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人族との交渉

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――人族との交渉――

 

 乗り物はお父さんを取り囲むように位置を変えて停止する。

 すると正面の装甲車から一人の男が顔を出してこちらに話しかけ始めた。

 何かの魔法を使っているのか人間にしては声が大きい。

 

「あー、あー、我々は人類防衛軍の装甲車部隊である。そこの大型の竜に告げる、貴下はどの様な目的が有って我国に侵入したのであるか?ここは人間の住む国であり貴下の様な獣人に対し入国を許可はしていません。用がないのであれば直ちに撤去しなさい。」

「ふむ、用事はあるぞ。我が子を傷物にした貴様らに鉄槌を下すという用事がな。」

「なんの事か?不法にに侵入したのは貴下の方である。退去しないのであれば強制的に退去させる。その場合貴下にどの様な損害が出ても責任は負いかねる。」

 木で花を括る様な発言である。

 

「ぐわあああっはっはっ。我を傷つけるだと?面白い、やれるものなら……。」

 ブレスを吹こうと思って口を開けたお父さんであったが、ふと気配を感じて背後に振り向くと笑顔で手を上げているお母さんが見えた。

「あらっ、あらっ、あらっ、お父さんたら!一体どうしちゃったのかしら?おほほほほ。」

 慌てて振り上げた手の持っていき場所をキョロキョロと探すお母さんであった。

 

「………………。」

 

「りゅ、竜神殿。」

 お父さんの後ろの方からお兄ちゃんに抱かれたゼルガイアがやってくる。

「面目ないが未だ十分に力が出ないのでこの様な姿で失礼いたします。お母さん私をあなたの手の上に載せていただけないでしょうか?私が彼らと交渉いたしますから。」

「そうね、お父さんよりは良いかも知れないわね。」

「お母さんそれは少しひどくない?ワシは君の夫なんだけどね~、ゼルガイアさんもなんでワシじゃ無くてお母さんなの?」

「お父さんですと交渉の最中怒ってワシを投げつけかねませんからなあ。」

「ワシってそんなに信用無いの?」

 ゼルガイアの言葉にいじけると後ろを向いてウンコ座りするお父さんである。

 

「ワシはウルガルの街の警備軍司令官のゼルガイアである。先日我が軍の隊員が2名がこちらの国に拉致されたので捜索に来たものである。」

 流石にゼルガイアは軍司令官だけにただの脳筋ではない、敵軍を前にして堂々と交渉を行えるだけの能力もあるのだ。

「私は人類防衛軍陸上特車部隊隊長のウルグラスである、拉致された獣人の情報は聞いていない、貴下の要請があれば我が国の方で捜索することはやぶさかでは無い。」

「隊員は既に発見した、貴下の国が不当に拘束していたものである。」

「その事について本官は何も知らされてはいない、しかし発見したのであれば問題はなかろう早々に退去されよ。」

 

 訳すると『そんな事は知ったこっちゃねー、いいからとっとと出ていけ。』である。

 

「我々は民間人と共にあるが、貴軍は事前の警告なしに我々を攻撃したのである。その事を貴下はどの様に考えているのか?」

「それは私の管轄では無い、苦情があれば首都にある我が軍本部苦情受付係でが受け付ける。時間は朝の9時から17時までである。」

 

 訳すると『文句が有るなら本部に行け、どうせ門前払いにされるだろうがなー。』である。

 

「母さんコイツラ何を言ってるのかわかる?」

「ああら、お父さんもこの連中がアホだってわかるのね。」

「それ酷い言い方じゃない?面倒だから燃やしちゃ駄目かな?」

 かなり大きな声え交わされるひそひそ話に隊長は頭を半分引っ込める。

「わかった被害者の親であるこの竜の夫婦が苦情を申し立てるので本部までの案内を願いたい。」

 

 訳すると『そうかい、そんならこっちにもリーサル・ウエポンを送り込むが文句ねーな。』である。

 

 このゼルガイアの言葉に隊長は顔色を変える。

「しばしまて。」

 再び頭を引っ込める。

「どうするのゼルガイアさん本部行って壊しちゃっていいの?」

「やめてくださいお父さん、できれば穏便に済ませたいのですから。」

 声を潜ませてゼルガイアが言う、お互いハッタリの応酬である。

 

 再び隊長が頭を出す。

「お互いに誤解が有ったようだ。魔獣がいきなり大量に発生しその掃討に当たった部隊が貴下の仲間を魔獣と誤認した模様である。貴下の仲間の負傷者に関しては救護班を送る用意が有る。」

 だいぶ下手に出て来るようになったが要は『魔獣呼び込んだのはてめーらだろう、こっちゃいい迷惑なんだ、細かい事で文句を言うんじゃねー。』と言っているのである。

 あの魔獣の大量の転移にしても本来はは彼らの作り上げた少女の起こしたことなのであるから、彼らにとやかく言われる筋合いのものでもなかったのだが。

 

「負傷者の傷は幸い軽微ある。こちらの方で対処出来る、我々とて貴下と戦争をする気はない。速やかな帰投を望んでいるのだ。」

「それであれば当方にも依存は無い。幸い被害を受けたヘリのパイロットに死者の報告はない。これ以上の戦闘はお互いの為にならない。」

 まあミサイルの直撃を受けたキララの傷が軽微というのにはかなり語弊が有るとは思うが、まあ竜ですから……。

「思った以上にこの隊長はまともな人間なので安心した。たまに脳筋なバカがおりますからな。」

 ゼルガイアの発言を竜達は白い目で見ていた。

  

「貴国の作り上げた結界が邪魔をして我々の帰還を阻んでいる。我々を元の場所に戻されたい。」

「しばしまて。」

 相手の隊長は再び頭を引っ込める。おそらく本部に伺いを立てるのであろう。

 しばらくするとまた隊長が頭を出す。

「その大きな竜もお前たちと一緒に結界を超えて来たのか?」

「いや、彼らは自力での帰還が可能である。」

 

「貴下の人数は何名であるか?」

「14無いしは15名。」

「無理だ。一度に帰還が可能なのは3名までだとの事である。」

「では5~6回に分ける必要が有るのか?」

「そうなると思われる。」

「わかった、その間この竜達がこの国に居残る事に異論は無いな。」

「仕方がない。だがもしその竜が暴れた場合我々も自衛権を行使する。」

  

「了解した。それと我が国に亡命を希望する物が10名存在する。その者達を最初に送り出すがよろしいな。」

「その事については軍司令部が貴下と話合いたいそうである。」

「お待ちください。」

 後ろからパタパタと飛んでくる黒い物がいた。

「む、おまえは?」

 クロちゃんが装甲車と竜達の間にトコトコと割って入る。

 相変わらず浮いたままのクロちゃんは特車部隊の隊長に向かって敬礼をする。

 

「転移特殊部隊、クローディア・フログスであります。結界壁修復任務に際し行方不明となっていた転移能力者ユキの捜索任務の完了を報告します。司令部まで案内願いたい。」

 隊長はビシッと背筋を伸ばし最敬礼を行う。

 どうやらクロちゃんは軍の中では有名人の様である。

 

「任務ご苦労さまでした、現在捜索部隊の司令部は転移ポイントに仮設営されております。この者の同行を許可願えますか?」

 隊長はゼルガイアの方を向いて問いかける、こういった場合交渉相手の同意を得る必要が有る。

「同意する。先に報告をして欲しい。」

「ええんか?先に行ってさんざんワシらの悪口を言っているかもしれないぞ?」

「ああ~らお父さん大丈夫よ。魔獣に負けてこんな所に閉じこもっているような人達が魔獣を食べて生きている私達にかなうわけ無いじゃないの~。」

「奥さんなかなか辛辣な事を平気でおっしゃいますな~。」

 ゼルガイアがニヤリと笑みを浮かべると大きな牙がキラリと光る。

 隊長は苦虫を噛み潰したような顔でそれを聞いていた。

 

「それでは6号車が貴官を案内致します。我々はここに待機致します、それでよろしいですな。」

「ああ、それはいいけどワシら子供達の所に戻って食後の昼寝をするから。」

「そ、そうですか……ごゆっくり。」

 隊長はなんと言ってよいかわからずに顔をヒクヒクさせていた。

 

「ああ、隊長さんうちの人昼寝の途中で起こされると寝ぼけてブレス吹いちゃう事ありますからくれぐれも起こさないでくださいね~。」

「りょ、了解した。」

 しっかりと相手を威嚇しておくことを忘れないお母さん、かなりの曲者で有った。

 

「それじゃ失礼致します。」

 愛想よく腰を折る、最後も挨拶を忘れないお母さんである。

「あ、お父ちゃん。キララと子供達のおやつに少し魔獣を持って行こうよ。」

「おお、そうだな。お父さんは大きめの魔獣を見繕って2、3頭程拾い上げる。」

「ゼルガイアさんは私の背中にどうぞ。」

「これはお母さん。世話になります。」

「うんと魔獣の肉を食べて元気になって下さいね。」

「おお。すぐに元の太さに戻りますとも。」

 魔獣を両手にぶら下げてトコトコと飛んでいく竜達を畏怖の目で見つめる隊長。

 

 クロは装甲車とともに司令部に向かう。

 竜のお父さん達は昼寝をしに子供達の所に戻っていった。

 装甲車部隊だけが食い散らかされた魔獣の残骸の中に取り残される。

 隊列の中をヒュウウウ~~ッと一陣の風が吹き抜ける。

 ブルッとなった隊長は車内に引っ込んだ。

 

「大魔王だ~、恐怖の大魔王が戻って来た~っ。」

 ナナがうつ伏せに寝ているキララの顔にしがみつく。

「あ、お母さんクロが勝手に飛んで行ったけど何か有ったの?」

「ああ、クロちゃんは先に人族の所に行って報告をするんだそうよ。キララの背中の具合はどう?」

「まだ痛むけど大丈夫よ。」

 お母さんが話している間中ナナはキララにしがみついている。余程の恐怖体験だったのだろう。

 

「ナナちゃん安心して、お母さんは本当はものすごく優しい人なのよ。」

「脅かしちゃってごめんねナナちゃん。」

 お母さんが顔を近づけるとパパっとキララの反対側に隠れてぷっぷっと小さな炎を吐く。

 ナナがお母さんになつくのはかなり先になりそうである。

 

「ユキちゃんもこれでようやく家族の元に帰れるわね。良かったわ。」

 しかしユキはあまり嬉しそうな顔をしない。

「私、帰っても家族はナズナちゃんだけだもの……。」

 どうやらユキはあまり人間達の間では大事にされてはいなかった様である。

「だけど仲間の人族はたくさんいるでしょう。」

「うん……、ユキもナズナも学校に行ってないから大人の人しか知らないの。」

「そうであったか、母親代わりの者はいなかったのか?」

「竜族のお父さんがいるだけ、でもめったに会えなかったの。私はずっと一人だったから妹のナズナが出来た時すごく嬉しかった。だけど一緒に遊べるようになったのは最近だったし……だからすごく家族にあこがれていたんだ。」

 

「あそこにはお父さんがいて、お母さんがいて、お姉ちゃんとお兄ちゃんがいて、サキュアちゃんまでいて毎日がすごく楽しかったの。」

 記憶の戻ったユキはこれから帰る故郷の事を思い出したのだろう、かなり沈み込んでいる様であった。

「ね、お母さん。私お母さんの子供になっちゃダメかな?」

「ダメよ、私達は竜族だしあなたは人族、貴方の伴侶になれるのは人族だけなのよ。私達はあなたを大切に思っていたけどあなたはやはり人族の中で暮らさなくてはいけないわ。」

 お母さんは断固とした口調で拒否をする。

 わかってはいても非常に言いづらい言葉をお母さんは躊躇なくユキに伝えた、このような時にあいまいな返事はかえって相手を傷付ける場合が有る。

 

「そうよね、私がこっちに居たらナズナが一人ぼっちになっちゃうもの。」

 ユキは膝を抱え込んで小さな声でつぶやく。

 サキュアがそっとユキに寄り添って肩を抱く。

「このしばらくの間私は妹が出来たような喜びを感じていました。私はユキとの別れはすごくつらいと感じています。しかしあなたにはあなたの人生と責任が有ります。どうか自分の運命を自分の力で切り開いて行ってください。」

 ユキはサキュアの胸に頭を埋めると泣いていた様である。

 

「時にケアル、装甲車は動くのか?」

「はい、どうやら少し屋根に穴が開いた様ですが問題なく動きます……とミゲルが言ってます。」

 やはり男は脳筋が多い様である。

「それじゃ魔獣を持ってきたからキララは内臓をうんと食べて早く体を治して頂戴、ナナちゃんもね。」

「うん、またモツ煮を作ってーっ。」

 ミゲルによってモツのおいしさに目覚めた竜の子供達は内臓を食べる事に抵抗がなくなっていた。

 

「そうよ、内臓をたくさん食べないと尻尾は生えて来ないわよ。」

「うん、たのしみーっ。」

「ナナ、私と一緒に食べましょうね。」

 銃に背中を撃たれてキララと一緒に寝ていたエリアスがナナを抱き寄せる。

 ケアルが拾ってきた魔獣の腹を裂いて必要な部位を切り分ける。

 

「ほれ魔獣器官だ、それにレバーと心臓だ。いずれも魔獣細胞の多い所だよ煮てもいいが生の方が良いんだ。」

「うう~ん。」

 ナナは魔獣器官を口に入れるが塩が無いのであまりおいしくない。

「どうだ、うまいか?」

「味がな~い。」

 エリアスは心臓を食べている。

「うん、生でもコリコリして美味しいよ~。」

 

 レバーはキララの開けた口に放り込まれる。大きなレバーも一口である。

 その夜は人族の夜襲も無く犬たちが警戒に当たってくれていた。

 無論寝ながらもヒクヒクと耳を動かして警戒を怠らないミゲルもいた。

 次の日になるとキララの背中もだいぶ良くなっていて傷口がふさがり痛みも少なくなってきた。さすが竜族である。

 

 人族からの連絡は次の日の午後にやって来た。


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