17.
十日経って回復したフリードは、昼前にベッドの上で上半身を起こしたものの、ダンジョンへ出かけるかどうしようかと迷っていた。コボルトが襲ってくる姿が今も瞼に鮮やかに蘇るので、恐怖で体がなかなか動こうとしない。
しかし、金を借りた仲間の顔が脳裏に浮かぶと借金返済の強迫観念の方が勝って、やむなくベッドから降りて装備の準備を始めた。
そこへミーナが食事を持って部屋にやってきた。彼女は、一瞥もしないで無視する彼の後ろに立ち、背中へ声をかけた。
「ダンジョンへ行かれるのですか?」
「……ああ」
フリードはずっと看病してくれたミーナに心配をかけるのを気にして、力なく答える。しかも、ミーナの顔を見ると鼓動が高まるので、振り返ることが出来ない。
「もう大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫だからこうしている」
ちょっと不機嫌そうな言葉のトーンだが、それは彼の本意ではない。今は黙って見送って欲しいのだ。
ミーナはフリードに背を向けて食事のお盆を机の上に置き、振り返った。
「今日は、遊びにお出かけなさるのだけは、おやめくださいませ」
一瞬だがフリードの手が止まるも、再び動き始める。
「無理だ。仲間が首を長くして待っている」
「その首を長くして待っていらっしゃるお仲間は、一度もお見舞いにみえなかったではないですか。そのような方々は、お仲間ではありません」
フリードの体が固まった。
「いや。仲間だ」
ミーナよりも、自分に言い聞かせるように彼はつぶやいた。
「いいえ。心配していらっしゃるのでしたら、お見舞いにみえるはずです。どうして怪我人の方からやって来るのをお仲間が待っていらっしゃるのですか?」
「しつこい! もうその話はやめてくれ!」
「申し訳ございません」
見舞いに来なかったことはフリードも気にしていた。飲むだけ飲んで、食うだけ食って、見舞いに来ないで、借金を返すのを待っていて。
それに対して腹を立てていたので、怒りをミーナにぶつけてしまった。そんな自分が情けなくなる。
だが、そんな相手でも、借金を返さないとなるとヘンな噂を流される危険性がある。噂が母親の耳に入ったら厄介だ。だから、納得がいかなくても金を稼いで持って行かなければならない。
フリードはミーナに背中を向けたまま、心の中で自分にそう言い聞かせていた。




