19.
帰宅すると、母親が行方不明になっていた。ミーナもカリーナも、昼過ぎに出かけたまま帰らないのだと言う。しかも、行き先を言っていなかったらしい。
人には「どこへ行くのか言いなさい」と言っておきながら、自分は言わなくていいのかと苦笑するも、さすがに何時間も戻ってこないのはおかしい。
もう店じまいする時刻なので、店を閉めたら三人で手分けしようとなった。
そんな話をしているところへ、例の藪医者が血相を変えて飛び込んで来た。
「少し前にお母さんが馬車にひかれて、今息を引き取った」
愕然としたフリードは、頭を抱えてその場に座り込む。
ずっと仲間だと思っていた者たち全員に裏切られたショックからまだ立ち直っていないところへ、鉄槌で殴られた気分だ。
頭の中が真っ白になる。ジーンとした耳鳴りに襲われ、藪医者の声もミーナやカリーナの声も聞こえない。
翌日、母親の葬儀を終えたフリードは、心の中の不謹慎な悪魔と格闘していた。
『もう、これでお金を巻き上げられることもない。しかも店の金は自由に使える。遊び放題だ』
『何を言う。俺の大好きな父さんが残した店だ。厳しい母さんだったが、この店を守ってくれたことに感謝せねばならない。貴様の甘い言葉には惑わされないぞ』
『ほほう。筋金入りの放蕩息子が改心したとな。体面上取り繕うとしても、長く続くまいて。すぐに元に戻るはず。無駄な努力をせずに、浴びるように金を使い込め』
『悪魔め! 今すぐ消え失せろ!』
心の中の悪魔を押さえ込んだフリードは、店を継ぐことを決意した。




