1.
[登場人物]
フリード……冒険者で放蕩息子
ルナ…………フリードの母親。躾が厳しい
ミーナ………ルナの家にいる家政婦用のオートマタ
カリーナ……ルナの店を手伝うオートマタ
ザックス……店舗再建を請け負う男
ノバカナリアス帝国に、ダンジョンに潜って魔石集めで小遣い稼ぎをしているフリードという二十歳の冒険者がいた。
彼は中肉中背で、マッシュルームカットの金髪がトレードマークの色男。
ここまで書くと美形の冒険者に思えるが、魔物相手に百戦錬磨の猛者でもなく、人々を守る使命感に燃えた熱血漢でもなく、明日の糧を得るために必死に働く冒険者たちとは一線を画する遊興費目当ての残念な似非冒険者。
いつもヘラヘラしながら町中で快楽を求めて徘徊し、ギルドで魔石を換金して手に入れた金貨を散財する。その歩いている姿は、冒険者風の外出着で闊歩するお坊ちゃまに見えるから、さらに残念である。
こんな彼は、さもありなんと思われるかも知れないが、商家で大切に育てられた一人息子。織物屋の稼業は一切手伝わず、2年前までは親に小遣いをせびっては遊び歩く毎日を過ごしていたという、絵に描いたような放蕩息子であった。
小遣い稼ぎを始めたのは、2年前に父親が死んでから。甘やかした父親とは違って厳しい母親だったので、遊ぶ金だけは自分で稼ぐようになった。
その他の生活態度は何ら変化なし。もちろん、店の跡を継いだのは母親である。
ところが最近、母親の小言がイヤになって家を飛び出し、宿屋で一人暮らしを始めるようになった。
宿代は女将がしっかりしていて、一ヶ月を超える長期宿泊の場合、月初めに一ヶ月分を一括払いしないと泊めてくれない。彼は家出と同じなので仕送りがなく、この宿代と食費と遊興費が全て自腹になった。つまり、小遣い稼ぎだけでなく生活費全てを魔石集めで賄わざるを得なくなったのである。
さて、今日のフリードの行動を見てみよう。
冒険者は朝から獲物を求めて我先にとダンジョンへ潜るが、彼は昼過ぎに眠そうな顔をひっさげて登場。こんな時間にやって来る冒険者はいないので、すでに戦利品を抱えて地上に戻る同業者たちとすれ違うのみ。
彼はダンジョンの比較的浅い階層を潜って弱そうな魔獣たちだけを狙い、短剣で倒した後、慣れた手つきで体内から青白く輝く魔石を抉り取る。
強そうな魔物が登場すると、手ぶらの時は物陰に隠れてやり過ごすが、戦利品があるときは命あっての物種だとばかり一目散に地上へ逃げる。
同業者の多くは一攫千金を夢見て深い階層まで潜り、命を賭して大型で強い魔獣を倒して大きな魔石を得る。フリードは、そんな戦利品を持ち帰る連中の背中に向かって、軽蔑の眼差しを向け、フンと鼻を鳴らす。
「何、がむしゃらにやってんだ? 馬鹿か、あいつら。死んだら、おしまいじゃないか」
彼は足取りも軽く口笛を吹きながらギルドの門をくぐり、窓口のカウンターの上に魔石の入った麻袋をゴロリと置くと、査定する係員がそれを持って奥へ引っ込む。
しばし待たされた後で、係員が目映く光る金貨数枚を手にして現れると、冒険者へねぎらいの言葉をかけてからカウンターにその金貨を滑らせるように置く。手抜きのフリードが持ってくる魔石の量なら、金貨はだいたい2~5枚である。
彼はニヤリと笑って金貨を握りしめ、スキップするように繁華街へ繰り出す。そうして、宵越しの金は持たぬとばかり、鯨飲馬食し、あらゆる娯楽に興ずる。
翌朝、根城にしている宿屋へ戻った彼のポケットというポケットを裏返しても、埃しか出てこない。
これが彼の日常であった。