2 国立第一魔王学院
不定期連載中です。
1ヶ月とちょっと前に人類をやめてから、世界観が大きく変わったように思えた。人間を見る目が変わり、自分の考え方が変わった。
今いるのは魔国レイブンズの首都ダリルだ。俺は今ここで、住み込みで学業に勤しんでいる。魔国は教育熱心で、無償で教育機関に入学できる。とは言っても、流石に実力の区別化はするらしく、試験はあった。俺は魔国一の教育機関との呼び声高い、国立第一魔王学院を受験し、割とギリギリで受かった。実技面では文句なしの点数だったが、魔国に来てから日が浅かったため、ペーパーテストでしくじった。まあ、そこの所は生活していくにつれて身についていくと思われるので、あまり心配はしていない。
合格したはいいが、まだ入学式という訳でもなく、少し知識が足りないのも良くないので、国立図書館で勉強中だ。
俺は人間だった頃はタンザナイト等級冒険者だったが、まだ実は10代だ。
世間一般的には学生と呼ばれる年代だ。しかし、俺はずっと冒険者として生活していたので、学生をよく理解していない。
学生に対する憧れ、もあっただろうが、やはり魔族の社会で生き抜いていくには良い注目をされる必要があるだろう。
国立第一魔王学院では、「次世代の魔王を育てる」をコンセプトにしたエリート教育が行われる。実技に関しても、知識に関しても最高級であり、魔族の貴族連中の子息がよく通っているらしい。
さて、今は図書館で勉強をしている訳だが、色々と疑問に思う点があった。
1つ目。人間の国と、歴史、もしくはその解釈が全然違うこと。辿ってきた事実はほとんど同じはずなのに、書かれている内容は全然違った。
例えば、人間の国の方では、魔王によって人類は絶滅の危機に瀕し、国土が縮小したと書いてあったが、魔族の国の方では、約束を破った人間によって壊滅の危機に瀕した魔国を、魔王が必死に抵抗して救い、その結果今の国がある、となっている。
これが歴史問題の面倒くささというやつなのだろう。実際、今の俺にはどちらが正しいか、なんて判別しようがないのでそんな事は考えるだけ無駄だ。
しかし、これでこれからやるべきことが決まった。国立第一魔王学院をトップの成績で卒業し、やがて魔王、もしくはその側近となること。これが目標達成への第1歩だ。
魔国の図書館には、人間の世界では得られない知識が沢山あった。魔族のこと、土地のこと。魔族のことに関しては、全く知らないことの方が多かった。
入学式まであと1週間。それまでに最低限の常識を身につけなければならない。大変だが、しょうがない。入学後に苦労しないために。
息抜きついでに首都ダリルを歩いていく。魔族にしかない文化もあり、新鮮さを感じる。
正直、困ったことも多かった。今の魔国には仲間と呼べる存在がいない事だ。それゆえ、何か問題を起こせばもうジ・エンドだ。
取り敢えず、やることが無いので積極的に魔国の文化に触れていく。学ぶべきことは多い。いや、多すぎる。オーバーヒートしそうなくらいだ。
ここで、国立第一魔王学院について詳しく確認しておく。
国立第一魔王学院。略して国魔院。言わずと知れた魔国一の教育機関であり、沢山の貴族の子息が通う、エリート学校だ。ここでは、魔国最先端の教育を受けることができ、卒業さえ出来れば将来が約束されると言っても過言ではない。何故なら、そもそも卒業までたどり着ける生徒が少ないからである。学年は3つに分かれており、第1学年、第2学年、第3学年と学年が上がるにつれて絞られていき、卒業できるのは毎年入学する100人のうち、10人いるかいないかくらいらしい。入るのも難関、卒業するのも難関という鬼畜ぶりだが、そこに在籍している生徒や先生の質は言わずとも周知の事実であり、そこに在籍していた、というだけで様々なところからスカウトされる。
この国立第一魔王学院のシステムから分かるように、魔国は完全実力主義である。強いものが新しい世界を切り開く、という理念のもとに国がつくられる。
さて、時間もちょうどいい頃なのでご飯を食べに行こう。本来、ご飯を食べる必要は無いが、習慣として残っているからしょうがない。魔国流のテーブルマナーも身につけたいので、少し高そうなレストランに行った。
少し高めのレストランなだけあって、料理は美味しかった。テーブルマナーもある程度身についたので良かった。さて、これからどうしようか。俺は魔国に帰るべき家も無ければ親戚もいない。だから今までは宿に泊まっていた。
それももう少しで終わりだ。国立第一魔王学院には寮制度があり、そこももちろん最低限のことなら無償で使用させてくれる。
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俺は結局、この一週間を知識のために使っていた。何をするにしてもやはり、情報は大事だ。これは人だった時に学んだことだ。
俺は情報収集を怠ったばかりにあの忌々しい奴らに嵌められた。それは身をもって体験してきた。だからこそ情報を集めなければならない。二度とあんな目には会いたくない。その為の勉強だ。
さて、入学式へと向かう準備をしよう。一応正装と呼ばれる服装に着替える。
国魔院の校舎は今日の日のために豪華に飾られていた。繊細かつ、煌びやかな装飾が施されており、見る者を魅了する。
校舎内に入り、式場へと向かう。魔国の重鎮たちが一堂に会しており、緊張感が高まる。
式場には多数の椅子が並べられていて、4つの集団に分けられる。順にSクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラスだ。このクラス分けは主に試験の順位を元にして決められる。俺はギリギリで受かったのでCクラスだ。
指定された席に座り、開式を待つ。すると、隣から話しかけられる。
「初めまして、俺はギルマだ。種族は竜でお前と同じCクラス。男爵家だ。よろしくな」
「初めまして、ヴァルリーだ。種族は吸血鬼だ。貴族家では無いが、一応よろしく」
「へぇー、貴族家じゃないのか。珍しいなお前。国魔院に来るやつって大抵お偉いさんだからな。ま、仲良くしようぜ」
魔族というものは実は幅広く、奥深い。様々な種族に分かれており、性格も得意な事も何もかもが違う。
その中でも竜族は太古の昔にずっと魔族の覇権を握っていた種族で、高い身体能力と、代々受け継がれる古代魔法による戦闘能力の高さが特徴的だ。
「もうすぐ始まるぞ」
俺はそう言って視線をステージ上に移す。
「これより、第1725回国立第一魔王学院入学式を挙行する!」
ようやく入学式が始まるらしい。初めは新入生代表の言葉だったか。試験の成績がトップだった奴が新入生代表として挨拶をする。
「新入生代表挨拶!Sクラス、アドリアーノ・マルガ!」
「はい!」
新入生代表のマルガが前に出る。
「暖かな春の光に誘われていくつもの花々のつぼみも膨らみ始めた今日の良き日に、この国立第一魔王学院の入学式を迎えることとなりました。このような素晴らしき式を執り行って頂けることに大変感謝しております。厳しいこの環境下に身を委ね、荒波にもまれ、その中で自己の可能性を見つけ出し、いつかは魔国を導く存在となれるよう、懸命に研鑽を積み、良き仲間達と共にこれから歩んでいく所存でございます。先生方、ご指導のほど、よろしくお願い致します。新入生代表、悪魔族、アドリアーノ・マルガ」
新入生代表の挨拶も終わったので、次は確か、校長挨拶だったか。そう言えば、今の魔王も悪魔族だったような。
「校長挨拶!国立第一魔王学院名誉校長、魔王メギ・ドラルファ・ゼノ様!」
いきなり魔王登場とはね………。今は悪魔族が覇権を握っているのか。その高い知能を駆使する悪魔族は正直敵に回すと厄介なタイプだ。
「新入生諸君、まずはおめでとうと言っておこう。数多の受験生の中から選ばれし諸君は既に十分と言える素質を持っている。しかし、侮ることなかれ。魔国は先祖代々実力主義の国であり、相手を認めさせるには実力で示さねばならない。しかし、実力というのは絶対的なものではなく、その一瞬一瞬において少なからず変動する値のようなものと知れ。決して驕らず、地道な研鑽を積み、我と共に魔国をより良くしようと欲する者が現れることを願う。これを挨拶とさせていただく」
挨拶、というには随分と迫力があった。あれが魔王。俺が目指すべき、いや、ならなければならない存在。その圧倒的な力の前では、たとえ勇者であっても苦戦、もしくは敗戦を強いられるほどの強者。
式が進められていき、国魔院についての説明をされる。
国魔院では、入学時の成績を元に、クラス分けをするが、それはあくまでも事務上の都合らしく、必ずしも優劣の差という訳では無いそうだ。その為、C→Aなどと、クラスが変わることは無いらしい。ただし、学年が上がる時に行われる進級試験に合格した生徒の数次第では、統合もありえるとのことだ。また、進級試験に合格できなかった場合、もう一度その学年で学ぶことになるが、再び進級試験に合格できなかった場合は退学処分となるそうだ。国魔院の教師達は魔王の腹心の部下達らしく、徹底的に色々なことを叩き込まれる。どんな内容かはその時までのお楽しみらしい。
その後も、様々な入学式イベントがあったが、あまり記憶に残っていない。多分寝てたなこれは。
「以上で、第1725回国立第一魔王学院入学式を終了する!」
いつの間にか入学式が終了していた。取り敢えず、この後直ぐにHRがあるらしいのでCクラスの講義部屋へと向かう。
1人の先生らしき人物がニヤッと笑いながら俺たちのことを見ていた。
「おやおや、これはこれはCクラス皆さんお揃いで。私はCクラス担当教師兼魔王側近衆『大罪』が1人。怠惰のベルフェゴールでございます。ここにいる皆さんが全員次の学年にいけるといいですねぇ」
何か鼻につく話し方をしてくるこの男が本当に教師なのか?確信が持てないので探りを入れることにしよう。
まずは疑いの目を持って相手と接することが大事だ。何かが怪しいはず、何かがおかしいはずと疑念の目で見ていく。あらゆる事象に対して自問自答を繰り返す。
怠惰とはなんだ?
「大罪」とはなんだ?
Cクラスとはなんだ?
何故最初にニヤッと笑っていた?
あらゆる可能性を検証し、真実を探していく。
そもそも教師は魔王の腹心の部下達なんだよな。ということは、既に何かを仕掛けていてもおかしくは無い。何故ならあのベルフェゴールと名乗る教師は俺たちよりも先に教室にいた。つまり、俺達が講義部屋に入る前に何かをしていたということになる。
そもそも怠惰とは、やるべきことを怠ける様子を表す言葉だ。つまり、何かを怠けているのか?最初から俺達を試しているというのはまず間違いないだろう。状況的にもそれが自然だ。それに先生を名乗るにしては他人行儀すぎる。
「先生って、本当に先生なんですか?」
取り敢えず挨拶代わりに一言。
「それはどういう意味ですか?」
「そのまんまの意味ですよ。どう考えても先生らしく無いし」
さて、返答は………
「クックック、勘が鋭いですねぇ。そうですよ。私は先生ではありません。ちなみに、ベルフェゴールでもありませんが」
予想外の回答が帰ってきて少し戸惑う。
「ベルフェゴールはここにはいませんよ。何しろ、あの方は『怠惰』なものですからねぇ。全く、困ったものですねぇ」
「では、あなたは一体?」
「私は、Cクラス副担当、そしてベルフェゴール様の補佐役をしております、グリズリーと申します。以後お見知り置きを」
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