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竜の子供達

1-028


――竜の子供達――


「さあさあみなさん新しいお洋服ですよ~っ。」

 僕達の生活の面倒を見てくれているガルディ先生がニコッと笑って新しい服を見せる。

 何が楽しいのか知らないが僕らの為に年中新しい服を作って持って来る。


 暑くなったと言って夏服を、寒くなったと言っては冬服を持って来る。

 でも僕らは竜族なので外部の気温に関してはひどく鈍感なのである。

 早い話が暑さも寒さもあまり感じないので一年中同じ格好でも問題は無い。


 しかも持って来る服はヒラヒラのフリフリで男物も同様だ。

 まあ、元々が服を着る竜なんて僕らしかいない訳で流行も何もあった物では無い。

「「んんん~~~っ、かわいいい~~~っ。」」

 何故か着替えをする時はリフリ先生も一緒の事が多い。

 なにか示し合わせているのだろうか?


 まあそれでも僕らの為に一生懸命作ってくれているのは嬉しいので誰も文句は言わないけど。

 ただ竜の皮膚に直接着る服なので割合簡単に擦り切れてしまう事が多い、竜の皮膚は結構丈夫に出来ているのだ。

 それでも怒るどころか喜んで新しい服を持って来る。

 なんか早く破れるように薄い生地を使っているのでは無いだろうか?


 僕らの部屋の隣にプレイルームが有って大きな部屋に遊具が置かれている。

 暇なときはみんなでここで遊ぶけどなんだか覗かれている様な感じがするのは気のせいか?

 一度裸足で遊びまわっていたら遊具が傷だらけになってしまったのでそれ以来家の中ではみんな上履きを履いている。


 お父さんのエルギオスはいつもは此処から離れた所に有る首都の研究所に勤めている。

 そっちも同じ魔獣研究を行っているそうだがこちらとは系統が違うらしい。

 何でも派閥とかいう組織で同じ研究を異なる2か所で行っているらしい。

 それでたまにしかこちらには帰って来ない。


 僕らには母さんはいないし家族は父さんだけだ。

 僕らは父さんの細胞から作られたのだから遺伝子は確実に繋がっており本当の意味での肉親なのだ。

 ガルディ先生やリフリ先生もやさしくしてくれるけどやはり僕らとは違うんだ。

 すごく傷つきやすいのであまり僕らと遊ぶことは出来ない。

 僕らも先生が傷つくのは見たくないから先生と一緒には遊べない。

 何しろ研いでいない爪がちょっと当たるだけですぐに怪我をしてしまう。

 だから毎日の爪とぎは欠かせないんだ。


 僕らはあまりこの建物からは出してもらえない。

 それでも建物内はそれなりに自由に動き回れるのでみんなで魔獣を見に行った事も有る。

 この施設は本来は魔獣の研究機関だそうで捕獲された魔獣の研究をしているらしい。

 魔獣は魔法を使う物もいるそうで施設を壊して脱走する物もおり、それを外部に逃さない為に警備軍が常駐しているそうだ。


 警備軍はこの世界に侵入してきた魔獣の討伐や確保、輸送も行うらしい。

 沢山の装甲車や輸送ヘリもここにはあるようだ。

 もっともヘリに関しては各地に分散配置しているようでここにはそれ程多くは無い。

 装甲車は逃げ出した魔獣を追う為に有るそうで他の基地にはあまり装備されていないそうだ。


 僕らは此処では研究用のサンプルらしいが一応兄弟を集めて学校の様に教育を受けさせてもらっている。

 噂によれば一部の国の上層部は僕らを檻に閉じ込めて動物の様に育てようと考えていたらしい。

 僕らの父さんが強硬に反対して教育を与えなければ一切の研究に協力しないとまで言ったそうで、僕らを此処で育てる事で妥協したと聞いている。

 だから僕らは父さんが大好きで父さんも僕らをとても可愛がってくれる。

 でもそれが理由なのか父さんは此処から遠くの研究所に転任してしまった。

 だから僕たちはたまにしか父さんに会う事は出来ないんだ。


 それでも僕たちはみんな父さんが大好きだった。

 だって父さんは僕たちの父さんなんだから。


  ◆


 エルギオスが扉の前に立ちコードを入力するとドアが開く。


「あ、お父ちゃんだ子供の声が響く!」

 そこにいた全員がエルギオスの方を向くと一斉に走り出した。

「お父ちゃん!」

 小さい子供達がエルギオスの足にしがみ付く。


「ナナにロロ、元気にしていたかい?ララはちゃんとお姉ちゃんたちの言う事を聞いているかい?」

 エルギオスの膝までしかない小さな竜が顔を上げる。

「寂しかったの、お父ちゃんが来てくれないから。」

 トカゲはひざまずくと子供の竜達を抱き寄せる。


「すまなかったね、お前たちに寂しい思いをさせてしまっている。」

「父さん。」

 子供達の中でも一番大きな二人の竜が子供達の後ろから声をかける。大きいと言ってもエルギオスの腰までしかない

「ダンタロスとエリアス、いつも子供達の事をありがとう。」

「いいんだよ、父さんが僕たちの為に一生懸命やっていてくれる事は知っているから。」

「お父さん今夜は一緒にいてくれるの?」

 末っ子のロロがエルギオスに聞いて来る。


「ああ、今夜はみんなで一緒に過ごそうね。」

「やったーっ。」

 みんなすごくうれしそうな顔で笑う。

 この結界に囲まれた世界に竜は10人しかいない、しかもみんなまだ子供で人間の友達もいない。

 大人の竜はエルギオスだけだが子供達をとても大事に思ってくれている。

 竜の子供達が人間の体を持つエルギオスを自分たちとは少し違うと思いながら父親として頼るのは仕方のない事なのだろう。


 10人の子供たちに囲まれてエルギオスは食堂の方に向かう。

 食堂にはガルディがいた、普段この子たちの身の回りの世話をしてくれる女性である。

「おや、先生おいででしたが。」

 にこやかに笑うガルディ、お父さんは若い女性には結構人気が有るらしい。


 彼女は愛情を持って子供達の面倒を見てくれている、もっとも少し行きすぎな所はあるようだが…。

「今夜は子供達と食事をしたいのでお願いいたします。」

「ああ、そうですか?それではリフリに連絡しておきますわ。」

 彼女にとって子供達の面倒を見るのは仕事を超えた部分を感じる事も有る。

 愛していると言えるかどうかは微妙だが人間と同じメンタルを持つこの子達をとても大事に思ってくれている。


 しかし彼女は人間であり竜族とは基礎的な体の作りが違いすぎる、小さな子供でも大人の兵士を凌駕する力を発揮できるのだ。

 ゼリーを与えずに魔法を使えない状態でもそれなのである、SQ細胞を恒常的に摂取している外の世界の竜はいかばかりであろうか?

 子供達にもその事は良く言い聞かせてはいたが、やはりまだ幼いので現実感が無いのだろう。

 彼女達にも少し距離を置くように言ってはいるがどうもうまく入っていない様である。

 あまりペットの様な可愛がり方をされてはかえって子供達が傷つくかもしれない。

 そんな事を考えながら子供たちに囲まれて居間に向かう。


 エルギオスはみんなに囲まれてソファーの方に連れていかれる。

 ソファーに座ると小さい子供がエルギオスに両側からしがみ付き、その上の子供が更にその周りを囲む。

 正面にはダンタロスとエリアスが座る、この子たちは忙しい私の代わりにいつも兄弟の面倒を見てくれている。

 私から作られた10人の竜の子供達である。


長男 ダンタロス 12歳 

長女 エリアス 12歳

次男 アクアレス 11歳

次女 エルミオス 10歳

3女 ユリアラ 9歳

3男 エルガラ 9歳

4男 ガリア 8歳

4女 ララ 7歳

5女 ナナ 6歳

6女 ロロ 5歳


 その夜は家族全員で食卓を囲みみんなで食事をした。

 リフリが栄養士としてメニューを作り軍の厨房でコックが作る夕食である。

 聞くところによるとリフリが一人一人の子供達の特徴を掴んだうえでバランスの良い食事を作っているそうである。

 ただし彼女が間違っているのは人間をベースに考えている事だろう。

 竜族にとって本当に必要な物は実は魔獣の肉なのだ。


 それは竜が魔獣を掃討するために作られた生き物だからなのである。


「ほらほらロロちゃん、そんなにフォークを振り回しちゃだめよ。」

「ナナちゃん、ちゃんとお野菜も食べなくちゃ大きくなれないわよ。」

 上の子供達は下の子供達の横にいて何くれと面倒を見ている。

 この年代の竜は成長が遅い分だけ人間の子供よりも小さい。

 しかも人間ほど器用な手を持っていないのでフォークも手先では無く手で握って使わざるを得ない。

 その為フォークの柄は滑り止めの太い樹脂で作られているのだ。


 それでもにぎやかに食事を終えその夜はみんなでゲームをしたりして過ごす。

 子供達がベッドに入るとエルギオスはみんなが眠るまで本を読んであげていた。

 ダンタロスとエリアスは最後まで起きていて居間のソファーで待っていた。


「すまない、もっと何度も帰ってこようと思うのだがなかなかそうもいかなくてね。」

「いいんだよ、父さんの分は僕達があの子たちの面倒を見るから。」

「すまない………。」

 エリアスはワンピースの様な服を、ダンタロスはうわっぱりの様な服だけを身に着けていた。

 ここでは子供達もみんな裸では過ごしていない。

 この子達のいる場所は都市部からかなり離れた地方の街の一角である。

 首都で仕事をしているエルギオスはそれ程簡単には来られない場所にあるのだ。


 子供達のいる場所は壁に囲まれており外部の人間は自由に出入りが出来ない。

 中からは見えないが警備の人間とロボット犬がこの周囲を24時間監視をしている。

 竜の子供達は非常に行動を制限され自由に外に出る事も出来ず、無論学校にも行ってはいない。

 何人かの教師が個別に教えてくれているだけである。


 この子達はこの研究施設で4000年ぶりに生み出された竜の子供達である。

 彼らに求めたのは結界を超える力である。

 魔獣には稀にその様な能力を持ったものが出現して結界を超えて中に侵入して来る。

 人間を見つければ襲って来る魔獣を飼いならす事も出来ずにいた。

 それが魔法を使え知能の高いドラゴンを作る事になる発端だったのだ。

 ところが竜族には結界を超える魔法が使えなかった。


 10人もの竜人を作った挙句にあきらめたということだからかなり切羽詰まった状況が有ったと言う事だ。

 そしてエルギオスが独自に開発をした人間とペンギンにその能力が発現したのだ。

 そうなると既に竜は必要な物では無くなってしまっている。

 つまり人間達はこの子供達を持て余しているのである。

 ふつうの動物で有れば死ぬまで面倒を見ると言う事も出来る。


 しかし竜に寿命は無いのだ。


 しかも今はまだ人間よりも小さいくらいであるから人間の監視下で生かして置ける。

 しかし50年後、100年後、彼らは人間の手に負えなくなるほど大きくなる。

 おそらくそうなる前に何か人間は手を打って来るに違いない。

 そうなる前に何とかしなくてはならない。


「二人に聞きたいことが有るのだが?」

「なに?父さん。」

「仮に、仮にだ……お前達は魔獣を殺してその肉を食う事が出来るか?」

「無理よ、私達に魔獣なんか捕まえられないし、その上その体を刻んで食べるなんて。」

 エリアスが答える。

 そうだろうな調理した料理しか食べた事が無いのだから仕方がない。

 エルギオスは心の中でひそかに思う。


「それ?どうしてもやらなくちゃならない事なの?」

 ダンタロスがエルギオスを正面から見つめて来る。

 エルギオスはゆっくりと間を置いてから頷いた。

「お前たちの能力からすれば実はさほど難しい事では無いのだ、問題は狩った肉を食べる気になれるか?と言う事だ。」

 二人は顔をみあわせる。しばらく間が有った。


「此処にはそう長くはいられないと言う事だね。」

 ふたりは長い間ここで暮らし人間達の事を見て来たが、彼らは明らかに自分たちを異物として扱ってきていた。

 一方自分たちが成長と共にどうなるのかはエルギオスが話してくれていた。

 成人したころには自分達が10メートル以上の怪物になるであろうと言う事だった。

 そんな自分たちが人間と一緒に暮らせる筈もない事は理解できていた。


「いつ私達は此処を出て行くの?」

「今のところは判らない。ただ多分そう遠くない時期かもしれない。」

「妹達もいっしょに?」

「無論そうなるだろう。」

「わかったよ父さん、その時は僕が兄弟たちの面倒を見るよ。」

 ダンタロスはしっかりした目でエルギオスを見返す。


「すまない……。」

 エルギオスはポケットからゼリー状の物が入った袋を取り出した。

「それはゼリーじゃないか。」

 これまでも実験用に何度も服用してきたゼリーである。

「これを渡しておこう、何かあったら使いなさい。」

 つまり脱出には魔法が必要となるとエルギオスは考えていると言う事だった。

 場合によっては相当に荒っぽい事態にもなりうる覚悟を持たなくてはならないのだろう。


「出来るだけ情報を集めておくよ。」

 その夜は子供達に囲まれて一緒に寝る事にした。

 久し振りに子供達に会えたエルギオスは何より子供達に幸せになって欲しいと考えていた。


お読みいただいてありがとうございます。

お便り感想等ありましたらよろしくお願い致します。

次回は火曜日の朝の更新になります。

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