竜の子の慟哭
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――竜の子の慟哭――
装甲車内部には座席が両側に作られており全員が座ることが出来た、まあ竜は子供だったので体も小さかったのだが。
ケアルはすぐに運転席の方にいく、そこにはミゲルがいて運転の仕方を教わっていた。
「あなたも私の運転を見ながら覚えて頂戴、そんなに難しく無いから。」
「お、おう。わかった。」
装甲車は町並みの整備された道路を突っ走って行く。
街そのものはあまり大きな感じがしない、おそらくこの基地に住む人間の為に作られた街なのだろう。
そこを過ぎるとすぐに牧草地帯に入る。
たぶん魔獣が逃げても隠れる場所を与えないためだろう、周囲に何もない場所に基地は作られていた。
「身を隠せるような場所はどのくらい離れているんだろう?」
所々に小さな林は有るがこの装甲車を隠す程の大きさは無かった。
のどかな牧草地を道沿いに全力で走る、家畜が放牧されロボット犬がこちらを見ている。
所々に民家と思えるような建物が建っている、おそらく農家なのであろう周囲に畑が有る。
どうやら人間生活そのものは大きく変わっている訳ではなさそうである。
追手が掛かっている様子はまだ無い。道は良く対向車も少ない、装甲車は構わず疾走を続ける
「お兄ちゃんあれ何?」
ララが天井に有る蓋のような物に気づく。
ちょうどその下に足場にするような台がしつらえてある。
ダンタロスが台に上がり蓋を開けてみるとそこから屋根に上がれるようになっていた。
銃などを撃つための天窓では有るが子供達はそんな事は知らない。
ダンタロスは天井に上がると周囲の様子を探る。
既に収容所は遥かに離れており、丘の向こうに隠れてその姿を見ることは出来ない。
耳を澄まし目を見張る、風の音と鳥の声、あちこちに寝そべる家畜達しか見える物はない。
「外って、こんなに広かったんだ。」
ダンタロスは周囲の景色に見とれていた。
「お兄ちゃん、あたしも、あたしも。」
子供達がダンタロスに続いて屋根の上に上がってくる。
「うわあああ~~~っ、外はこんなに広がっているんだ~~~っ。」
子供達は次々と屋根の上に上がってくる。
「立つんじゃないぞ、危ないから座っていろ。」
「うん、わかった~。」
仮に落ちたとしても竜の子供は怪我などしないであろう、自分達が不死身の竜であることを彼らはまだ知らない。
「お兄ちゃんあそこにいる動物はなに?」
「あれは牛だよ、その隣の白いのはヤギだね。」
建物の周囲には家畜が放し飼いになっていて実にのどかな風景であった。
「お姉ちゃんなんでこの辺には草原ばかりで木が生えていないの?」
「魔獣が侵入してきても隠れる場所が無いようにしているのよ。」
「あ、湖が有るよ。」
「たぶんあれは溜池ね、この辺の牧草地に水を供給しているのよ。」
おそらく初めて見るであろう外の景色に竜の子供達は装甲車の屋根の上ではしゃいでいた。
子供達はあの収容所の中で生まれ育てられたが今まで一度も外に出たことが無かったのである。
強い風も気にならない、竜の皮膚にとってはただのそよ風程度にしか感じられなかった。
「これはライト、これを回すと電気が付くの。」
走りながらリフリはミゲルに車の操作方法を教えている。彼女が最後まで運転を行える訳では無いだろう。
「それからこれは無線よ、ただし交信しているとこちらの場所が向こうにわかってしまうからスイッチは切ったままにしておくのよ。」
「目的地までの距離はどのくらい有るんだ?」
「大体800キロ。」
「この馬車でどのくらいかかる?」
「道を進めば休まず走って2日位よ。だけど敵を避けながら行かなくちゃならないでしょう、食事も必要だし。」
「食えるものは乗せて無いのか。」
水を入れるポリタンクのような物は有るようだ。
「どちらにしても大きく迂回をした方が良さそうね。」
転移ポイントはミゲル達が最初に連れて来られた場所のことらしい、そうであればミゲルにもケアルにも大体の場所は感覚的に掴んでいた。
それが獣の能力を持った人間の特性だからである。
「お姉ちゃんあれなんだろう?」
ララが遠くの空に何か黒い点を見つける。
「何かの飛行機械みたいね、アクアレスあなたああ言うの詳しかったわね。」
「ああ、あれは軍のソーサー・ヘリだよ。SQ機関の応用で空中を飛ぶ飛行機だ、垂直に飛び上がれてホバリングも可能、ミサイルとマシンガンを装備している奴だ、最高速度は500キロくらい出る筈だよ。」
竜もやはり子供である、兵器などに興味が有る年頃らしい。
「それってあたしたちを攻撃できるってこと?」
「たぶん僕たちが逃げ出したんで基地から捜索に出てきたんじゃないのかなあ?」
遠くに見えたと思った機体はみるみる距離を詰めてくると形がはっきりと見える。
紡錘形の機体に尾翼をつけ上部に二枚の円盤がついている。
正面からは棒のような物が突き出しておりミサイルは見えない。
「お~い。」
小さな子供達はソーサー・ヘリを見るのは初めてなのだろう、みんなして屋根の上に座って手を振り始めた。
ソーサー・ヘリは音もなく接近し装甲車の横を通り過ぎる、おそらく状況を確認しているのだろう。
「うわわっ、な、なんだ?」
いきなり装甲車の横をソーサー・ヘリに追い越され運転席にいたケアルは大声をあげた。
「ソーサー・ヘリよ~、私達を探しに出てきたのよ、思ったより早かったわ~。」
「あの乗り物は私達を攻撃できるの?」
「機首に機関銃を装備しているの~。魔獣を駆逐するためのものよ~。」
「それってどんな物なんだ?」
「拳銃と同じよ、ただ威力がずっと大きくて連続的に発射が出来て沢山の弾を撃てるの。」
よく判らなかったがリフリの様子からかなり危険な物であると判断した。
「おいっ、子供達を一箇所に集め……。」
後ろを振り向いたケアルには誰もいない室内が見る。
天井に開いた穴を見つけ慌ててそこに駆け寄と屋根の上に頭を出す。
「おい、何をやっている早く中に入れ!」
「え~っ、ソーサー・ヘリが飛んでるのに~?」
子供にとって見れは初めて見るソーサー・ヘリの飛行姿である。
「ばかっ!そいつは敵だ、早く中に入れ!」
「言われたとおりにするんだ、早く、早く!」
最年長のダンタロスが子供達を急かす。
「うう~ん、つまらない~っ。」
子供達はブツブツいいながらも中に降りていく。
>こちらヘリ8号竜の子供を乗せた装甲車を発見した。<
その間にもヘリが収容所に向けて連絡を入れている。
『そこの装甲車!直ちに停止して武装を解除しろ、さもなければ攻撃を加える。』
ソーサー・ヘリは外部拡声器で警告を発しながら装甲車の正面からまっすぐ突っ込んでくる。
衝突しない事はわかっていてもされる側にとっては非常な恐怖を覚える飛び方である。
「「「うわあああ~~~っ。」」」
屋根のすぐ側を飛び抜けたヘリに子供達は悲鳴を上げる。
「かっこいい~~~っ。」
若干一名異なる反応を見せる子供もいる。
「きゃあああ~~~っ。」
その中で一番小さなロロがヘリの風圧で吹き飛ばされる。
「ロロ~~っ!!」
屋根から転げ落ちたロロの後を追って長女のエリアスが車から飛び降りる。
「ロロが落ちた~っ!」
「「えっ!」」
その声にリフリとミゲルが後ろを振り返る。
「止まるな!止まれば攻撃されるぞ!」
ケアルが怒鳴った。
「子供達は早く中に戻れ!」
ケアルに促されて子供達は次々と中に入ってくる。
ダンタロスは最後まで残ってエリアスとロロを見ていた。
エリアスが空中でロロを抱えるとそのまま飛んで逃げて行くのが見えたのでホッとする。
再びヘリがこちらに舞い戻ってくる。
>子供が2匹落下した、2匹の生存を確認。竜が攻撃して来た場合の発砲の許可を求める。<
>了解、貴官の判断に任せる。<
エリアス達の様子を確認するようにヘリは二人の近くをかすめて飛行しした。
その後再びこちらに向かって飛んで来る。
機首のマシンガンが装甲車を狙って動いてくる。
『止まれ、止まらなければ次は子供達を攻撃する!』
ヘリの拡声器から発せられる警告を聞いたダンタロスが身を固くする。
「僕たちを殺そうというのか?」
正面から機関銃に狙いを付けられてダンタレスは唖然とする。
僕たちは人間に害を成したことなど無いのに……一体何故?、余りの理不尽さにダンタロスは怒りに震えた。
屋根の上に立ち上がると追跡してくるヘリと向かい合う。
ダンタロスは竜の口を大きく開けるとその中に炎のボールが出来る。
>いかん、ブレスを撃つつもりだ。<
ヘリのオペレーターは機銃を作動させると機首に有る3本の銃身が回り始める。
『やめろ!こちらを攻撃すれば反撃するぞ!』
再び拡声器が怒鳴る。
>大丈夫だそんな度胸は無い、どうせ子供だ、威嚇射撃をすればすぐに降伏するさ。<
ヘリの機首から銃撃が行われ弾は装甲車の横を通過する。
「ば、馬鹿野郎本当に撃ちやがったぞ!」
「大丈夫よ~、最初は威嚇だから当てないわよ~。」
「2回目は当てるってことだろーがっ。」
ケアルは屋根に飛び上がると背中の槍を引き抜いて構える。
目の前で竜の子供が涙を流しながら叫んでいるのが見える。
ヘリの銃口がこちらに向かって向きを変えるのが見えた、今度は当てる気だ。
「僕たちがいったい何をしたーっ!」
ダンタロスが叫ぶと同時にその口から炎のボールが吐き出される。
同時にヘリからも銃弾が発射される、獣の目を持つケアルには飛んでくる弾がはっきりと見えた。
弾道上に有った子供を掴むと思いっきり引きずり倒す。
ダンタロスのいた場所を銃弾が通過していった、本気で殺す気だ。
ダンタロスの放った炎のボールはヘリに向かって飛んで行きその上部に当たる。
天上部分に付いた円盤の付け根が炎に包まれると大きく機体が傾く。
その直後ヘリの上部から何かが上に向かって発射された。
ケアルの目にはそれが脱出する人間だと言う事が見て取れた。
浮力を失ったヘリは姿勢を傾けると横にずれながら装甲車を追い越してその先に墜落した。
竜が人間を攻撃するのを見るのはケアルにとっても初めての経験だった。
ダンタロスは小さな体を折ってうずくまっていた。
ケアルは子供を背中から抱きしめるとそっとささやく様に言う。
「よくやったお前はみんなを守ったんだ、勇気の有る男の行動だったぞ。」
「で、でもヘリが落ちて人が………。」
「心配するな、お前はちゃんと人間を殺さない様に攻撃する事が出来たんだ、竜の男として立派だった。」
「ううっ、ボク……ボク……。」
小さな体が震えていた。
子供にとっては大変な決断だったのだろう、それでも人を殺さずに済んだことは良かったと思うケアルである。
「よし!ヘリは落としたすぐに戻って子供を回収しよう。」
「あの子達は無事かしら~?怪我なんかしてたら許さないんだから~。」
リフリが獅子族でも殺しそうな顔をしていた。
「たぶん大丈夫ではないでしょうか?」
ミゲルが何という事も無く答える。
「なんで判るのよ~っ!」
リフリは顔を膨らませていた。
「竜の……子供……ですから。」
装甲車が二人の所に戻ってくると木の影から二人が走ってきた。
「ロロちゃ~ん!大丈夫~っ?怪我しなかった~っ?」
リフリが飛んでいってロロを抱きしめる。
「あいつ今俺より早くなかったか?」
「まさか……。」
「ダンタロス、立派だったわよ。」
エリアスが落ち込んでいたダンタロスのところに来る。
やはり人間を殺そうとした事に対してひどい嫌悪感を抱いていたのだ。
「エリアス、ロロを守ってくれてありがとう。」
ダンタロスがエリアスを抱きしめる。
「これで我々は人間に対して敵対的意思を示してしまったわ。これからの逃走は命がけになるわね。」
ミゲルは今回の人族の行動を見てそう判断した。
「そんな~、これ以上子供達に傷ついてほしくないのに~。」
「リフリさんありがとうここでお別れです、協力してくれたあなたをこれ以上危険な目に合わせるわけにはいかないのです。」
「え?そんな~!」
音も無く回り込んだケアルが後ろからリフリの頭に衝撃波を送る。
ぐてっ、と倒れたリフリを抱えると道端の木陰に横たえる。
ミゲルは子供達の前に立つと宣言した。
「あなた達ここからは私達だけで目的地まで行かなくてはなりません。大きく迂回して進みます。その間すごく不自由な生活をすることになります。」
「もうお家に帰れないの?」
「私のベッドに寝られないの?」
これを聞いた子供達に動揺が走る、今までの生活を一切捨てる覚悟はまだ子供には無理な相談で有った。
「はい、結界の外に出ればそれだけの不自由さは普通なのです。」
「お父さんにはもう会えないの?」
「たぶん目的地の転移ポイントにはお父さんが待っていると思います。」
「「おお~~っ。」」と声が上がる。
「どうしてお父さんは私達を助けてくれないの?」
「残念だけどお父さんにはそんな力は無いんだって。」
ダンタロスもみんなの前に立つ。
「僕らはここから出て僕らだけで生きて行かなくちゃならないんだ、たぶんお父さんはこうしている間にきっと僕たちを逃がす準備をしている筈だよ、お父さんを信じるんだ。」
「お前らの父親がどうやって俺たちを外に出すつもりかはしらねえ、だが俺たちがここに来た以上帰る方法も有るはずなんだ。それを信じるしかねえだろう。」
「ボク達ここを出て生きていけるんだろうか?」
この言葉にケアルはつい苦笑してしまった。
「いいか?お前たちはこの世の中で最も強い生き物である所の竜族の末裔だ、お前たちが生きていけなくて誰がこの世を生きて行けると言うんだ。」
子供達の顔に微妙な笑顔が出る、皮肉だとでも思っているのかもしれない。
「とにかく行こう、目的の場所まで、そして僕たちの父さんに会うんだ。」
ダンタロスの発言でなんとかみんなは気を取り直して装甲車に乗った。
「すまねえなリフリさん、だがこの子達は俺たちがキッチリ守ってみせるぜ。」
最後にみんなで気絶しているリフリに礼を言って出発した。
空からの攻撃が有ることを思い知らされたケアル達は大きく迂回して森の中を進むことにした。
「お腹空いたね。」
「喉も乾いた。」
「もう少し待ってねそうしたら獲物を狩って上げるから。」
「獲物?獲物ってなに?」
「食い物だ。」
道を外れて森の中を進む、既に周囲の様子はわからないがミゲルが耳を澄ましている。
「あのヘリと言う乗り物はこの近くには来ていないわ。」
周囲も暗くなってきておりミゲルの言葉で川の近くで停まった。
「ミゲル、行くぞ。」
「いいわよ。」
暗くなれば大きな獣は動きを止め小さな獲物は巣穴から出てくる。
ミゲルは耳を動かしながら周囲を探っている。
『右前方に獣の気配。』
声を出すことなく手話で獲物の場所を示す。
「遅いね、獲物見つかったのかな?」
子供達は少し平らな場所を探して丸くなって座っていた、水は小川が有ったのでそれを飲むように言われていた。
「大丈夫かな?お腹壊さないかな?」
それでも喉が乾ていたのでみんなで水を飲む。
ダンタロスはタンクを持ってきて水を汲んでおいた。
しばらくしてケアル達が帰ってくる、大きな鹿を担いでいた。
「わ、鹿さんだ。」
「どうしたの?眠っているの?」
子供達が近寄ってきてしげしげと鹿を見る。
ケアルは鹿の足を木の枝にくくりつけ逆さに吊るした。
「その鹿、やっぱり死んでいるの?」
「これから食うんだ。」
ケアルはニカッと笑って牙をむき出す。




