!!
でもでも、そんな店長も素敵なのです!
イヴも女です!覚悟決めるです!!(脳内で0.1秒の出来事)
イヴは店長とワックする覚悟を決め目を閉じた。遅れて爆風がガラスを破り、熱波が押し寄せる。
ゴロゴロ床を転がった2人は、店のハジでしばらくジッとしていた。
「はぁ…はぁ……はぁ…」
「しぃっ。静かにしてろ…」
店長の余裕の無い表情に頭がガンガン揺れる。視界が狭窄していき、手足が震える。
怖い。
イヴは店長の腕の中で小さくなって震え続けた。外では何度も爆発音がし、瓦礫の降る音が止まない。イヴと店長の大切なワックも、度重なる爆撃の余波で悲鳴を上げていた。
極東日本州。
そこは世界の中心である西ヨーロッパ州と遠い事・海を隔てた島である事が災いして、近代化が進まなかった。
時代の波に乗れなかった者や時代に必要とされなかった者達の掃き溜め。
『世界の終わりの地』
文明・治安のレベルで最下層を誇る、時代錯誤の鉄筋コンクリートで出来た灰色の島だった。
とにかく古い建物達は悲鳴を上げ、終わりの地の住民達は理不尽な爆撃を黙って耐え続けている。
やがて、爆発音は止んだ。ガラスで切った頬が痛む。それ以上に胸が痛かった。
非常灯の緑の光と、遅起きな太陽が瓦礫の隙間から2人を照らす。
街も建物も、全てが壊れていた。
「すまん。可愛い顔に傷が………」
瓦礫の隙間から店長の手が伸びる。その手を掴んで、頬に寄せた。
普段、可愛いと言ってくれないクセに何を呑気な事を……。
店長さえ無事ならば、街が壊れようがイヴはこんな事を言ったかもしれない。
「ケチャップが…ケチャップが…ケチャップ、ケチャップが……ケチャップ……ケチャップ…」
夢の様な光景が涙で滲んでいく。
「おはよう、私の愛しいグッドナイトメア」
音も無くイヴの背後に現れた美女は、少し不思議そうな顔をしてから
「もう少し怪我をしてもらう予定でしたが…まぁ、良いでしょう」
と言った。
「予定外は人生のスパイスですから」




