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竜の帰還

1-052

 

――竜の帰還――

 

 交渉が終わりゼルガイア達が戻って来た後みんなのいる装甲車の近くにバスがやって来た。

 人族の体に竜の頭を載せた男がそこから降りてこちらに向かって歩いてくる。

 隣にはクロちゃんがパタパタとヒレをはためかせて飛んでいる。

「お父さん!」

 ユキがエルギオスに向かって走っていく。

 

「ユキちゃーん♪」

 クロが大きくヒレを広げて飛んで来るがスッと横を通られて無視をされた。

「おお、無事で良かったもう駄目かと思っていたんだよ。」

 竜の顔をした男がユキを抱きしめる。

 無視をされたクロは勢い余ってお兄ちゃんにぶつかる。

「やあクロちゃんご苦労さま、そんなにボクに会いたかったのかい?向こうにキララもいるよ。」

 装甲車の屋根の上であくびをするキララを見て慌ててお兄ちゃんの後ろに隠れるクロで有る。

 

「ああ~らお父さんじゃ有りませんか?」

 お母さんがエルギオスの方に首を伸ばしていく。

「おお、君は雌のドラゴンだね、私のことを覚えてくれているのかい?これはうれしいねえ、もっとも申し訳ないが大きく育ちすぎて誰かまでは思い出せないよ。」

「いいんですのよ、もう4500年も前の事ですもの、お父さんもあの頃とお変わりもなくて。」

 親し気に話すお母さんを見てお父さんはすごーく気になる様子である。

 

「なに?母さんこの人知っているの?」

「いやあねえ、あなたも知ってた筈なのよ、あなたのお父さんでもあるのだから。」

「はははは、君は私の事は覚えていないようだね。無理もない実は私だって君たちの事を覚えている訳じゃ無くて記録を見ているだけに過ぎないのだよ。流石に5000年間記憶を保てるのは補助頭脳を持っている雌の竜だけだろうね。」

「え、そうなの?それじゃワシと母さんは兄弟と言うことになるじゃないの?」

「ああ、君たちの元になったのは私の胚だからね、ユキもクロもあの竜の子供達も皆同じなんだよ。」

「いやそうじゃなくてねワシと母さんが兄弟だって?」

 どうもその事に関してやたらに気にするお父さんである、野生生物の間ではそんな事は全く気にもかけない事で有るのだが。

 

「遺伝子的な事を言っているのであればみんな若干違っているんだよ、それぞれ遺伝子を改造されているからね正確には別の個体さ。」

 なにやらホッとしたような顔をするお父さんである。

 

「君たちは夫婦になって子供達を儲けたみたいだね、竜の家族を見るのは初めてだけど良い家庭を築いているみたいで良かったよ。」

 仲の良いお兄ちゃんとキララを見てほほえましそうな顔をする。

「お父さんはあの子供達を作ったんでしょう?」

 お母さんは竜の子供達の方を示す。

「ああ、彼らには誠にすまないことをしたと思っているよ。人族達が迷信に囚われて竜を欲しがったんだよ。私には止める事が出来なかった。」

 竜の始祖は残念そうに告げる、決して本意で誕生させた訳では無かったようである。

 

「正直言ってクロがあの竜の兄妹を連れてきたときは本当に嬉しかった。あの子達は現在の文明の中で育てられて来たので外の世界で生きる術を知らないのだ。」

「生のお肉を食べた事が無かったみたいですものねえ。」

 火を通したステーキしか食わず綿の入ったベッドで寝て来た彼らに屋根のない石畳の上でで寝る事が出来るだろうか?

「君らには大変な負担をお願いすることになる、どうかあの子達が外で生きられるように育ててほしいのだ。」

 エルギオスは深々と頭を下げる。

「あーっ、やっぱりワシが育てる事になるのね。」

 半ば諦めと達観の境地でお父さんは答えた。

 

「お父さん大丈夫よ~っ、親はいい加減でも周りがしっかりしてれば。」

「あそっ……。」

 お母さんからは完全に見切られているお父さんである。

 

 エルギオスはサキュアの方を見る。

「サキュアさんだね、外の世界ではユキがお世話になったとクロが報告をしてくれたよ、本当にありがとう。」

 サキュアに対しても丁寧に頭を下げるエルギオス、ユキがこの竜に取っても大変大切な人間だったのだとサキュアは感じた。

「いえ、竜の巫女としての努めですから。それでユキさんはこのままこちらの世界に残るのですね。」

 一時的に友達が出来たとしても、結婚をし子供を儲けるのであればやはり人族は人族の中で生きるべきだとサキュアも思っていた。

 

「せっかく仲良くなっていただいたのに残念ですがそうなるでしょう。」

「仕方有りません、私も適当な男を探して10人位子供を儲ける予定にしておりますしユキさんにも好きな旦那と丈夫な子供をたくさん育てて欲しいと思っていますから。」

 サキュアは何の感慨も無いように淡々と述べる。

 

「君、若い割にしっかりと人生設計をしているんだね。」

「竜神に仕え万民の幸せを願う竜の巫女ですから。」

 エルギオスはギュッとサキュアを抱きしめる。

「ありがとう……本当にありがとう。」

「私も短い間でしたがとても楽しいひとときを過ごせました。ユキさんにはとても感謝をしています。」

 サキュアはエルギオスをじっと見上げていた。

 

「お父さーん。」

 竜の子供達がエルギオスに気がついて走ってきた。

 父親を取り囲んで皆が抱きつく。

「苦労をかけたね、みんないい子に育ってくれてお父さんはうれしいよ。」

「お父さんは僕たちと一緒に行けないの?」

「ああ、残念だが人間たちを見捨てる訳には行かないからね。その代わりほら、私の何倍も大きなお父さんがそこにいる。」

「どもっ。」

 上空から手を振るお父さん、なかばやけくそである。

 

「あのね、あのね、お父さんナナの尻尾が千切れちゃったのー。」

 ナナは短くなった尻尾をエルギオスに見せる。

「ああっ、かわいそうに痛かっただろうねえ。」

「でもおっきい竜のお父さんがすぐに生えて来るって。」

 エルギオスが見上げるとお父さんは前足の指で丸の形を作った。はるか昔の習慣で問題が無いことを示す合図である。

 後ろでお母さんも同じ格好をしている。

 きっとお父さんだけでは信用されないと思ったのかもしれない、可愛そうなお父さんで有る。

 

「大丈夫だよ、竜のお父さんがそういうのなら間違いない、お父さんの言うことを聞いてご飯を一杯食べるんだよ。」

 エルギオスはナナを抱きしめる。

 次々と子供達がエルギオスに抱きつく、その子供達を愛おしそうに抱きしめる。

 

「ユキっ。」

 バスから小さな女の子が降りてこちらへ走ってくる。

「ナズナ~っ。」

 ユキの妹らしい、ユキが走り寄って行く。

「ユキーっ、ユキーっ死んじゃったと思ってたよ~。」

 二人は抱き合って泣いていた。

 

「ごめん、ごめんよ~っ、ナズナ~っお父さんに助けられたんだよ~っ。」

「お父さん?エルギオスのお父さんの事?」

「違うよ竜のお父さんの事だよ。」

 ナズナは竜のお父さんを見上げて驚いていた。

「すごいおっきいー。」

 お父さんは一生懸命笑顔を作ろうとして牙を剥き出して全員に引かれていた。

 

「私が世話になっていた竜のお兄さんとキララお姉ちゃん。」

「やあ、君がユキちゃんの妹さんだね、会えて良かったよ。」

「わあ、ユキちゃんによく似てかわいいわ。」

 そっと持ちあげて背中に隠そうとするキララ

「駄目だよ、黙って持ち帰っちゃ。」

 

「あのね、私たくさんの妹や弟がいるの、まだ小さいけど私達と同じ能力が有るの。だからそのうちみんなで自由にこの世界から出入り出来る様になるの。」

「ナズナそれは駄目だったの、外に出るとすべての魔獣が私達に襲いかかって来るの。だから私と一緒に来た人達はみんな死んじゃったのよ。」

 初めて聞いた現実にナズナは驚いていた様だ。

 でも大丈夫よ、外には人がいっぱいいてこれからはその人たちが外に出た私達を守ってくれるそうだから。

 

 まだ確定してはいないが外の人間と人族との交易がおこなわれるようになるだろう。

 かなりのカルチャーショックを伴うと思われるので交易は慎重でなければならないが。

 いずれにせよ魔獣が闊歩する現在の世界とどの様に付き合っていくのだろうか?新たな時代が始まる事になる。

 4000年の眠りから覚めた人族の世界の先行きは不透明なままである。

 

 それから2日間かけてお互いの別れに名残を惜しんだ。

 

 魔獣の死体を兵士たちが解体して司令部全体で焼肉パーティーが行われた。

「魔獣を食べるのは初めてですが意外と美味しい肉なんですな。」

「もともとは家畜も多かったようですからな。」

 お母さんが石を積んで大きなかまどを作るとその中にブレスを吹き込んで肉を焼く。

 

「なにかソースは有りませんかしらね?」

 用意された人間のソースもまた大変に美味しかった。

 何しろ暴走スタンビートから数千頭を道ずれにしたらしく食いきれない位魔獣の死体は有った。

 未だに国中でヘリと犬による掃討が続いておりこれを全滅させないとこの中で無制限に増えてしまうからだ。

 

「お肉~っ♪」

「いい匂いなので~す♪」

 一時の緊張から開放されたせいか子供達は魔獣を焼いた肉をこれでもかと腹に詰め込んでいた。

 大きく膨らんだお腹を上にして竜の子供達が寝転がっている。

 

「ぐえっぷ。」

 クロちゃんもたらふく肉を食っていたようである。

「結構石畳の上でも平気でみんな寝るもんだね。」

 それを見てなんとなく安心するお父さん。

 

 すこしお腹が楽になるとみんなで飛び回って遊び始める。

 子竜達はその危険性から魔獣の肉を与えられなかったらしい。

 実験用にSQ細胞をゼリーに混ぜて服用させていたとエルギオスが言っていた。

 今回の様に大量に魔獣の肉を食べた事も無く気ままに魔法を使える事も無かったそうである。

 自由に魔法を使えるのは初めての経験なのでみんな大喜びで有る。

 それこそそこいら中をブンブンと飛び回っている。

 コントロールが悪いのかあちこちにぶつかるがさすがに竜の子である、怪我一つしない。

 

「ほらほらあんまりあちこちにぶつけてそこらの物を物壊すんじゃないぞ。」

 お父さんの言う事などどこ吹く風である。

 高く飛び上がった所で魔力切れを起こして墜落する者もいたが平気で起き上がって来る。

 脅威の頑丈さである。

 

「はい、あーん。」

 首にコルセットを付け顔と手を包帯でぐるぐる巻きにされたケアルにミゲルが肉を食べさせる。

「なんだかんだ言っても私はケアルに助けられたんだしね~。」

 ケアルも男だったらそこで押し倒さんかい!と言いたいところであるがケアルは兎耳族に興味は無いらしい。

「街に帰ったら鳥かごに行くぞ~っ。」と言ってミゲルにどつかれていた。

 鳥かごと言うのは、まあ何と言いますか、男が喜ぶ場所です。

 

 

 同じように頭に包帯を巻き首にコルセットを付けたザンザルドがゼルガイアを射撃場に呼び出した。

 銃の試射をさせ兵器として売り込む為である。

 今後外の世界との交易を行うとすれば魔獣討伐に大きな威力を発揮する銃は商品として高い需要が有ると考えたのだ。

 そしてそれは魔獣の脅威を排除すると言う人族の目的にもかなっている。

 

「これは?」

「銃と言います、遠距離から魔獣を倒す事が出来る武器です。練度の低い狩人でも楽に魔獣を倒すことが出来ます。」

 使い方を教わり的に向って実際に銃を撃ってみる、大きな音に驚き、撃った後に鼻をヒクヒクさせる。

 流石に脳筋の…いやベテランの狩人であるゼルガイアは見事に的を射抜いていた。

 

「竜の子供達を攻撃した武器ですな。」

 ゼルガイアが弾を見ながらぼそりと言うのを聞いたザンザルドはいささか肝が冷える思いをする。

「まあ…その節は色々誤解も有り不幸な結果になりましたが……。」

「魔獣の死体が有りましたな、あれを撃ってみたいのですが。」

 紙の的では威力を判断できないと考えて実際に魔獣を撃ってみる事にした。

「なるべく大型のものが良いですな。」

 

 すぐに魔獣が用意された、まだそこらにいくらでも転がっており屠殺業者が大挙して魔獣を解体している最中であった。

 ゼルガイアは魔獣を銃で撃ち抜いてその傷口を見ると今度はナイフを使って中を開いて見てみる。

「いかがですかな?」

 ザンザルドが期待を持った目でそれを見ている。

 

「残念ですがこの武器は使えませんな。」

 ゼルガイアの言葉を信じられない物を見るような目でザンザルドは見ていた。

「それは…またどうして?」

「まず魔獣というのは恐ろしいほどに生命力が強く心臓を貫いてもすぐには死なないのでしてな、しかも逃がすとそのまま生き返ってしまうので止めを刺すまでが狩りなのですよ。」

「……それは…またすごい…ですな。」

 

「遠距離から一発だけ当てたのでは間違いなくそのまま逃げられてしうだろう。我々は狩りに槍を使うのはそう言った理由であり、弓はあまり役に立たないのです。」

 小型魔獣であれば弓も有効であるが、常に止めを刺して置かないと生き返って逃げ出すのである。

 ましてや大型魔獣などはこの程度の威力では殆ど効き目がないと言って良かった、基本は足の腱を切って動き止め全員で一斉に突き殺すのだ。

「もっと威力の有るものも有りますが。」

 ヘリに積んである大型の機関銃を示す。

「平原で馬車や馬を使っての狩りならそれも良いのですが、ワシらの狩場はだいたいが森の中なのですよ。大型魔獣の討伐には我々もそれなりのリスクが有りますのでな、それは竜神様にお願いしておるのですよ。」

 その言葉を聞いてザンザルドは肩を落とす、文明の利器で有り近代において戦争の主流であったこの武器が役に立たないと言われたのだ。

 

「それにこう言った物も有りましてな。」

 ゼルガイアは魔獣に向けて掌をかざすとその手の中からブオンと音を立てて何かが飛び出す。

 それは魔獣の死体に当たると皮が跳ねてこぶし大の穴が出来る。

 呆然としてそれを見ているザンザルド。

「これは衝撃波を作って魔物に当てる魔法でしてな、他にも電気や炎など様々ですが飛び道具の魔法を使える物は決して少なくは無いのです。時と場所を考えて各自が使用しておりますよ。」

 ゼルガイアは銃をザンザルドに返す、これは必要のない物だと言う意思表示であった。

 

「もっとも、この銃は対人兵器としては非常に大きな威力を示すでしょうな、あなたはそんな兵器を我々に持たせたいのですかな?」

 ゼルガイアのギラリと光る猛獣の目は時ザンザルドを心底恐震え上がらせた。

 ザンザルドは人間が魔獣に破れた訳を理解した、そして彼らを全滅させることが不可能であるということも。

 魔獣に負けない体力と能力を持つ彼らだけが魔獣を糧食として狩ることが出来る者なのだと言うことをである。

 

 

 その晩はみんなで丸くなって外で寝た。

 竜の家族が円陣を作りエルギオスを中心に子供達がお母さんを枕にみんなが寄り添って寝た。

 この数日で子供達も野外で寝ることになれてしまったみたいである。

「お父さん、あれはなに?」

 グラウンドからかなり離れた場所になにか壁の様な物がずっと横に続いている。

 

「あれはねこの世界と外の世界を分かつ壁なんだよ。」

「あの壁が世界を分けているの?」

「正確に言えばあの壁の外に結解が作られているんだよ。」

「あそこを超えたらどうなるの?」

「この世界の反対側、約1000キロ離れた場所に飛ばされるんだよ。」

「ケアル兄さんが言ってたね、何も感じなかったって。」

 そんな話をしながらその晩はみんなでお母さんのおなかの中で眠った。

 

「やっぱり子供はお母さんの方がいいのかな~?」

 その横で一人寂しく眠るお父さんであった。

 無論サキュア達は人族の官舎を借りてベッドで寝ることにした。

 サキュアとユキは二人一緒のベッドで寝ることにしたようだ。

 降るよううな星空の下で子供達とエルギオスは最後の夜を過ごした。




いつもご愛読ありがとうございます。

今週から新作『竜の嫁は樹海に舞う』を連載開始いたしました。

そちらの方もよろしくお願いいたします。

本作は次回で最終回となります。


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