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不死身の竜神族

1-049

 

――不死身の竜神族――

 

 落ちて行くヘリを見ながらみんなは下に降りて行った。

 

「ああ~ん、ああ~ん。」

 また子供の泣き声が聞こえる。

「何かあったのかしら?」

 急いで二人が子供達の所に駆けつけるとナナがエリアスに抱き付いて泣いていた。

 どうやら先程のショックがおさまり今度は自分の尻尾の状況を見て再びショックを受けたのだろう。

「あ、お姉ちゃんいいの少し泣いてればそのうち落ち着くから。」

 先程銃弾を撃ち込まれたエリアスが木陰に寝そべりながらロロを撫でている。

「やだ、見ないで~。」

 ナナが泣きながら尻尾を見られるのを拒む。

 

 キララはお兄ちゃんに支えられながら二人の所にやって来る。

「お姉ちゃん背中にすごい怪我をしている。」

「大丈夫よ、さっきの攻撃をしてきた連中はみんな倒しちゃったから。」

「ごめんなさいお姉さんがこんな怪我をしてあたしたちを守ってくれたのに。」

 ナナがキララに抱きついてきた。

 

「ああ~ら、キララちゃんにもずいぶんたくさんのお友達が出来たのね。」

 上空からお母さんののんきな声が聞こえる。

「「「「ええええ~~~っ。」」」」

 竜の子全員が驚愕の声を上げる。

 

「うそっ。」

「大人の竜なの?」

「それじゃお兄ちゃん達は。」

「ボク達はまだ子供なんだってば~。」

「「「ウソ~~~ッ。」」」

 

「なんだい?ずいぶん騒がしいと思ったらこんなにたくさんの子供がいるじゃないか、こんなところで何をやってるんだ?」

 お父さんはお母さんより更に一回り大きいので、みんなは目を丸くして見ていた。

 竜の子達は大人の竜を見るのは初めてだったから、まさかこれ程大きくなるとは思ってもいなかったのだ。

「これは、竜神殿どのようにしてこちらに来られました?我々同様ユキ殿のボールに巻き込まれたのですか?」

「ああらゼルガイアさんまで飛ばされてきていたのね?いいえ~、家の子達が飛ばされたのを見ましてね、ちょっと結界を飛び越えて迎えに来たんですよ~。」

 相変わらず軽いノリで答えるお母さん、かなりの大物である。

 

「まさか竜神殿はこの結界をご存知だったのですか?」

「はいはい、ずいぶん昔の事ですからねえ、すっかり忘れていましたのよ~。」

「するとやはりここは人族の世界ということですか?」

「そうよ、魔獣に追われてこんな所に引っ込まざるを得なかった哀れな種族ですからね~、そっとしておいてあげましょうね~。」

 竜のお母さんは博愛主義者の様である、世界の弱い者達に愛の手を。

 

「それよりお母さん、この子が酷い怪我をしちゃったのよ。」

「あら、そうなの?」

 お母さんはひょいとナナを手の中に乗せると顔の前に持ってきた。

「ひええええ~~っ。食べないで~っ。」

 お母さんの顔のあまりの迫力にナナが悲鳴を上げる。

「ああら、こんなかわいい子を食べやしないわよ。」

 お母さんはナナに頬ずりをする。

 

 身長11メートルのお母さんが身長90センチのナナに頬ずりするのである。

 ナナに取ってはまさに恐怖の大魔王であろう。

「でもこんなかわいい子は本当に食べちゃいたい位よ。」

 お母さんはナナのほっぺたをペロッと舐める。

 バタッとナナが気絶する。

 

「お母さん、何やってんのよ!」

 怒ってキララが取り返しに来る。

「いたたたたっ。」

 背中の傷に顔をしかめる。

「怖いよ~っ、恐怖の大魔王がいるよ~っ。」

 気がついたナナがキララにしがみついてくる。

 

「ごめんなさいね~、ほんの冗談よ~。」

 お母さんがニコニコ笑って手を振る。

「子供相手の冗談はトラウマを残すからやっちゃいけないのよ!」

 キララがギッお母さんを睨む。

 子供をやめて4000年以上経っているので子供の気持ちはとっくに忘れているお母さんである。

 

「なんじゃ?その子の尻尾は怪我でもしたのか?」

 お父さんがキララに抱きついて居る子供を見て尻尾が短いのに気がついた。

「ああ、お父さんさっきの攻撃に当たって尻尾が千切れちゃったの。」

 恥ずかしそうにしっぽを隠す竜の女の子。

「まあ気にせんでええよ、そのうち生えてくるから。」

 

「「「え?」」」

 

「考えても見なさいワシは5000年生きて魔獣を狩っておるが怪我一つせんと思うか?」

 お父さんはムキッと力こぶを作ってみせる。

「手足の一本や2本失ったことも有るが魔獣の肉を食っていればそのうちまた生えて来るんじゃ。」

「「「ウソ~~~ッ。」」」

「だから気にせずに放っておけばそのうち治る、見ろワシの体には傷跡一つ無いじゃろう。」

 力こぶを作ったままムキッムキッと体をひねって見せるお父さんである。

 

 やめて!気持ち悪いから。

 

「それで?ゼルガイア殿この子供達は一体何なの?親はどうしちゃったのかな~?」

「あ~っ、実は竜神殿この子供達は……。」

 ゼルガイアはこれまでのいきさつを説明した。

 

「ああ~らそんな事が有ったの~?」

「それじゃこの子達には行く場所が無いのか……。」

 竜の子供たちは一斉にうなだれる。

「な~に言ってるの?我が家でで引き取るに決まってるじゃない。」

 お母さん、思いっきりの爆弾発言である。

 

「へえええ~~~っ?10柱もいるんだよ~っ。」

「お父さん10柱くらい子供が欲しいって言ってたじゃない。」

 子供達は不安と期待を込めた目で子供達は二人のやり取りを見ていた。

「い、いやそりゃ言ったけど一度に10柱じゃなくて5000年位かけて順番にさ~。」

「共稼ぎをすればなんとかなるわよ。キララ達も手伝ってくれるから。」

 全く呑気に無責任にテキトーに言っているとしか思えないお母さん。

 

「大丈夫よ子供達の面倒は私が見るから。」

 横からキララがキラキラと目を輝かせている。

やしろも全面的にバックアップいたします。」

 サキュアがサムズアップをしてみせる。一応この娘、正巫女ですから権限もあります。

「警備軍も些少ながら出来ることは致す所存です。」

 この人も一応は警備軍の司令官さんです。

 完全に周りを固められたお父さんである。

 

 実際の所、街としては竜の巣が手狭になって彼らに引っ越されることが一番恐れているのである。

 したがって竜に居てもらえるならば多少の財政出費等は問題にならない。

 彼らがいなくなれば大型魔獣による被害が大きく増える事は目に見えているからだ。

 しかも竜の子供が10柱も増えれば大人になるまでの間周囲の大型魔獣を狩り尽くしてくれるだろう。

 街を大きく広げられる可能性が高いのだ。

 のみならず子供達が大きくなれば少し離れた町が管理する鉱山都市等に巣を作ってもらえるかも知れない、などと皮算用をするゼルガイアである。

 

 竜と人は持ちつ持たれつである。

 

 お父さんは大きなため息を付く。

「ワシ過労死しそう……。」

「それで?ユキちゃんはどうしたのかな~?」

 ユキが皆の後ろからおずおずと姿を表す。

「よかったわ~っ、ユキちゃんも怪我が無かったようね。」

「あの……私……。」

 ユキが口ごもりながら言う。

 

「外にいる時はこっちの世界の記憶がほとんど無くて……。」

「恐ろしい目に有ったんですものしかた無いわよね~、それで全部思い出せたの?」

「はい、こっちに来てから少しづつ記憶が戻ってきました、皆さんをこんな事に巻き込んで申し訳ありませんでした。」

「いいのよ~っ向こうの世界でも暴走スタンビートの被害はだいぶ抑えられたみたいだし。ユキちゃん良くやってくれたわ~。」

「おお、行方不明になっていた隊員も見つかってワシも一安心ですわい。」

 ゼルガイアが大口を開けてカンラカンラと牙を剥き出して笑う。

 竜の子供たちが一斉にゼルガイアから後ずさった。

 

「それで、どうやって私達は元の世界に戻れば宜しいのでしょうか?」

 それまで黙って聞いていたミゲルがぼそっと口を開く。

「ワシらと竜の子供達は結界を上空から超えられると思うがゼルガイアさん達には無理だと思うなあ。」

「あの~、そろそろ私の縄も解いていただけないでしょうか?」

 端っこの方に転がっていたクロが声を上げる。

 

「あ、忘れてた。」

「キララさ~ん、あまり忘れないでくださいよ~。」

 涙目で訴える不憫なクロである。

 

「ユキちゃんも記憶が戻ったみたいですから私達はこちらに残た方が良いと思います。」

 縄を解かれた途端にすっくと胸を張るクロちゃんである。

「そうね~、ようやくこちらに戻って来られたんだものね~。」

「ありがとうございました、記憶が混乱していた間皆さんにかけていただいた親切は忘れません。」

 ユキはペコリと頭を下げる。

 

 記憶が無い間はすごく子供っぽかったのに記憶が戻った途端にずいぶん大人びた態度に変わった。

 きっとこの娘はその様に育てられたのだろう。不憫といえば不憫な子供かもしれない。

「とりあえずは転移ポイントにみんなで行かなくてはなりませんな。」

「人族の連中はどう考えているのかしらねえ。」

「大丈夫じゃワシが一声脅せばなんとでも……。」

「やめて、お父さん。」

 キララにバッサリと切り捨てられるお父さんである。

 

「大丈夫よお父さんが誠意を持っておど……コホン、説得すればちゃんと言うことを聞いてくださるから。」

 お母さんの言葉に如何とも不穏な空気を感じるみんなであった。

「ま、まあ考えても仕方がない。とりあえず腹が減ったな母さん。みんなはどうなのかな?」

「大丈夫だよお父さん、僕達は暴走スタンビートの魔獣が一緒にこっちに来ていたのでそれを食べたから。」

「ああらそういえばだいぶ焦げた魔獣が散らばっていたわね、ゼルガイアさんの仕業かしら?」

 お母さんがげっそり痩せたゼルガイアを見る、状況はお見通しの様である。

 

「ハハハ、面目ない火急のおりでしてな地獄ヘル・業火ファイアを使ってしまいました。」

「それじゃお父さん私達も食事をしてきましょうか?」

「ソース無しで普通の魔獣を食べるんのか?あまり気が進まないなあ。」

「昔は良くやったでしょう、この際贅沢は言わないの。」

「そんな事有ったかなあ?」

 最近ではすっかり人間の世話になりっぱなしで野性味のかけらも感じられないお父さんである。

 

 二人で魔獣の倒れている場所に来ると最初にゼルガイアがまとめて倒した場所から点々と魔獣たちが倒れている。

 ゼルガイアが倒したのは魔獣のごく一部に過ぎず残りは先程のヘリコプターが倒したものらしい。

 したがって焦げた死体はまとまっているが残りは点々とバラけていた。

 まとまった魔獣の死体のある場所に来ると二人は適当に魔獣を掴み上げる。

 大きいものも居るがこの場合は小さいもののほうが食べやすい。

 大きめの犬位の大きさの魔獣を拾い上げると足を持って吊るしながらブレスで炙っていくと毛が焼けて革がぶくぶくと膨れ上がって来る。

 

 外はこんがり、中はジューシーというわけには行かない、革が焼けて食べやすくなっても中は生のままである。

 構わず口に放り込み骨ごとボリボリとかじる。

「こんな事をしているお父さんを見てからずいぶんになるわね。」

 はて、ワシいったいいつ頃こんな貧乏くさい食い方をしたんだろう?

 どうしても思い出せないお父さんである。

 魔獣の死体の間に座って一頭、また一頭とふたりは魔獣を食べ続けた。

 

「やれやれ、ようやくお腹が膨れてきたな。」

「あら、お父さんあれは何かしら?」

 遠くの方から何やら馬のない馬車のような物が隊列を組んでこちらにやってくるのが見える、装甲車の軍団である。

「なんじゃろうな?やっぱり人間たちの乗り物かな?」

「さっき飛ぶものはみんな落としちゃったから今度は走ってきたのかしら?」

「まあいい、こちらから出向く手間が省ける。」

 お父さん腹が一杯になったので余裕である。

 

 すっくと装甲車の前に立ち上がると堂々と胸を張る。



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