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お母さん出現

1-048

 

――お母さん出現――

 

「あ、あ、あああああ~~~~っ。」

 撃たれて倒れた子供を見たキララが悲鳴を上げる。

 

「いかん!」

 ゼルガイアが竜の元に駆けつける。

 ミゲルとサキュアはかなり離れた木の枝にぶら下がっていた。

「う、う、うわああああ~~~~っ。」

 動かない子供を見ていたキララは目に涙を一杯貯めたまま大きな叫び声を上るといきなり飛び上がった。

 

「あ、キララー!」

 お兄ちゃんがキララの名を呼ぶが聞いていない。

 上空に飛び上がると飛行するソーサー・ヘリと呼ばれる機械が見えた。

 卵のような形に丸い帽子のような物を2つつけた乗り物である、その前の方に鉄の棒をの様な物が突き出ていた。

 現代的に言えば2ローターの戦闘ヘリのようなものである。

 その機首に付けられた旋回式マシンガンから地上を掃射していたのだ。

 

「このおおおお~~~っ!」

 コイツがあの子を傷つけた相手だと思った途端にキララの頭に血が登るのを感じた。

 侵入した魔獣の掃討に出撃してきた部隊であったがロボット犬が装甲車らしきものを発見したと報告をしてきたのであった。

 現場に到着したところ盗まれた装甲車を発見したので攻撃を行なったのである。

 ところがいきなり恐ろしげな物が正面から飛び上がってきた。

 

>りゅ、竜の成獣だ!<

>な、なんだってこんな所にいるんだ?<

 結界内に住む人族は竜の成獣を見たことがなかった、彼らが知っているのは小さな子供の竜だけである。

 したがってキララを見て竜の成獣だと思ったのも仕方のない事である。

 そのキララの口が真っ赤に燃え上がるのを見て次に起こる事を察知した乗務員が脱出装置に手をかける。

 

>な、何をする!やめろ!<

>ばかっ、こっちがやられるぞ。<

 操縦桿を引いて逃げようとするが間に合わない。

 キララの口から吐き出されった火の塊はヘリコプターに吸い込まれていく。

 

>わわわ~っ。<

>竜の成獣に襲われた!脱出する!<

 ヘリコプターに当たった火の玉は機体を包み込み木っ端微塵に粉砕させた。

 乗務員はかろうじて脱出に成功したようで2つのパラシュートが見える。

 

「逃がすものですか~~~っ!」

 キララはそれに向けて更に火の塊を吐き出そうと大きく息を吸う、口の中に火の塊が現れる。

 脱出した操縦者はそれを見て逃げる事も出来ずに恐怖の悲鳴を上げる。

 

 突然キララに抱きつく者がいた、吐き出された火の玉は目標を上空に大きくそれる。

「キララ、彼らは無力だ。これ以上は人殺しだよ。」

 お兄ちゃんがキララを止めに来たのである。

 竜は強力な力を持っているだけにその力の使い方は抑制的でなくてはならないと社によって教えられてきた。

 ましてや無抵抗な人間を殺す事は矜持に反する行為であった。

 

「だ、だけどお兄ちゃん!あいつら竜の子供達を撃ったのよ!」

「キララ、弾が当たったのは竜神族だよ。」

 お兄ちゃんの落ち着いた声が聞こえる。

「え……?」

 

 

 ヘリは撃ち落としたが犬たちは周囲を囲んで離れようとしない。

「まずいなこいつらがあの飛行機械を呼んでいるらしい。」

「いまコイツラを黙らせますから。」

 ケアルが上着を脱ぎ捨てる。

 

「何をするつもりだケアル?」

「グアルルル~~ッ!」

 牙を剥き出して犬に向かって吠える。

「ガアアアア~~~~ッ!」

 それに答える一頭のロボット犬。

 ドカッ!

「ギャウン!」

「おお~っ、見事に地面に突き刺さっておるな。」

 一発のパンチでロボット犬の頭が地面にめり込み体がオブジェの様に立ち上がる。

 

 ゆっくりと倒れたロボット犬はケアルに恭順の意を示して腹を見せていた。

「クウウウ~~ン。」

「こいつらはボスをやっつければおとなしくなるんスよ。」

「おまえ、ここで何をやってたんだ?」

 ゼルガイアがいささか呆れていた。

 

 キララ達が撃たれた子供の所に降りて来るとみんなが集まっていた。

 子供の背中から煙が上がっている。

「ああ~ん、ああ~ん。」

 小さな竜が泣いていた。

「お兄ちゃ~ん。」

 周りの子供がお兄ちゃんを呼ぶ。

 

 撃たれたのは一番大きなエリアスと言う女の子であった。

 もう一人はナナと呼ばれる小さな女の子が泣いていた。

 逃げ遅れた小さなロロをかばって撃たれたらしいがナナは尻尾を根元近くで吹っ飛ばされていた。

 サキュアが自分の服の紐を使って傷口を縛っていた。

 

「痛い、背中が痛いよ~っ。」

 エリアスが泣いていた、着ていたドレスに穴が開いて布が煙を上げている。

 ゼルガイアが服をめくって傷口を捜す。皮膚が少しへこんでいるようだがそれだけであった。

 ドレスから何かが転げ落ちたのでゼルガイアが拾い上げたる。

 

「これを礫にして当てたようだな。」

 なにやら潰れた金属の塊であった。

「鉛らしい、これを火薬かなんかで撃ち出したのだろう。」

「衝撃で中の骨が折れているかもしれないわ、体を動かすとどこか痛む?」

 

 エリアスが頭を振る。どうやらこの攻撃では竜を殺せないらしい。

「少し木陰で横になっているといいよ、かたきはキララが打っておいたから。」

 にっこり笑うお兄ちゃんである、竜同士だと表情が読み易い様である。

 

 ナナの尻尾を捜してみたが肉片しか残っていない。

「可哀そうに、竜なのに尻尾を失ってしまうなんて。」

 やっぱりあの時ちゃんとかたきを討っておくべきだったと思うキララである。

 いやいややめようよ、それキララらしくないから。

 お兄ちゃんの心の声が聞こえてくる。

 

 ただナナの方も尻尾からの出血は殆どなく痛みもあまり無いらしい。

 その時再びミゲルが耳をヒクヒクと動かす。

「他の機械がやってきます。数は……7機……北の方からやってきます。」

「よし!みんなここから離れて藪の中に身を隠せ。大きな子は小さな子を引率してなるべく広範囲に散開するんだ。」

 ゼルガイアの指示で装甲車からなるべく離れると藪の中に隠れる。

 

「あいつら、これ以上はやらせないんだから!」

 キララが怒り狂っていた、やはり子供を二人も傷付けられたことに強い怒りを感じているようだ。

「今度はボクも行くよ。」

 竜の二人は飛び上がって行った。

 

「お前たちは子供を守れ、特にあの兎耳族は弱いからな。」

「わん♪」

 ケアルの指示により犬たちはばばっと子供のところに散開する。

 しかし命令系統を簡単に変更するこの犬どもは本当は欠陥品では無いのか?

 

 上空に上がったキララ達は飛んでくるヘリコプターを迎え撃つ。

>こちらエンジェルワン、竜と思われる飛行体を確認。<

>了解飛行体を確認正体は不明、銃弾の残数に注意エンジェルファイブの墜落を確認遠距離から牽制しミサイルで仕留めよ。<

>>>了解!<<<

 

 突如転送されてきた魔獣の集団の殲滅に出動してきたヘリコプター部隊が、強力な魔獣に撃墜されたと報告されていた。

 それ故か遠くからキララ達に銃撃を浴びせる戦法を取ってくる。

 飛んできた弾の大半は外れるが何発かはキララ達に当たる。

「いたたっ!」

 キララの皮膚は弾をはじくがやはりかなり痛い、あの竜の子はあの小さな体にこの痛みを受けたのだ。

 そう思うと激しい怒りがキララの全身を駆け巡る。

 

 怒りに任せキララはぐわっと炎の塊を吐いた。

 しかしヘリコプターからは距離が有るので動いてかわされてしまう。

>炎を吐く魔獣ないしは竜と思われる、全機で囲みを作り攻撃せよ。<

>反撃してきた場合ミサイルの使用許可を願う<

>了解、適時判断の上使用を許可する<

 

「キララ、場所を変えようここだと子供達に流れ弾が当たっちゃうよ。」

 お兄ちゃんの方も弾が当たっているらしくパンパンと何かが弾かれる音が聞こえる。

 はっと気がついて体を見るとドレスのあちこちに穴が開いている。

「ひど~い、服に穴が開いちゃった~。」

「もう少し離れたらたたき落としちゃおう。」

 移動する二人を追ってヘリは囲むように距離を取って包囲を崩さず銃弾を浴びせ続ける。

 

>魔獣は逃走を図っているミサイルで一気に殲滅する。<

「いたたたっ!たまんないな。」

「痛いよ~っ、お兄ちゃんなんとかしてよ服がだめになっちゃうじゃない。」

 浴びせ続けられる銃弾にだんだん二人の服はボロボロになっていく。

 突然ヘリコプターの両脇から何かが煙を上げて発射されるのが見えた。

 

 反射的に身を交わすが飛行物体は煙を上げながらぐるっと軌道を変えて二人に向かってくる。

「なにあれ?生きているの?」

「キララ下がってろ!」

 お兄ちゃんが向かってくるミサイルの手前にブレスによる壁を作る。

 ブレスに突っ込んだミサイルは次々と爆発していった。

「うわたたたっ。」

 爆発に巻き込まれたお兄ちゃんはくるくる回りながら飛ばされていく。

 

「このおっ!よくもお兄ちゃんを!」

 全速力でヘリコプターに突っ込んだキララは機体に爪を突き立てる。

 しがみつかれたヘリコプターはその正面から口を開けて炎の塊を吹き出そうとするキララを見る。

>こちらセブン、竜に取り付かれた!脱出する!<

 炎が機体に当たる直前に乗務員は脱出する、その無線を聞いた残りのヘリはキララの背中に向けてミサイルを発射した。

 機体が炎に包まれ落ちていくのを見ていたキララの背中をミサイルが直撃をする。

 

「きゃあああ~~っ。」

 さすがのキララも爆発の痛みに悲鳴をあげ、その衝撃に吹き飛ばされた。

 背中の皮膚が裂け血が吹き出していた、これ程の痛みを味わったのは初めてであった。

 息がすることも浮かんでいる事すら出来ずに落ち始めた。

>やった!致命傷を与えたぞ、各自包囲して止めを刺せ。<

 落ちて行くキララの所に先程吹っ飛ばされて行ったお兄ちゃんが飛んでくる。

 

>よし!仲間が助けに来たぞ、全機全弾ミサイルを発射しろ!<

 キララ達を包囲したヘリ部隊は二人に向けて大量のミサイルを発射する。

 流石にこれを食らったら竜神と言えども危険である。

「お兄ちゃん……。」

「キララ!僕の後ろに!」

 

 その時上空から何かの光が二人の前できらめく。

 針のような棒のような光の柱がミサイルを貫くと二人の手前で自爆した。

>な、なんだ?まだ他に敵がいるのか?<

 パイロットが周囲を見渡すが何も見えない。

 

「おどれらウチの子になんちゅう事さらしとんじゃ!」

 天上からから世界を割るほどの大きな声が響いた。

 そこにいた全員が上空を見る、そこには上空から降りてくるお父さんの姿があった。

「ようけいワシの娘を可愛がってもろたな、この借りはきっちり返させてもらうけんの、あんじょう楽に死ねると思うなよ!」

 お父さんの口の中に見た事も無いほど大きな炎の塊が出来上がる。

 ヘリのパイロットは恐怖の目でそれを見ていた。

 

>ダメだ!とても逃げられない!<

 脱出してもあの炎に飲み込まれてしまうに違いない。

>竜とはこれほどまでに恐ろしい物だったのか。<

 恐怖と後悔の中ヘリのパイロットたちは次に訪れるであろう死を待ち受ける事になった。

 

 ボコッ!

 

 突然大きな音と共に何かの衝撃を受けたのか竜の頭がガクッと下がった。

 それと共に吐き出そうとしていた炎の塊を飲み込んでしまったらしい。

「あちちちちちっ。」

 竜が頭を振って炎のかけらをそこいら中に振りまいている。

 その竜の前にもう一頭の竜が舞い落りてくる。

 

「おほほほほ、みなさん脅かしてごめんなさいね。」

 愛想良く笑うお母さんであった。

>なんだか知らないけど助かった、さっさと逃げようぜ。<

「あの~っ、皆さん3っつ数えますからその間に脱出して下さいね、さもないと機体ごと丸コゲになっちゃいますから~。」

>ひえええええ~~~~っ!<

 一難去ってまた一難、どこまでも愛想良く微笑むお母さんであった。

 お母さんの後ろでお父さんが涙目で舌をひ~ひ~言わせながら悶えていた。

 

「ああそうそう、さっきのミサイルを撃ち落としたのは私ですから、お父さんのブレスだとこの一帯焦土になっちゃうものですからね~、それじゃ数えますわよ。い~ち。」

 お母さんが指を一本上げる

>どどど、どうする?このまま逃げられそうか?<

>竜はとんでもない兵器を内装している我々では歯が立たん、本部脱出の許可を。<

 

「はい、にい~い。」

 続いて反対の手の指を一本上げる。どうやら竜の手はチョキを作れないらしい。

 

>反撃できないのか?所詮ただの生き物だろう?<

>いやいやいや、あんな近代兵器真っ青な攻撃を避けられるものか?<

「じゃあこれでおしまいね、さ~ん。」

 親指と人差し指でマルを作る形の3であった。

 お母さんの声が終わる前にばばばっと脱出装置が作動して乗員が飛び出した。

「な~によあれ、根性ない人ばかりなのね~。」

 

 いやいや、あれだけ脅かしといてその言い方は無いんじゃない?

 

「か、母さんまた後ろから殴ったね。」

「だってお父さんじゃあたりかまわず焼け野原にしちゃうでしょ。」

「いきなりだったから炎を飲み込んじゃったんだよね。」

 涙目で舌を出して見せるお父さんである。

 

「しかたないでしょ、あのままじゃ大惨事になりそうなんだもの。」

「熱かったんだよ、本当に熱かったんだから、意外と母さん恐ろしい事を平気でやる人だったんだね。」

「お父さんが頭に血を登らせていたからよ、これで少しは頭が冷えたでしょう。それより二人とも大丈夫?」

 お母さんが子供たちの所にやってきて様子をうかがう。

 

「お父ちゃんどうやってここに来られたの?キララが背中に大怪我をしちゃったよ~。」

「あらら大変血が出てるじゃない、竜が血を流すなんて本当に危ない事する人達ね~。」

「まあこの位なら大丈夫じゃろう、舐めておきなさい。それよりあれどうする?」

 ヘリのパイロットは自動操縦に切り替えて脱出したらしくヘリは悠々と帰路についていた。

 

「それじゃ約束通りね。」

 お母さんの口から針のような光線が発射され次々とヘリを貫いていく。

 その攻撃はゼルガイアの地獄ヘル・業火ファイアの縮小版の様に見えた。

「すごいっ、お母ちゃんそんな事出来たんだね、一体誰に習ったの?今度教えてよ。」

「はいはい、その昔獅子族の人からよ、今度教えてあげるわね~。」

 

 お母さんはお兄ちゃんの尊敬を勝ち取った見たいである。

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