24.
犬頭のそいつは、フリードの鼻先に向かって右手を突き出して短く詠唱すると、手の先に輝く魔方陣が出現した。
「何の真似だ!」
危険を察知したフリードは、後ろへ飛び退いた。
「冒険者気取りの小便小僧は失せろ! 氷結烈風!」
ブオオオオオオオオオオッ!!
魔方陣の中央からブリザードのような氷混じりの突風が唸りを上げて吹き出すと、フリードの体の周りに渦を巻いてまとわりつき、体を宙に浮かせ、ミーナたちの頭上を越えて石畳の道の真ん中まで飛ばした。
「ハハハッ! 家も店も貯金も借金のかたに没収! 無一文の放蕩息子はそこの馬糞でも食らって石畳を舐めて清掃でもしていろ!」
フリードは石畳に後頭部を打ち付けた衝撃で軽い脳震盪を起こしボウッとしていたが、意識が戻って剣の柄に右手をかけるも、ミーナとカリーナを人質に取られる危険性があるため思いとどまった。
「ザックスさんに話をさせてくれ!」
まだ残る凍るような冷気に包まれたフリードが懇願すると、大男は顔の前で左手を左右に振る。
「いねえよ。奴はすでに尻尾を巻いて逃げていったぜ」
「何だと!? 貴様が脅したのか!?」
「脅し? とんでもねえ。契約書に書いてあるんだよ。読んだだろう?」
今更ながら、フリードは契約書に目を通していなかったことに気づく。サインしろと言うからサインしたが、普通は何の契約書かを読んでからだ。それを、店舗再建の話に安心しきって、目を通すのをすっ飛ばしていた。
「なんだ、そのとぼけた顔は? しらばっくれるなよな。あの契約書は、全権委任されたザックスが七日間で店を再建できない場合は、俺たち債権者に屋敷も店も商品ごと売却することになっていたんだからな。もちろん、銀行口座も凍結だ」
「なにぃ!? 貴様は債権者の代表なのか!?」
「まあ、用心棒ってとこだな。借金負っているくせに、返済請求に行くと剣を振り回す輩が多くてな。そういう奴らを相手にしているのがこの俺だ」
「どうりで、頭のいいツラには見えなかったわけだ」
「お互い様だろ。いずれにしても、小僧の帰る家はねえ。全て金に替えるから、『一緒に寝ている僕のぬいぐるみだけは持って行かせてくれ』ったって、認めねえぜ」
フリードはここで、なぜザックスが「もう少し待ってください」を連発していたのか、その理由に気づいた。七日の期限が切れるのを待っていれば、債権者に金が渡る。渡った金から謝礼金が出れば、ザックスは利益を得る。
それに、借金してまで大量に織物を仕入れていた件。これは「今はこれが流行る」とか嘘をついて買わせ、売る方は儲かるし、金を貸す方は利子が増える。屋敷が処分できるから損はしない。
もしかしたら、全ては債権者がザックスと仕組んだ計略に違いない。
「さては、ザックスと謀ったな!?」
「ほざけ! さあ、さっさとそこのガラクタ人形と一緒に失せろ! さもないと、痛い目に遭うぜ! 手始めにそこの人形の首をへし折ってやろうか? ああん?」
犬頭の大男は、牙を剥いて嗤った。




