episode.8 服を買いに
30分後にアリス、リリア夫人、レナードとカレンはエントランスに集合した。
ちなみに公爵は城での仕事が山積みなのでついて行けないが。
街へは馬車で行くことになった。
4頭立てで、金の装飾が施されている立派な馬車だ。
「カレンさんの世界には馬車がないのですか?」
乗ってから興味深そうに馬車の内装を見ていたカレンにリリア夫人が聞いた。
「ありますよ。でも随分昔の乗り物なので今は私の国で走ることはめったにありませんね。」
「では、出発いたします。」
御者の人が声をかけた後、馬車が動き出した。
「じゃあお前の世界にはどんな乗り物があるんだ?」
今度はレナードが質問をして来た。
この世界では馬車か馬、もしくは徒歩、移動魔法で移動しなければならない。馬車以外の乗り物にレナードは興味を示した。
「電車とか車とか飛行機とか…って言っても多分わからないわね。でも、どれも馬車よりは早いわ。」
「馬車より早いのか。ますます興味が湧いたな。」
「でも、どんな構造なのかということは聞かないでほしいわ。
私、そういった類のことは全然知らないのよ。ただ乗ったことがあるだけだから。」
カレンはいわゆる機械オンチ、さらにはITオンチだった。
携帯電話はガラケーで、パソコンも学校の授業で使う程度だ。もっと言えば、テレビもほとんど見ず新聞でニュースをチェックする。
カレンは機械やITというものに触れる機会があまりないのだ。
そういう意味で、機械という類の物がなさそうなこの世界はカレンにとって落ち着く場所だった。
それからしばらくレナードと話をしていると、外壁近くの商業区についた。ちなみにリリア夫人は二人が話していた姿を微笑ましく見守っていたが、アリスはカレンを見つめてなにか言いたげそうにしていた。
カレン達一行が来たのは貴族の女性御用達の服屋だった。
店内には可愛らしく、なおかつ優雅さが特徴の服がたくさんや並んでいた。
「さあ、好きなだけ買ってくれ。」
どれも可愛らしかったので、カレンは迷っていた。
アリスに意見を聞いてみようと思ってアリスの方を向くと、カレンをじぃ〜と見つめていた。
「アリスちゃん、私に何か言いたいことがあるの?」
「あ、え〜と。その…」
アリスはもじっとなり、戸惑った。
そして何かを決意して、真剣な眼差しでカレンを見た。
「カ…カレンお姉さまとお呼びしてもいいですか?」
その場に緊張が走ったと思われたが、一瞬で吹き飛んだ。
「い、いいけど…」
「ありがとうございます!私、従兄弟もあの双子の王子だけでお姉さまと慕える人がいなかったので欲しいと思っていたのです。なので私のこともアリスとお呼びください!」
「分かったわ、アリス。」
アリスは、さっきと打って変わって笑顔になった。
そんなアリスに兄であるレナードはため息をついて呆れた表情を見せた。
「お前、そんなことで悩んでいたのか?」
「まあ、お兄様。レディの悩みに愚痴を言っては紳士の名が廃りましてよ!」
アリスはぷぅっと頬を膨らませた。
二人の会話をカレンとリリア夫人は顔を見合わせて、微笑ましく見ていた。
「そういえば国王のお子さんは息子だけなのね。」
「ああ。国王の子供、つまり俺たちの従兄弟は双子の王子だけなんだ。」
「顔立ちこそ瓜二つですが、雰囲気は対象的ですね。髪の長さも違いますし。まあ根本的な性格は同じでしょう。そんなことより、服を選びましょう!カレンお姉さま、こちらなんていかがです?」
そう言ってアリスは十着ほど持ってきた。
結局カレンはお店のほぼ全部の服を試着することになってしまった。
「本当にどれもお似合いです〜〜!!」
「本当にカレンさんはどれを着ても似合いますね。ねぇレナード。」
「あ、ああ。」
はしゃいでいるリリア夫人とアリスをよそに、レナードはぽ〜っとカレンに見惚れていた。
ちなみに見惚れていることに気付かなかったのはカレンだけであることは言うまでもない。
「では、全て買いましょう!どれもお似合いですし。」
アリスからの思いがけない提案にカレンは戸惑った。
「いや、そういうわけにはいかないわ。」
お金の無駄遣いだと思ったカレンは数ある服の中から迷いながらも絞り込んだ。
「じゃあ、この五着にするわ。」
カレンが選んだのは、清楚な感じのデザインだった。
会計で金貨10枚と言われたが、カレンはいまいちピンとこなかった。ちなみに金貨一枚は一万円に相当するので、カレンが買った服の合計は十万円となる。
その次には靴屋に行き、靴を二足ほど買った。
カレンにとってヒールのある靴は歩きにくかったので、できるだけヒールのない靴を選んだ。
靴を買い終えた頃には昼に差し掛かっており、昼食をとったあとで一行は杖の店に行くことになった。