1 全ての始まり、人類卒業
別の作品の合間に書いている作品なので、投稿ペースはかなり遅くなるものと思われますが、もしかしたら人気次第でこっちをメインにするかもしれません。
それは、1ヶ月とちょっと前の出来事だった。俺は冒険者として自らを鍛え、律し、それはそれは常に模範的な人間として、あらゆる人が憧れる立派な冒険者として生活をしようと心掛けていたときの話である。
友達はそんなに多くはなかったが、いつも一緒に冒険に出ていた仲間や、普段よく使っていた宿の主人、冒険者ギルドの受付嬢やギルドマスター等、関わっていた人は沢山いた。
しかし、ある出来事をきっかけに俺の人生、いや、今となっては人生とは言えないが、それが大きく変わってしまった。では、その日のことを「Xデー」とでも言っておこう。
「Xデー」に起きた出来事。それは今思い出しても虫酸が走り、頭の芯から嫌悪感や、屈辱感などが吹き出てきそうだ。
その当時、俺は冒険者として「普通」の生活を送っていた。とは言っても、割と名の通る冒険者だったが。
ギルドには等級システムが存在する。スチール→カッパー→シルバー→ゴールド→プラチナ→ダイヤモンド→アレキサンドライト→タンザナイト→レッド・ベリルと、9階級存在する。
因みに俺はタンザナイト等級冒険者として活動していた。俺は主に凶悪な魔物や魔族を相手にした依頼を受けていて、実際、冒険者としての実力や知識が俺に勝っていた者は手で数える程しかいなかった。
俺はいつも通り拠点としていたゼルド王国内において、調査と称した魔物退治を行っていた。
依頼ではなく、自主的に行っていた為、もちろん報酬は無かったが、既に遊んで暮らせる程のお金は持っていたので関係なかった。あくまでも俺が善意で動いていただけだ。
また、警察のような仕事も行っていて、悪い事をした連中を捕まえては適切な処罰を受けさせる為に、自警団や公安部隊に引き渡していた。
そんな中、問題の出来事の足音は俺に忍び寄っていた。もちろん、その時の俺はそんな事など知らずにいたのだが。
ゼルド王国の王都ザビにおいて要人の殺人事件が起きたので俺もその現場に向かった。その要人は実質的な国のトップ3で、貴族連中を取り締まる立場にいたらしく、貴族から疎まれていたらしい。
俺も勿論その事件の犯人探しに協力した。「自分に出来ることがあるならなんでも協力します」と。今思えばそれが大きな過ちであった。その理由は順を追って話そう。
初めのうちは近隣に住む人々からその時の状況を聞き出す。少しでも多くの情報を集めて、可能性を絞り込んでいく。しばらくした後、ゼルド王国の王国騎士達が俺のところに駆け寄ってきて、こう言った。
「すいません、緊急の要件があるので、一旦聞き込みを中断してついてきて頂けませんか?」
その時の俺は確かその言葉をそのままの意味で受け取り、「分かりました」なんて言ったっけか。そしてこれが後に俺にとっての悲劇になるのだった。
ついて行き、たどり着いた先は広い部屋だった。意味ありげに巨大な魔法陣が描かれていた。
俺はその部屋の中央に案内され、ここに止まるように指示される。
その瞬間、俺は腕と脚を拘束され、身動きが取れなくなった。
何が起きたのだろうとパニックになった。
何故、こんな事をされたのかと。すると王国騎士達の内の一人が喋りだす。
「貴方を国家反逆罪の容疑で逮捕し、これから尋問を行う!!」
「それは………冗談ですよね?」
「お前こそ何をぬかしておる。人々からの証言にて、お前がやったという事実は既に知れ渡っているぞ」
「そんな事する訳ないじゃないですか!だいたい俺には動機がない!」
「ええい!黙っていろ!お前は今から俺が質問することだけ答えていればいいのだ!」
身体を動かせず、魔法の類も封じられ、することが出来たのはただ喋ること。そんな中、1人の人物がこちらを見ながらうすら笑いを浮かべているのが見て取れた。
そう、そいつこそ今思えば全ての元凶にして、俺が憎むべき相手である元貴族のジェインだった。そして、王国騎士達の様子もよく見てみると、違和感があることに気がつく。そして、何よりも見たことがある顔が幾つもあった。
その瞬間、俺は漸く気がついた。
「俺は………嵌められたのか………………」
「何を言うのかと思えばただの戯言か。お前は嵌められたのではなく、粛清されるのだよ。ジェイン様に逆らった代償として」
ジェイン一派。極悪非道な事を生業とし、民を搾取する対象としか見ていない、所謂人間の膿だ。そんな奴らが何故俺を恨んでいるのか。それは少し前の出来事と、ジェインが元貴族であることに深く関係する。
簡単に説明すれば、王国にジェインの悪事の証拠を突きつけ、貴族権を剥奪させたのだ。恐らくそれが原因なのだと思う。そして、ジェインは今こうして俺に復讐しに来ている。俺とよく似たやつに貴族に疎まれる存在を殺させ、貴族どもを取り込み、そして俺に罪を擦り付ける。王国騎士達も取り込み、事実上は俺にはどうしようもない。
「そうか、お前らはジェイン一派か!!」
「今更気がついたところでもう遅い。ジェイン様が受けた屈辱以上の屈辱、死んだ方がマシだと思うような残酷な末路をお前にくれてやる」
そう言って王国騎士に扮したジェイン一派が立ち去る。
それからどれくらい時間が経ったかは覚えてはいないが、ただ1つ覚えているのは全人類による裏切りのようなものだけだ。今まで俺を慕っていた殆どの人々が俺を貶し、罵倒し、罵るために俺のいる広い部屋へと訪れた。
蹴られ、殴られ、唾を吐かれ、また殴られる。そして、かつて冒険を共にしてきた仲間たちもやってきたが、他の奴らと同じように俺を貶める。
「君はそんなやつだったんだね」
「早く死んだ方がマシだよね笑」
「生きてる価値なんててめぇにはねぇ!」
などと言われたが、そんなことはどうでもよかった。
「俺はやってねぇ!!!」
心からそう叫んだが、帰ってきた言葉はもっと酷いものであった。
「なんだ、反省していないのか。自分が犯した罪を認めないとは。堕ちるところまで堕ちたね君は」
「証拠もあるのにそんなこと、誰も信じないわよ。さっさと死んでしまえばいいのよ、こんな外道!!」
かつての仲間だった冒険者に失望した。長い間苦楽を共にしてきた俺よりも、ジェイン一派の言うことを信じたことに。そして、その本心には面倒事に巻き込まれたくない、という気持ちが隠れていたことに余計に腹が立つ。
腸が煮えくり返るような気分だったが、それでも我慢していた。きっと、俺のことをまだ信じてくれている人がいるはずだと。
しかし、そんな事はただの妄想だったという事に気がつくまで、時間がかからなかった。
ギルドからのタンザナイト等級剥奪及び、永久追放。王国からの国賊認定。極めつけはこの世界に仇なす存在「魔王」と疑われ、遂には死刑が確定した。
明らかな冤罪。しかし、その可能性に誰も気づかない。いや、気づこうとしない。俺の話を一切聞かず、自分達が正しいと決めつけ、意識の中に共通の敵を作り上げ、貶める。
その瞬間、俺の心はドス黒く荒み、フツフツと煮えるに静かな、そして、激しい憤怒の感情が俺の意識を奪う。人間なんてゴミクズ以下の価値しかない。自分の利益のためならば遠慮なく他を生贄とする。そして俺は思う。
「ああ、なんで俺は今まで人間に寄り添い、助けようと生きてきたのだろう。存在する価値のない下種どものために生きていたのだろう」
気がつけば、そう呟いていた。
人が憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎イ憎イ憎イ憎イニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ
そして、思った。「人間なんてみんな滅べばいい」と。
意識が遠のいていく。体力が流石に限界だった。スっと吸い込まれていくように意識が消えていく。夢の世界へ誘われる。
▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶
―キミノノゾミ、カナエテアゲヨウカ?―
何故か分からないが、夢の世界だと一瞬で判断できた。そして、聞こえてきた声に返答する。
「俺の望みがなんだか分かっているのか?」
―モチロンサ。キミノコトハナンデモシッテル―
「本当に分かっているのか?」
―キミはテンセイシャナンダロ?カッテニコノセカイニヨビダサレタノニモカカワラズ、ジブンタチノツゴウノイイヨウニキミヲツカイ、ヨウズミトナッタラキリステル。ソンナジンルイガニクインダロ?―
「ああ、その通りだ。この世界に転生してきたと思ったら、貴族どもにいいように気がつけば、使われていた。しかもその事に恩義を感じるどころか、俺を始末しようとする!こんな結末あってたまるか!」
―イイメヲシテイル。モシ、キミガノゾムノナラバ、ワタシハオマエヲカエテヤロウ―
「本当にそんなことが?」
―デキルサ。ワタシモジンルイノオウボウニハアタマニキテイテネ。イッショニコノセカイヲカエヨウ。キミハジンルイニタイスルフクシュウヲモッテ、ワタシハジンルイニタイスルシンバツヲモッテ、コノセカイヲカイヘンスルノダ。ヨリヨイホウコウヘト。キョウリョクシテクレルカイ?―
「ああ、やってやるさ。それが正しいと信じて。俺は人類のためでなく、この世界のため、貴方のために戦うと誓ってやる!そのためなら俺は人間なんてやめてやる!!」
―イイカクゴダ。コレカラヨロシクナ。ヒゲキノヒトノコ「リベンジャー」ヨ。―
▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶
奇妙な夢を見たと思った。しかし、それが実際の出来事のようなものと判断するのには苦労しなかった。
この世界にはステータスがある。それを確認してみると、明らかに違うところが数カ所ある。
まずは種族。元は人間だったはずだが、今の表示では「最上級魔族 吸血鬼」となっていた。見た目は人間そのものだったが、姿は色々と変えることが出来た。魔族らしい姿や、人間らしい姿などだ。
また、特記欄のところに「復讐者」と、「吸血王」が追加されていた。
名前も、人間の時のヴィルから変わってヴァルリーとなっていた。
これからやるべきことを考えた。やっぱり、魔族となったのだから、魔族領に行くべきだろう。そこで魔族として生活し、魔族として人類と戦い、滅ぼす。これが今の俺の目標だ。
俺を貶めた醜い下種どもに復讐の刃を切り込んでやる!そう誓った瞬間だった。
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